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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第一章 七日間の旅編
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18:六日目



 曖昧な意識の中、自身が眠っていた事を自覚し、急速に意識が浮上する。


「ッててて」


 同時に腹部に痛みを覚え、完全に起きる。


「ここは……?」


 手を突いて上体を上げ、辺りを見渡す。

 ここは一面黄色い布が覆われていて、骨組みが剥き出しで囲ってあった。

 恐らくテントの中なのだろう。

 中々広いその空間に各方面に置いてある簡易ベット。

 その内一つをぽつんと僕だけ使っている。

 そして。


「わっ!?」


 小さな椅子に座り、僕の寝ていた簡易ベットに上体を預けているエリア様。

 エリア様はその薄桃紫の銀髪を向けて寝ている様だった。

 ここは寝かしとこう。

 それより、昨日は……


「は! リリス!」


 それから天使の子達!

 僕は昨日のでき事を思い出すと同時、今の格好がズボンだけであると自覚する。

 腹部には包帯が巻かれ、右腕には骨折した時などに付けるギプスが付けられ、三角巾で首と巻かれていた。

 何か着るものはないかと辺りを探すと、すぐ後ろに掛かった自分の上着を見つける。


 僕は腹かけを退けるとそれをエリア様に掛け、衣紋掛けから上着を取って着る。

 右腕は通せない。

 前も閉じたいが、まあ仕方ない。

 そして、ベットを降り──


「わっぷ!」


 危うく転げそうになる所をベットに手を突いて回避する。

 足がズキズキと痛みを訴えかけ、力もまともに入らない。

 当分、歩くのも辛そうだ。

 僕はベットのすぐ横に掛けてあった松葉杖を取るとそれを左の脇に差し、それを使って外を目指した。


 案外歩けるようで、重症でもなさそうだしすぐに慣れそうだ。

 布の切れ目にを手を掛ける。

 その瞬間、眩い光に目を細めるものの、僕は外へ一歩踏み出した──




 一番最初に目に入ったのは、幾つも並んだ黄色いテント。

 完全に中を隠してるテントもあれば、吹き抜けなっており、並んだ人達を治療している所もある。

 そして多くの人々が忙しそうに行き交っていた。

 僕はその人々を隈なく見る。


 居ない。

 リリスが居なければ、レミリアも天使達も居ない。

 僕はだんだん不安になってくると、当てもなく早足で歩き、通りすがる人々から隈なく探した。

 どこに居る?

 居るはずだろう?

 いや、居てくれ!

