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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
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42:前世還り



 直感で悟ったが、この戦いは終わらない。

 決着がつくまでは。


 部屋の中心にて金属同士の撃ち合う鋭い音が響く。

 グゼンは受け止めた剣を鍔へと滑らせ、捻ると上下を反転した。そして振り上げた剣先が僕の右頬を掠める。

 鋭い剣同士が打つかり、小さく火花が散る。

 痺れる程の鋭い金属音が響き、この月下では血の色も褪せる。


 ただ目の前に集中しろ。

 一度思考が逸れたらきっと戻れない。

 緊張し続けろ。痛みを感じ続けろ。

 手を止めるな!

 僕は本気でこの人を止めるんだ!


 と、剣を受け止められ、鍔迫り合いへと成る。

 力任せの鍔迫り合いに勝機は無い。

 僕はすぐに後ろへ飛ぶが、そんな事分かっていた様にグゼンは剣を上段へと構えた。

 咄嗟に頭上へ剣を構える。

 そこに振り下ろされるグゼンの剣。そのまま流れる様に下がる。


 どうにか往なせた? いや、違う!

 そのまま足を踏み込み、降ろした剣を振り上げるグゼン。

 間に合わない……!


「ぐぅッ!」


 脇腹が軽く刻まれる。

 最も、常時であれば大怪我なのは違いない。

 痛みと恐怖に怯んで尻餅突く。屋根の瓦礫の中、僕は四肢を使ってグゼンの斬撃から逃げる。

 入り口辺りまで来た所で僕は瓦礫に隠れていたそれを見つけた。考える間もなくそれを目一杯鷲掴む。

 後ろを振り向くと紅い三日月に突き刺す様剣を振り上げていたグゼン。

 僕は昼間運んだ白い砂か粉の様な物を投げた。


「チッ」


 舌打ち一つし、手でそれを防いだグゼン。


「うわああぁぁ!」


 その隙にグゼンへと体当たりをする。

 瓦礫に足も覚束無い中でグゼンは左手側へと荷物を背に倒れた。

 これ以上無い好機。

 僕は勢いのままグゼンへ跨り、逆さに持った剣を高々と掲げ──

 掲、げて……


 また、剣が震えた。

 否。きっと今、自覚した。

 下に居るのに見下す様な目で眺めていたグゼンの表情が歪み、グゼンは剣を振り上げた。


「うわっ!」


 咄嗟に剣の腹で受け止め難は逃れたが、勢いに後ろへと転がる。

 慌てて立ち上がり後退する。

 僕はどうしても目に入ってしまうその剣を見る。


「ふん。やっと、自分のしようとしてる事に気付いたか」


 そんな必要など無いと嘲る様に、グゼンは焦る事なく立ち上がると言った。

 手が震え。足が震え。

 瞳が震える。


 最悪だ。

 考えない様にしてたのに。意識しない様にしてたのに。

 僕は剣ごと頭を抱える。


「安心したまえ少年よ。私は悪魔教だ。状況からみても十分正当防衛は主張できるさ」


 そんな僕にグゼンは告げる。


「まぁ、生きてればな」


 そしてそう付け加える。

 生きるか、死ぬか。

 死んだら、仲間も危ない。

 覚悟を決めなきゃ、行けないのに。


 ──分かってた筈なのに。これは戦闘ではなく、殺し合いだと……


「ひっ」


 剣を振りかぶったグゼンに情けなく声を上げて剣を構えた。

 容赦なく降り注ぐ斬撃。

 一歩、二歩と下がる。

 弾かれた僕の剣が隣の木箱へと食い込む。

 上段に構えるグゼン。僕は急いで引き抜こうとし、グゼンはそれを阻止する様に剣を振り下ろした。


「なっ」


 澄んだ金属音が響き、刀身が半ばで折れて宙を舞った。


「随分と脆いな。少年、最近無茶な使い方をしたな?」


 鈍い音を響かせると刀身は瓦礫へと混ざった。

 僕の手元に残ったもう半分を見て言うグゼン。

 僕は慌ててそれを頭上へ構えて。


「うぶっ!」


 無防備な鳩尾に蹴りが入る。

 圧迫された肺から唸りが漏れ、体を曲げた。


「ぐぁ!」


 突き出した頬を殴られる。

