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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第五章 エルドラド帝国編
116/173

116:リリスとリリン



「憑いていた? ずっと? どういう事だ?」


 リリスが大丈夫と言ったとは言え、僕は警戒したまま問うた。


「は、はい。一体どこから話そうか……。あの、彼の北の地……エンプカパルって知ってますか?」


 エンプ……何だって?


「通称、〝神の威光の届かぬ地〟……『神の威光の届かぬ地(エンプカパル)』。正式名称ではありませんが、その地の性質から一部の者の間でそう言われています」


 そうリリンは語る。


「アストリア大陸の最北東の地。そこは天界の者の目が届かない場所と言われています。簡単に言うと、そこで暮らす人々は自然に任せた輪廻を回って居ます」


「まるでそれ以外があるみたいな言い方だけど……」


「輪廻には神の意思が関わっている事が多いです。ほら、リリスちゃんだって加護付きだし、クレナ君だって、〝天界の布石を打っていた家系に連なる者〟……と、そう紅の魔王様が言っていたではないですか」


 と、そうリリンが答える中、僕は唐突に先輩女神さんとの会話を思い出していた。

 ──投げ入れると言った感じかしら? 一種技術とでも思ってもらった方が分かりやすいわね……

 そうか。まさか神さま達は任意で人の転生先を選ぶ事ができるのか。

 そして、エンプカパルに関してはそれが不可能。

 これは確かに〝神の威光の届かぬ地〟だな。


「だから、必然的にあそこには……ちょっとヤバい人達が集まっていると言うか」


 と、リリンは少し言いにくそうにしていたが、こちらを真っ直ぐに見て告げた。


「結論から言いますと、悪魔教が巣喰う地です」


 なるほど……

 納得だ。


「そして、リリスちゃんはそこの出身です」


 と、重ねて、リリスの方を真っ直ぐに見て言った。

 各自、僕らは少なからぬ驚きを享受する。


「そこに居た悪魔教の人達はある実験をしていました。悪魔の力を完全に取り込み、意のままに操ろうとしていたんです」


 と、リリンの話は続く。


「それには悪魔に適合する様な肉体が必要です。適合の有無は先天性の部分に大きく依存し、彼らは生まれつき悪魔を宿してしまえる様な肉体を欲していました」


 そう語るリリンは両手を胸の前に組み、暗い表情をしていた。


「そして……悪魔の身の私としても、ちょっとドン引く様な実験を彼らは行っていまして」


 そう躊躇するかの様に、一拍溜めるリリン。

 一体悪魔でも引く様な所業とは何だと思っていると。


「胎児の段階で、共に悪魔の魂も定着させたのです」


 そうリリンは告げた。

 こ、これは引くわ。


「実験は失敗に失敗が続いたそうです。まだ不安定な精神体が邪悪な気にてられ、全員が鬼子として産まれました。ここで言う鬼子とは、本当に鬼の事です。精神が悪霊と化し、肉体が変質してしまったのです。これが完全な物となると、悪魔となります。皆んな悪魔に成りかけて産まれて来たんです」


「なっ。ひ、人が悪魔や鬼に成る事があるのか……」


「はい」


 思わず呟いた僕にリリンは応じた。


「でも、一人だけ人として産まれた子が居ました。それがあなたです」


 そしてリリスの方を向いて言った。


「リリスちゃんは百年に及ぶ唯一の実験の成功体。だから彼らはあなたをどうしても手放したくないんです」


「なるほど……そうでしたか」


 と、下を向きつつも、リリスはリリンの言葉を受け止めていた。


「しかしやはり疑問なのが、どうして私だけ成功したのかと言う点です。いえ、最早成功と呼べるのでしょうか? どちらかと言うと、私が異常の様ですが」


「あなたには『天賦の加護』ある。だから精神が守られたんです。百年の間に最初に来た加護持ちの魂が、あなただったのでしょう。だからあなたは唯一人として産まれて来れた」


