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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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51:勧誘?誘惑? いいえ、邪魔です。



「こう言った鍔迫り合いに成った時は体を横にして逸らすといい。アズサは力が弱いから、無理に押し返そうとはしない方がいいな」


 そう説明しながらクレナは体を横にすると、僕の木剣をゆっくり流した。


「素早い動きと判断が必要にはなるが、そのまま首元に当てられる」


 そして一歩踏み込み、剣先を僕の首元付近へと翳した。


「もしくは剣はそのまま流して、柄頭で殴るのもいいな」


 姿勢を一旦戻し、今度は柄の方を翳すクレナ。

 僕は木剣を構えたままそれを見る。


「他にも、鍔を利用して伏せる事もできる」


 今度は僕の木剣を刀身で持ち上げ、剣先で弧を描くと上下を逆転させる。そのまま僕の刀身を鍔で抑えて剣先を向けてくる。

 僕は今、街の郊外にて剣術の指南を受けていた。


「何にしろ鍔迫り合いに成ったら間合いを取る剣の利点は無くなる。身を守る事を優先するといい」


 クレナはそう言いながら、また木剣をゆっくりと向けてくる。


「あ、あの、クレナぁ」


 僕もそれに何となく剣で返しながら。


「ん? どうした?」


 クレナは僕の木剣をなし、そう問い返して。


「い、いや、何て言うか。何て言ったらいいのか」


 僕はそれに言い淀んだ。

 この違和感は……

 クレナは僕の木剣を鍔で受け止めると捻って逸らした。


「さっきから、何だろう……。こ、これってさ」


 そしてそのまま流れる様に剣先を落とし、僕の心臓の前で止める。

 無言になる僕。

 クレナも理解する。


「あ……ああ、そうだな」


 剣を戻して、視線を下げて言ったクレナ。


「すまない」


「い、いや」


 一言謝るクレナに、僕も応じて。

 そうじゃないんだ。

 本当に問題なのは──


「やっぱ素振りだな。一番大事なのは」


 と、空気を変える様に言うクレナ。


「とりあえず100回してみようか」


「うん」


 僕もそれに応じて素振りを始めた。









「肘が曲がり過ぎだ。もっと伸ばせ」


 ひゅっと空気を切る音を出しながら素振りをする僕へ、監督からのダメ出しが入る。


「剣先で切る印象だ。自分の心臓を過ぎる頃には肘を伸ばし切っておけ。……集中が乱れてるぞ。…………やめ」


 と、短く告げられ木剣を下げる。

 息が上がり、汗が頬を伝う。


「考え事か?」


 そう見透かした様に覗くクレナ。


「ご、ごめん」


「言えない事か?」


「い、いや……マリンの、事でさ」


 僕はここ最近ずっと頭の隅にあったそれを告げた。


「てっきり解決した物と思ってたが、さすがにおいそれと都合良くはいかないか」


 それにはクレナも考え物の様に話に乗ってくれる。


「マリンは、何か他に悩みがある様だった。それも、結構言いづらそうにしてた」


 勝手な事言うのは自覚しつつも、僕はそうクレナに相談する。


「アズサにも、言ってはくれなかったのか?」


「う、うん」


 とは言っても、クレナは僕を過大評価してる。

 マリンとは仲間とは言え、付き合いで言ったらまだ一ヶ月程しか経ってないのだ。

 ほぼほぼ一緒に行動はしているが、まだそう深い仲とは言えないだろう。


「で、でさ、クレナに、頼めないかな?」


「俺に?」


「うん」


 僕は頷く。

 ならば長年の付き合いである兄妹なら、何か話してくれるかもと。

 本当は同じくらい長い付き合いの友達がマリンに居ればいいんだろうけど。

 それが同性なら尚の事。


「まあ、そうだな。一度二人っきりで話してみよう」


「だ、大丈夫そ?」


「これでも呪いには何年も耐えてきたんだ。心配ないさ」


 そう優しく笑い掛けるクレナ。


「それに、俺も偶には兄らしく見せないとな。毎度アズサにばかり任せてすまないと思ってる」


「い、いや。それはいいんだけど……。あ、そうだ。これ」


 僕は不意に思い出し、適当に置いておいたポーチから巾着袋を取り出した。

 前回預かっていたお金だ。


「使わなかったのか?」


「これはクレナが使った方がいいんじゃないかな、と思って」


 そう言って差し出す。


「やるよ。マリンの分の馬車代だ」


「あ、うん」


 それを聞いてまたポーチに仕舞う。

 マリンの生活費や移動費に関してはクレナから貰っている。

 四人で話し合った結果だ。


「考えすぎかもしれないけどね。悩みなんてそう言葉に表せるものでもないと思うし」


 僕は木剣を構えて戻りつつ、そう言った。

 軽く吹いた風に草原が揺られ、綺麗な金髪を靡かせながら。


「そうだな」


 と、クレナは返事した。









「と、この様に、特徴などを象徴的に表した文字や言葉と、俗称的な言葉両方で表す事があります。言い表す場合はもちろん俗称で、書き示す場合は俗称、もしくは両方の言葉を使う場合もあります」