 衝撃で口内を噛んだのが分かる。


「かはッ!」


 考える様な間も無く膝蹴りが腹へ来た。

 単純な痛みに僕は心許ない剣を手放す。

 そのまま服の襟首を掴まれ、右手側の荷物の山へと放り投げられる。


「──ッ!」


 息を呑む。

 腹部の痛みに動く気も起きない。


「弱かったが、貴様はよくやった方だ」


「ゔ、ぐっ」


 喉を掴まれる。

 両手でグゼンの手を引き剥がそうと踠くが、キツく締め付けられ呼吸もできなくなる。

 目を見開くが、血が滲むかの様に視界がぼやける。


「向こうで紫髪の女神によろしくな。ああ、もう居ないのか……」


 遠くなっていく意識の向こうでグゼンが何か言っている。

 意味が分からない。文句の一つ言ってやりたいのに声が出なければ言葉も浮かばない。

 右手でグゼンの手首をきつく握る。左手は適当に頭上へ投げて何かを探るも、それが無意味だと分かっている。

 段々と意識が遠のき、痛みすら麻痺し、視界が朧げになって力も入らなくなる。


「死ね」


 ただそんな声だけが聞こえて、グゼンは余った左手で逆さの剣を高々と三日月へ翳すが。

 僕は迫り来る〝それ〟に自覚しつつも何ら動けずに居る。

 まるで動けやせず、考えもできず、感情の起伏も忘れた様に〝それ〟が来るのを待っている。


 それ、〝死〟が眼前へ掲げられていようと、感覚も意識も消え入りそうになり。



 ──ああ、もし……なら……



 そう。

 その時、声が聴こえた。

 全ての音が失せ、その凛と鈴の鳴る様な、女性の声だけが。

 消え入る寸前の灯火の様な意識の中、その更に端で自覚してるかも朧げな時に。



 ──また来世で会いましょう……



 その光景が目に浮かんだ。

 腰まで届く様な白髪の女性が、こちらへと手の平を伸ばしている光景が。

 白い着物の様な物を着た女性が、一場面だけを切り取った様に、朧げに鼻より下しか分からずに。 


 一際だって聴こえたそれに、目を見開く。

 瞳孔が開くのが分かった。

 思考が、知覚が、感覚が止まる。


 いや違う、止まった様に引き延ばされる。

 僕は垂らしていた左手で、指先に当たった()()を掴むと眼前へと振り上げた。

 キィィィィン──ッ! と、今までにない鋭い金属音が響く。


「ぐあっ!?」


 その声が吹き飛ばされたグゼンの声であり、その音が僕の持った()との打ち合う物であったと後で気付く。

 この、良く手に馴染む、()()()()で。

 僕はその剣を持って立ち上がる。まるで燃える様な赤い剣を持って。


「ぐっ……! なんだ、少年? まだ余力を残していたのか?」


 瓦礫の中で立ち上がったグゼンは右腕から血を流していた。

 剣で防ぎ切れなかった分だ。

 僕は今の状態と状況をどこか俯瞰して感じつつ、グゼンへ踏み出した。

 体の痛みは意識の外だ。寧ろ引いていくのが感覚の端で分かる。

 いや、これは……

 癒えている?


「ククッ、よかろう! 第二回戦だ!」


 喉を鳴らしてこちらへと斬りかかるグゼン。僕は上段からの切り込みを受け止める。

 鍔迫り合いへと成り、グゼンが離れた所で追撃をする。

 絶え間なく、狂い無く、的確に。

 視線の先を、手首の向きを、足の軌道を読んで。


「なんだ? さっきとまるで動きが違う……ッ!」


 無駄話をする隙に僕は受け止めた剣を鍔へと滑らせ、捻って上下を反転させた。

 そして振り上げ、剣先がグゼンの頬を掠めた。


「おのれ!」


 僕の剣を弾いて目の前を横切る斬撃。

 グゼンからの剣撃に僕は後ろへと押され気味に避けた。


「くっ……!」


 歯を食い縛る。

 体の節々を掠める剣先。

 激しい攻防に数滴の血が火花と舞う。

 鍔迫り合いへと成り、入り口付近まで押される。


「うぅ、あぁああっ!」


 僕は力でグゼンの剣を押し返すとまた斬り合いの応酬へと戻った。

 首元、手首や手先、目や足元。体の関節を狙う。人間の急所を合理的に。

 負けられない。

 負けられないんだ!


