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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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48:痴漢冤罪?



 絶え間無く人の行き交うこの町の露天街。

 もう何度か見慣れたその風景に、ぼんやりと視線を流していく。


「暇ねぇ」


 その流れに乗せる様に私は呟いた。

 食べ物はもちろん服や装飾品なども雑多に売り買いして賑わっている。

 自分の知る限りじゃここが一番人通りの多い場所だった。


(最近、若い子達は皆んな振っちゃったから遊び相手が居ないのよねぇ)


 そう内心で零して、つまらなく思いながら周囲を眺める。

 久々に声でも掛けようか、そう思って来た所だった。

 どこかにちょうど若くて従順そうな子は居ないかしら? そう思って私が視線を辿っていくと、不意にある少年が目に止まる。

 その少年はまるで燃える様な赤い髪に、同じく燃える様な赤い瞳を持った少年だった。


 顔は……まあまあね。

 寧ろ整ってる方だけど。

 なんだか自信なさげね。

 頼り無い感じがするわ。だから少し残念な感じがするのね。

 私より年下かしら? 少し歳が若過ぎる気もするけれど、偶にはリードするのもいいかもしれないわね。

 いいじゃない。たまには可愛らしい子でも。


「決めた!」









 人通りの多い露天商を僕は歩いていた。

 周囲では盛んに売り買いが行なわれ、非常に賑わっている様子である。


 僕はクレナからある頼み事を受けここに来ていた。

 それは何かマリンにしてあげてほしいとの事だった。

 共に劇を観るでもいいし、買い物をするでもいいし。とにかくマリンの為になる様な、息抜きにでもなる様な事をとお願いされた。

 なので一先ず何かないかなと、僕はクレナに預けられたお金を持って露天商へと来たのだった。


 一人で来るには慣れない街並みに、僕は品々を見渡して進む。

 と、一人のお爺さんが、こちらへと視線を向けているのに気付いた。

 その人は皺の目立つ顔に、白い髪と髭を蓄え、服装も全体的に白い着物姿だった。

 そんな人が、こちらへと驚いた形相で目を見開いていたのだ。


「き、君は……」


「え?」


 と、そのお爺さんはおもむろに僕へと近づき、僕の頬を軽く指先で撫でてきた。

 僕は呆気に取られる。


「ほっほ。儂が呼ばれた理由が分かったわい」


 そのお爺さんは僕を置いて行くように、一人訳知り顔で髭を撫でると呟いた。


「え、えっと」


「いやいや、失敬。何でもないよ」


 僕が何かしら問おうと口を開くと、老人は踵を返して去ってしまった。

 な、何だったんだろう?

 僕は一人遠のいていく背中を見て首を傾げていた。


「止まりなさい! そこの真っ赤っかな坊や!」


 と、今度は別の方から高い女性の声が響く。

 振り向くとそこには堂々と道の真ん中に仁王立ちし、両手を腰に当てる一人の少女が居た。

 その少女の髪はさらさらと流れる綺麗な紫色で、瞳の色もこちらの世界でも珍しい紫色。

 その瞳が、真っ直ぐに僕の方へと向いていた。


 え? 僕の事?


「ふふん。聞いて驚き、喜びなさい! 何と何と、この私が! あなたが私の身の回りのお世話をする事を許してあげるわ!」


 と、そんな事を街中で声高らかに言った紫髪しはつの少女。

 な、何言ってるんだ? この人?

 当然僕は困惑してその少女を見た。

 断られる事など全く考えて無い様に少女は得意顔して仰いでいる。

 その容姿は整っており、服装はデニムのショートパンツに紫のワイシャツと滑らかな白い肌を白昼に出した物で、シンプルながらそのスタイルの良さが際立つ。

 高めのヒールがある靴を履いて、身長は僕より少し高い。

 歳は恐らく僕より一つか二つ上で、十七歳程度と見受けた。


「え、えっと。ひ、人違いではないですか?」


 やはり知り合いに該当は無く、僕は恐る恐るとその少女へ問う。


「違うわよ。他でもない、あなたに言ってるのよ?」


 と、それに当然の事と返す少女。


「で、でも、初対面ですよね?」


「そうだけど?」


 え?

