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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
39/172

35:騒動の始まり



「マリン! よかった」


 組合へと走って戻ると、マリンは端の方で目立たぬ様立っていた。

 一番にクレナが気付き、名を呼んで向かう彼に続く。

 クレナはマリンの元へ着くと、ぎこちなく抱きしめた。


「お、お兄さん。恥ずかしいです」


 そんなクレナにマリンは控えめに声を上げていた。

 とりあえず、元気そうでよかった。

 その様子を尻目に、僕はここまで走って既に疲れ切っている様子のリリスを座らせる。


「大丈夫?」


「はい」


 ……ではなさそうだな。

 肩で息するリリスの言葉は無視し、周囲へ目を配る。


「あの、お水お願いします」


「はーい」


 僕は給仕を呼び止め注文をした。

 次いでやっと抱擁の終わったらしいマリンへ向き直り。


「ごめんね。肝心な時に居てあげれなくて」


「い、いえ!」


 僕の言葉にマリンはぴんっと背中を伸ばして応えた。

 そんな姿に僕も微笑み返した後、今度はリリスの方を向いて。


「リリスも、ごめんね?」


 こくこく頷くリリス。

 返事する余裕が無いのは火照った頬や汗の滴る首元を見るに明らかだった。

 この件のお礼と謝罪はまた今度にするとして。


「えっと。と、とにかく、さっきのは組合に報告?」


「ああ、それもそうだが衛兵にも通報しないとな」


 と、僕に応じるクレナ。

 こちらの公的機関はよく分からないので任せた方がいいかも。


「よっ」


 と、そんな時だった。グレンが片手を上げて気軽に声を掛けて来たのは。


「どうしたんだ? 切羽詰まった感じで」


 グレンは僕らの様子を見て興味本位で来た様だった。


「ご、ごめんグレン。話ならまた後で」


「襲われたのか?」


 途端核心を突く言葉についぎょっと彼を見る。

 その瞳は真っ直ぐにこちらを向き、まるで何かあったなど見透かしてる様だった。


「な、何のこと?」


「図星か」


 完全に後出しだと分かりつつも誤魔化そうとし、グレンはそれを当然の様に一蹴した。

 情報屋。

 この時ようやく僕はその意味と玄人の片鱗という物を感じた。

 本人は否定していたが、あれは方便だったとさすがに察する。


「詳しくは知らねぇけど、何か面倒事ふっかけられてんだろ?」


 と、そうグレンはあくまで気を使った様子で訊いてきた。


「悪い事は言わねぇ。さっさとこの町出ちまいな」


「な、どうして?」


 急な話につい僕は問い返す。


「この町はちょっとやべー噂が多いんだよ。何したか知らんが、お前は知らぬ間にそれに首突っ込んだ可能性がある。だからさっさと逃げちまえ」


「で、でも、せめて報告くらいは」


「ダメだ」


 有無を言わせない態度でグレンは言う。


「そんなにしたいなら俺がしてやる。ほら、何があったか言え」


 と、尊大な態度で促すグレン。

 僕は困ってしまって皆んなと顔を見合わせる。

 まだ何が何だかよく分かってない上、他人にまで下手に言っていいものか。

 さすがのクレナも今回の件は躊躇ってる様だった。

 それもそうだろう。

 リリスの方は確定じゃないが、悪魔教なるものが関わってると分かったのだ。

 クレナの心労は計り知れない。


「どうぞー」


 と、行き詰まっていた場の空気を乱す様に給仕から水が届く。

 タイミング的にとてもありがたい。

 リリスはグラスを両手で持って、息の合間に呷っていた。

 僕はそれを見届け、給仕のお陰で多少余裕のできた空気の中、クレナと頷き合う。


「分かった。何があったか」


 そして僕がいよいよ話そうとした時である。

 それを遮る様に場に警報の様な音が響き渡ったのは。

 ヴヴヴヴゥゥーーと耳に残る重低音を響かせ、聞くからに異常事態だと分かる様な放送が組合中へと響いていた。


「な、何だ?」


 騒つきだした人々を他所に、何処ともなく聞こえるその音に僕はくうを仰いだ。


『緊急事態。緊急事態です。城壁内に複数体の魔獣が確認されました。組合からの緊急依頼として、魔獣の討伐、無力化を依頼します。なお、現時点で分かっている情報として、魔獣の強さはEランク前後の狼型、鳥獣型、猪型。また、発生地区は──』


 と、その時である。至って冷静さを保ちながらも、焦燥感の伝わって来る様な放送が組合内へと響いたのは。


(な、何だって? 魔物が壁内に発生!?)