「いいぞ。いいぞ、少年! いい殺気だ!」


 高揚した様に言うグゼン。

 僕は限界まで剣撃を速める。

 加速する打ち合いの中一際大きな金属音と共に一振りの剣が宙に舞った。


「──ッ!」


 息を呑むグゼン。弧を描いたのはグゼンの剣だ。

 僕は剣を上段に構える。

 無防備になったグゼンはとっさに頭を守る様両手を頭上へと構え。


「ぐぶッ」


 僕はグゼンの鳩尾みぞおちを左足で蹴り上げた。

 そのまま足を踏み込み、グゼンの頬を殴る。

 荷物と破片の山に飛ぶグゼン。

 部屋中央に仰向けになったグゼンへ僕は間入れず跨った。立ったまま見下ろし、逆さにした剣を掲げて──


 ……剣が震える。


 僕は振り上げた姿勢のまま固まっていた。

 今更ながら動悸の激しさを自覚する。

 指先の冷たさを覚える。

 唇や手がわなわなと震えて――


「殺せ……」


 はっと水打った様に意識が目の前に戻った。

 切れて血の垂れた口元。

 グゼンがこちらを見ていた。その、獰猛な目で。

 刹那。


おおおぉろおおおぉせえええぇぇぇーー!!」


「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーッッ!!」


 叫んだグゼンに被せる様に僕も叫び、震えたままの剣を振り下ろした。

 心臓を突く紅の剣。

 それは深紅の月光の下赤い血が垂れて、最早境界が何処かも分からぬ様であった。


 脱力し、目の光りが失せ、物言わなくなる。

 そして初めて、人を殺した。

 この、真っ赤な月に見下ろされて。


「そうか、お前は──いや、君は……!」


 と、背後で僕へ目を見開く悪魔が一匹。

 裏口付近の物陰から体を出した悪魔。

 僕は剣を引き抜くと駆け出し、迷い無くそいつへと剣を振るった。


「ぐぁあ!」


 右目を掠め、血が飛び散る。

 悪魔は浮遊してグゼンの付近へと周り、僕との距離を取った。

 俯く悪魔。

 その雰囲気は、不穏である。


「──殺してやる……」


 不意に呟く。

 まるで目の傷など意に介さぬ様に、悪魔はこちらを睨み。


「覚えていろ! いつか必ず、殺してやる……!」


 そう表情を歪ませる悪魔は、足元に出現した赤色の陣に体を入れながら言った。

 まるで次元が違うかの様に入った先が消える。

 宙に浮かびながら悪魔はその陣へと入り、そしてこの場から消えていった。


 取り残された僕。

 残ったのは一人と一つの死体。

 僕は部屋の中央へと歩き、剣を突き立てた。

 赤髪を垂らし、月を見上げた。

 始終を見下ろしていた、その三日月を。


 先ほどの、まるで走馬灯の様に走った光景。いや、きっと記憶。

 あれは勝手に作り出した妄想なんかじゃない。

 僕はそう確信する。

 証拠なんかない。根拠なんかない。

 だけどそう感じる。


 それに、さっきの悪魔の言葉も。

 きっとこの容姿も。

 ここまで来て何も無い訳がない。

 何ら察せないなんて事もない。そこまで僕は馬鹿じゃない。


 かと言ってまだ分からない事だらけで、箇条書きにすると一文で終わってしまうだろう。

 それは未だ暫定的で、曖昧な事。

 しかし、それでも言うとしたら。



 ──僕は、『前世』で何かをした……!



 僕は未だ見ぬその過去に、ただ黙々と慮る事しかできなかった。


 一時そうしてたのか。いや、そう時間の差も無く、複数人の足音が聞こえてきた。

 そして扉が開かれる。

 見るまでも無く、誰が居るのか分かった。

 数秒、皆が息を呑んだを感じる。

 近づくのを躊躇っているのが分かる。


「あ、アズサ?」


 そして一言。そんなリリスの呟きが聞こえてくる。

 何かを問う様な、訝しむ様な。


 しかしそんな事には構わず、僕は月を見上げ続けた。



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