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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
45/172

41:黒幕



 僕は月光だけが頼りの町を走る。


 特別住宅が壊されている様子は無く、時々巡回している衛兵とすれ違うだけで町そのものが眠ってるかの様に静かだ。

 僕が転移で飛ばされてから少なくとも十二時間以上。

 あれから更なる召喚がなかったと言うのなら、これくらい落ち着いてても不思議ではないか。

 この静かで適度に緊張感のある夜を邪魔しない為にも、僕は今一度踏みしだく脚に力を込めた。







 バンッと弾く様な音を立てて、僕は持ち手部分の壊された扉を開いた。

 南西門から北東にある武器庫へは真逆であり、ただでさえ広いこの町を跨ぐのは本来大変な労力を要する。

 が、この時の僕は何故か疲労どころか息一つ上がっていなかった。

 だがそんな事はどうでもいい。

 薄闇の中、僕は荷物で溢れ返った部屋を二、三歩進むとその先を睥睨した。


「やぁ、よく来たね」


 そんな気軽な挨拶をする一人の男性。

 少し茶っ気のある肌に闇に映える白髪。同じく白い着物の様な服装。

 こちらを真っ直ぐに見た深い緑眼と目尻の皺は屋根の窓から差す月光だけでは分かりにくい。


「どうして、あなたが……!」


 僕はその人──組合長の男へと詰め質した。


「どうして? か……くくくッ」


 組合長はと言うと何が面白いのか僕の質問に喉を鳴らした。


「こいつか? グゼン、お前の言っていた使徒と言うのは」


 と、奥の方から別の声が上がる。


「なっ!」


 僕はそれを見て声を漏らした。

 赤黒い肌。小ぶりな頭は少し横長で、耳が真横へ尖っている。体は小さく、二頭身だ。

 瞳の色は赤黒い。何より目を引くのが角と翼であった。

 羊の角の様に湾曲し、その角は墨汁の様に黒い。翼は蝙蝠の様に羽毛は無く、背中から体よりも小さな一対が飾りの様に生えている。

 そしてそいつは浮いていた。

 翼を使う事なく、そいつは組合長の横へと浮遊していた。


 悪魔だ。

 一目見て分かった。

 まるで殺気そのものの様な悪魔に、僕はここに来て初めて波打つ鼓動を自覚した。


「ああ、そうだ。ルンバスの方はこいつも関与している」


 と、その悪魔に何ら気負い無く応じる組合長。


「確かに、これは……。天界の奴ら、中々大物を出してきたな。六つもの首輪の着いた犬など私も初めて見る」


 その悪魔は僕の方を見て嗄れた声で言う。

 だが無視だ。


「やっぱり」


 そして僕は一連の事に一人呟いた。


「やっぱり悪魔教だったんだな!?」


 俯いていた頭を上げ、僕は組合長と悪魔を見る。

 一つの動作も見逃さぬ様。


「悪魔教? ああ、そんな事か」


 と、組合長は何でも無い事の様にそう呟くや、羽織を脱いで袖を上げる。


「ほら。これで満足か?」


 まるでどうでもいい様に前腕の肘近くにある紋章を見せる組合長。

 暗くてその印はよく見えないが、悪魔教だと自白してる様な物だ。

 その様子に少なからず動揺する。


「何で……何であんな事したんだ! あの召喚はお前達の仕業だろ!」


 しかしそんな暇は無い。

 僕は手振りを交えて組合長へ更に詰めた。


「お前は、あの陣が何故作られているか知っているか?」


 と、組合長は唐突に問う。


「あれはこの地に重なる地獄との繋がりを作り、そこに住む悪魔共でこの地を満たす為だ。宛ら地獄をこの世に顕現させると言う訳だ」


 その説明に息を呑む。


「それが……お前ら悪魔教の目標だと言うのか?」


 辛うじてそれだけ問うたが、それに組合長は答えない。


「いいや、本当はそんな事どうだっていい。何で僕らを巻き込んだんだ! 無関係の筈だろう!」


「ほざけ。貴様らは天の使いだろう」


 と、その時横の悪魔から言葉が飛ぶ。

 て、天の使い?


