43:祝福の覚醒
「あ、アズサ?」
呆然と呟いたリリスさんの声が場に渡った。
私は屋根が崩壊し、雑多に荷物と瓦礫の散らかる武器庫を見て間に合わなかったのだと悟った。
入り口から入って来たのは五名。私と、リリスさんと、クレナさんと、グレンさんと、グレンさんに付いて預咲さんを共に探していた青髪の少女。
預咲さんに言われてから、皆んなを呼んでここへ来たのだ。
そして先頭に居るリリスさんの向こうには預咲さんが居て、更に預咲さんの前には胸から血を垂らす遺体があった。
預咲さんはそんな何にも反応を示さず、ただじっと月を見上げていた。
「う、嘘」
そして私ですら、ある光景を見て茫然と呟いた。
それは預咲さんの胸の辺り。魂を見てだ。
(か、覚醒している!)
内心驚愕する私。
預咲さんに掛けられた祝福の一つ。
『戦神の祝福』が、その神聖力の奔流を大幅に上げていたのだ。
どうして今なの?
私はその疑問と驚愕の気持ちにいっぱいになる。
ほんの少し見ない間に、この『祝福』を掛けた主神が大幅に信仰を集めたとでも言うの!?
いいえ、ありえない。
いくらなんでもそれはない。
自分で自分の考えをすぐに否定する。
しかしそれ以外なんだと言うのか。
こ、こんな大量の神聖力。
私は預咲さんの魂に釘付けになって思考する。
これじゃまるで、『一教』クラスの主神が、預咲さん一人の為に祝福を掛けている様な……!
そして同時に思い出す。
『戦神の祝福』の効果は、全能力値の向上だと。
つまりは、単純な戦闘能力の底上げであると。
私は更に思う。
──もし、これだけの神聖力を譲与する祝福を、預咲さんが使いこなしたら……
その先を想像し、息を飲む。
しかしその可能性は未だ細微な物であり、その必要も無い事をただ願う他無く。
私は今ひたすらに、預咲さんの行く末を見守るのみであった。
◯
「う、嘘」
茫然と呟いたエリィの声が場に渡った。
先頭のリリス、その後ろにエリィ、クレナ、そして俺とレイナ。
皆の背中越しに現場を見て、ある程度悟った。
(遅かったか!)
内心そう悔いて眉を寄せる。
どうやら一歩か二歩か、俺達は間に合わなかったらしい。
「あったんだ」
と、その光景を見て、珍しく反応を示したレイナ。
レイナはアズサの方へと目を見開いていた。
「帰らないと」
「お、おい。レイナ?」
そして徐に立ち去ろうとするレイナ。
その気配はまた、何を言っても聞かない様な頑固さを感じさせる。
「もう、帰る。今までありがとう」
「は?」
そして一方的に告げると、レイナは扉から出て行った。
「れ、レイナ?」
憮然とその名を呟いた俺。
その背中に意志と寂しさを感じて、俺はもうレイナが去ってしまうのだと察した。
しかし、ここで引き留めなかったのにも訳がある。
レイナが何かに反応を示した。
俺の手伝いをする以外はひたすらに図書館に引き篭もり、何にも興味も反応もしなかった、レイナが。
もしかしたら、あいつと一緒に居たら、何か分かるかもしれない。
俺のずっと探し求めている情報。
俺自身の情報を!
俺には記憶が無い。
四年前からの記憶が一切。
始まりはこの街付近の野原にて、手足広げて寝そべっていた。
そしてその傍らにレイナが起きるのを待つ様に座っていた。
レイナ自身からは何ら喋らない。だから自らの情報を探る様、情報を集め、ついでに食い口にも繋いだ。
絶対何か知ってる癖に何も喋らないあいつが、アズサを見て反応した。
こいつと……
アズサと居れば、何か分かるかも。
俺は未だ月を見上げ続けるアズサを見た。
その表情は遠くにある様で、俺には感情を窺い知る事はできなかった。
◯
昼間の喧騒も日光も分厚い雲に阻まれて薄暗いのは、この町と目の前の古屋でのでき事も起因してるのだろう。
その雰囲気を洗い流す様にか、一層と暗くする為か、周囲には絶え間なく雨が降り続けていた。
それに傘を差して古屋を見る人集り。
古屋の方には侵入禁止を示すのロープが垂れ、調査官が出入りし、見張りも居る。
雨の音ばかりが響いて、持つ傘からも水が滴れ続ける。
その光景を一通り眺めた後、足元で雨水を垂らし、踵を返してその場から去る人影が一つあった。