 何でもない事の様に言われ、混乱の極みに達する。


「そうね。まずは挨拶からしましょう。私の名前はリシア! そう! この町、いえこの国一番の美人と名高いあのリシアさんよ! さあ、あなたの名前は何?」


 そう自分で大仰に名乗る少女改めリシア。


「え、えっと。あ、預咲、です」


「そう、いい名前ね」


 と、リシアは満足気に頷き。


「さてさて、あなたは旅の者かしら? ならばさっさと荷物を纏めてここに定住なさい。そして私の為に働いて、着替えを寄越して、ご飯を用意して。風呂を沸かして、掃除して。思いつきで旅行をしたくなったら路銀の準備と旅のしおりを作るの」


「え、え?」


 一人歩きでもする様にうたい始めたリシア。


「それでたまに体を動かしたくなったら遊びにも付き合って貰うわ。さらに図書館で勉強する時は先に予習をして分かりやすく教えるの。ね! 聞いただけでもすごく良いでしょ? もちろん来てくれるわよね!」


 そして勢い良く言い切ると、リシアは了承されて当然と言った風に笑い掛けた。

 その微笑みはまるで断られる事など一考にもしてない様子である。


「い、いや。ちょ、ちょっと。そのぉ」


 僕はその笑みに負けて言い淀む。


「そう、遠慮してるのね。無理ないわ。普通なら見目麗しい姿に感嘆以外の一言も出ないでしょうから」


 それに勝手に納得すると同情した様に頷くリシア。

 だ、大丈夫かなぁ? この人。

 あんま関わっちゃいけない部類なのかも。


「でも大丈夫よ。皆んな最初は緊張して遠慮するものなの。ほら、心に手を当ててみて? 本当の気持ちを表に出すの」


 僕はリシアを真似て胸へ手を当てると一時目を瞑る。

 んー。


「や、やっぱり。いいかなぁー、なんて」


 それを止めるとぎこちなく言った。


「そう。あなたってば素直じゃないのね、もう」


 それにリシアは少し演技がけて困った様に言うと、僕へと近付く。


「さあ、私の目を見て。どう? キレイでしょ?」


 手の届く距離までリシアは近付くと、自分の瞳を指差して僕を覗いてきた。

 透き通る様な紫の瞳が僕を射抜く。

 ま、まあ、確かに綺麗だけど。


「ね? 来たくなったでしょ?」


「別にそうでも」


 もちろん素直に答えた。


「遠慮も過ぎると無礼にあたるのよ? 謙遜の心待ちは充分に伝わったから、もう正直になっていいのよ?」


 若干眉と頬をひきつかせて言うリシア。

 そして。


「さぁ、私と一緒に来なさい!」


「嫌です」


「なんでよー!」


 今一度断るや、痺れを切らした様にリシアは突っ掛かってきた。


「い、嫌ですよ。逆にどうして来ると思ったんですか」


 僕は身を引きながらリシアを見る。


「おかしいわ! あなたおかしいわよ! こんな若くて可愛くて身体付きも良い女が世話させてあげるって言ってるのよ!? 男なら鼻下伸ばしてほいほい付いて来るってものでしょ!」


 ひ、酷い偏見だ。

 身も蓋もない事を言い立てたリシアに今度は内心引く。


「そう。そういう事。あなたあれね? 照れてるのね」


 と、途端勢いを失したかと思えばリシアはそう断じる。


「そうね。それ以外考えられないわ、ええ」


 半ば言い聞かせる様に呟くリシア。


「照れ隠しに断ってるんでしょう? そうでしょ? じゃなきゃこんなにも称美しょうび喝采かっさい浴びるこの私を捨て置くなんて事できないもの。ええ。そういう事でしょう? ねぇ」


