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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
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45:人殺しの手



 僕は人を殺した。

 雲が気を使った様に避けた蒼穹の下、内心へと零した。


 この手で。

 僕は自身の左手を見る。

 あの感触は、きっと忘れる事は無いだろう。


 僕は少し感傷に耽る。

 今の心情は筆舌に尽くし難く、とても一つの思いや感情では表せなかった。

 と、空いた右手に冷たく、柔らかい感触が加わる。

 それは控えめに僕の手を包んだ。


「リリスぅ」


 その手の主、リリスへ僕は視線を移した。

 リリスは両手と視線を優しくこちらへ向けていた。


「大丈夫ですよ。付いていきます」


 僕を見上げる、深い碧眼の少女が言う。

 ほんの少し、柔らかく微笑んでいた。


「ありがとう」


 僕はリリスへ微笑み返すと、そっと手を離した。

 二人微笑み合う。


「やっぱり、リリスの笑顔は安心するなぁ」


 僕はそう間延びして言った。

 リリスはそれに不意を突かれた様に目を丸くする。


「そう、ですか。ではなるべく、意識してみます」


「うん。そっちの方が絶対いいよ」


 視線を下に泳がせて、少し固く言うリリス。

 一時その様子を見た後、僕は視線を戻して左腰の剣を引き抜いた。

 金属の擦れる音を響かせて姿を見せる赤い刀身。

 まるで燃える様に赤く、血の様に紅い剣だ。

 縁取った様に周る銀の刃が美しく、僕は反射するその刀身を眺めた。


「ねぇ、リリスぅ。その、剣の事なんだけど」


 僕はそう少し遠慮がちに話を切り出し。


「なっ、アズサ!? そんな物どこで拾って来たんですか! ばっちぃですよ!」


「え?」


 と、僕の剣を見るやリリスは慌てる。


「えんがちょです! えんがちょ!」


「こ、こう?」


 リリスに促されるままに僕は人差し指同士を付けて差し出す。


「こうです!」


 焦れた様に手本を見せてくるリリス。

 親指と人差し指で輪っかを作り、鎖の様に繋げたものだった。

 僕はそれを真似る。


「切ります」


 リリスは真剣な表情で片手を上げると、息を呑む様な雰囲気でゆっくりと振り下ろし、僕の縁を共に断ち切った。

 一仕事終えた様にかいてない額の汗を拭うリリス。


「も、もうい?」


「ええ」


 許可を貰って手を直す。


「間違えて拾ってきたんですね。返しに行きたいところですが」


「いや、実はこの剣、貰ったんだ。妙に気に入っちゃってさ。正式な表彰か討伐報酬を与えたいって兵隊さんから言われたもんだから、組合の方に取り次いでもらって」


 僕は腰に収めた剣を見下ろし説明した。

 これで人を殺めてお金や名誉を貰うのはどうかと思っていた所で、組合側からも国からも三者の妥協点を上手く見つける事ができた。

 人を殺めた剣ではあるのだが、何となく腰に落ち着くのだ

 これで初めて剣を腰に差した時からの違和感が無くなった。


「なるほど。それででしたか」


 と、頷くリリス。


「それで、ごめんね? リリスぅ。リリスから貰った剣、勝手に破棄しちゃってさ」


 そして話を切り出した理由であるそれを告白すると、リリスは不思議そうに瞳をこちらに向けた。


「実は折られちゃったんだ」


「なるほど。ならば仕方ないですね」


 戦闘中折られた剣は兵隊さん達に回収された後、処分してもらった。

 持ってても仕方ないし。

 ただ後になってリリスから貰った物だったのを思い出し、勝手に捨てた事をすごく後悔したのだ。


「まあ、剣の事はお気になさらず。元々在り合わせの物ですし」


 と、リリスは快く許してくれた。

 そうやって僕が選んで手にする事となった剣なのだが、一つ不思議な話がある。

 実はこの剣、無い筈の物らしい。

 何でも武器庫の目録には無い物だと、組合員が首を傾げていると兵隊さん挟みで聞いた。

 まあ、それはただの管理が甘かったとしか言いようがないのだが。

 不思議な何かを感じざるを得ない。

 もしかしたら、これが縁ってやつなのかもな。

 そんな事を思いながら、僕は腰の剣を見下ろした。


「あ、そうだ。二人が来る前に話しておきたい事があったんだった」


 と、僕は思い出して、リリスに。


「その~、メモの件でさ」


 そう躊躇いながらも切り出す。


「クレナから聞いたよ。書いてあったんだってね」


 その話をすると、思い至った様にリリスが小さく反応した。


「ごめんね? 気づけなくて。あれ、本当は僕宛てだったらしくてさ」


 説明しつつも、僕も困った様に笑いかけた。


「やはり、そうでしたか」


 と、リリスは視線を下げる。


「その、話すにしても、いろいろと落ち着いてから。せめてマリンが無事にクレナに会ってからでいいのでは、と思ったので」


 それからはごたごたがあって、なかなか言えなかったのか。

 僕も狼の件以降、傷心気味だったし。


「失礼しました。あれはクレナがアズサに伝えようとした事だったので、それとは別にちゃんと言うべきでした」


