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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
44/172

40:尚、今回は一割の方だった模様



 浮遊していた微睡みから意識を定め、僕は瞼を開ける。


 まず見えたのが星空だった。どこまでも黒い空に散りばめられた一杯の星々。

 更に真上にあるのは身を裂けそうな程細めた真っ赤な三日月。


 僕は上体を起こして周囲を見渡す。

 地に着けた手にひんやりと冷たい土と草の感触が伝わる。

 僕は郊外の、それもだだっ広い草原に横たわっていた。


 ──どこだ? ここ……


「預咲君……? 預咲君!?」


 と、後ろの呼ぶ声に振り向く。

 そこには両手に木の枝を抱えた一人の少女が居た。

 鋼を思わせる鈍色の髪。瞳は宝石の様な深い青。

 その少女が僕を見て立ち尽くしていた。


「よかった! よかったよぉ〜!」


「えぇ!?」


 そして両手の枝をかなぐり捨てて僕に抱きついてくる。


「あ、え? あの〜」


「あ、急にごめんね?」


「いえ」


 と、その少女は案外すんなり離れてくれた。


「あの、どちら様で?」


「うぅ……分かってはいたけどさすがに堪えるなぁ」


 そう少女は控えめに笑いつつも眉と肩を下げる。


「あ、そういえばグレンと一緒に居た」


「そうだよ! あ、でもグレンとは何にもないんだからね! 本当だから!」


「え? ああ、はい」


 なぜか意固地に主張するその少女にとりあえず頷く。


「それより、ここは……」


 と、僕は当たりを見渡しながら、一番若い記憶を辿っていき。


「なっ!? み、皆んなは!? 知らない!?」


 三人で青白い光りに包まれたところまで思い出し、その少女へと問い質した。


「ああ、無事だよ。皆んなで君を探してたんだ」


「さ、探してた? 一体、何が」


「転移魔法だよ。君も青い魔法陣は見た事あるんじゃないかな?」


 と、僕を見つめて優しく説明してくれる少女。


「それの最も安易な種類で〝特定の範囲内において無作為に人を飛ばす〟って条件があるんだ。それに、君は巻き込まれて」


 言われて僕はどこまでも続くかと思った平原の先に町の外壁があるのに気付いた。


「あの町がロビア?」


「うん。そうだよ。君は郊外まで飛ばされちゃってたんだ。壁内も含めて、あれからずーと探してたって訳」


 随分簡単に言ってくれるが、こんな夜になるまで探してたなんて。


「と、とりあえず、ありがとうございます」


「い、いえいえ」


 僕がその場で手を付いて頭を下げると、少女は控えめに首を振った。


「どうします? 立てますか? それとも、皆んなを呼ぶ? これで焚火を合図にしようと思って」


 と、木の枝を指してか、それを見て言う少女。


「と、とりあえず」


 僕は言いながら、思慮に言葉を詰まらせた。

 これからどうすべきだ?

 情報の共有化はできたが、話自体は何も進まずに終わってしまった。

 あれから飛ばされて、僕はこんな夜中になるまでずっと伸びたままで。

 いや、もしかしたら皆んなの方ではそれなりに方針が決まってるかもしれないが。


「あの〜」


 クレナは命が狙われてると言っていた。

 何で?

 分からない。

 だけど偶然じゃ済まされない事が多々あった。

 なんなら悪魔教が直接襲いにすら来た。


 そして今回の召喚騒動もきっと悪魔教が絡んでいる。

 悪魔教が自重しないのは前回の騒動で十分理解している。

 クレナはそれに利用されたか、どこかで巻き込まれてしまったか。

 それともその両方で、消されそうになったのか。


「え、えっと〜」


 そうなると浮かび上がってくるのが、召喚騒動の種である『ましょうせき』を配らせた、あの黒幕自体も──

 その時、先日レミリアに言われた悪魔教についての話を思い出す。

 曰く、人間社会に紛れて情報を集めている、と……

 僕は追随する悔しさに拳と眉を歪ませた。

 手掛かりはいろいろあった筈なのに、今更になってそれに気付くなんて。


 そしてこれからどうする?

 いや、逃げるしかない。

 何かに巻き込まれてるなら、最悪国ごと出るしかないかもしれない。

 最初っから素直に町を出ていれば……

 そんな思いが過ぎる。

 今日は後悔してばかりだ。

 本当に、グレンの言う通りさっさと町を出ていればよかった。

 思えばレミリアだって町を出る様勧めてくれてたのに。


 僕は内心の冷静さと悔しさが鬩ぎ合って悩み抜く。そして至る。

 待て、今外に居るじゃないか! と。

 よ、よし! このまま皆んなと合流して、どこか遠くへ……


 ──八つ目を防ぎたかったなら、丑三つも過ぎた鐘の鳴る頃に一人でまた来なさい……


 その時、組合にて囁かれた言葉を思い出す。

 一気に血の気が引いていくのが分かる。


(あ、あれって、まさか!)


「い、今何時!?」


「え?」


 僕は立ち上がって少女へと問うた。


「た、多分、三時くらいだと思うけど」


 その時、鐘が鳴った。

 少女の言葉に返事するかの様に、町の方から鐘楼の音が聞こえてきた。


「なっ、どうして? こんな夜中に鐘が鳴るなんて」


 少女が呟きが遠のく様に聞こえる。

 ま、不味い……

 このままじゃ被害が増えるかもしれない!

