プロローグ:お伽噺
昔々、まだ人と魔が隔たれていた時代の話。
悪とされる者達が、人々の住む世界へいたずらをしていました。
その者たちは城を築き、国を掲げ、王が誕生しました。
魔を統べる王。
魔王の誕生です。
魔王は強大な力で悪を従え、いっそうといたずらを広めて行きました。
これは、そんな時代の、ある日のこと。
ありふれた時代の、あるありふれた村の、ありふれた村娘。
その少女が、菜の花を取りに山へと向かった帰りでした。
自身の育った村が、燃えていたのです。
魔王のいたずらが、ここまで来たのです。
ああ、村が。
ああ、母が。
ああ、皆が。
その時、少女は深く深く傷付き、悲しみ、思いました。
──魔王を倒そうと……
小刻みな揺れと目蓋を微かに照らす光りに僕は目蓋を開ける。
夜明け前の光明はうたた寝から起きるにはちょうどよくて、まるで僕の目覚めをその日が祝福してる様だった。
そんな恥ずかしい事思える頃には意識も覚醒し、僕は手から落ちそうになっていた絵本を持ち直した。
当然ここが馬車の中である事も思い出し、背に預けていた体を起こす。
「おはようございます」
と、一番にリリスが挨拶してくれる。
対面の奥側に座るリリス。その正面──僕の隣にはマリンが座っている。
「おはよう。リリス」
僕もリリスへ笑顔で返す。
マリンがまだ寝てるので、少し控えめに。
「もうすぐ着きますよ」
と、リリスは御者越しに外を眺めて言った。
その時後ろの窓から陽光が差して馬車内を照らす。
黎明の寒気さ感じていた中、その明かりに手元の絵本を見下ろした。
これはこちらの世界で親しまれる、児童書の一つである。
子供向けなので言葉の表現に多少の曖昧さはあるが、それも含めて勉強だ。
僕は明るくなり始めた馬車の中、途中まで読んだその絵本を広げた。
いずれ魔王が王女を拐い、激昂した王が英雄を募る。
そして真の勇者のみが抜くとされる聖剣を少女が抜き、彼女の冒険譚が始まった。
それから少女は旅の過程で仲間を見つけ、強力な武器を集めてやがて魔王を倒す。
そんな、どこにでもあるような。ありふれた。
──お伽話だ……