「え? いやいや、いいよ。気を遣わせちゃったんだし」


 僕は首を横に振って否定する。


「それにリリスは頭が良いから、深読みしちゃったんじゃないの? 自分への伝言なんじゃないかって」


「恥ずかしながら」


 と、少し顔を俯かせて答えるリリス。


「仕方ないよ。今回が都合悪かっただけで、リリスはいろいろ考えてくれてる訳だし」


 そんな、いつも気を回してくれるリリスへ、僕は感謝と共に。


「だからこれからも、よろしくね。あ。別にリリスに責任押し付けるつもりはないんだよ? 悩んだ時は相談してね?」


 そう締まらずも微笑みかけて言うと、リリスも僕を見上げて微笑み返した。


「ええ」


 そしてそう頷いてくれる。

 もしかしたら早速意識してくれてるのかも。


「あ、あと、クレナが今後行動を共にする仲間になった訳だから、そこのとこよろしく」


「ええ。分かっています」


 今回を機にクレナも仲間になった。

 これで最初の三人とマリンに続いて五人目だ。


「先に座ってましょう」


 と、懐中時計を見て、並んだ卓の方へと歩き出すリリス。


「そうだね」


 僕も応じつつ、その場で背伸びして誰か来てないかと見渡した。

 やっぱグレンは来てないかぁ。

 エリィさんにもお礼言いたかったんだけどなぁ。

 そうやって余所見しながら進んで。


「あ、すみません」


 僕は通行人と打つかりそうになり、すんでの所で謝った。

 譲られたので前を横切ろうとし。


「あ、あの」


 と、その人から控えめに声を掛けられる。


「俺の事、分かりますか?」


「え?」


 振り返るとその若い男性に問われ、僕は一瞬困惑した。


「つい、一週間くらい前に、街中で……」


「あ」


 その時、それに思い至って僕は声を零した。

 それとは、まだこの町に来たばかりの日。この町での、マリンとの馴れ初めの時だ。

 あの時マリンへ怒鳴っていた男性が、今目の前に居た。


「あ、あの時の女の子は居ないのか? 金髪の綺麗な」


 と、辺りを見渡して言う男性。


「何の用ですか?」


 僕は警戒して問う。


「あ。ち、違うんだ! 俺、あの時なんか、すっげー苛々してて。つい怒鳴っちまって」


 と、慌てた様に言い繕う男性。


「いや、そんなの言い訳だな。と、とにかく、一度謝りたくてよ。ずっと探してて」


 そう、あの時とは比べ物にならない程弱々しく言う男性。

 僕はそれに言い様のないものを感じ、暫し口を噤んだ。

 胸の奥がざわつき、複雑な感情に駆られた。


「苛々、してたんですか?」


「あ、ああ。ただ打つかって来ただけだったのに、何故か胸の奥の方から苛々が出てきて……。子供を、それも女の子を怒鳴るなんて」


 半ばからは懺悔か独白の様に、表情を悲痛な物へと変えて言う男性。


「いや、そもそもあんたにもだ。殴ろうとして、すまなかった」


 と、男性は手を横に僕へも頭を下げた。


「え、えっと。とりあえず、受け取ります。でも、すみません。金髪の子には会わせられません」


 僕は謝罪は受け取りつつもそう断った。


「事情があって……。でも必ず! その謝罪は伝えておきます! わざわざ会って頭を下げようとしてた事も! 必ず!」


 僕はその男性に確と頷く。

 精一杯、任せてもらえる様。

 それに憂鬱気だった男性の表情も少し晴れる。


「ありがとう。お願いします」


 そして男性は深々と頭を下げた。





 遠くへ去って行く男性の背中を見送る。

 リリスは先に椅子へ着き、一人残された中僕は釈然とせず動く気が起きなかった。


 軋む音が聞こえそうな程拳を握る。

 なんて理不尽なんだ。

 相手にまでこんな不幸があるなんて。

 僕は解せない思いと悔しさに眉を寄せた。


 もしかしたら、クレナもこんな思いだったのかもしれない。

 いや、クレナのそれはきっと比じゃない。

 クレナの思いは完成には理解してあげられない。

 だって──


「アズサさん?」


 と、一人の少女の声によって、泥沼化しそうだった思考が止まる。

 振り返ると、そこには蒼穹の下よく映える、綺麗な金髪を揺らしたマリンが居た。


「あ、ああ。おはようマリン。クレナは?」


「あちらに」


 マリンの視線を辿ると、リリスの対面へと座るクレナが居た。

 クレナとは今朝マリンを迎えに行く前に少し話したし、気を使ってくれたのかも。


「調子はどう?」


「大丈夫です」


 僕が左目を覗いて問うと、控えめに微笑んで答えるマリン。

 ここで良し悪しを言うのではなく、安否を言うのが何ともマリンらしい。

 僕が微笑ましい思いで蒼穹の瞳を眺めると、マリンは不思議そうに首を傾げて見上げてきた。

 三日ぶりに会って、いろいろ話したい事もあったのだ。


 まずは、そうだな。

 怖がらずにまた会ってくれたお礼と、いろんな事への謝罪と。

 後はそうだ。

 さっきの事も伝えなきゃ。

 その場の感情は乱されるかもしれないけど、嫌われてる訳じゃないんだよって。

 気休めかもしれないけど伝えよう。


 僕は心の内で話したい事を挙げていく。

 ああ、そしてそうだ──


 新しくできた、目標を。



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