「なるほど……。筋は通ってますね。そして、私の肉体に一緒に入った悪魔の魂が、あなたと言う事でしょう」


「そうなります」


 リリンは優しく微笑んだ。

 リリスも軽く微笑む。

 話しぶりからして顔を合わせたのは初めてなのだろうが、母体に居る時からずっと一緒に近くで過ごした身として、何か通じ合う物があるのだろう。

 まるで──


「姉妹だね」


 僕はその様子を見て言った。


「どうしてそれを……」


 と、リリンは非常に驚いた反応をする。

 何の気なしに言った身としては、疑問顔を向ける他ない。

 こちらの反応を理解したリリンは、『実は……』と話しだした。


「私の魂がリリスちゃんを身籠った体に入った時、既に三つの魂があった様に思うんです」


「三つ? リリスとあと二つは誰だ?」


「リリスちゃんは双子だったんです。だからもう一人の姉妹か兄妹と、恐らくはその子にも私の様な悪魔が入れられて三つだったんだと思います。それか母体の魂か。正直、あの時は私も魂の状態だったので記憶が曖昧で……」


 そう頭を悩ませて言うリリン。


「私に……私にも、兄妹が?」


 と、リリスが呟いていた。

 何故かそれを見てリリンが悲しそうな顔をする。


「ですが、その後機関の人々の会話で大凡を把握しました。先ずはリリスちゃんの姉妹か兄妹ですが、その後上部機関が回収、死亡が確認されたそうです。やはり、鬼人化に耐えられなかったそうで」


 そう眉を下げて言うリリン。

 リリスの反応を窺っている様だった。


「そうですか」


 リリスは淡白に応じていた。


「ですが、やはり本命はリリスちゃんだった様です。何より機関の人たちが喜んでいたのはリリスちゃんが〝移動者トランスファー〟だったからです」


「とらんすふぁー?」


「時折り双子で産まれる子に見られる現象の事です。ステータスがまるで片方に吸い取られたかの様に、片方はとても才を持ち、もう片方は平均以下になってしまうのです」


 なるほど。

 これでリリスが他の何倍も強い理由が分かった。

 何とかとやらの現象に加え、悪魔を宿す事による強化。

 そりゃ強くもなる。


「あなたは私を宿す前から、才能を持って産まれてきてるんですよ? その兄妹の分も含めて、ね?」


 と、リリンは優しくリリスの頭を撫でて言った。

 それにリリスは少し微笑んだ。


「それで? 急かせて悪いが、その話にいつバティンは出てくる」


 と、クレナが問う。


「も、もう出ます。あれは確かリリスちゃんが四歳の時です」


 そう再度リリンは語り出す。


「機関の人々がリリスちゃんに宿る悪魔を入れ替えようと言う話を持ち出しました。私は下位の悪魔で、それでも十分な程リリスちゃんは強くなっていたんですが、もっと強い悪魔に変えて、もっともっと強くしようと言いう事で」


 聞いていて、何か既視感を覚えた。


「そして、欲をかいて召喚してしまったんです。中位悪魔ミディム・デーモンどころか上位悪魔グレーター・デーモンですらなく、悪魔君主アーク・デーモンを」


 案の定、僕は話のめちゃくちゃさに絶句した。


「それが、バティンさんでした」


 そして話は繋がる。


「その後、バティンさんは目の前に居た機関の人々を皆殺しにし、自分の意思でリリスちゃんの体に憑きました。リリスちゃんの肉体は悪魔との適正がこの上なく良く、バティンさんですら気に入ったのです」