 しかしどうする!? 僕が行って何か問題解決になるのか!?


 いいや、それは行ってみないと分からない。

 だけどのこのこと一人で行くのは無策が過ぎる。

 相手の要求を律儀に守る必要はない。

 できるだけ大勢でカチコミに行ってやる。


 こっちだとなんだ? 

 騎士? 衛兵?

 でもそんな時間あるか?

 僕が説明して、納得してもらって、わざわざ行くまでに。

 一体どれだけ掛かる?

 それもこんな時間に。


 僕は罠に嵌められたんだ。

 僕がこの時間に目が覚めたのはきっと偶然じゃない。

 魔法なんて都合の良いものもあるんだ。どうにかしたのだろう。

 どうやら相手は僕が一人で来る事をご所望らしい。

 こうやって転移させたのも、本来は一人っきりにさせる為か。


 くそっ、時間が無い筈なのに!


 僕は悩む間に焦る気持ちを募らせる。

 と、不意に手が包まれ、はっと前を向く。


「大丈夫? ……な訳、ないか」


 目の前に立った少女が、僕の左手へ両手を向けていた。

 冷たくて柔らかい感触が、控えめに伝わってくる。


「たぶん、君はまた何かに迷ってる。色んな事を大切にできる人だから、何かを天秤に掛けて、迷う事ができる」


 その少女は瞳を伏せがちに、そう語った。


「本当は、止めるべきなんだろうなって思うけど、そんなの聞きやしないんでしょう?」


 顔はそのままに、一度瞳が上目にこちらを向く。


「本当は、もっと自分を大切にしてほしいとも思う。だけどそれは、君を邪魔してしまうかもしれない」


 一瞬少女は、今もその考えを迷う様に表情を曇らせた。


「だからね。私は君を送り出そうと思う。背中を押して、見送ろうと思う」


 しかし、そんな憂いも払拭する様に前を向くと、僕の瞳を真っ直ぐに覗き。


「君の分まで君を大切に思うし、大切にする。君が胸を張って前を歩ける様に、後ろから手助けする。いつでも戻って来られる様、居場所を作っておく。それが、今の私にできる精一杯」


 そしてその少女は意思を通す様に言って。


「と、思ったんだけどさ……どうかな?」


 だが不安な様で左手へその感触が伝わって。


「今の君は、大丈夫だよって、迎え入れて欲しい? それとも、頑張ってねって、送り出して欲しい?」


 僕の左手を包んで、潤んだ上目で問うてきた。


「あの。お名前、訊いてもいいですか?」


「あ、えっと。エリィだよ」


 と、少女はふと我に帰った様に僕の手を離すと名を名乗った。


「エリィさん。見つけていただき、ありがとございます」


「お安い御用だよー」


 僕は改めて彼女に頭を下げ、エリィさんも朗らかに笑って応じた。

 そんな、名前も知らなかった様な、ほぼ初対面の少女へ。

 僕は、その碧眼を真っ直ぐに見て。


「頼みがあります」


 そう告げた。


「僕を見つけてください」


 そんな我が儘を。


「僕を探し出してください」


 今度は僕が真っ直ぐに見つめて。


「僕は今から組合か、その武器庫に向かいます。もしくはどれでもないどこかに。それを皆んなに伝えて、助けに来る様に言ってください」


 そんなお願いを少女にする。

 碧眼でこちらを見上げる少女へ。


「たぶん、人を呼んだ方が良いんだろうけど、時間は無さそうです」


 そう重苦しく付け加える。

 首を垂れて、一人俯いた。


「うん。任せて」


 そんな僕へ、少女は頷いた。


「居場所が分かってる人探しなんて簡単だよー! すぐに行くから、君は意地張ってきな!」


「はい」


 次いで元気に手振りも交え、景気付ける様に少女は言った。

 僕もそれに少し気が楽になって、微笑ましくて。


「不思議です。あなたとは、どこかで会った気がする」


 そんな、一昨日とは違う。

 もっと別の。

 会った事なんて無い筈なのに、見覚えなんて無い筈なのに、そう思って。


「そうだね。私もなんて言ったら、おかしいかな?」


 それに何か、少女は面白い様に微笑んで見返した。

 まるで小さな秘密話を、それを知らない子供に揶揄ってる様に。

 その姿に僕も釣られて微笑む。

 不思議とその頃には嫌な焦りと緊張は解けていた。


「じゃあ、行ってきます」


「うん。行ってらっしゃい」


 高低差のある瞳が交差して、信頼し合う。

 もうそれ以上の言葉は要らず、僕は初対面の少女へ背中を任せて駆け出した。

 変わりなく最悪な状況にも関わらず、僕は心穏やかに街へと向かって行ったのだった。







 ──預咲が駆け出して行った後。

 その背中を見送って、草原に佇むエリア。


「必ず戻って来て、なんて言わないよ。その前に、会いに行っちゃうから」


 夜風吹き月光差す草原にて、そんな少女の呟きが漂ったのは、当然預咲は知らない……



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