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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第二章 ロビア騒動編
26/172

22:新たな町



「ふん、ふん」


 僕は頷きながら、先日買ってもらった万年筆を走らせる。

 やはり今までの物とは数段劣るだろう目の粗い紙へ、そのメモ帳へと文字を書く。


「で、これが攻略難易度です」


 目の前には壁に貼られた幾つもの紙。

 質も悪く、古びて黄ばみ、千切れてるのもある。

 そして意味の読めない文字がずらりと並び、更に分かりやすい様にか絵が描かれてたり、印も押してある。

 その紙の左上付近の文字を指差してリリスが言った。


「アズサのカードにも載ってる筈です」


 と、リリスが背伸びをやめ、伸ばしていた右腕を下ろす。

 その時裾からはだけた内の手首辺りがちらりと青く輝いて見えた。


 僕は後ろのポケットからこの世界の身分証を取り出す。

 裏には巨大な猪の絵が彫られた鈍色のプレートだ。

 そのカードの左上の文字とリリスの指差した文字は一緒だった。


 確か、こちらで広く使われる文字の上から四番目に当たる文字だったか。

 元いた世界で言うローマ字の〝D〟にあたると少しエリア様からは聞いていた。

 僕はカードを仕舞うとその文字もメモ帳に書いていった。


 ただ今文字の勉強中だ。

 冒険者組合なる斡旋施設にて、求人広告ならぬ依頼書を見ながら勉強してるのだ。

 言葉は通じるが文字が読めないのはきっとこれから不便だろう。

 と言う事で一文字一文字リリスに発音を教えてもらって自己流の表音文字表を作っているのだ。


 意味の示さない言葉、元いた世界にはなかった概念や物、もしくは集中して聴けば発音も理解できるとここ一週間で分かったので、一から勉強中である。

 こっちの文字の横に母国語で振り仮名を書いていく。


「よし。これで一通りかな?」


「そうですね」


 リリスの返事を聴きながら、メモ帳をぱらぱらとめくって見返した。

 ざっと書いては見たものの、元居た国より発音が多そうなのでまだ増えそうだ。

 さらに単語も覚えて行かなくちゃいけない。

 課題は沢山だ。


「ちなみに、これは何の依頼なの?」


 不意に気になり、その依頼書を眺めながら問う。


「討伐依頼ですね。魔物の討伐です。熊型の様です」


 確かにリリスの言う通り依頼書には大きく、文字を邪魔しない程度に薄く熊の絵が描かれていた。

 下の方に押してある印は赤色の剣の様な模様だ。


「こっちは?」


 僕は視線を移してまた別の依頼書を見る。


「こちらは慈善活動ですね。ミーレス教会からマリア教会への荷物の運搬依頼です」


「そんなのもあるんだ」


 その依頼書の文字に目を通す。

 左上にはこの世界で〝G〟にあたる文字が書かれ、下の方には握手をした青の印が押してある。


「これは? ってこれ、もしかして……」


 僕は更に視線を隣に移し、その依頼書に描かれた絵を見てだんだんと声を窄めた。

 そこに描かれていたのは蜥蜴の様な頭と手足、蛇の様な鱗が体を覆い、そしてその背中には蝙蝠の様な翼が一対生えた──


「ど、ど、ドラゴン……!?」


 それは所謂、竜であった。

 元居た世界でも古くから空想上の存在として広く知られている、竜。

 まさかその様な存在がここに描かれているとは。


「いえ、これはワイバーンです」


 と、リリスが僕の呟きに対してだろう訂正を入れる。


「ドラゴンは、もっと強いです」


 リリスは手を伸ばし、依頼書の左上付近を指さした。

 そこには元居た世界で言う〝B〟の文字が。

 もっと難しい依頼もあるという事なのだろう。

 なんとも恐ろしい事だ。

 僕はここに描かれている絵以上の存在を想像して、この世界の認識を少し改める。


「北の山脈に住う亜種竜の討伐。これは私が冒険者になった頃からある依頼で十年以上あるそうですが、未だ達成した者は居ない様です」


「へぇ〜。十年も」


 それだけ難しい依頼という事だろう。

 想像通り、ドラゴン系の魔物とやらは強そうだ。


「にしても、意外と討伐以外の依頼もあるんだね」


 僕は閲覧板一杯に貼られた紙を見渡しながら言った。

 僕はこの世界に来て三度も悪魔に襲われる機会にあったのだ。

 この世界特有の魔物なる存在等、沢山危険があって関連する仕事もそれなりにあると思ったが。


「まあ、ここら辺は安全ですので」


 と、リリスは語る。


「そもそも本来魔物の討伐等、治安の維持は国の仕事ですから。ここに載ってるのはそのお溢れや、国も手の届きづらい物ばかりでしょう」


 なるほど、なるほど。

 リリスの説明に深く納得する。


