表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第五章 エルドラド帝国編
114/173

114:投獄と脱獄と



 ハッと目が覚めた。

 ここは石畳の部屋の中で、一面は鉄格子でできている。手も届かない様な高い位置に小さな窓と言うか穴があるだけで、冷たい無機質な空間である。

 そして壁から片足に繋がっている鎖。

 明らかに投獄と言った感じだ。


 それも穴から見える空は既に暗い。

 一体あれからどれくらいの時間が経った? リリスは無事か? 皆は?


 あの時の光景を思い出す。

 リリスの体から出て来た様に見えたあの『何か』。それを庇うリリス。そしてそれを囲う人々。


「クッソ」


 一体何だってんだ。

 もし、リリスに何かあったら……

 それこそ、既に殺されている様な事があったとしたら……


「クソが……殺してやる。あいつら全員殺す」


 壁に背を預けて丸まる中、髪を鷲掴みにして呟いた。


「よう、兄弟。荒れてるな」


 と、目の前から声がする。

 暗くて気づかなかったが、向かいの壁際にも同じ様に鎖で繋がった男が居た。


「あ、お、お前は……!」


 僕はその男に見覚えがあった。

 暗くても分かるその巨躯。

 先日リリスと居る所を斧で襲って来た、指名手配の男である。


「クソッ……今の俺はこいつと同類か」


「中々言うじゃないか」


 脱力して言う僕に、男は面白がって応える。


「暇してたんだ。ちょっと付き合えよ」


 と、そう言って、石ころを投げてきた。

 目の前に転がる石ころ。

 それを暫し眺める。

 拾おうとして、それが揺れているのに気づいた。いや、揺れているのはこの建物だ。と言うか、外が何だか騒がしい。


「今、外は大変みたいだな」


「何が起こっている?」


 石ころを拾いつつ、男へ問う。


「さぁ。大悪魔、バティンでも復活したんじゃないのか?」


 その返事に暫し口を噤む。


「それは帝国流のジョークなのか?」


「いいや」


 言いながら石ころ投げ、男は受け取る。


「ただタレコミがあったんだよ。バティンはとある人物の体に憑き、復活の時を待っているとな。そして、彼の北の地から参った悪魔教との接触を行い、二百年前に成せなかった国家転覆を狙いっている……とな」


「悪魔教だと? それも二百年前に……何だって?」


「これは歴史の話だ。今の帝国の前身となる旧シラント王国で起きた革命とは、政権の掌握を狙う悪魔教が起こしたんじゃないか……てな。都市伝説的な、ただの一説だがな」


 石ころを代わる代わる投げながら、僕らはそう話す。


「じゃ、じゃあ、今外が騒がしいのは悪魔教が暴れているのか!?」


「かもな」


 そう男は肩を竦める。


(そして、あの大悪魔のバティンも復活している……? だとしたら大変じゃないか! 悪魔君主アーク・デーモン上位悪魔グレーター・デーモンすら降すんだぞ!?)


「いや……冷静に考えれば僕には関係ないな」


 この国の問題はこの国がどうにかすればいい。そう思い、僕で止まってしまっていた石ころを投げた。


「おいおい。まだ話は終わっちゃいないぜ?」


 と、男は投げ返す。


「まだ何かあんのかよ」


 僕も投げ返した。


「曰く、バティンが憑いた人物……。それはリリスと言う墨の様な黒髪を持った少女である、とな」


「なっ」


 投げられた石ころを、僕は取り損ねた。


「だから俺は殺そうとした。あんたの連れであるリリスをな。さすがにそれで悪魔君主アーク・デーモン程の存在を討伐はできないだろうが、宿主が死ねば痛手を負う筈だ……。筈だったが、まぁ、あんたの方が強かったな」