 頼む……


「アズサぁ――!」


 ハッと息を飲む。幾度と聞いた、この呼び声は──

 僕は振り返ると、太陽の光を反射し、いつにも増して綺麗な緑髪を靡かせるレミリアへ振り返った。


「レミリアぁ――!」


 僕も彼女の名前を目一杯叫ぶ。

 レミリアも怪我人だろうに、数十メートルはあろうかと言う距離を一息で駆け抜けると僕の両肩をガシッと掴み。


「あああ、アズサ! 大丈夫かニャ!?」


「だだ、大丈夫、大丈夫!」


 切羽詰まった様子で訊くレミリアに僕もコクコク頷いて応じる。


「本当かニャ!?」


 僕の返事にレミリアは満足行かなかったのか、僕の周囲を回りながら体をペタペタと触ってくる。


「あわわわ……包帯まで巻いてるニャ」


 と、僕の腹部も控えめに触ってくる。


「大丈夫だよ。多分、腕が折れてるくらい」


「そうかニャぁ。大丈夫なのかニャぁ?」


 未だ心配な様で、不安げな顔で腕や足を見回す。


「それより、リリス達は? 天使の子達は……無事?」


「ああ、おかげで皆無事ニャ。私の事も、随分世話してくれたみたいでありがとうニャぁ」


 僕は聞くのが怖く、その質問に一瞬怯んでしまうも、レミリアは微笑みを浮かべて答えてくれた。


「はあぁぁ、よかったぁ」


「おっとと」


 あまりの不安と安心の高低差に、僕がそのまま倒れそうになるのを慌ててレミリアが掴む。

 とりあえず、リリスが無事というのを聞けてよかった。


「ありがとうニャぁ。本当に、皆んなを助けて」


 ふわりと笑顔を浮かべ、改めて礼を言うレミリア。

 僕はそんなレミリアにすっと視線を外す。


「ま、まあ、無事でよかったよね」


「ニャはは~。もしかして照れてる?」


「別に?」


「シシ~、どうかニャ~?」


 したり顔で僕の顔を覗き混んでくるレミリア。

 いや、肩掴まれて顔も近いから普通に照れる。


「あ、そうえばレミリア、怪我は? 大丈夫なの?」


 と、僕はすぐにでも話を変えたいのもあり、レミリアから離れて自分で立つとそう訊いた。


 レミリアは心配そうに見つめつつも、手を引っ込めると。


「こんな具合ニャ」


 そう言うなり自身の祭服をたくし上げた。

 その真っ白なお腹には昨日と同じ場所に痛々しい傷跡が残っていた。


「それ、治らないの?」


「まあ、治そうと思えば治せるニャ。けどほっといても大丈夫だし。半年もあれば勝手に元通りだしニャ~」


 は、半年。

 それで元通りだとすれば、早いのか遅いのか……


「やっぱ天使だから?」


「まあニャ。私の神聖力だとこの程度ニャね。一教クラスの訳分かんない神さんだと、数分で部位破壊が治ったりするけど」


 えぇ、数分で……

 本当訳分かんないな。


「あ、ちなみに一教ってのは宗教の階級ね?」


「あ、うん。それは知ってる」


 僕の返事にレミリアは『そう?』と一つ頷き。


「ま、いいニャ。それより、リリスちゃんに会いたくないかニャ?」


 あ! そうだった!

 続くレミリアの言葉に当初の目的を思い出す。


「うん! 行こう行こう!」


「身体に触るといけないから、ゆっくりニャ~」


 僕達は互いの身体を気遣いながら、ゆっくりと歩き出した。







「うっ、寒いな」


 途端冷たい風が肌を撫で、松葉杖ごとキュッと縮まる。


「はいニャ」


「あ、ありがとう」


 レミリアが自身の祭服を脱ぎ、僕の肩に掛けてくれる。

 今までこんな寒くなかったが、なんだか今日の風は冷たく感じる。


「あ、そうえばさ、僕が気絶した後どうなったとか知らない?」


 っていうか、あの場に居た人達は?

 増援に来てくれた人達は……


「あー、一応言っとくと、全員無事ニャ」


 と、心配が顔に出ていたか、最初にそう前置きするレミリア。


「どうやら、全員気絶させるに留めてたらしくってニャぁ。外傷は酷かったけど、皆んな命に別状は無いニャ」


「そう、よかった」


 しかし、レミリアの説明に安心するのもまだ早い。


「リリスは……」


 だってリリスは、上位悪魔を二体も──


「あー、リリスちゃんはニャー」


 と、レミリアは不意に止まり、前を仰ぎ見た。

 途端、より冷たい風が肌を撫でる。

 髪が靡き、それにに顔を顰めつつ僕もレミリアの見上げる方を見た──


「あ……な、なにこれ?」


 そこには、一面氷の世界が広がっていた。


 身の丈の何倍という高さの氷がいくつも並び、それは建物より大きく、建物より太い。

 きっと壮絶な力が吹き荒れたのだろう。氷には舞った埃や砕けた石、崩壊している最中の建物さえも、その時を止めて閉じ込められていた。

 中には崩壊する建物自体を凍らし、透明度が高い分、一瞬浮いてるんじゃ無いかと錯覚する。

 そして全ての氷、いや氷山が太陽に照らされ、輝いていた。

 まるで、それ自体が一種別世界の様だった。


「リリスちゃんはニャー」


 と、そこでレミリアの説明が耳に入り、その世界から意識を戻す。


「上位悪魔二体に対し、本気で暴れ回ったらしいニャ」


 リリスが、本気で……

 よくよく見れば、このどこまで続くか分からない氷山の一つには、教会の跡地と思われる残骸が凍っていた。

 っていうかこれ、悪魔の攻撃よりリリスのヤツの方が被害大きくない?


