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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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47:クレナの剣術指南



 外壁の全容が見える程度に離れた所で、僕とクレナは向き合っていた。

 雑草も生えない固い赤土の地面に立ち、お互いに刃の丸い木剣を構えている。

 町へ入った途端出てしまっているが、少し人気の無い場所で特訓したかったのだ。

 やはり戦闘面もある程度は慣れとかないと。


 グレンだって言っていた。もう少し喧嘩しろと。

 その通りだ。

 じゃなきゃマリンもリリスも守れない。

 最初は自分には関係無い事と思っていたが、こんな旅に出る事になってしまったのだ。

 多少の武芸の心得を持っておかないと。


「それじゃ、始めるぞ」


「お、おっす!」


 右手に軽く木剣を持って言ったクレナに、僕は勢いよく返事する。

 それに少し怪訝気な表情をするクレナ。

 こっちじゃこの掛け声は使わないらしい。


「まずは……。そうだな。アズサのレベルを知りたい。どれくらいだ?」


「レベル? まあ、初心者だけど」


「そうではなく、体の方だ」


「え? 何? どうゆう事?」


 言っている意味が分からず聞き返す。


「だからレベルだ。体の成長過程を細分化し、数値化したものだ」


「えぇ!? この世界、レベル制だったの!?」


 と、その説明にここ最近一番の驚き声を上げた。その反応に怪訝気に首を傾げるクレナ。

 ま、まさか、こっちでは常識か!?

 クレナは真剣な雰囲気で冗談を言ってる様には見えない。


「どうかしたのか?」


「い、いや! 何でも!」


 適当に誤魔化す。

 最近慣れてきたとは思っていた筈だが、こちらの世界にはまだまだ驚かされそうだ。


「まあ、レベルは個人情報だし、言いたくないならいい。世間一般の男子程度と見て間違いないな?」


「た、たぶん」


 そこの所どうなのだろう? 僕の場合別の世界から来たから、レベルとか適用されるのだろうか?


「じゃあもう一つ質問だ。闘気はどの程度扱える? 適性が分かれば楽だが」


「と、とーき?」


 恐らく僕の知らない概念だろう。

 僕は首を傾げるとそのまま聞き返した。

 これが同じ言語なら、少しは雰囲気で何を言ってるか分かりそうなものだが。何せ知らない単語は発音がそのまま聴こえる。

 聞いたままオウム返ししかできないのだ。


「すみません、先生。そこら辺について詳しく」


「どこから分からない?」


「発音から意味と用途まで」


闘気とうきだ。これは言ってしまえば、体力みたいなものだ。これを扱う事ができれば多少無理のある動きだってできる」


 なるほど、なるほど。

 魔力の対みたいな物か。


「例えばあの岩。お前、あれを割る事ができるか?」


「えぇ? 無理だよぉ」


 と、少し離れた一抱え程もある岩を指さして問うクレナ。


「だろうな。だが闘気の扱いさえ上手くなれば、あれだって割れる」


「ええ!?」


 そう言って今度は僕の身長よりも大きな大岩を指さして言った。

 び、びっくり人間じゃん。

 魔法とかいう存在にも随分驚かされたが、闘気も大概そうだ。


「まあ、あそこまで行くと達人級だろうがな。他にも、闘気を剣に纏わせて放つと、剣先が触れずとも巨木を切り倒す事だってできる」


 ふぁ、ファンタジーだ。この世界、凄いファンタジーだ。


「その場合は得物も相応の物を用意しないとだが……。さて、座学もそこそこに、そろそろ実技演習だ」


「お、おっす」


 と、こちらへ向き直るクレナに、僕も木剣を握り直した。


「まずは基本から。……と言いたい所だが、アズサの程度を知りたい。まずは、好きに打ってくれ」


「え? で、でも」


「大丈夫。さすがに初心者に遅れはとらん」


 そういつもの涼しげな表情で言うクレナ。


「お、おっす。行くよ?」


 クレナは無言で頷く。

 僕は駆け出して、クレナへと木剣を振るった。

 カッ、カッと乾いた堅い物が打つかり合う音が響く。


「躊躇するな。もっと腰を入れて」


 軽い足捌きで動きながら、僕の木剣を難なく往なすクレナ。

 僕は言われるがまま木剣に力を入れて振るった。

 何度か乾いた音を響かせた後、クレナは木剣をだらりと下げた。

 それに僕も構えていた木剣を止める。


「やめだ」


 も、もう?