 そう語るリリン。


「程なくして、バティンさんはリリスちゃんの肉体毎、元居た地獄と同じ座標の地に戻りました……。つまりそれが、フィットネア領です」


 ……なるほど。

 それが十年前。魔王さんがバティンの気配を見失った時か。


「その後は意識を表面に出す事は極力無く、リリスちゃんが勝手に成長してくれるのを待ち……今に至ります」


 ちらりとこちらを窺い、話の終わりを示すリリン。


「つまり、結局リリスは本当に悪魔憑きで……それもリリンとバティンの二体もの悪魔を宿していた……って事?」


「そうなります」


 僕のまとめた話に、リリンは頷いた。


「私は、今までの経験と直感で、自分の内に何かが居る事は分かっていました」


 と、リリスはそう語る。


「でもそれは歪で、私を見守っている様でもありながら、いつでも食ってやれるぞと、脅している様にも感じていました……。二人も居たのなら、その歪さも納得です」


 そう誰ともなく言って。


「あの時、貴女が出てきて直感で悟りました。ずっと見守ってくれていたのは貴女だと……。あまり論理的な説明はできませんが」


 リリンの方を見上げてリリスは言った。

 それにリリンは優しく微笑んでいた。


「でも気になるのが、リリスの肉体をバティンは気に入っていたのに、それを結局捨てる様な事してる点だ。奴の行動はちぐはぐと言うか……」


「気に入ってたのは本当ですが、多分執着は無いんだと思います。それ以上に、バティンさんが本当に気に掛けていたのは」


 僕の言葉にリリンは答え、こちらを真っ直ぐに見た。


「アズサさん。あなたです」


 そしてそう告げた。


「バティンさんは、何かあなたに特別な思い入れがある様です。結局、それが何かは教えてくれませんでしたけど」


 そう下を向くリリン。


「正直、あの人が悪魔教としてこの国をどうこうしようだとか、私には信じられません。でも、貴方への執着だけは本物の筈です」


 その言葉を聞き、暫し何と答えようか迷った。


「はぁ……どうやらとことん悪魔教に好かれる体質らしい」


 結局、溜め息と愚痴しか出なかった。


「事情は大凡把握しました。再度個別での事情聴取にお付き合いいただけますか?」


「その前に一つ訊きたい。バティンへの対処は決まっているのか?」


 と、時期を見たレクイエ氏が告げ、クレナが問うた。


「要所を騎士団で固めると共に、こちらに御座すズイシ卿並びにハルバルト卿、ロイス卿を主とした討伐隊を組みます。冒険者組合へも討伐依頼を行い、特にアルバート殿には救援を要請し」


「依頼? じゃあ僕が受けてもいいって事?」


 言葉途中にそう問うと、レクイエ氏とご老人は目を丸くした。


「何を言う! 大前提としてこれは我が国の問題! 子供の出しゃばる様な事では」


「バティンは俺が殺す」


 ご老人がごちゃごちゃ言い出したのがうるさくて、つい強めに言ってしまった。

 顔をひきつかせたご老人。


「や、やはりこいつも悪魔憑きなんじゃないのか?」


「いえ、それは違います。私が保証しましょう」


 と、ご老人の言葉にレクイエ氏は断言していた。

 その視線は僕の胸辺りに向いていて、僕の視線に気づくと誤魔化す様に視線を逸らし、結局また目を合わせて来た。


「しかしアズサさん。冒険者組合に出すバティン討伐の依頼難易度は『S』ですよ?」


「え?」


 え、『S』?

 Aより上があったのか!?

 山脈で会った様な飛竜すら降すAランクすら降す、少なくともそれくらいの存在……

 もしかして、魔王さんとかそう言う次元じゃ……


「それでもやる……恐怖なんてのはあの場に置いて来た」


 代わりに埋め尽くされている。

 殺意ってやつに。


「いえ、そもそも請け負う資格があるのかと言う話で」


「じゃあ勝手にやる。それにあなた方にとっても好都合じゃないですか。バティンの次の目標が僕なら、囮に使って被害を抑えられる。何より、僕が死んだところで被害なんて皆無でしょう? どうせ罪人だし。ね?」


 どうせ死んでもどうにかなる。

 既に二度も死を経験してるんだから肝も据わるさ。


「そいつは良い案だな。本人の希望とあらば心も痛まん」


「ズイシ卿」


 と、ご老人の言葉を咎める様に止めるレクイエ氏。

 若干眉を寄せ、難しそうな顔をする。


「何だ? 非常に合理的な案だろう。そもそも今回の件は国防省が請け負う案件だともうハッキリしておろう。いつまで法務省の奴らが首を突っ込むつもりだ! 主権絶対の原則に従い彼らの身は我々が預かる!」