「そうだ。その魂。灯籠の様に輝くその魂が物語っている」


 それに確信を持った様に同調する組合長。


「加えて貴様と共に居たあの娘二人だ。あの娘の魂。あれはかつて見た奴の魂と同じ輝き……!」


 まさか、エリア様とリリスの事か!


「小娘の方もそうだろう? 同僚二人を直接屠ったあの黒髪の娘も。思えばおかしな点は幾つかあった。異常な早さで強くなった捨て子。端から我らを炙り出して殲滅する為の捜査員だったのだろう?」


「ち、違う! 二人も僕もそんなんじゃない!」


「くっはは」


 否定する僕に組合長はこちらに喉を向けて鳴らした。


「言うに事欠いて違うだと? 現に小娘が同僚一人の居場所を暴くと安否不明へ追い込み!二人を滅し! それら全てに貴様も関わって居るではないか!」


 そう捲し立てる組合長に言い返せなかった。


「そして、私の前にすら立った」


 両手を緩く広げて言う組合長。

 向こうからだとそう見えるのか。


「あの時に纏めて殺しておけばよかったな。組合で殺せばさすがに角が立ったので諦めたが、ここまで乱れに乱れるのなら」


 と、そんな事を思い出した程度に言う組合長。

 あの時って、報告の時を言っているのか!

 僕はそれに総毛立つのを感じた。


「だから……だから外で襲わせたの? 魔物の被害に紛れさせる様に」


 慄きながらその腑に落ちてしまう可能性を問うた。


「察しがいいな。少年」


 それに組合長はニヤリと笑って応じる。


「その通りだ。警戒地帯なら多少の不自然さも誤魔化せる。その為に君をEランクへ昇格させた。警戒地帯へ入れる様にな」


 僕はそれに絶句した。

 本当に最初っから、僕も殺す気だったんだ。


「ついで言えばDランクにしたのもそうだ。非戦闘員も道連れにできるからな」


 そして平然と付け加える組合長。

 ま、マリンも巻き込もうってのか!?


「どうしてだ!? 僕が天界の使いと思うのはまだ分かる! だけどマリンやクレナは何なんだ! 僕と関わったからか!?」


 僕は声を荒げて問い質した。

 神さまであるエリア様や、レミリア達天使とも関わっていた以上、僕が天界の使者だと勘違いするのは仕方ないのかもしれない。

 でもクレナやマリンはそんな僕と関わってた以外何も無い筈だ。

 それともそれが、そんなにいけない事だったとでも言うのか?


「魂だよ」


 一言。組合長が言う。

 た、たま、しい……?