 僕もそれに木剣を下げる。


「アズサ。一度俺を殴ってみろ」


「え? ど、どうして?」


「いいから」


 戸惑う僕に有無を言わせないクレナ。


「ほら」


 と、手軽く広げて見せて急かす。

 僕はなるべく痛くなさそうな胸辺り目掛けて右の拳を振るった。

 それをクレナはぺちりと音を立てて片手に受け取る。


「弱い」


 そう零す。


「さすがに弱すぎる。さっきから躊躇してばかりだぞ」


 うぅ。そ、そうなんだろうけど。


「アズサ。大丈夫だからもう一度してみろ。今度は本気で」


 と、僕を真っ直ぐに見つめて言うクレナ。


「大丈夫。受け取れる」


 そう言い聞かせる様に言って。

 僕もそれを信じて大きく右腕を振りかぶると、『ふんっ』と言ってもう一度拳を振るった。

 それはクレナの胸へと鈍い音を立てて止まる。


「え、ちょっ! クレナぁ!?」


 何ら対応をしてないクレナに驚く。


「これくらいだったら平気だ。木刀も、素人のものなら受け取れる」


 それに何ら変わりない様子で答えるクレナ。


「さぁ、続きをやるぞ。本気じゃなくてもいいが、躊躇はするな。今日の課題だ」


「お、おっす!」


 と、今やっと始まった様な特訓に、僕は身を引き締めた。









「ふぅ〜」


 そんな吐息と共に僕は地面へ腰を下ろした。


「お疲れさん」


 その近くの岩に座って、クレナが労う。

 適当な打ち合いをした後は殆ど素振りの時間だった。

 力の入れ方が成ってな過ぎると言われた。


「この後は? 予定通りランタン行きの便?」


 僕は足を地面に放り出したまま問う。


「ああ、再開してるかもしれないからな。後で見てみよう」


 その返事に僕はつい表情を曇らす。


「そ、それもそんなんだけどさ」


「ああ。マリンの事か?」


 躊躇いつつ言いかけた僕に、クレナが見返す。


「どう、思ってるのかな……。自分の呪いの事。考えた事なかったよ。マリンの立場になって」


 僕は突いた手を戻すと胡座をかきながら言う。


「本心でどう思ってようが、俺はマリンの言葉を優先したいがな。本当の気持ちを推し量る何て、俺達には不可能なんだから」


 と、案外クレナは冷めた意見だった。


「そ、そうだけどさ。マリンは控えめで主張もそんなに得意な子って訳じゃないからさ。そこは何か……ほら、察してあげてさ。一緒に呪いを解きに行きたいって言うか」


「まぁ、そうだな」


 解せずに言った僕にクレナは相槌打ち。


「たが実際、マリンの言うことも一理あると思うけどな」


「え」


 と、その発言に僕は声を零して見上げる。


「確かに俺達から見ると、あの呪いは人を不幸にしかしない。だがマリンからしたら生まれ付きで、マリンにとっては普通に生きてるだけだ」


 抑揚無く続けるクレナ。


「それを勝手に不幸だと決めつけて、どうにかしようなどと、俺達のエゴではないのか?」


「そ、それは……」


 その意見に、僕はつい納得してしまった。


「で、でも! 君はあれが何にも気にしてない様に見える? 確かに勝手だけど、マリン傷付いてるよ、ずっと……。一人は慣れないんだよ」


 しかし同意はできずに、そう気持ちを吐露する。

 クレナはその様子を見てから。


「まあ、本当は俺もそう思うよ。だけど、その本人がいいって言ってるんだ。それ以上どうするって言うんだ」


 同意はしつつもそう論し。


「マリンは結構現実的な事言っている。危険を冒してまでする事なのか? と。魔王領までおもむき、それもその王の場所まで行くなどと。それ程の事をして得られる物なのか、とな」


 そう見下ろして語った。

 自分じゃ考え付かなかった意見である。


「そ、そんな。そうに、決まってる。まだ僕より年下の女の子が、今後あのまま過ごすなんて……。危険でも、呪いを解いた方がいいに決まって」


「それを決めるのはマリンだ。そしてその答えはもう出てると言う話だ」


 言い繕う僕に、クレナは重ねる様に言う。


「マリンだって、空気を壊す様な事言ってるのは自覚してる筈だ。俺達と比べると人付き合いの少ない子だろうが、それぐらいはきっと分かる。わざわざ自分の為にだとか、遠慮や自分を卑下してるだけでなく、単純な利害としてマリンは考えてる……と、思うけどな」


 最後にだけ自信なさ気に視線を落として彼は付け加えた。


「く、クレナはいいの? あのままで」


「嫌に決まってる」


 返す論も無く問うた僕に即答が返る。


「ご、ごめん」


 咄嗟に謝る僕。


「いや、すまん」


 クレナも応じる。

 一拍か二拍の間。

 お互い下げてしまった視線を先に上げたのは、クレナの方だった。


「そこでだアズサ。指南の礼と言ってはなんだが、一つ頼みがある」


「ほぇ?」


 と、そう立ち上がり言ったクレナを、僕は呆けて見上げた。



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