 組合ギルド一角のテーブルにて、背もたれの無い長椅子に座り対面のリリスが説明する。

 僕もリリスを真似てテーブルに広げた本へと視線を落とす。


「組合はギルド、ギルドカードは組合証と言った風に」


 こちらに傾けた本の文字を指し示すリリス。

 テーブルには他にも文字の書かれたメモが広がっていた。


「とまあ、前回のお浚いを含め、今回学ぶのがこの文字で」


 と、リリスはその紙切れを何枚か差し出して言葉を止める。

 僕はその間も本の文字へと視線を落としていて。


「やはり、不安ですか?」


「え? あぁ、ごめん」


 リリスがこちらを見ていたのに気づいて僕は視線を上げた。

 どうやらマリンとクレナの件で少し意識が遠くにあったみたいだ。


「ちょ、ちょっとね。ちょっとだけ」


 僕はリリスに笑い掛ける。

 僕は自分でも分かってるつもりだが、不安な事や予定があると目の前に集中できないたちなのだ。

 そのほんの少しの違いをリリスは感づいたのだろう。


「クレナなら大丈夫でしょう」


 と、本から手を離して言うリリス。


「そうだね」


 僕もそれに肯定する。

 まあ、クレナなら感情に任せて怒鳴ったりって事もないだろう。

 マリンも偶には兄妹水入らずで肩の力も抜きたいだろうし。

 クレナが妹大好き人間なのは違いないが、マリンも大概なのだ。


「お手洗いです」


 と、そう告げて席を立つリリス。

 僕は一人残されて黙々とメモに文字を書き写していた。

 一時自分のペンを走らせる音だけを聞いた後。


「あら、やっと二人っきりになれたわね!」


「げっ!」


 そして不意に掛けられた高い声に振り返り、僕はつい唸った。


「『げっ』て何よ! 『げっ』て!」


 そこに居た人物──リシアはさっそく眉を釣り上げると僕の態度に憤る。

 と、それも自制した様に落ち着かせ。


「こほん。まあ? ここは大人な女性の余裕として? 許してあげなくもないけど」


「許さなくてもいいので、邪魔しないでもらえます?」


 僕が座ったまま応えると、リシアは色々と我慢した様に瞼を閉じて、眉を寄せ、歯を食い縛り。


「何なのよ! 若くて可愛いお姉さんが来たって言うのよ!? もうちょっと喜びなさいよ!」


 結局我慢できなかった様だ。

 その姿に僕は呆れる。


「感情の強制は感心しないな」


 そう何となく返しながら構わず手元に向き直った。

 と。


「そっ」


 短く返事して、リシアが隣に座って来る。


「あ、ちょっと」


「ふふーん? あなたってば、やっぱお子様ねぇ。慣れてないんでしょ?」


 僕の反応を面白がる様にリシアは含みげに微笑んで覗いてきた。

 脚を組んで肘を突き、紫の髪を垂らしてこちらへと首を傾げる。


「ふふ。まぁ、いいわ。この辺にしといてあげる」


 上から目線でそう言うと、リシアは姿勢を正して視線を外した。

 なんだか手玉に取られてる様で気に食わない。


「それで? どうかしら。検討してくれた?」


「な、何が?」


「私の荷物持ちなるかって話よ」


 いや、聞いてないよ。


「私久々にマカロンの街出ちゃったから、このまま旅行でもしたい気分なのよ。その責任とって私の観光案内なさい」


「え、遠慮しときます」


「あら、そう。じゃあ掃除係の方ね」