 僕は途端慌ただしくなった周囲と共に内心は狼狽する思いになる。


「な、どうして……今なんだ」


 と、放送を聞いて茫然と呟くグレン。


「な、何か、知ってるの?」


 ただならぬ様子に僕が問うとグレンはこちらを向き。


「いいか、アズサ? お前らもうまじでこの町を出ろ。今すぐにだ」


「だ、だからどうして急にそんな」


「危ねぇからだよ!」


 途端、声を荒げるグレン。


「俺はな、ある人物からお前の情報を探る様言われてたんだ。その依頼達成直後にお前の身に危険が及んだ。あの魔狼の群れだ」


「で、でも、あれは偶然じゃ」


「どうでもいい! とにかくお前は逃げろ! 現にさっき何かあったんだろ!?」


 僕は反論しようとするも、グレンの言うそれについ押し黙った。

 その通りだったからだ。


「もう話す時間も勿体ねぇ。さっさとお前らは出て行け」


「あっ。ちょ、ちょっと」


 グレンは面倒くさ気に言うや、僕の背中を押しだした。


『続報。続報。東区三番地マリア教会付近にて、狼型の魔獣を一体確認。尚、推定ランクはEランク前後と推定され──』


 と、更に放送が響いて、背中を押すグレンの力が止まる。


「やっぱ間違いねぇ」


 背中越しに覗くと彼は苦渋の表情で呟いていた。

 少し経って思い出した様にまた背中を押すも、その力は弱々しくて。前髪を垂らしたその表情は難しいそうに眉を顰めていて。

 僕にはそれが、とても後悔してる様に見えて。


「ね、ねぇ、グレン」


「何だ?」


 僕が声を掛けると、彼はこちらを向く。


「君は、どうするの?」


 僕はゆっくり押されながらも彼へと問う。 


「んなの勝手だろ」


「答えて」


 僕が振り返ると彼も手を退ける。

 そして心底煩わしそうに後ろ髪掻きながら。


「少し、魔物を狩るよ。報酬も出るし」


 目を合わせずにそう答えるグレン。


「本当にそれだけが理由? 保身的な君が、本当にお金だけの理由で戦うとは思えない」


「うっせ」


 何か裏がある。僕はそう考えていた。


「あーもー、洒落くせぇ」


 と、いよいよ苛々し始めた様に彼は眉を寄せると。


「こっちにも事情があんだよ! 何だ? 金か? 偶然幾らかあるから、てめぇら全員が亡命できる程度にはこの際くれてやらぁ! 丁度お前の顔も見なくなって清々するな!」


 軽い手振りを交えて声を荒げるグレン。

 僕はそれを見届けて。


「ねぇ、グレン」


「なんだよ!」


 攻撃的に問い返すグレン。

 その目はさながら獣の様に鋭く、狂犬という渾名も的外れではないなと隅で思った。

 いや、この目は。


「強がってるの?」


 必死さだ。


「な、何だよ。こんな時に」


 途端勢いを失くして、足元でも崩されたかの様に動揺するグレン。


「ダメだよ? 頼らなくちゃ」


 僕はそんな彼に言い聞かせる様に言って。


「君が何を知ってるか分からないし、何をしたいかも分からない。だけど、どうにかしたいって、そう思ってるんじゃない?」


 僕は彼の瞳を覗く。少し揺らいだ。


「教えてはくれないの? それ」


 なんだかんだ、協力を惜しまない彼に、何かをしてあげたくて。


「巻き込めない」


 そう言った彼の瞳は伏せられていて。いやそれは、ただの独り言だったのかもしれない。

 そう言われると、僕も安易な事は言えずに黙ってしまって。


「グレン、とか言ったな?」


「あ?」


 と、クレナがグレンへ問う。


「一つ、気になった話がある。アズサの事を探ってる人が居るという話。その人が俺達を襲わせたのか?」


「それは知らん。だが可能性があったから言っただけだ」


「では参考までに、それは誰だ?」


 と、直球で事を問うクレナ。


「そ、そうだよ! 僕の情報探してるって人、一体誰なのさ!」


 僕はそれに便乗してグレンへと詰めた。


「それは──」


 と、言いかけた彼は途中で言葉を詰まらせた。

 何だ?

 その視線は唖然と僕に向いている。いや、後ろ?


「八つ目を防ぎたかったなら、丑三つも過ぎた鐘の鳴る頃に一人でまた来なさい」


「──え?」


 そしてその時、後ろから耳元で囁かれた。

 振り向くと、その頃にはもう背を向けて去っていく一つの人影があるのみだった。

 報告の時にも会った組合長だった。

 な、何の話だったんだ?

 グレンを振り返ると、彼は苦渋の表情でその背中を視線で追っていた。


「とにかく! お前らはさっさとこの街を出てけ! 少なくとも、まじでここだけは出てった方が──」


 そしてグレンは焦れた様にまた僕へと促す。

 だが、それはまた言葉半ばで遮られる事となった。


『続報。続報。南区二番地図書館周辺にて、魔狼の群れを確認。尚、推定規模は十体以上、二十体以下。個体の推定ランクはEランク前後。こちらには三番地からの憲兵隊が北上予定で──』


