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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第一章 七日間の旅編
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11:四日目



 翌朝。


「思ったより面倒くさいですね。何なら今からでもこっそり帰っちゃいます?」


「何言ってるんですか。依頼を受けたのはあなたでしょうに」


 エリア様とリリスによる会話を上の空で聴きながら、僕はその後ろをとぼとぼと付いて来てていた。

 下を向き、石畳の道をぼんやりと眺める。


 外出許可が下りた訳では無いが、散々うろちょろした以上今更外へ出ても変わんないと言う事で、レミリアが融通を利かせてくれた。

 レミリアには適当に町をぶらぶらしてくるとだけ伝え、実際は組合に向かっている。

 もちろん、クレナからの依頼があるからだ。


「預咲さん。何だか元気無いですね」


「えっ」


 と、不意にエリア様に顔を覗かれ、僕は顔を上げる。

 見ると、何故かリリスもこちらを若干の憐憫の表情で見ていた。


「朝から元気無かったですけど、どうかしましたか?」


 朝から……

 確かに、朝から余り喋っていない。

 正直そういう気分でも無い。


「朝ご飯は……残さず食べてましたね。んー、寝不足ですか?」


「まぁ、そんなとこです」


 そう言う事にしておく。寝不足は事実だし。

 と、エリア様は頼もしそうに胸を叩くと。


「悩みがあるなら言って下さい! 実は私、天界の仕事では心理療法も兼任してたんですよ? 私は精神と感情を司る神と言う事もあって、事故死や未成年の人を案内してたんです」


 ──事故死……

 死。


「一つ確認なんですけど……。やっぱり、死んでるんですか? 僕って」


「はい」


 即答か。

 まあ、覚悟はしてたが。

 でも、だとしたら。


「この体は? どう見ても人の物と言うか」


「あー、それはですねー」


 僕の質問に、エリア様は少々考える素ぶりを見せると。


「んー、詳しく話すと長くなるんですが……。ざっくり言うと、あなたは人じゃないです」


「はい?」


 人じゃ、ない?


「と言うより、生物かどうかも疑わしいですね。今のあなたは全身が魔力でできています」


「魔力? この身体が?」


 って言うか魔力って何?


「はい。いわゆる精神体生命体ってヤツですね。言葉が通じるのはこれが影響してます。まあ、私もそこの所詳しく知らないので何とも言えませんが」


「精神体、生命体……ですか」


「はい。完全に魔力でできてる生物です。悪魔とかもそうですね」


「えっ、悪魔?」


 この前出会ったのと同じ?


「まあ、この前のは受肉を果たしてた様ですが……。ほら、噂をすれば何とやら。預咲さん、これ見て下さい!」


 すててててーと先へ小走りで行くと、どこから持ってきたのか一つの紙束を見せてくるエリア様。


「新聞?」


「はい! それのここ!」


 そう言って新聞の一面を飾る絵を指差すエリア様。

 そこに書いてある絵は筋骨隆々の化け物で、下半身には大量の毛が生え、丸っこい頭と目を持った……


「悪魔? もしかして、この前の?」


「はい! どうやらもう新聞に載ったみたいですね」


「へ~」


 やっぱ一大事なのねぇ。

 それより、新聞まであったとは。

 相変わらず文字は読めないが、この世界の印刷技術はどれ程なのか。

 って言うかエリア様?

 それどこから持ってきました?


「お姉さん。それ、買う?」


 僕が疑問に思っていると、売り子の少年がエリア様を見上げて訊いてきた。


「あ、えーとぉ……すみません!」


 少年にぺこぺこ頭を下げながら新聞を返すエリア様。

 そそくさとその場を離れ一息つく。


「私達の名前も載ってましたね。悪魔退治の功労者として」


「「えっ?」」


 リリスと二人、声を揃えて聞き返す。


「あれ? 気付きませんでした? 結構大きな文字で書かれてましたけど」


 きょとんとこちらを見て的外れな事言うエリア様に、僕とリリスは目を合わせる。

 恐らく、今僕が思ってる事はリリスのそれと同じだろう。

 新聞の一面を飾る様な一大事。

 更にそれを解決してしまった人達。

 そして、エリア様が自力で帰る理由。


「いや、えぇと……めちゃくちゃ目立っちゃいますけど、良いんですか?」


 つまりそう言う事だ。

 エリア様はこそーと帰るために馬車を使った訳だが、何故か新聞に載る英雄になってしまっている。

 そこの所大丈夫なのかと訊くと。


「げっ、そう言えばそうですね……。まあ、どうせレミリアさん達に見つかっちゃってますし」


 そう楽観的に言うエリア様。

 相変わらずと言うか、何と言うか。

 この人は本当に爪が甘い。


「そこはいいんです。けど、エリア様? ここは貴方のお膝元ですよ?」


「お膝……? あ、ああ!」


 やっと気付いたか。


「もしかしたらバレるかも知れませんよ。いえ、もう気付いている人も居るかも知れませんね」


 そう。きっと、天使に見つかるよりよっぽど面倒な事。

 つまり。


「女神エリアがご降臨なされたと」









 結局、エリア様がバレる云々の事は話半分で終わってしまった。

 まあ、あの話を続けた所で何か解決できるとも思えないが。


「神さまなぁ」


「どうかしたか?」


「いや」


 僕の呟きに反応したクレナに、適当に誤魔化す。

 今はクレナとの二人で行動して、件の妹さんを探していた。

 ここはとある建物の屋上で、この町を一望できる。さすがに中央の棟ほど高くはないが。


「ねぇ。妹さんの特徴、もう一回言ってくれる?」


 と、僕は隣のクレナへとそう問う。


「髪色は金髪。瞳は俺より深い碧眼。以上だ」


 簡潔過ぎる応答である。

 情報が少な過ぎだ。


「背丈とかは? あと服装とか」


「分からない。数年会ってない」


「え? 数年、会ってない?」


「ああ」


 クレナはこちらを見ずに素っ気無く返事する。

 これは、訊いてもいいのだろうか?