「何で何かやる前提なのさ」


 呆れ返るとはこの事だ。


「仕方ないわね。じゃあ遊び係よ。今回だけの特別なんだからね? 普通は一、二ヶ月の私への献身的献身が必要なんだから。本当は順番待ちなのよ?」


 僕の内心も他所にリシアは勝手気ままに話を進める。


「遠慮しとくよ。遊びに付き合ってる暇ないからね」


「な、何よ。私より優先する物があるって言うの?」


「そう言ってるの」


 僕は勉強の片手間に応じた。


「むかつくっ」


 それに気に食わない様に眉を寄せるリシア。


「あなたあれね? 本当は強がってるんでしょ?」


 と、今度は何を言い出すかと思えば。


「えぇ、そうに違いないわ。だってこの私を差し置く何てあり得ないもの」


 そう一人納得した様に頷きだす。

 付き合ってられん。

 僕は無視して勉強を続け。


「わっ。な、何?」


 座る位置をずれ、リシアは急に距離を詰めてきた。


「ふふ〜ん。初々しいしくて可愛いじゃない」


 僕の後ろに手を突く。脚を組んでテーブルの下でも前を塞ぐ。


「今日だけ特別よ。私が大人の遊びを教えてあげる」


 そう色っぽく流し目でこちらを見据えて、石鹸の香りが届く程に髪を近づけ。


「あ! リリスぅ!」


 ちょうど困っていた所でリリスが戻り、僕はすぐさま呼んだ。


「ひぇっ」


 こちらへゆっくり来るリリスを見てリシアが小さく悲鳴を上げる。


「これはまた……」


 テーブルの前へと着くと、固くなったリシアをいつもの無表情で見下ろしてリリスは呟いた。


「何か御用でも?」


「え。ぁあ、ゃぁ」


 対面に座り真っ直ぐにリシアを見据えるリリス。

 それに弱々しく視線を泳がすリシア。


「べ、別に何でもいいでしょっ」


 と、それもすぐに直しツンっと虚勢を張って応えた。


「まぁ、構いませんが」


 それにどうでもよさそうに応じるリリス。


「ふふん。素直でいいじゃない。この間のは不問にしてあげてもよろしくってよ?」


 と、その反応に調子を良くしたリシアが自信満々に言って退けた。

 堂々と見下したリシアにリリスは射抜く様に見返す。

 ただ無言で、じっと。


「ぇ」


 それに尾でも掴まれた様にリシアは勢いを失くす。


「ぁの」


 消え入りそうな声を上げ、居心地悪い様に肩を落とすと助けを求める様に僕へと視線を往復させた。

 それでもリリスは無表情を貫き、そろそろ僕が助け舟を出そうかと思ったところで。


「そうですね。私も出過ぎた真似をしてしまいました。ここらでお互い手打ちにしましょう」


「え、ええ! そうね!」


 やっと表情を崩して手を差し出したリリスに、リシアはニコニコと笑顔でそれを受け取った。

 り、リリス。今ので飼い慣らしたな。

 一連の事を見て畏敬すると共に半ば呆れる。


「って言うか、ほんとに何しに来たの? 昼間言ってた宣戦布告の何か?」


 雰囲気も落ち着いた所で僕は問うた。


「ふふん。少しは察しがいいじゃない。その通りよ」


 と、それに待ってましたとばかりにリシアは胸を張る。


「私はね、あなたを僕にするって決めたの。いいえ、もうすでに僕と言っていいかもしれないわ。だっていずれなるんだもの。だからあなたは大人しく僕になればいいのよ」


 哲学か何かか?

