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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
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28:嫌われる呪い



 酒場を勢いよく出て、雨の落ちる中首を左右に振った。

 それらしき影を見つけるとそれを追いかけ走り出した。

 忙しなく振る雨に濡れるのも構わず、僕は視界の先で揺れるローブを追いかけた。

 若干の下り坂を流れる水を追い越して駆ける。

 突き出した足に雨が弾け、体を濡らす。

 あっと言う間に髪が湿り、雨が頬へと垂れた。


「待って! マリン!」


 勢いでフードが肌け、僕と同じく湿ってるだろうに雨雲の下でも尚輝く金髪の少女へ叫ぶ。

 さすがに僕の方が足は速い。直に追いつく。

 マリンは次第に速度を落とすと雨の中ゆっくりと歩いた。

 そして歩を止めると僕も距離を取って止まった。


「さっきは、ごめん。僕らが喧嘩しちゃったばかりに」


 既に濡れ切ったその背中に僕は謝る。

 それに対し、こちらを向かずに首を横に振るマリン。


「アズサさんは、悪くないです」


 僕に届くぎりぎりの声で呟くマリン。


「で、でも、元々は僕らが」


「違うんです」


 言葉を重ねる様にしてマリンが遮った。


「全部私のせいなんです。私が悪いんです」


「え? そ、そんな事」


「そうなんです」


 否定しようにも、マリンは言葉を詰めて有無を言わせない。

 今までと違う、意固地になった様なマリン。


「アズサさんは、私と居て何ともないんですか?」


「え?」


 と、マリンはまだ後ろを向いたまま僕に問う。


「私を見て、平気なんですか?」


「な、何のこと?」


 質問の意図が分からず、僕は首を傾げて返した。

 するとマリンは漸くこちらを振り返った。

 濡れた金髪が頬に付いて童顔を強調させる。

 マリンはこちらを真っ直ぐに見つめていた。


 僕はその射抜く様な眼差しに息を飲む。

 相変わらず大きくくっきりした目も、今は少し弱った様に垂れている。

 と、更に右目の眼帯も取るマリン。

 初めて見るその右目は綺麗な空色であった。

 よく見ると、左目と比べて少し色彩の薄い、晴れ模様の瞳だった。

 マリンはこちらへ一歩近づくと、こちらを覗く様に見つめる。


「ど、どうしたの?」


 その迫って来る様な勢い感じさせる視線に僕は戸惑い、マリンの様子を伺った。

 するとふっと目線を落とし、マリンは息を吐く。


「やっぱり、何とも無いんですね」


 一体今ので何を確認したのか。

 しかしマリンは確信した様にそう独り言ちる。


「な、何が?」


 僕は完全に置いて行かれていた。

 一体何が何とも無いのか。


「私、呪われてるんです」


 そして、マリンが言った答え。


「──『嫌われる呪い』……。物心ついた時から、私は皆んなに嫌われていた」


 視線も合わせず、されど小声ながら今までより幾分かはっきりと口にしたそれは、果たして。









「行かなくていいのか?」


 金髪のむすめとアズサが去った後、俺はこの状況でも全く動じてない様子のリリスへ問う。


「大丈夫でしょう。あの人の方が向いてます」


「そ」


 立ち上がりざまに返事して、金髪っ子が打つかった卓の男性の元へ向かう。

 俺はそれを眺めながら。


「おい! 無視するな!」


「たっく、面倒くせぇ」


 横槍を入れて来る茶髪共の方を向く。

 このまま放って置いても面倒そうなので腰を上げて三人へ向かう。

 何の合図も無く、一つの喧嘩が始まった。


「すみません、これで足りますか?」


「あ、ああ。いや、悪いよ」


「そういう訳にもいきません」


 途中、リリスと卓の男との応酬が聞こえてきた。

 どうやら多少の金を無理やり握らせてるらしい。


「皆さんも、お騒がせして申し訳ございません。特に、お店の方々には」


 その男の後始末も終わり、リリスが店全体に向けて頭を下げる頃には俺も丁度三人を黙らせたところだった。


「たっく、こりゃ大番狂わせだな!」


「ちげぇねぇ! こりゃお嬢ちゃんの一人勝ちだ!」


 床に倒れ伏せる三人とリリスを交互に見て、先程三人側に賭けたクソ共が騒ぎ出す。

 その頃には酒場はいつもの喧騒が戻っていた。

 不自然に白けた先程の場面と、また糸が切れた様に元に戻った酒場を俺は椅子に付くとただ眺めた。


「なあ、リリスとか言ったな」


「はい」


 リリスが正面の卓へ戻るのを待って、俺は切り出した。


「あいつとはどういう関係なんだ?」


「どういう」


 と、考える素振りを見せるリリス。


「ただの、仲間ですよ」