 僕はそれに内心反芻する。赤い月光が増し、部屋内を照らした。

 部屋は昼間来た時と何ら変わった様子はなかった。

 雑多に置かれた武器、防具、木箱などの荷物も。月光にちらりと存在を増した赤い剣も。


「花は好きかい? 少年よ」


「え?」


 唐突に問われる。


「花は、枯れる時が最も美しいとは思わないかい? 私はそう思う」


 組合長は問い、まるで答えなど最初から訊いてなかったかの様に自身で答えて。


「人もそうだ! その胸の内に揺蕩う丸い灯火。人の瞳から光が消える時、まるで変わりの様にそれが光り輝き、灯滅の様に爆ぜる!」


 まるで憑かれたかの様に語る組合長。 


「私はそれが見たい……」


 酔狂だ。

 組合長の表情を見て思った。


「私はそれを魂と呼んでいる。そして時偶に、生きながらにして走馬灯の様に美しく輝く魂がある」


「そ、それがクレナ達だったとでも?」


「ああ」


 そ、そんな理由で。


「そして、少年よ。それは君もなのだよ」


「え」


「君のその魂! まるで幾つもの色が重なったかの様な輝きだ!」


 組合長の視線は僕の胸辺りに向いていた。


「私はねぇ、君を殺したいんだよ」


 今初めて向けられた明確な殺意に、ぞっと一歩下がった。


「その後はあの兄妹、黒髪の娘も! 紫髪の娘も! ここらに蔓延っていた天使共も! 私の邪魔をする者、全部……!」


 そして狂い気味にそう宣言した組合長。


「そんな訳分かんない理由で! 許せない!」


 今はっきりと、敵対する理由も防衛する理由もできた。

 僕は右手で腰の剣を引き抜くと前へ構えた。

 歯切り良い金属音が響く。


「クククッ。よかろう! この手で天の使者を屠れるのなら、それは至高の悦び。纏めて天へと送り返してくれるわ!」


 組合長もそれに応じて、側に差してあった剣を取るや抜き放つ。


「させない! 僕の仲間に手出しなんかさせない!」


 耳に残る金属音が心地よく、それはさながら開戦への嚆矢こうしの音であった。











 逃げてしまう事ももちろん考えた。

 が、それですれ違いになってしまったらそれこそ最悪だ。

 下手に逃げても事態は収束しなそうだし。

 そもそもこちらは住民を人質に取られてる様なものなのだ。


 僕は月光に当たる自身の刀身を見た。

 だと、したら──


 駆けて来る組合長へ剣を構えて迎える。

 右から横薙ぎに振られた刀身を受け止めた。

 鋭い金属音と共に手、手首、肘、肩、腰に伝わる衝撃。踵と足の爪先に体重を掛けて重心を乱さない様力を込める。

 ふっと弱まったかと思うや、また瞬く間も無く来る斬撃。

 構えた形を保つだけで精一杯だった。

 二歩、三歩と下がって行き、扉を背に付けて鍔迫り合いへと成る。


 重い。

 すぐに押されて肩へと自身の剣が食い込もうとする。

 僕は蹴ろうと右足を振り上げ、組合長は後ろへ飛んで避けた。

 ちらりと悪魔を見る。

 奴は何もして来ない様だ。観戦している。


「余所見か? 少年!」


「ッ!」


 また横薙ぎに来た剣を受け止め、目の前の凶器に息を呑む。

 そしてまた力任せの鍔迫り合いへと成る。

 相手は余裕そうなのに僕は足を踏ん張って腰から力を入れる。

 きっと一端の剣士から見たら型もへったくれもない体勢へとなってやっと持ち堪えられる。


 もう十分見た筈だ。

 血は。

 もう慣れた筈だ。


 歯を食いしばりながら組合長の手、腕、胴、首を流しで見る。

 だから躊躇わないでくれ!

 無力化。

 無力化さえできればそれでいいんだ!