 自分でそう頷いて僕へと迫るリシア。

 その目は焦点が合ってるのか微妙な感じになっている。


「ああ、はい。そうゆう事です。じゃ、じゃあ、僕はもう時間なので」


「待ってよ! まるで面倒くさい相手から逃げるみたいに去らないでよー!」


 よく分かってるじゃないか。

 半ばまで向きを変えた足を止められて内心呆れてそう思った。


「あなた何よ! 何様のつもり? この私がはべる事を許すと言ってるのよ? 黙って頷いてればいいのよ!」


 と、今度は憤った様子でそう捲し立てる。

 何様って。


「だいたい、私より年下のお子様に口答えされるのも気に食わないわ。どうせ初めてもまだなんでしょう? そんな顔してるわ。あー、やだやだ。お子様が移るわ」


 リシアは大袈裟に避ける様な身振りをした。


「もう行きます」


「なに? 逃げる気? あれね、あなたってばへたれね。臆病で情けないわね。そんな感じプンプンするもの!」


 リシアは僕を煽ると今度は罵倒を始める。


「どうせそうやって目を背けてきたんでしょう! だからまだお子さ」


「もう! なんなのさ!」


 そして僕もそれを遮る様に声を上げた。


「さっきから何なのさ! 急に話しかけて来たと思ったら馬鹿にしてばっかで!」


 僕はリシアの瞳を真っ直ぐ見返す。


「何がしたいのさ!」


「お世話係にさせてあげるって言ってるのよ! 分かったら片膝付きなさい!」


 それにツンっと負けずに意地張って地面を指差すリシア。


「いーやーだ、ねー!だッ!」


「なっ」


 なるべくバカにした様に言い返した僕に、リシアは唖然と目を見開いて口をパクパク開閉していた。

 しかしその目もすぐにキッと睨みつける鋭い物に変えると。


「あなたもう一度よく見てから物を言いなさい! この艶のある髪! 白い四肢! 豊満な胸! そして顔! 可愛いでしょ? それでいて美人よね?」


 そう大仰な手振りを交えて力説するリシア。

 まあ、確かに端麗な人だが。

 僕は一連の動作とこちらを向いたリシアを一時眺め。


「ふっ」


「鼻で笑った!」


 確かにリシアは自負するのも頷ける程綺麗な人だった。

 大概の人なら目移りもするだろう。

 しかしまあ、僕の周りにはリリスやらマリンやら、なぜか美形な人が多い。

 それに今までのどれと比べても別格だった本物の女神様とも一時期一緒に過ごしてた訳で。


「今鼻で笑った! あなたってばどんだけ目が肥えてるのよ! もう怒った! 怒ったわ! 泣いて謝ったって鞄の中の掃除しかさせてあげないんだから!」


「別にいいよ! させて貰わなくたって!」


 またも文句を垂れるリシアに、僕は痺れを切らして言い返した。


「だいたいさ! さっきから自分の事美人美人って言ってるけど、それがどうしたって言うのさ! それで人が動くなんて思ったら大間違いだし、まして人に偉そうに指図していい理由にはならないよ!」


 僕はついでとばかりに鬱憤を晴らす。


「それに! 僕が一番思うのが見知らぬ人にそれをしたって言う事! 僕が怖い人だったらどうすんのさ!? 良い人のふりして君の大切な物傷付けられた時、一分でも君が悪くないって言える!? ねぇ、言える!? 物だったらまだいいよ! でも君の心だったら取り返しつかないよ!?」


 僕は声を荒げて勢いのまま続ける。


「まだあるよ! 美人美人って! ずっと外見しか言ってないじゃん! そりゃ男の僕からは計り知れない努力もあるかもだけど、最低限の礼儀ぐらい弁えたら!? 僕の周りの子は皆んな礼儀正しくてお淑やかだよ!? それも君がさっきバカにしてた年下だよ! 僕も君より年下だろうけど、最低限の礼儀作法は弁えてるつもりだよ! 少なくとも、見知らぬ異性に身の回りの世話させようなんて非常識ではない自信だけは! 堂々とあるって言えるけどね!!」


