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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
28/172

24:情報屋?



 傷と鍛えられた身体の目立つ戦士。

 ローブを纏い背丈程もある杖を持つ魔術士。

 その他拳闘士やら神官やら、昼間から酒を片手に飲んだくれた者も少なくない。

 そんな、いつもの光景。変わらず人で賑わう冒険者組合。


 その一角の卓にて座す一組の男女が居た。

 男の方は深い藍色の髪を垂らし、卓へと伏していた。

 腰の帯に差されたダガーナイフが前衛である事を主張する。

 まだ歳若い、少年と呼ばれる見た目であった。


 その隣にポツンと姿勢良く座る女性。

 腰まで伸びる艶やかで真っ直ぐな水色の髪。

 ぱっちりと開かれてはいるものの、どこか眠たげな印象を与える同色の瞳。

 すらりと伸びる白い手足や造形は創られたものの様に美しい。

 恐らくは十八歳程度と見受ける。

 美人、美貌と言う言葉がよく似合う、誰もが振り向くであろう少女であった。


「ぐぅ、腹減った」


 と、少年が気怠げに顔を上げ、絞り出した様に唸りをあげた。

 同じく半ばまで上げられた瞼から覗く瞳は髪と同じ深い藍色。

 面から見える歳は十六程度であった。

 とても美しくも深い、夜空の一片を映した様な髪と瞳を持つ少年だった。


「お前は平気なのかよ?」


 と、少年は顎を卓に突いたまま、瞳を少女の方へと向けて問う。


「平気」


 まるでなんの感慨も無い様に少女も答える。

 その様子を見て少年は諦めた様に卓へと体を預けた。


「やっぱ今のやり方じゃ限界来るかもなぁ」


「知ってる。既に限界」


「うっせ」


 少女の言葉に軽く噛み付く少年。

 とは言いつつも、最近お金欲しさに少しだけ幅を利かせた依頼を受けたばかりだった。

 ある人から受けた、赤髪赤眼の少年の素性を調べて欲しいとの依頼。

 前金だけでもたんまり貰って、珍しく懐も頼り甲斐があった。

 と、横で席を立つ少女。


「どった?」


「お手洗い」


「あそ」


 適当なやり取りをしつつ、少年は肘を突いて卓の木目を眺める。

 金を握らせた幾人かの協力者の報告が無い限り、今は少々手持ち無沙汰であった。


(依頼対象の赤髪、こっちから来てくんねぇかなぁ)


 ただの願望ありきで思いながら、少年は水の入ったグラスを取るとゆっくり口元へ運んだ。


「あ、あの〜」


 と、その時である。燃える様な赤髪の少年が、同じく燃える様な瞳で少年を覗いたのは。









「ぶぅーッ!」


「わぁ!?」


 途端、口に含んだ水を顔面に掛けられ、驚き声を上げる。


「い、いきなり何すんのさ!」


 僕は怒りを露に今し方水をぶっ掛けて来た少年へ問い詰める。

 少年は深い藍色の髪を揺らしながらげほげほと咳をし。


「す、すまん。驚いただけだ」


 そう片手を上げて釈明する。

 話し掛けただけでいきなりこの仕打ち!

 僕は内心解せない気持ちでいっぱいになりながら服の袖で顔を拭く。

 その少年はこちらでも珍しい青系の、それも黒に近い藍色の髪と瞳が特徴的な少年であった。


「ふぅぅ」


 と、その少年は一つ呼吸を置いて整え。


「で、なんだ?」


 なんだはこっちの台詞だ。

 少し目付きを悪くこちらを見渡してくる少年。

 今、僕より半歩後ろの右手にリリス、左手にマリンが居た。

 マリンはフードを深く被り、なるべく目立たない様に小さくなっている。

 そんな中、組合内の一角に座して居る少年へ僕が対峙する。


「じょ、情報を、買いたくて」


 とりあえず先ほどの無礼に対する文句も今は置いておいて、僕は用件を告げた。

 と、少年は何やら訝しげに眉を顰め、こちらを無遠慮に見回してくる。

 その様子に人違いじゃないかと少し不安になり始めた頃。


「ハッ、ガキの来るとこじゃねぇんだよ。しっしっ」


 な、感じ悪い!