「なので国からの依頼と言うのは一割も無い筈です。恐らくは半分以上が組合からの依頼か、後は企業か個人からの依頼でしょう」


「個人からも? って事は僕からもできるのかな?」


「まあ、一応」


 と、興味本位で訊いた事にリリスは少々歯切り悪く答える。


「ですが、多少の審査はありますよ? もしそれが犯罪行為を加担させるものだとしたら、組合側も責任を負います」


 は〜、なるほどぉ。

 いろいろと法整備もなっている様だ。

 こちらは元いた世界と比べ、文明の差があるとは思っていたがそこら辺はしっかりしてそうだ。


「やっぱいろいろあるんだねぇ」


 こちら特有の物事に対する処置を見て、少しばかり興味も湧く。

 まあ、今はそれは置いておき。


「とりあえず、出よっか」


 僕はメモ帳とペンを腰のポーチに直しつつリリスに促す。

 扉の無い出入り口を通って街へと出た。

 目の前には街を横断する幅広い道。

 そこには沢山の馬車が行き交っていた。


 更に馬車の移動する方へ顔を向ける。

 街の中央へ向けて、緩やかな登り坂が広がっていた。

 陽の光に映えるオレンジの屋根。その群の街並みがここからでも見る事ができた。

 石畳みの整備された路を馬の蹄が叩き、大勢の人々が行き交う。


 都市、ロビア。

 今、僕達が居るのは菱形をした南に海の面するサングマリア王国、その五本の指に入る程広くて栄えている街だ。

 所謂都会である。


 リリスと共に煉瓦で整備された歩道を歩く。

 エリア様と別れてから一週間。

 この世界に来て二週間が経った。

 こちらの世界にも曜日や週の文化はあり、元居た世界と同じ七日間だ。


 その間に体の怪我はすっかり治り、今じゃ走る事もできる。

 どう考えても異常な早さだな。

 怪我が治るのは睡眠中なので、それが見れないのだけ少し残念だが。


「気に入ったのはなかったですか?」


 と、隣を歩くリリスがこちらを見上げて訊いてくる。

 リリスのそのしっとりとした黒髪にも、今は包帯も邪魔していない。


「う〜ん」


 僕はそれに対して少し言葉を濁した。

 この世界に来て、非常に切実で大切な事実が一つある。

 それは職が無いという事だ。

 この世界で生きる事を決めた以上、自分で食っていかなければならない。


 先程居た冒険者組合というのは仕事を斡旋する場所だ。

 魔物退治等の危険な仕事が主ではあるが、端っこの方には戦闘能力の無い者でもできる求人広告が幾つか張ってある。

 それを見に組合まで来て、ついで勉強がてら本物の依頼も見て来たのだ。

 昼間の真下でも尚際立つ黒髪を見下ろし、僕は首を横に振った。


「気になるのはあったけど、まだ探したいかな」


 僕が苦笑い混じりに言うも、リリスは特に表情を変えなかった。

 リリスは職探しに付き合ってくれてるのだ。

 リリス程の実力があるなら、きっと冒険者稼業でも食べていけるのだろう。


 だがいかんせん僕に力はない。

 腰に携えた剣も飾りの様な物だ。

 そもそも、そんな危険な職は嫌だ。

 本当はリリスの様な女の子が冒険者をやっているのも咎めたい。


 生きる上仕方ないとは言え、冒険者が危険な職というのは身を持って学んでいる。

 するのは論外だし、リリスにもできれば止めたい。

 と、遠くで荷馬車から荷物を運び出す人が目に入る。


「う〜ん。せめて文字くらいは早く覚えないとなぁ」


 荷物運びの仕事はなかなかいいなとも思ったが、文字が読めないと難しいそうだ。


「今度、絵本でも買ってあげます」


「あ、ありがとう」


 気を使ってくれた様子のリリスへ苦笑い気味に礼を言う。

 まさか年下の女の子に絵本を買ってもらう約束をする日が来るとは。

 少し、世の中の資格が無くてもできそうな仕事を思い浮かべる。

 ここは堅実に飲食店のバイトでもしてみようかな。


 思わず溜め息が出そうになった。

 なかなか大変だ。元居た世界でバイトもせず、学生として過ごしていたのがどれだけ甘えてたかが分かる。


 と、その時どこからか鐘楼の音が聞こえてくる。

 十二時の知らせだ。

 鐘の鳴り方や回数で時間や意味が変わってくる。

 この音は教会からだろうな。


「お祈りはい?」


 僕は隣のリリスへ問うた。


「朝したので」


 と、淡白に応じる。

 大体の人はこの時間にお祈りをする。

 もちろん神さまへのだ。


 神さまの化身である太陽が人々を等しく見下ろす時間。

 つまり真昼にそのお祈りが届くと信じられているのだ。

 周囲には道の端に寄り、両手を組んで祈る人がちらほらと見受けられる。


 たいようが顔を出す朝、もしくは姿を隠す夕暮れにお祈りする人も居れば、全てにする人も居る。

 他宗教や宗派を持たない人を迫害する文化は今のところ見受けないが、お祈りはこの国の常識である。


(エリア様、元気してるかなぁ……)


