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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第一章 七日間の旅編
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03:魔法



 金属同士の擦れる不快な音を響かせ、ほんの少しだけ鞘から覗いた刀身。


 うわぁ、本物だ。

 これ一突きで大怪我負わしてしまう様な物。

 剣だ。


「や、やっぱり、武器なんて要らないんじゃ」


 僕はこれを無理矢理持たせた張本人に溢す。


「ついでです」


 つ、ついでって……

 と、当のリリスはそう簡潔に答えるのみ。

 服屋での軽い、いや大分大きめなショックを受けた後、なんとかその件は後回しに服装も変えた所で、今度は剣を持たされてしまった。


 僕は今一度手元の剣を見た。

 全長は一メートル以上あり、刃は鈍い光沢を放つ両刃のつるぎだ。

 意外と軽いなとも思ったが、手に染み付く質感は玩具ではない事を如実に語っている。

 僕の居た国じゃ明らかに持ってるだけで違反になる類のやつだ。


「そこら辺は緩いんで。この世界」


 と、僕の心情を悟ってかエリア様が言った。


「に、にしても剣って……。それともやっぱ護身用?」


 確かにこっちの治安はちょっとばかし悪いみたいだが、剣って。

 剣って……


「護身用と言うか、武器も持ってない冒険者などただの一般人も同じですからね」


「冒険者? 何の事?」


「成り立ての冒険者など、武器の一つも持ってなければ護衛は受けられない、という意味です」


「いや、その、冒険者? そんなのいつなったっけ?」


 そんなものなった覚えはないが。


「いえいえ、組合で身分証を作ったじゃないですか。あれは組合で身分が証明されてると同時に、冒険者であるという意味ですから」


「えぇ! 何それ新手の詐欺!?」


 僕の反応にリリスは呆れた様な表情になる。


「あなたが世間知らずなのは察してましたが、まさかここまでとは……。一応言っておきますと、冒険者とは国や一般の方から依頼を受け、報酬を受け取り、それで生計を立てるお仕事です」


 万屋的な?


「ち、因みに依頼内容はどんなので?」


「主に討伐、採取。時に護衛など」


 と、簡潔に答えたリリス。

 なんだ。案外簡単そうじゃん。


「さ。さっさと着けて行きますよ」


「あ、うん」


 リリスに頷きながら剣の行く先を迷わせる。

 やっぱ腰に差したりたりするのだろうか?

 でもどうするんだ?


「ここに差すんですよ」


 そう言うなりリリスが剣を左腰に誘導してくる。

 僕はリリスに誘導されるまま、剣帯と共に剣をそこに落ち着かせた。


 なんか、ちょっとかっこいいかも。

 でもこの剣は本物で……

 つ、使う事ありませんように!









 無事護衛の依頼を受ける頃には空はもう藍色だった。

 幾つもの馬車が停まっている中を三人で進む。

 にしても少々歩きづらい。

 だいぶ慣れてきた方だと思うが、剣って意外に邪魔だなぁ。

 何だか違和感がある。


「わぁっ」


 と、何か耳元で妙な音が聞こえて僕は声を上げる。

 身を引きつつ音の聞こえた方を見ると、そこには焦げ茶色の馬が居た。


「な、なんだ。お馬さんか」


 び、びっくりした。

 さっきのは鼻を鳴らした音か。

 馬に付けられたロープを辿ると、すぐ後ろにある馬車へと繋がれていた。


「六番馬車。私達の乗る馬車ですね」


 と、それを見てリリスが呟く。


「じゃ、この子が僕らを引く訳か。よろしくね」


 挨拶しつつ馬の首辺りを撫でる。

 うーん、馬。

 相変わらず馬の目って大きいなぁ。


 端のベンチにエリア様を中心に三人で座り、暇を持て余しているといずれ商会の従業員が二人の男性を連れてやって来た。

 一人は、茶髪の青年で。

 一人は、黒髪の体格のいい男で。

 僕は彼らを見て呆然となった。


「今回は護衛の方宜しくお願い致します。少し早いですが、同じ乗合馬車を任された方々のご紹介をしようと思いまして」


 何故ならそう言って商会の人が連れて来た人は、昼に絡んで来た人達だったから。









 馬車の中。

 馬の蹄と車輪の音を聞きながら揺らされる。

 外は夜に染まり、車内は天井に吊るされたランプに照らされていた。

 この馬車は後面が吹き抜けになっていて、両端に長椅子が付いている。

 入って右奥にエリア様が座り、その隣にリリス。左側を僕が使っていた。

 エリア様は座ったまま寝てしまっている。

 中々図太い人だ。


「何かありましたか? さっきから黙ってますけど」


「え?」


 と、唐突にリリスから言われ、声を零す。

 顔に出ていただろうか?