 いや違うのは分かってるけど……


「何で僕にそんな固執するのさ。さっき予約待ちだって言ってたじゃないか。その人達に優先させてあげなよ」


「何よ! 私の僕になるのが嫌みたいじゃない!」


「だから遠慮するって言ってるじゃん! 言い方の問題ならはっきり言うけど、あなたのお世話係なんてお断りです!」


 立ち上がり怒鳴ったリシアに応じて僕も立ち上がり明言した。


「な、なんて……『なんて』って」


 僕の言い様にわなわなと唇を震えさせるリシア。


「きッー、むかつくー! おかしいわよ! おかしいのよあなた! こんな筈じゃなかったのに!」


 リシアは眉間を寄せて地団駄踏みそうな勢いでそう言うや、背を向けて出口へと向かった。


「覚えてなさいッ! 絶対僕にしてあげるんだからー!」


 そして一度振り返って宣言すると、今度こそ走り去って行った。


 元気な人だなぁ。









 日も暮れて藍色の空が覆う頃。

 灯りもちらほらと点き始めた町の一角にて。


「だ、大丈夫だった?」


 開口一番こんな事訊くのもどうかと思ったが、僕は心配のあまりそう問わずには居られなかった。

 その問いを受けた相手、クレナは目を閉じると澄まし顔で応じた。

 とりあえず、その様にほっと胸を撫で下ろす。


「それで、どうだった?」


 それも束の間。僕はクレナへマリンの様子を問う。

 と、それにはクレナも眉を困らせる。


「分からない。何に悩んでいるのか」


 悩まし気な表情で言うクレナ。


「まあ、自分でも整理付いてないだけかもしれないし」


 僕はそれに擁護する様言う。


「悩みってそう言う物じゃない? 何となく嫌だなぁとか、したくないなぁとかって感情が先行して、言葉にするのは難しいと思うんだ」


 そう自論も交えて。


「マリンも、特別理由なんて見つけられないのかなぁ……って」


 半ばからは独り言の様に言った。

 夜に移る街の喧騒が、虚しく響いた。


「やはり、行くのを嫌がって様に見えるか?」


「うーん。100(パー)行きたいって感じではないよね」


 クレナの問いに私的見解の下話す。

 それに少し表情へ影を落とすクレナ。


「ま、まあ、それで言ったらさ。僕だって楽しみで魔王さんの所行ってる訳じゃないし。危険とも思うし怖いとも思うから、そういう意味での行きたくないって考えもあるだろうからさ」


 僕は取り繕って言うが、クレナの表情は晴れなかった。


「分からない。マリンの事が」


 クレナは視線を下げて呟く。


「俺には、マリンが悩んでる様にも見えなかった」


 少し眉を寄せて、悲痛気な表情だった。

 僕はそれに一瞬返事を躊躇する。


「一時、そっとしとこう。話してくれるなら、それでいいし。話してくれなくても、できる事をすればいいよ」


 なるべく刺激しない様、そう話を纏めるに努めた。


「ああ」


 それに短く返すクレナ。

 話も落ち着いた所で僕らは歩き出した。


 とは言うものの、何も知らない振りして無理にマリンを連れ出すのも気が引ける。

 それはもちろんクレナもであり、一度話を落ち着かせたいとは思うがマリンに問い質すのもまた負荷を掛けちゃいそうだし。


 僕は話を終わらせつつも、そう悩んでいた。

 どうしたものか……


「お帰り、マリン」


 僕は宿の側に並んでいた二人を見て、とりあえずと考えを逸らす。

 微笑み返すマリン。

 うん。いつもよりご機嫌だな。


「え、えっとね。次の町への事なんだけどさ」


 そして予定を話すべく躊躇しながらも。


「馬車の遅延が長引いてるみたいでね。明日になるか、明後日になるか、三日後以降にもなっちゃうかな〜、みたいな? えっと、マリンは」


 そうしてマリンの表情を見ながら話すも、僕はそれを見て一拍問いを遅らせた。


「マリンは、どうしたい?」


 半ば呆然とマリンを見ながら、ゆっくり言葉を紡いで訊いた。

 当のマリンはと言うと。


「お任せします」


 なんだか憑き物が取れたかの様に、真っ直ぐな瞳で返事した。



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