 手をひらひらさせて追い払う様な態度に僕は内心文句を垂れた。


「冷やかしじゃないよ。ちゃんとお金も払う」


 しかしここは冷静に。依頼する立場もあって話を進める。

 同時に隣からリリスが手の平程もある一杯に詰まった巾着袋を懐から取り出す。

 中から幾重にも重なった金属音が鳴り響き、それだけでもその袋の重みが伝わってくる様だ。

 それを見てさすがに目の色を変える少年。


 彼は情報屋だ。

 まったくクレナを探す糸口がない中、リリスが知ってる可能性のある人物をと紹介されたのが彼なのだ。


「用件は?」


 と、肘を突いてこちらを見上げてくる少年。

 異世界とは言え、おおよそ人の話を聞く態度じゃないと思う。


「人探し。恐らくここで依頼を受けた少年を探して欲しい」


 僕は端的にそれを告げる。

 クレナはマリンの泊まる宿を指定して、当面の生活に困らない程度のお金を置いたらすぐに別れたらしい。

 どうやら外で冒険者として稼ぎに行っていると。

 まったく。何か事情があるかもしれないが、クレナってばこんな小さな女の子をほったらかしにするなんて。

 会ったら一言文句くらい言ってやろう。そう思いつつ、僕は少年の返事を待ち。


「ヤダ」


「え?」


 その返事に呆けて返した。


「嫌だ。人探しなんてしねーよ」


 その少年は怠そうに上体を起こすと片手を長椅子に突いて言う。


「ど、どうして?」


「俺はしがない案内人さ。新人に効率のいい狩場や旨い依頼とか、単純に金のねぇ奴でも拵える宿屋や武器屋を紹介すんのさ」


 少年はこんこんと説明してくれる。


「それで礼として一杯奢って貰う。危険な橋なんて渡たらねぇ主義なんだよ」


 そう告げた少年に僕も一言言いたくなる。


「ただの人探しだ。危険じゃない」


「やだねぇ。これだからガキは」


 と、少年は片手を上げてやれやれと首を横に振った。

 先ほどからの飄々とした態度とどこか見下した様な物言いに少しむっとなる。


「人探しは充分危険だ。情報収集に危険な橋を渡る事もあれば、恨みを買うこともある」


 少年はその気怠げな目を僕へと向ける。


「それに、お前が極悪人じゃないって証拠がどこにある? 俺は犯罪に加担はしねぇぞ」


 と、僕の方を指差して言う少年。

 確かに口は悪いが言い返し様のない事に聞こえる。

 さすればここで訊く事は。


「じゃあ情報屋を紹介してほしい」


「知らね。少なくとも聞いたことねぇ」


 しかし出先挫かれる。


「そんな裏の連中と連むと(ろく)な事なんねーぞ。ほら、分かったらごっこ遊びもほどほどにお家に帰んな」


 しっしと手を振る少年。

 情報屋も他に居ないならこの人に頼るしかないみたいだ。


「そこをどうにかして欲しい」


 僕は多少の迷惑承知でそこに留まる。

 いや、寧ろ一歩前に出るとテーブルへ手を突き。


「この子のお兄さんが見つからないんだ。どの依頼を受けたとか、目撃情報程度でいい。だから手を貸してくれ!」


 そう、精一杯の気持ちを込めて。


「頼みます」


 僕は少年へ頭を下げた。

 暫く下げたままで待ち、ゆっくりと視線を少年へ上げる。

 少年はちらりとマリンの方を一瞥した後。


「だぁ! めんどくせぇ!」


 と、少年は焦れた様に頭を後ろに垂れ、喉仏を見せてくる。

 そして顔と上体をこちらに戻し。


「そんなに知りたきゃ組合職員にでも訊けよ!」


「も、もう訊いたんだけど教えられないって」


 怒鳴る様に言う少年に気圧されつつ答える。