「あ、そうえばレミリア達ってこれからどうするの? 派手にやっちゃった訳だけど」


「あー、それなんだけどニャぁ」


 レミリアがそこまで悩む様に言うと、不意に僕の服の袖がつんつんと引っ張られる。

 何事かと振り返ると、そこには綺麗な金髪の少女がポツンと立っていた。

 その娘は右目に眼帯を着け、開いた左目は深い碧眼。

 って、この娘は。


「あ! 君、大丈夫だった!? 怪我ない?」


 そう。この娘は昨晩助け出した娘だった。

 その娘は目線を下に漂わせつつ、無言でこくこく頷くと。


「その、ありがとうございました。昨日は」


「いーえー! それより、あれから大丈夫だった?」


 外見的には何ともなさそうだが。


「はい。おかげさまで」


 そう言って控えめに微笑む眼帯の娘。

 って、今更だけどがっつり眼帯してるじゃん!


「その眼帯は!? 大丈夫? 昨日からしてたけど」


「あっ、これは」


 咄嗟に右目を押さえる眼帯の娘。

 大丈夫だろうか?


「これは、昨日負ったもので……」


「やっぱり襲われたの? 大丈夫だった?」


「はい。偶然通りかかった人が助けてくれまして。この傷も、ほぼ治ってるので大丈夫です」


 そう、目一杯と笑顔を向けてくれる少女。

 目の怪我が一晩で治るって、こっちの魔法は本当に凄いんだなぁ。

 というか悪魔教め、どれだけ天使を目の敵にしてるのか。


「あ、あのっ。本当に、ありがとうございました!」


 と、僕が悪魔教への怒りをふつふつと湧きあげていると、深く頭を下げてくる眼帯の娘。


「あー、うん。それより、やっぱ一応診てもらったら?」


「いえ、これから用事があるので」


「用事?」


 やっぱ天使は仕事が残ってるのかな?

 って、そういえば人探しの方はどうなったんだろう?

 いつのまにか天使を守るのが目的になってしまったが……


「はい。まだちょっと早いですが、ロビア行きの馬車に乗ろうかと」


 またも下を向いてそう答える眼帯の娘。

 出張か。


「まあ、今後も気を付けてね」


「はい!」


 その娘は元気にそう返事をすると、最後まで目を合わせてくれなかったが、そのまま去って行った。

 ……最後くらい、名前聞いときゃ良かったかなぁ。


「誰? あの子」


 と、ずっと黙っていたレミリアが、その子を少し冷めた目で見送りながら訊いてくる。


「え? 知り合いじゃないの? 知り合いっていうか、レミリアの部下じゃ?」


 僕が問い返すと、レミリアはきょとんとし。


「えぇ? あんな子居たっけニャぁ?」


 一人首を捻り悩みだした。


「預咲さん!」


 と、僕を呼ぶ声。

 振り向くと、小走りで向かってくるエリア様が居た。

 そして、その横には。


「リリス! 大丈夫だったの!?」


 頭に包帯を巻き、いつも通りの格好で歩いてくるリリスが居た。

 リリスはマイペースにここまで歩いて来ると。


「ええ、何とか」


 そう、いつもと何ら変わりなく言ってくる。

 リリスは平気そうにしているが、頭の包帯がどうも気になる。


「頭、大丈夫なの? 頭おかしいんじゃない?」


「あの……馬鹿にしてるんですか?」


 んな訳ない。


「っていうか! リリスがあの後やっつけちゃったんだって!?」


 なんだかリリスの半目が痛いので話題を変える。


「ええ、まあ」


 リリスはいつも通り淡白に答えるが。


「上位悪魔ってヤバいんじゃなかったの? リリスってば本当に何者?」


「さあ」


 僕の質問をさらりと受け流す。

 と、今度はリリスの方から。


「それより、さっきの娘は?」


「ん? ああ、眼帯の娘? 昨夜ちょっと助けたりしてね」


「そうですか。実は昨日、私に助けを求めたのはあの娘でしてね」


 へぇ。じゃああの娘を逃さなかったら、本格的に不味かったのか。


「あの、預咲さん?」


「あ、ああ。はい、何ですか? エリア様」


 と、おずおずといった様子でエリア様に声を掛けられる。


「いえ、その」


 エリア様は下を向いてモジモジしだすと、ふと顔を上げ。


「本当に、無事で良かった」


 そう言って、柔らかく微笑んだ。


「さっ、アズサも起きた所だし、そろそろ行こうかニャ」


「え? どこへ?」


 と、レミリアが場の雰囲気を変える様に言い、僕は何の事か分からず訊くと。


「もちろん、組合にニャ」


 レミリアはサプライズでもするかの様に笑うと、そう言った。



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