 僕が今悩んでいるとしたら、昼間絡んで来た人達に再会してしまった事だろう。

 結局再会した時は何も無かったが、良くは思われてないだろうなぁ。


「何でも無いよ」


 適当に返事する。

 二人には昼間のでき事は話していない。

 これは自分で持ち込んだ問題だ。


「ならいいんですが」


 リリスはまだちょっと気掛かりな様子だったが、それ以上は言って来なかった。

 この際だし僕も一つ訊きたい事がある。


「リリスはさ、何でこの旅に付き合ってくれてるの?」


「あなた方を敵に回すと面倒だからです」


 そう即答される。

 あなた方とはエリア様とか神さま達って事だろうか?

 何で僕も入ってるの?

 って、訊きたかったのはそこじゃない。それもだが、今の返答を聞いては訊かずにはいられない。


「リリスは何でエリア様を、召喚?したの?」


 と、僕の問いに黙ってしまったリリス。

 周囲の音が代わりと際立った。

 その時不意に馬車が止まり、聞こえていた車輪の音も止んだ。


「行きましょう」


「え? あ、うん」


 馬車を降りるリリスに続く。

 リリスに続き馬車の正面へ回ると、御者台のランプに照らされて薄く見える『何か』があった。


「な、何これ!?」


 僕はサッとリリスの背後に隠れた。

 それは直径一メートルはあろうかと言う巨大な物体だった。

 薄い緑色で、ランプの明かりを反射する半透明の物体。全体的に丸っこく、ぷるんっとしてそうだ。

 道端にこんな物体があるのは意味不明である。


「す、スライム?」


 にしてもデカい。

 警戒する僕と違い、リリスは躊躇無くそれに近付いて行く。


「あああ、危なくないの!?」


「これは草食なので」


 そ、草食?

 僕の疑問は置いてけぼりに、リリスはそれへと手を翳した。

 そして『ボンッ』と軽い爆発音を響かせて、手から出した炎でスライムっぽい物体を炙ってしまった。

 スライムっぽい物体はまるで驚いたかの様に振るえると、その巨体を跳ねさせ闇夜の中へと消えて行った。

 あれ生き物だったの!? いや、それもそうだが。


「い、今の何!? どうやったの!?」


 手から、手からボンッて……!

 あ、頭が追いつかない!


「ちょっと驚かしただけですよ? 眠ってた様なので」


 リリスは戻りながら少々困惑気味に答える。


「じゃああの炎は!? どうやって出したの!?」


「どうやって、と言われましても……」


 と、リリスは少し考える様な間の後、こちらを振り返り。


「魔法ですよ」


 そう、何ら変わり無い事の様に言って退けた。


「ま、魔法!? 本当に!?」


 僕は魔法と言うその単語に、子供の様に胸躍る感覚に見舞われた。


「まさか、魔法まで知らないんですか?」


「あ、えっと。はい」


 そうか。こっちでは常識なのか。

 何か恥ずかしいな。

 にしても魔法! そんな物が本当にあったなんて!

 今思えばリリスの召喚?も魔法なのかな。


「あ、ところでさっきのは何なの?」


 僕は馬車へと戻ってしまうリリスを追いながら問う。


「先程のはとても安全な魔物です。草食なので人は襲いません」


 へー、襲わない魔物。

 ……ん、魔物?

 襲わない? 襲う?


「襲ってくる魔物も居るの?」


 って言うか、魔物って何だよ……


「もちろん居ますよ。その為の護衛です」


「えっ」


 そうあっけらかんと言うリリスに、僕はこの時やっと、ここが異世界なんだなと自覚した。



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