「あっそ」


 ただのって感じじゃなさそうだけどな。

 然も有りなんと答えるリリスに内心納得はしない。


「あいつ弱いけど、いつ冒険者なったんだ?」


「あなたに関係ありますか?」


 リリスの碧眼がこちらを向く。

 分かってはいたが、ガードは固そうだな。


「いいじゃねぇか。ただの世間話だろ?」


「人の話は勝手にしない主義なので」


 と、リリスはつんと意思を示す様に言った。


「ふーん。随分仲いいよな? 出会って半年くらいなんだっけ?」


「いえ、まだ二週間程度ですが」


 ならばとリリスにも関係のある話をする。

 わざと確定的な物言いをし、否定をさせる。

 人は間違い訂正したくなるものだ。自分の事なら尚更。


「あっそ。ああ、そういやあいつも言ってたな。組合ギルドへの登録はあんたと一緒だったんだっけ?」


「まぁ」


 新情報毎度あり。

 俺は組合の伝手によりあいつが半月程前に冒険者になったのは知っていたが、この娘との関係性は今一掴めていなかった。

 まあ、アズサ本人から十分過ぎるほど情報は抜き取ったので、本当はもういいのだが。

 二重三重に裏を取るのは当たり前だ。

 そして、ここからが本題──


「あー、出身地はどこだっけなぁ? ユリニア? ウルヘスの方だったか? リリスなら知ってるって言われたんだけどなぁ」


 俺はリリスに、最も重要な部分をさも他愛無い事の様に訊いた。

 これに関してはまるっきり嘘だ。

 あいつ自身にも訊いたがはぐらかされた。

 リリスなら知ってるなんて事も別に言っていない。

 あいつは嘘が下手なので、この娘が何かしら知ってるのは把握したが。


 俺は視線を虚空に移しつつも、目の端ではしっかりとリリスの表情を捉えていた。

 この問いに眉一つ動かす挙動、動揺を見逃さんと答えを待つ。

 まだ調べ始めたばかりとは言え、全くと言っていいほど掴めて無いそれと共に。


「さぁ」


 果たしてリリスの答えは、一言。

 いつもの仮面の様な表情からは、はぐらかしているかも分からなかった。









 な、なんだって?

 嫌われる、呪いだって……?


 僕はそれを聞いて、内心耳を疑う思いだった。

 現実離れした言葉と冗談では無いと分かる雰囲気に気圧される。


「いろいろ自分でも工夫して、認識される程嫌われると分かりました」


 マリンは頭に紐を通し、眼帯を付け直しながら言う。


「まず一つが肌。特に顔は、見られるだけで態度が変わります」


 白く、透き通る様なマリンの肌に目がいく。

 そしてローブにより、見える肌は顔と手先程度だと気付いた。


「次に声。会話する程、相手を怒らせます」


 いつもより幾分かはっきりと聴こえる声音でマリンはそう話す。


「そして目。視線が合うと、時々揉め事になります」


 マリンは僕の目を真っ直ぐに見た。

 その蒼穹の様な深い碧眼を、僕は覗き、逸らせなかった。

 そんな、事って……


「あります」


 疑っていた僕に思考を重ねるかの様にマリンは言った。

 淡々と話すマリンの表情からはその心情を伺う事はできなかった。


「両親と兄以外はアズサさんが初めてです。さっきのが、普通の反応なんです」


「そ、そんな」


 僕はマリンに碌な返事もできずにいた。

 物心ついた時からだって? じゃあ彼女はずっと……

 そのあまりに重くのしかかる真実に、僕は思考ですら続きを躊躇った。


「もう、これ以上は迷惑掛けれません」


 と、マリンはその表情にほんの少しの寂しさを落として、踵を返すと走り出した。


「ま、待って!」


 僕は咄嗟に一歩出て呼び止めるも、その先の責任を垣間見て動けなかった。

 揺れるローブ姿の小柄な少女の後ろ姿を雨に打たれながら目で追った。

 その後は一人分空いた心の隙に寂しさが埋まっていく中、そこへぽつりと一言零した。


 迷惑なんかじゃ、ないのに……









 頼り無い街灯を頼りに僕は元来た道を歩いて行く。

 慣れ親しんだ街灯よりも幾分か暗くて、偶に水溜まりに入るけど、それもどうでも良くて。

 ずっと下ばっか見て、気付いてるくせして避けるのも億劫で。

 いつの間にか雨は止んで、代わりに街には静けさが降りていた。


 いろんな考え、感情、己の浅学を持って一人歩く。

 一言で言って、落ち込んでいた。


 そんな時、ふらりと脇道から現れた一人の少年の背が見えた。

 僕は見覚えあるそれを見て目を見開く。

 考える間も無く、すぐに走り出した。


「クレナ!」


 そして彼の名前を呼ぶ。

 その、兄妹そろって夜中でも美しい金髪の少年へ。


「あ、アズサ?」


 振り返り、驚きと共に怪訝気な表情をした彼は、もちろんクレナであった。



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