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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
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36:価値観のズレ



 先ほどグレンが聞いて駆けた放送の場所は僕にも覚えがあったので向かう事ができた。

 幸い組合からも近い方だったので道に迷う事もなく進む。

 警報や鐘音に慌てて非難する人々を背に僕はこの町の図書館へ向かう。

 と、だんだん街行く人も見なくなった頃、グレンの後ろ姿を見つける。

 彼は腰の鞘からダガーを抜いて、それを構えていた。


「くっそ」


 と、悪態吐く彼の前には一匹の狼が睨んでいた。


「ぐ、グレン!」


 つい僕は彼を呼び止めてしまう。


「お、お前!」


「危ない!」


 そしてこちらを向いたグレンに狼が飛び乗った。

 慌ててそれに応じるグレン。狼の鋭い爪をダガーで受け止める。


(ああ、僕が呼んだせいで!)


「あ、あいや!」


 謎の気合と共に僕は鞘ごと抜いた剣を振るう。

 すぐに離れた狼にグレンはダガーを掲げ。


「あ」


 振り下ろす。

 目の前で何度も何度も剣を刺し、挿し、血溜まりを作る。

 いっそどちらが獣かも分からぬ様に、獰猛に。


「も、も、もういいんじゃない!?」


「ここで生かす方が残酷だ! どうせ殺される!」


 既に瀕死の狼を前にグレンは叫んだ。


「で、でも」


「お前は甘いんだよ! 世の中殺すか殺されるかだ! 好きに選べるのは強い奴だけ! お前は目の前で殺そうとして来る奴を許せるくらい強いってんのかぁ!?」


 今にも掴み掛かって来そうな勢いで言うグレンに気圧され言葉を失う。


「履き違えんなよ? 殺そうとして来るってのは何もお前だけじゃない。お前の大切な人もだ。お前はそれを赦せるのか? できないなら殺せ!」


 そう言って狼に止めを刺すグレン。

 僕はそれを止めず、ただ目の前で一つの命が絶たれる様を見た。

 結局、何もできなかった。

 多分、グレンの言ってる事が一番正しいし、一般論なのだろう。

 今まで側にリリスしか異世界の人が居なかったから、きっと価値観というのがズレていた。


 リリスは強い。

 それゆえお金には困らず、魔物にも臆せずの姿勢を側で見てきた。

 だが違う。

 リリスが特例なのだ。

 本当の、こちらの一般的な住民であり、きっとこちらでは僕よりまともな意見と感性。

 きっと同じくらいの年齢。同じ様な立場。

 それなのに、こんなにも考えに差がある。


 そうだ。異世界。

 ここは異世界。

 前の考えなど当てにしてはいけない。

 慣れないこと以外不自由の無いリリスの側で、僕は思った以上に甘えていた。

 こちらの価値観など、まるで触れていなかった。

 一般的な考えも、こちらの世の厳しさも。


 僕はその過ちとグレンの言葉が染み、その場に立ちすくんだ。


「今助けて貰ったのは感謝する。だが逆は期待するな。逃げずに来たのなら覚悟もあるだろう。ならそれを示せ。無いなら今去れ」


 そう言いながら血を払うとダガーを鞘に収めるグレン。

 そして返事を待たず走り出す。


「あ、待って!」


 僕は我に返ると慌てて追いかける。


「き、訊きたかったんだよ! どうして逃げる様言うのかさ!」


 いろいろ迷う立場にあったのもそうだが、もしその理由がクレナの狙われてるという話に繋がるのなら、きっと解決の糸口くらいにはなると。

 そう思って。


「後でだ! 今は人を探してる!」


 そうぶっきらぼうに言い放つグレン。

 その目は落ち着きなく周囲を見回している。


「さ、探すよ。どんな人?」


「水色の長髪だ」


「わ、分かった」


 僕は剣を右の腰へと差しつつ、グレンを真似て視線をあちこちへと散らす。

 一時そうしていた間、なんだか雰囲気が変わったのを肌で感じる。


「おい、なんだよ」


 前を走るグレンが茫然と呟いた。僕も勢いを失くしてその光景を見る。

 壊れていた。

 ただひたすらに建物が。

 崩れ、壊れ、天災でもあったかの様な有様だ。


「ひどい」


 つい呟いた僕。楽観視はできないだろう。


「いや、寧ろ良かったかもしれん」


「え?」


 と、考え込む様に呟いたグレン。


「き、君ってば何言ってるの?」


「あーもー、後でだ」


 怪訝気だろう僕にグレンは面倒臭げに手をひらひらと振った。

 そしてまた走り出す彼に僕も付いて行く。

 崩れた建物を横目に進み、少し開けた広場の様な場所に出た時である。

 その光景を見て目を見開いた。

 何十匹という狼が広場に散って倒れ伏していたのだ。


「これは……寝てるのか?」


 と、グレンが呟き、僕も狼をよく観察してみる。

 狼は小さく胸を動かし、確かに息をしてる様だった。


「え? こんな数で?」


 っていうかこんな場所で?