「うわああぁぁーー!」


 左手で刀身を持って、叫びながら剣を押し進む。

 左手に血が滲む。突き刺す痛みも今は構ってられない。

 部屋の中央まで押し返し、距離ができた所で無作為に剣を振り回した。


「ふん。やはり君は弱いな。悪魔を倒したと言うのは買い被りだったか?」


 それを全て剣でなしながら、組合長は何ら変わり無く言った。


「だから! 違うって……! 言ってるだろ!」


 僕は一振り一振りに力を込めて振り回し、肺が膨縮する合間で叫んだ。


「話によれば、天の者共はうの昔に我らが蔓延っているのは知っていたそうではないか」


 僕の斬撃など微風そよかぜ程度にしか感じていないかの様に組合長は語りだす。


「そして、つい二週間程前からの攻勢が、使徒による侵略だろう?」


 金属同士が打つかる残響轟く中、そいつは平然と語った。


「滑稽だな。安息の地としていていたのに。そちらは疾うの昔からここを攻略地点としていたのだろう」


 まるで意に介さぬ様、一人話し続ける組合長。


「小耳に挟んだ程度ではあるが、知っているぞ? 貴様らの住う天界とやらには諜報員や実行部隊もあると」


 と、多少心当たりのあるそれに僕はつい耳を傾ける。


「貴様はそれなのだろう?」


 キィィンッ! と、一際大きく金属音が渡った。

 僕は一旦距離を取るべく後ろへと下がる。


「違うし、そうだとしたら弱いでしょ?」


「ふん。それだけは同感だ」


 息切れは数回の呼吸で飲み込む。

 そしてまた剣での応酬を行う。


「貴様先程から剣に迷いがあるぞ? 人に向けるのは初めてだな?」


「うぶっ!」


 右に空振った剣をそのまま弾かれ、無防備になった腹へと膝蹴りが入った。

 痛みにその場で四肢を突く。


「本当にこの程度のなのか? 天界の実行部隊はどれも実力者揃いと聞いたが」


 つまらなそうに言う組合長。

 僕はそれを無視し、震える剣を突き立て立ち上がる。

 杖代わりだった剣を持ち上げ、血の垂れる手で構え直す。


「うわああぁぁーー!」


 僕は叫びを上げてそいつへと斬りかかった。

 最上段から振り下ろす一太刀。

 何でもいい、隙ができたらぶん殴ってやる!


「ぐはッ!」


 しかしそれは叶わなかった。

 拳が腹に入り、引き摺る様に飛んでった。


「もうやめだ。お前からは大した情報も聞き出せそうにないな」


 埃舞う中見るに、僕は左手側の荷物の山へと突っ込んだ様だった。


「くっ!」


 状況の理解と共に腹の中で這いずり回る痛み。

 目を見開き、歯を食いしばる。

 動くと余計に痛い。

 でも動かないと、立たないといけない。

 足が震える程に痛い。

 立つ事を拒んでるのが分かる。


 僕は前を見た。

 組合長はゆっくりとこちらへ歩いて来ていた。

 早く明日になってほしい。

 傷の痛みも引いて、きっと問題が丸っと解決した明日に。


 そんな頭の隅で現実逃避する程参ってるのだと自覚する。

 と、目の前の箱にある白い球に目が行く。

 僕は咄嗟にそれを掴むと紐を引っ張って組合長の方へと投げた。

 途端に部屋の中心から煙りが舞う。

 今はとにかく時間が欲しい!

 僕は組合長がこちらへと来てしまう前に五個、六個と煙玉を炸裂させた。


「げほっ、んふ」


 僕の目の前でも撒き散らし姿を隠す。


「チッ……面倒な」


 忌々し気に言う組合長。

 その頃には部屋全体に煙りが回り、僕も剣を持って這いずった。

 と、床に昨日運んだ白い土壌袋の様な物を見つける。

 これがあるって事は入り口付近だ。

 このまま上手く立ち回って時間を稼ごう。

 いっそ隠れるか出て行ってしまうのもありか──


「『衝撃を(インパクト)』」


 その時、組合長が一言呟き、さらにその声を掻き消す様な破壊音が耳を穿った。


「うわぁーっ!」


 続いて衝撃だ。僕にでは無い。

 きっと上だ。

 上から絶え間なく何かが降ってくる。

 この乾いた堅い物が壊れる音。間違いない。屋根が壊された。

 大量の破片が降ってくる中、僕は身を丸める。


「グゼン! 目立ち過ぎるぞ」


「ふん。どうでもいい」


 煙と破片の雨の中、悪魔の声と投げ捨てる様応える組合長の声が聞こえる。


「お前は適当に隠れてろ。それか先に地獄へ行け」


 破壊音も収まりすっかり煙も晴れてしまった頃、僕は恐る恐る顔を上げる。

 屋根が半ば無くなっていた。

 いや、半ば以上だ。

 周囲に屋根の破片が所狭しと散らばって最早廃墟だ。

 屋根のあった真上には赤い三日月が出て僕らを照らす。

 影は一層黒く塗りつぶす様に暗く、照らす明かりは血よりも赤い。


「少しは見晴らしが良くなったな」


 そんな様を見て言う組合長。

 不気味だ。

 まるで葡萄酒ワイン越しにでも見てるかの様だ。

 僕は体に乗った瓦礫を落としながら、腹の痛みも余所に立ち上がった。


「そういえば、名を名乗ってなかったな。少年」


 と、思い出した様に言う組合長。


「私の名はグゼンだ。もういつの日かも忘れた程遠い最初の名だ。私はどんな名を付けられようと、これを真名として名乗っている」


 そして今更名を名乗るグゼン。


「雨斗……、預咲」


 僕も剣を構えると今更名を名乗った。


「ふむ。尋常に」


 そして互いに駆け出した。



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