「し、しかし、こんな事はどう考えても倫理的に……」


 レクイエ氏の表情は増々険しくなる。

 どう見ても焦っている表情だ。


 国防省。法務省。詳しい訳じゃないが、恐らく僕の身柄を警察組織と軍事組織、どちらが預かるかで揉めているのだろう。

 最初は僕個人の刑事事件として取り扱われていた訳だが、バティンが復活した以上これは国家の問題である。つまりはこちらで言う騎士団などの軍隊が請け負う事だ。

 法に従順な警察よりも、王を主君とする彼らの方が自由な組織なのは間違いない。

 解釈の幅が広いと言った方が良いか。


 レクイエ氏は悩みに悩み抜き、ついに疲れた様に片手で顔を覆っていたが、僕の視線に気づくと指の間から目を向けて来た。


「正気ですか?」


「……さぁ」


 そしてそう問われた。


「で? 結局いいの?」


「わしが保証しよう」


 ご老人が頷いてくれた。

 頼もしい限りだ。


「いや、ちょ、ちょっと。何で勝手に話進んでるのよ」


 と、良い感じに話は纏まって来ていたが、リシアが口を挟んだ。


「そうですよ。アズサ。あなたが行く必要はどこにもありません」


 そうリリスも言う。


「アズサ。目の前でマリンが……殺されて、お前が一番真剣に考えてくれてるのは分かるが、これは俺達ができる事の範疇を越えている」


 そしてクレナまで僕を止めた。


「言いたい事は分かる。先ほど無茶苦茶やってた時と言ってる事が違うと。だがあれはリリスの奪還の為だ。今回は何だ? 復讐だ。復讐は放って置いてもこの国がしてくれるんだ。だからアズサ。もう休め」


 そう僕の両肩を掴み、クレナは項垂れた。


「もう、休んでくれ……。お前は十分、頑張ったから」


 そう、悲痛気な表情で言って。


「いや……あのさ」


 僕はそれを冷めた思いで見つめ。


「逆に何でそんな冷静なの?」


 そう言う。


「何よその言い方! だってどうしようも無いじゃない! マリンはもう天国に旅立ったのよ!? それにあの悪魔も私達の手に負える相手じゃないの! それなのに、なんであなたが……」


 泣きながら言ったリシアの言葉に、何か引っかかった。


「アズサ。辛くて、憎いのは同じです。でもこれ以上関わると身を滅ぼします。皆んな、貴方まで死んで欲しくないんです」


 リリスもそう説得にかかるが、僕はそれを聞き流して。


「天、国……」


「ええ」


 呟いたそれに、頷くリリスだが。


「そうか……。そうだよ。天国だ。魂は死後天界に行く。多分この大陸の第二天界に。じゃあ……天界に行けばマリンに会える」


 僕の言ったそれに、皆んなはハッと表情を変える。


「いや……でも、どうだ? マリンは特別な魂。だから悪魔教の人達は狙ってて、だからマリンは殺されちゃって……その後だ。その後はどうなる? その魂をバティンはどうするつもりだった?」


 周囲に構っている余裕は無く、僕は真剣に頭を回して呟き続けた。


「聞かなければならない。バティンに直接。きっと奴もそれを望んでいる」


 そして、その帰結に至る。


「動機はハッキリできたよ。マリンの魂の行方まで、この国の人達に任せようっての?」


 少し、いやかなり狡い言い方だったが、それはそれで間違いない本音である。

 僕の視線を受けたクレナは苦渋の表情を浮かべ、拳を握りしめていた。

 今まで見て来たどの表情よりも険しい。

 そして、その解せない表情のまま、僕を先ほどよりも強く抱き締めた。


「死ぬなよ?」


「……ああ」


 短く応じる。

 リシアが手を広げて来たのでリシアともハグをする。もちろんリリスとも。

 今生の別れ何て言うつもりは無い。

 あくまでも勝ちに行くのだ。


「では予定地は第三修練場。ある程度の兵で固めて迎え撃つ。奴もこの少年との決着を望んでいると言うのなら、十分にやる価値はある筈だ」


 と、ご老人がそう告げて、僕も応じた。


「時は明日の正午……そこで決着を付ける」


 バティンと一騎打ちを行う。



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