「魔法で眠らされてるんだろう。そうそう起きない筈だ」


「あ、ああ。なるほど」


 魔法かぁ。

 今だ慣れないな。


「状態異常系の魔法でもかなり高度な物だけどな。行く所まで行くと、時間まで調整できるって話だが」


「へぇ」


 便利だなぁ。


「一応、静かにな」


 そう口元で人差し指を立てるグレンに、こくりと頷いた。









「レイナ!」


 とうとう目的の人を見つけたらしいグレンがその元へと駆ける。

 レイナと呼ばれた少女は足を横流しにして、寝ている狼達を周囲にぽつんと座っていた。


「無事か?」


「ん」


 その少女はゆっくりとした動作で控えめに頷いた。

 艶やかに流れる水色の髪を垂らし、同色の瞳でグレンを見上げる。

 綺麗な顔立ちの人だった。

 きっと恐怖で動けなかったんだろう。


「ったく、心配させやがって。とにかく、離れるぞ」


「ん」


 と、グレンの差し出した手を取って少女が立ち上がる。

 その時、遠くの方から武装した集団が来るのが見えた。

 統率が取れ、同じ柄の甲冑を着ている事から衛兵隊かそれに準ずる者と分かる。

 どうやら彼らも狼の集団睡眠に驚いてる様子。


「あいつらに任せよう。もうお前は組合かどっかに戻れ」


「ん」


 グレンに言われ、青髪の少女は僕らの元来た道へと歩き出した。


「ぐ、グレンはどうするの?」


「さっきも言ったが、少し魔物を狩る。お前も好きにしろ」


 と、素っ気なく彼は返す。


「俺はもう行くぞ」


 そして別方向へと軽く走り出す。


「な、なんでそんな協力的なのさ。らしくないよ」


「うっせ」


 それにまた付いて行きつつ、僕はグレンへ詰めた。

 悪態吐いて誤魔化そうとするグレンだったが、僕がじっと様子を見ていると。


「あー、ったく。しゃーねぇなぁ」


 と、ついに折れた様に頭を掻くグレン。


「お前、この町の地図を見た事があるか? 見る奴が見れば分かるんだがな、とある魔法陣の形を成してる。巧妙に隠しては居るが」


「え、ま、魔法陣?」


 ってあれか、魔法を使う時の模様のやつか。


「召喚系のな。その要所となる様な建物が幾つかある。そして、魔物が出てんのはその建物の周辺。この意味が分かるな?」


「えっと……その街の魔法陣で、魔物が呼ばれたって事?」


「ああ、そういう事だ」


 そんな事……

 できるのだろうな。既に僕はその現象に二度会ってる。

 一度目はエリア様と共にこの世界へ降り立った時。リリスによる召喚で。

 二度目はエリア様が天界へと帰って行った時。目の前の魔法陣とやらで。

 あんな不思議現象が起きるのなら、確かに魔物を呼ぶ事もできるのだろう。

 いや違う。

 きっとグレンの言いたい事はそこじゃない。


 街ごと召喚の魔法陣にしてるだって?

 って事は、これはずいぶんと計画された事で、もしかしたら土地開発も巻き込める様な地主や領主的な権力者が絡んでるかもしれない訳で……

 瞬間、そこまで行き着いた思考を咎める様に、ゾッと身の毛がよだつ。

 僕はこの事件の見えない全容に戦慄した。


「ま、待って! それじゃあ、召喚したのは一体誰が」


「そんなの知るか! とにかく今は魔物を狩るんだよ!」


「そこだよ! 僕が聞きたいのは! 君が身を危険に晒す理由がある!?」


 負けじと僕も声を荒げて問う。

 途端、グレンは先ほどの勢いを失くして。


「俺は、知ってたんだぞ? 街の建物が魔法陣になってたって。陸な事に使われないとは思ってたが、今まで何もしなかった」


 その表情は苦渋と苦痛と悔しさが浮かんでいた。


「少しくらい、責任があるとは思わないか?」


 そう、こちらを見るグレン。


「そ、そんな。君が気にする様な事じゃ」


「分かってるよ。自己満足なのも。どうにもできなかったろう事も。でもせめて、抗ったくらいの事実は欲しいじゃねぇか」


 グレンは否定とも肯定とも付かない様に応えた。


「ま、今更だけどな」


 そう言って自傷気味に笑うグレン。

 僕はその様を見て何も言えなかった。

 彼は、ずっとこの事を抱え込んでいたのか……

 きっとそう誰にでも相談できる事ではないだろう。

 飄々としつつも要領の良さげな彼の事だ。

 その情報の持つ危険性も分かっての事だろう。


 と、その時。

 ここからそう遠くないだろう場所から、建物が崩れる様な破壊音が届いた。


「急ぐぞ。アズサ」


「う、うん」


 真剣な顔付きに戻るグレンの走りに僕も合わせる。

 いや、待て。

 なんで僕まで魔物退治に行ってるんだ?

 いろいろと悩み、考えていたグレンだと分かった。

 そんな彼が悪戯に街を出て行く様言うとは思えない。

 もういっそ、リリスと出て行ってもいいかもしれない。

 と、突如視界が広がる。


「なっ」


「ここもか」


 唖然とする僕にグレンも呟く。

 周囲の建物が半壊していたのだ。幸い火事にはなってなさそうだが。


「人が居るな」


「え!?」


 と、グレンの呟きに慌てて彼の視線を追う。

 半壊してしまった教会に一人の女性が居たのだ。

 僕らはすぐさまそちらへ向かう。


「だ、大丈夫ですか!?」


 その女性へ問いかける。

 その人は修道女の様な格好をした若い女性で、その場に座り込んでいた。


「は、はい」


 シスター?は茫然としていた意識を戻す様に振り返ると返事した。


「送ります。立てますか?」


 僕は自棄的になっているらしいシスターへ手を差し出した。

 それを受け取って立ち上がるシスター。

 怪我はしてない様で安心する。

 僕らはシスターと共に移動を開始した。


「は、畑が」


 と、瓦礫に荒れた畑を見てシスターが呟く。

 その瞳は打ち拉がれた様に揺れていた。

 可哀想だがどうすることもできない。


「おい、アズサ!」


 と、グレンの叫び声に弾かれた様に前を向く。

 そしてすぐに立ち止まる事となる。

 視界の端で灰色の何かが動いた。

 一匹の狼が、建物の影からこちらを窺っていたのだ。



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