 誰しも聞かれたくない事はあるだろうし……


「おい、あれ金髪じゃないか?」


「え?」


 と、クレナが指差す。

 あ、本当だ!

 細道を通る一人の少女。その娘の髪は輝く様な金色で。


「行こう!」


「ああ」


 塀に寄っ掛かるのをやめて階段の方へ行く。


「ってあれ? 行かないの?」


 と、僕はクレナを振り返った。

 クレナは何を思ったか、跳躍して塀の上へと立ち登った。


「ちょっ! あ、危ないよ!」


「来ないのか?」


 クレナは僕を一瞥した後、隣の建物の塀へと飛び移ってしまった。


「な!?」


 ここは生半可な高さじゃ無い筈。

 僕は塀に駆け寄り地面を見下ろした。

 遠くにある日の当たらない路地。端っこを歩く抹茶色の猫がとても小さく見える。


「怖いのなら階段で来るといい。見失うといけないから俺は先に行く」


「えっ、ちょ!」


 な、何てマイペース野郎だ。

 いや、僕も僕を置いていくのが最善とは思いますけども。









 やっぱ見失っちまったか……


 僕は荒い息をしながら一人思った。

 裏路地を奥へ奥へと進んで行くも、金髪の娘は見つけられなかった。


「迷子になる前に戻ろっと」


 そう呟いて、僕はその場に立ち尽くした。

 あ……これ、あれだ。

 迷子だ。


「どうしよう」


 打ち拉がれていると、どこからか話し声が聴こえてきた。

 よし、道を訊こう。

 そうだ、そうすれば良かったんだ。散々走ってもこの路地に人っ子一人見かけなかったから、そんな簡単な事も思い付かなかった。

 しかしこの前みたいに恐い人達だったら嫌なので、先ずは見た目で判断してからにする。

 その為には。


「こっちかな? いや、こっちだ」


 聞き耳を立て、こそこそと音を立てずに移動する。

 段々近づいて来た気がする。


「いやー、なかなか撒けなくてね。何とか来れたよ」


 と、角を曲がった先に人が居て、慌てて頭を引っ込める。

 ここまで来れば声もハッキリと聞こえた。

 今のは女性の声だった。

 とりあえず、優しそうな人か恐そうな人か判断しなくては。

 僕はもう一度道を覗く。


「にしても、ここ数日定期連絡も遅れてる。何かあったのか?」


「ん? ちょっと仕事が重なっててね。時間が取れないんだ」


 そこに居たのは男性と女性の二人だった。

 緩く丸みを帯びた金髪を肩口で揃えた少女と、壁に寄っかかる様にして居る黒髪の男。

 少女の方は背中を向けて瞳の色までは分からなかったが、男の方は赤い瞳をしていた。

 にしても黒髪とは案外この世界じゃ珍しい。

 それも男の人の黒髪は何と言うか……こう、ドス黒い。

 リリス並みだ。


 僕は一旦首を引っ込める。

 男の方は何だか強そうでちょっと怖かったが、女の人も居るし大丈夫だろうか。

 って、あの人僕とクレナが追いかけて来た人じゃないか?

 じゃあどっちにしろ声は掛けるべきか。

 よし、行こう。


「あ、んっ!?」


 声を掛けようとしたその時、急に何者かに口を塞がれた。ハンカチ越しに手で。

 振り返ると、そこには人差し指を上げて静粛の合図をするクレナが居た。

 ど、どう言うつもりだ?

 って言うかエチケット完璧だなぁ。


「おい、今何か聴こえなかったか?」


「ん? そう?」


 あ、気付かれたか?

 って言うか、気付かれたら不味いのか?


「お前、人に付かれて無いだろうな?」


「そんな訳ないじゃん! ちゃんと『錯乱の魔法』も『人払いの魔法』も使って来たし、ここまで付いて来れる人なんてそう居ないよ!」


「そうか」


 よく分からないが、少女の説明に納得した様子の男。

 向けられた緊張から解かれ、クレナと二人息を吐く。

 僕がこれはどう言う事かと目で問うと、クレナは小声で。


「あれは多分妹じゃない。しかし、妹ならよくよく見逃せない」


 との事。


「そう。じゃ、少し様子見よっか」


 ふむ。やはり妹かも知れない人が男性と密会してたら、兄として見過ごせん物があるのか。

 僕も下の子が居たらこうなるのかなぁ。


「一体最近のこの町はどうなってる。急にここらを彷徨き出した奴らと言い、お前のその用事とやらが関係してるのだろう? まぁ、いい。とりあえず、印を見せろ」


「はいはい。分かってますって」


 と、何やら男の指示で少女は自身の服に手を掛けると、それを肌蹴はだけさせていき。


「「な!?」」


 その白く艶めなかな肩を露出した所で、クレナと二人つい声を出してしまった。


「誰だ!」


 あ、ヤベ。



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