 と、そんな事を燦々と輝く太陽を見上げて思った。


「そういえば」


 鐘楼の音も鳴り止んだ頃、不意にリリスが言葉を零す。


「アズサは異界の都から来たのですよね?」


「ん? うん」


 珍しく掘り返された話題に少し疑問に思いつつ頷く。


「こちらの世界に来て、何かしたい事はないのですか?」


 そう、リリスはこちらを見上げて問うてきた。

 したい事か……


「したい事は、特に無いかな?」


 僕はそれなりに考えた末、そのまま空を見上げながら答えた。


「そうですか」


 と、特に反応も無く返事をするリリス。


「どうかしたの?」


 気になって思わず訊くと。


「いえ、異界の都からの勇者が魔王を退治するのは物語の王道ですから。アズサも何か、因果はないのかな、と。絵本の話でふと」


「ああ」


 理由を語ったリリスに納得する。

 確かに魔王退治はファンタジー世界の王道だと、ゲーム等の知識が乏しい僕でも知っている。

 まさか、こちらの世界では現実にあり得るのだろうか?

 いや、というか。


「ま、魔王? もしかして、リリス。そんな存在も居たりするの?」


 今更ながらリリスの言葉に引っかかり、僕は期待混じりに問いかけ。


「はい」


 と。

 まじか!

 一言、リリスの返事を聞いて内心驚きと胸躍る気持ちを感じた。

 これはあれだ。初めて魔法を目の当たりにした時の様な興奮だ。


 いやしかし、魔王とは言っても僕の思うそれとは認識が違うかもしれない。

 ゴブリンの時など大分ショックを受けたのだ。


「ち、ちなみに、それはどうゆう存在?」


 念の為、それを訊いた僕にリリスは少しの疑問顔の後。


「そのままです。魔を統べる王。知性ある魔族を束ねる強き者です」


 そう何でもない事の様に語るリリス。

 ま、魔族か……


「それは敵なの?」


「この世界の歴史上、幾度も人族との戦争を繰り返していますが400年前の魔王を最後に争いはしてなかった筈です」


「そうなんだ」


 よかった。

 平和の方がいい。


「ついでに言うと、その間国家間の戦争も起きてない筈です」


「え!? 本当!?」


 追加で齎された情報につい驚き声を上げる。

 細かい争い事はあるのかもしれないが、それでも四百年もの間国家規模の戦争が無いなんて。

 こっちの世界は思ったより平和そうだ。

 その事を知って、この世界を選んだ身としては心が軽くなる気持ちになった。


「魔王かぁ。すごいなぁ」


 平和の話もそこそこに、僕は先程の話も気になり呟く。


「氷の魔王と恐れられた人物です。戦時、戦後の恐怖と経済の停滞は約100年に及び、これは氷の時代と呼ばれています」


 と、きっと先程の魔王の事だろう話をするリリス。


「この世界の常識の一つなので、覚えておいて損はないでしょう」


「へぇ」


 魔王かぁ。

 やっぱ規格外なんだろうなぁ。

 例外とは思うが、リリスの様な少女だって街の一角を氷漬けにできるのだ。

 もしかしたら街一つを丸々凍らす事だって……


 いや、無いか?

 辺りが氷に閉ざされているのを想像してぶるりと体を震わす。


「ど、どうなったの? その人は」


 その妄想は片隅に置いといて、話の続きを促した。


「不明です」


 ふ、不明?

 リリスの返事に首を傾げる。


「当時は民衆の鎮圧化の為に討伐されたとされたそうですが、具体的な記録も記述も無いそうです」


 ふーん。まあ、400年も前なら無くても仕方ないか?


「なので、生きてても不思議ではありません」


「え?」


 と、続くリリスの言葉に呆けて返す。


「いや、400年前だから、さすがに」


 少々無理のある事だとそう言うと、リリスは少し表情に疑問を浮かべ。


「魔王に寿命は無いとされてるので、生きてても不思議じゃありません」


「えぇ!?」


 寿命無いの!?

 続いた言葉に今一番の驚きが走った。


 この世界に来て魔法等の不思議な事は沢山見てきたが、生き物に対するのはこれが初めてだ。

 寿命や魔法もそうだが、つくづく前の世界の常識で測らない方が良さそうだ。


 僕が空に浮かぶ雲をぼんやり見ながらそう思っていた時だ。


「あぁ? 謝る時は人の目見らんかぁ!」


 そう、街の喧騒に混じる様に、されどよく響く怒声が聞こえたのは。



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