 続いて響いた放送にグレンが途端口を閉ざす。

 焦点でも失くしたかの様にグレンは視線が合わない。


「ぐ、グレン?」


 普通ではない様子に僕は彼の顔を覗く。

 まるで僕の声なんか聴こえて無いかの様に、彼はただ憮然と表情を落としていた。

 そう、これは焦燥であった。

 いずれ彼は、思い出した様に一言呟いた。


「レイナ」









「あ、ちょ!」


 その放送を聴いて一二も無く組合を出るグレン。

 走り去る背中はあっと言う間に見えなくなっていった。

 それを僕は茫然と見送った。まさにポカーンと言うやつだ。

 なんだか置いてけぼりにされた気分である。というかそうか。


「出て行く様勧めてたが、どうするんだ?」


 と、クレナの声に我に帰る。


「急にそんな事言われても」


 僕は急に突きつけられたそれについ曖昧に返す。

 特別この街に残る理由がある訳でもないが。


「まあ、とりあえず俺は行くぞ」


「え? ど、どこに?」


 と、返事を待たずして背を向けるクレナ。


「どこって、魔物を狩にだよ」


 うわっ、マイペースぅ~。

 話聞いてたのか? それとも僕のは別件だと割り切ってるのか。


「今だって襲われてる人がいるかもしれない。できれば助けたいだろ?」


 当然の事と言うクレナに僕は返事を持て余した。

 その真っ直ぐな瞳に動揺する。


「り、リリスは?」


 つい僕は別の人の意思を乞う。

 いつの間にかある程度息を整え、側へと付いて来ていたリリスへ。


「私は特には。街を出るならそれでもいいですし」


「そ、そうじゃなくて。もし、力が戻ってたら、戦った?」


 僕は伺う様に問う。


「まあ、微力ながら。知らない人でも、苦しんでたら嫌ですから」


 その返事を聞いて、僕はますます余裕がなくなる。

 僕だけだ。

 魔物の発生で、逃げる事しか考えてなかったの。


「もう行くぞ。マリンを頼む」


「あ」


 と、そんな僕には構わずクレナは行ってしまう。

 僕はそれを止める事ができない。

 止める資格も、共に並ぶ力も、僕には無いから。


「アズサ、そんなに気負う事ないですよ?」


 不意にリリスが見上げて言う。


「アズサを見てれば分かります。アズサの元いた所は、きっと戦いのない、ぬるま湯の様な世だったのでしょう」


 そうリリスは、不安もろとも包み込む様な優しい声音で言って。


「でしたら、無理に戦う様な事は」


「で、でも」


 僕はそれを途中で遮り。言いたくて。


「やっぱ、嫌だよ? 僕も」


 僕だって誰かが苦しむのは嫌だ。

 それにグレンやクレナも出て行った今『僕だけ引け目がある状態』が嫌だ、という小心者な思いもある。

 しかしグレンに出て行く様言われてるし。

 クレナにはマリンを頼むとも言われてるしで。


 どうすれば……

 そう頭を悩ませたい思いになる中、色んな思いも交差して答えがでない。

 と、ふとマリンと目が合った。


「ねぇ、マリン」


 きっと癖なのだろう。

 すぐに視線を逸らしたマリンに僕は問いかける。


「一緒に逃げようって言ったら、来る?」


 僕は少し酷かと思いつつも、そう問うた。

 マリンの瞳が揺れ、動揺を示す。


「そ、そんな急には」


 と、マリンは躊躇いながらも答えた。

 そうだよね。

 せっかくお兄さんと会えたのに、わざわざまた離れようなんて事しないよね。

 でも、このままマリンを置いて出ていいのだろうか?

 それはもちろんクレナにマリンを任せられたのもあるが、僕らがマリンを置いて行ったら関わる理由もない二人とはお別れかもしれない。

 それは嫌だ。

 そもそも、マリンとは仲間だ。お別れという選択も端から無い。

 それに、きっとクレナは……


 途中で逸れた思考を振り払う。

 今思えば、クレナのマリンの世話を頼むと言うもの、案外悪くなかったのかもしれない。

 マリンの側にも居てあげられて、きっとそっちの方が楽しいだろう。

 僕は利己的な思いも含めて頭を悩ませる。


 もし人生を左右する決断があるのなら、それがきっと今だろう。

 そして、僕が出した答えは。


「少し、行ってくるよ」


 保留である。

 僕は出入口の方へと体を向けた。


「アズサ、あまり無理は」


「大丈夫。グレンに話聞くだけだから」


 いつもの平坦な目を垂れがちに心配を示すリリス。

 何か言いたそうに表情を曇らせていた。


「ありがとう、いつも。でも今回は気持ちだけにしといて。今は普通の女の子なんでしょ?」


 そんな、いつも助けてくれるリリスに僕は説得する。

 いつも頼りにしてる分、今は休んでいてほしいのだ。


「じゃあ、マリンをよろしくね」


「はい」


 眉を若干下げ、思う所もある様子のリリスだったがしっかりと返事をしてくれた。

 僕は不安気に見上げるマリンへ視線を合わせる。


「すぐ戻るよ」


 そして二人にそう言って微笑み、背を向ける。

 組合を出て、僕はグレンの後を追ったのだった。



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