 僕は周りの事など疾うに忘れてそう言い立てる。


「それに──」


 そして更に文句を言おうとしたところで、僕はリシアの表情が目に入って言葉を止めた。

 リシアはプルプルと拳を握って震え、何かを我慢した様に口元を結んでいた。


「う、ぐっ」


「え?」


 そして顔を俯かせて聞こえた呻き声に呆ける。


「うッ。ぅう」


 そう喉を鳴らして目元を腕で払うリシア。


「な、泣いてるの?」


 僕は様子を窺う様に問う。

 前髪で表情は見えないが、泣いてるのは明らかだ。


「べ、別に。泣いてっ、ないし」


 そうリシアは目元を拭いながらも言葉だけは強気に言い張る。

 その肩は鼻息に合わせて小さく上下していた。


「うぅぅぅっ」


 そしてついに耐え切れなかった様に泣き声を上げて俯いた。


「うっ。そ、その。ごめん。言い過ぎたよ」


 さすがにその様子に強くも言えず、僕はバツが悪くなって謝った。

 リシアの頬に雫が伝い、僕は手拭を取ろうと手を上げて。

 あ、こういう時にハンカチがあればなぁ。

 と、そんな事をポケットまで翳した手と共に虚しく思った。


「その、つい僕もカッとなって……。いや、うん。僕が全面的に悪いよ」


 僕は両手を横に深々と頭を下げ。


「その、ごめんなさ」


「うわああぁぁぁん! この人にお尻触られたー!」


「ちょ!」


 謝ろうとしたその途中、ありもしない事叫びながらリシアは走り去って行った。

 そしてそれに交代する様に一人の黒髪の大男が無表情でこちらを見下ろし近付いて来る。


「え。い、いや、今のはぁ」


 無言の男性。

 弁護する間も無く、僕は大男の影へと飲まれていった。









「で、これですか」


 目の前のリリスが呆れた様にまぶたを平坦にして言った。

 場所は変わって宿の中。

 木造の床と壁に囲まれて僕は椅子に座っていた。

 対面のリリスはベットに腰掛け、僕を冷めた目で見ている。

 そしてその脇には丸椅子に座って僕へと前屈みに手を伸ばすマリンが居る。


つつ」


 僕は消毒液が頬にみ、マリン持つピンセットの綿から避ける。


「あっ、ごめんなさい」


「ううん、大丈夫。ありがとう」


 慌てて謝るマリンへ僕は首を振って微笑みかけた。

 それに視線を逸らすマリン。

 まだ目を合わせるのは慣れないらしい。


 今のマリンはマスクとマントを脱ぎ、格好は紺色のワイシャツと膝上まで出したスカートと可愛らしい服装をしている。

 普段はマントで隠しているが、僕らだけの時はこうして女の子らしい格好もしてるのだ。


 と、一人溜め息を零すリリス。


「少しは抵抗すればいいものを」


「あはは。あんまり慣れてなくてさ」


 僕は苦笑い気味に応じた。

 それにじっと、リリスはこちらを見返して。


「アズサ。私達は仲間なんです。私が傷付いたら嫌でしょう?」


 僕の瞳を覗く様にして問う。


「ならば、アズサが傷付くと、私が嫌がるのも分かる筈です」


 そう、言い聞かせる様に言って。


「自分自身も、仲間である事を自覚してください。それを傷付ける事は、私達への裏切りです」


 こちらを真っ直ぐと見てリリスは論した。


「うん。ごめんなさい」


 僕は素直に頭を下げる。


「マリンも、ごめんね?」


 隣も見るとマリンはこくこく頷いていた。

 その様子に微笑むリリス。


「はい。終わりましたよ」


 そして僕の頬にガーゼを貼るとそう言った。


「話によると、乗合馬車が再開したそうです。次の街に行きますよ」


「うん!」


 そのまま立ち上がったリリスに僕も頷き立ち上がる。


「マリン」


「は、はい」


 そして僕は隣を向いて。


「後で、ちょっと話いいかな?」


 救急箱へとピンセットを仕舞う手を止め、こちらを向いたマリンへ言い。


「二人っきりで」


 そう付け加えた。

 マリンを見つめて返事を待つと、彼女はそっと視線を下へと外した。

 それは慣れてないとかじゃなく、単純に気まずくて下げたんだなと。


 この時、僕には分かった。



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