 どんな依頼を受けてるか等は一応個人情報扱いらしく、冒険者側で訊かれた時の対応を設定できるらしい。

 用心深そうなクレナらしく、そこは誰であろうと答えられない設定になっていた様だ。

 これでは公的機関を挟まない限り対応は難しい。

 僕は暫し悔しさに眉を顰めつつ、どうすればいいか頭を悩ませる。


「あ、あの」


 と、マリンがおずおずと話し掛けてきた。


「どうしたの?」


「い、いえ。その、私が居ては、邪魔かなと」


「え?」


 少し言いにくそうに視線を漂わせながら言うマリン。


「あぁ?」


「ひっ!」


 と、恐らくは視線を寄越したであろう少年を見て、マリンがびくりと肩を上げる。


「あの。やっぱり私、外で待ってます!」


「え、ちょっと!」


 有無を言わせない様子で一方的に告げ、小走りに出て行くマリン。

 僕は追いかけようか迷い、その場で軽く足踏みする。

 そして振り返り少年の方をキッと睨む。


「俺は何もしてないぞ?」


 それを飄々と受け流す少年。

 僕はあまり上々とは言えないこの交渉と、一人にしてしまったマリンとで揺れ動いていた。


「アズサ」


「り、リリス」


 と、リリスが察した様に後ろから声を掛ける。


「行って下さい。私が引き継ぎます」


 こちらに向く、どこか眠たげな碧眼。


「ごめん。頼んだよ」


「はい」


 僕は後をリリスに頼む事にし、その場を出た。









 木製の床、木製の壁、木製の天井を抜け組合から出る。

 陽光差す表通りに出て、きょろきょろとマリンを探して見渡す。

 と、入り口のすぐ隣に立つ金髪碧眼の少女と目が合った。


「どうかしたの? 大丈夫?」


 僕はマリンへと踏み寄り表情を窺う。

 特に体調は悪そうではないが。


「あ、アズサさん」


「ん?」


 と、恐る恐るといった様子でこちらを見上げてくるマリン。

 少しいつもと違った様子に首を傾げつつ先を促す。

 マリンは珍しく目を合わせた状態で。


「その。私の事、どう思ってますか?」


「え?」


 本当にどうしたのか、少々踏み入った事訊いてくる。

 んー、どう思ってるか。

 僕は少し考え。


「別に何とも? クレナの妹さん? って感じ」


 そのままの事言ってしまった。

 けどありのままだ。


「そうですか」


 と、返事を聞いて、何故か安心した様に肩を下ろすマリン。


「その。実は私、組合が少し苦手なんです。男の人が沢山居て、少し怖いです」


 そうまた視線を下げて言うマリンに僕も眉を下げる。


「そうだったんだ。ごめんね? 気づけなくて」


「い、いえ。私の為にしてくれてるのに、申し訳ないです」


 と、フードの中小さくなって眉を下げるマリン。

 僕はマリンの横に並んだ。


「じゃあ、一緒に待とっか。リリスに任せればきっと大丈夫だよ」


「はい」


 と、変哲なく返事しつつも、マリンは驚いた様に目を見開き、こちらを見上げてきていた。









 あのフードを被った少女と小煩い赤髪が出て行った後。

 黒いローブを纏った黒髪の少女と共に出口の方を見る。

 暫し待ってみたが、戻って来る気配は無さそうだ。

 たっく、急に来てなんなんだ? あいつら。


「大丈夫かよ、あれ」


「大丈夫でしょう」


 あわよくばこの黒髪も去ってくれないか。

 願望ありきで問うも、その少女は平然とした様子で対面へと座って来る。

 そして鈍い金属音を響かせ、目の前へと巾着袋を置く。

 緩く袋がはだけ、中から大量の銀貨が覗いた。


 これ、全部銀貨か……?

 さすがに俺も目をむく。


「話の続きなんですが」


「まだ諦めないのかよ……」


 一歩も引かない様子の少女に俺も呆れて返す。


「ほんと、お前ら何者だよ」


 情報収集も兼ねて素性を問う。

 この金といい、ガキの持ち歩く様な金額じゃねぇ。


「そういえば、まだ名乗ってなかったですね」


 と、その少女が深い碧眼の瞳を向け。


「私はリリスと言います。冒険者です」


「リリスぅ……? って、あの氷の魔女か!?」


 その名を聞いて、思わず俺は声を荒げた。

 つい最近話題になった、隣町のルンバスを悪魔が襲撃した事件。

 詳細は不明だが少なくとも中位以上の悪魔を、それも二体を一人で倒したと言う若き魔女が居たとの話だ。

 ここらじゃかなり有名な事件。何れ国中にも知れ渡るだろう。


 そしてその魔女の暴威の後は一面氷と化し、付いた渾名は氷の魔女。

 まるでかの魔王の化身だと、『氷』という言葉を付けるのが憚れる世であってその上で付けられた名前。

 墨の様な黒髪に深い碧眼。

 そうか、こいつが……


「氷の魔女が誰か知りませんが、今は交渉しに来ました」


 と、俺の言葉も軽く流し、話を戻す少女。


「ハッ! いくら氷の魔女様と言えど、そんな怪しい依頼をヴッ!?」


 調子良く顎で追い返そうとした所で後頭部へと軽い衝撃が加わり、それは半ばで遮られた。

 後ろを向くとこちらを見下ろす水色の髪の少女が居た。


「レ、レイナ! 何しやがる!」


 理不尽な仕打ちに俺は食ってかかる。


「依頼、受けよう」


「はぁ? おま、こんな怪しい連中の依頼受けろってかぁ?」


 珍しく口出しして来た身内に、それもよりによってこんな依頼を受けようなどとと宣うレイナに、俺は嫌な態度を隠しもせず問い返す。


「生活費」


 と、そう。

 表情を変えずに、いつものどこか眠たげな無表情でこちらを見下ろす。

 痛い所突かれ、俺も押し黙ってしまう。


「最後ご飯食べたの、いつ?」


 そう首を傾げて問うて来るレイナ。

 何の感慨もない様な瞳がじっとこちらを向いて離れない。


「あー、もう分かったよ! 話だけでも聞いてやる!」


 ついに俺の方が折れ、やけくそ気味に言い放つ。

 しかし譲れない分もある。

 俺はぴしっと指を二本立てて見せつけると、それを言った。


「ただし、飯奢れ! 二人分な!」









「交渉成立です」


 組合へと戻ると、リリスが開口一番嬉しい知らせを告げる。

 僕らは組合の入り口付近で立ち話していた。


「大変不本意ながら……な!」


 と、リリスの後ろから顔をぐっと近付けて嫌味を言う少年。

 お互い目を合わせ、威嚇する様寄せ合う。


「「ふん!」」


 全く同じ瞬間で鼻息荒く顔を逸らす僕と少年。

 と、忘れてはいけないと僕はリリスの方へ向き直り。


「さすがリリスぅ。ありがとう」


「いえ」


 僕がお礼を言うといつもの平坦な声音で返事するリリス。

 と、リリスの瞳が僕の後ろに向き。


「あの子は? 何かありました?」


「ううん。ちょっと外の空気吸うって」


 この場に居ないマリンについては軽く流す。

 僕は視線を僕とそう変わらないかほんの少し低いくらいにある碧眼に向け。


「おい、その……なんて言ったけ?」


「グレンだ!」


 不満気に言う彼に僕は名前を把握して。


「グレン、今回の依頼は達成できそうか?」


「ハッ、余裕だ。特徴もしっかりと割れてる。組合に依頼を受けてる場合ならほぼ間違いなく割れる」


「そう」


 豪語するグレンに僕は一つ頷く。


「明日、両の針が真上に達する頃にまたここに来い」


「分かった」


 もうこちらから話しは終わりだとグレンが目を逸らす。

 と、不意にリリスが思い出した様に。


「あ、アズサ。もしクレナの受けた依頼が割れた場合、片手間にできそうな依頼があったら序でに受けたいです」


「え? 依頼受けたいの? んまぁ、リリスが言うなら」


 危険じゃないなら、だけど。

 珍しくリリスからのお願いに断る理由も無く頷く。


「ありがとうございます。実は今、無一文なので」


「え?」


 と、続いたその言葉に僕は首を傾げる。

 なぜ? 一年は不自由ないくらい持ってる筈じゃあ。


「今回の依頼で有金全部取られました。その場で跳躍させられ、隠してたお金も全て」


 絶句。

 僕はゆっくりとグレンの方を向くと。


「このクズ!」


「ガキが! 世渡り上手と言え!」


 きっと年齢も環境もそう変わらないであろう、その少年と真っ向から言い争い、一人思った。


 こいつとは、絶対仲良くなれない!



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