 そう何でもない様に語る男。


「弱らせる……たった、それだけの為に、殺そうとしただと? 確証だって無いのに」


「たった一人の少女の犠牲で、この国の国民大勢が救われるかも知れないんだ。尊い犠牲だ」


「ふざけるな! そんな事あってたまるか! それに」


 僕は怒りに任せて叫ぶ。が、一度止めた。


「り、リリスがバティンの悪魔憑きな訳がない!」


 結局、勢いで言い切った。


「あ、そこね!」


 と、誰かの声が響く。

 足音がして廊下の方を見ると、何とリシアが居た。


「いや~、探したわよ~」


「え? いや、え? 何で居るの?」


「何でって、助ける為に決まってるじゃない。さ。さっさと合流して、この国も出ちゃうわよ」


 そう言い、リシアは檻を解錠する。


「どうやって……って言うか、皆んなは無事!? リリスは!?」


「取り合えず無事よ。あれからリリスちゃんはどこかに逃げちゃったわ。私達も半ば拘束される形で事情聴取を受けてたんだけど、まぁ、この通りもうめちゃくちゃやって逃げようって事になったの」


 リシアは言いながら、僕の足枷を解こうと合う鍵を探している。


「そ、そんな無茶な……」


「だってあなた衛兵を傷つけたのよ? それも十人以上。幸い死人は出てないけど、最悪極刑ね」


 その言葉に息を呑む。

 そっか。僕は普通に犯罪者なのか。


「にしても、よくここまで来れたね」


「まぁ、もちろんすごく大変だったけど、今衛兵の大半は外で起きてる問題に割かれてるらしくてね。何とかね」


「外では一体何が?」


「悪魔教が暴れてるって話よ。リリスちゃんを探してるとか……まぁ、詳しくはまだ分からない」


 そう語るリシアの表情も、今回ばかりはさすがに少し落ち込んで見えた。


「とにかく、もう成り行きを見守る段階じゃないって事よ。私達は当事者なんだから」


 リシアはそう告げ、足枷が解錠された。


「さ。行くわよ。クレナが他の階を探してるから、取り合えず合流ね」


「ああ」


 応じながら僕は立ち上がる。

 直ぐに出ようとして、一部始終を見せてしまった男の方を振り返った。


「行ってこい。俺が捕まり損にならない様、精々頑張れよ」


 と、そう男は送り出してくれる。


「あんた、本当は何者なんだ?」


「ただの指名手配犯だよ」


 男はそう肩を竦めていた。


「ま、一つ言っておくと、この国は第一皇女派、第二皇女派、第三皇女派で派閥がある。今回の件、それぞれの派閥で行いたい対処が違う……って言う、噂だ」


「って言う噂、ね……。そう言う事にしとこう」


 それを最後に、僕は牢屋を出た。

 リシアと共に暗い廊下を走る。


 革命、か……

 勝てば官軍と言うが、国の為に戦った者でも、政権の交代と共に犯罪者扱いされる事はよくある事だ。

 あいつももしかしたら……いや、今はいい。


「リシア?」


 と、誰かの声が響く。

 それは奥の方の牢屋からの物で、僕とリシアは立ち止まった。


「リシアか!? リシアだろぅ!? たとえ見えなくても、私には分かる!」


 そう叫ぶ男性の声。

 鉄格子を掴む音が響く。

 奥は暗くてその姿は見えなかったが、明らかにリシアの事を知っている様だ。


「え、ちょ。何? 気持ち悪っ。なんで私の名前知ってるのよ」


 だが当の本人は心当たりない様子。


「リシア。もしかしていけない稼ぎ方してる?」


「してないわよ! 私の体はそんなに安くないわ!」


 少し揶揄うとそう憤慨した。


「リシア。すまなかった……。全て私が悪いんだ。私が……」


 奥の人影が、ずるずると下がって丸まった様に見えた。

 男性は土下座している様だった。


「すまなかった……すまなかった……」


 そううわ言の様に繰り返す。


「な、なんなのよ……行きましょ」


 若干引いた様子のリシアの言葉で、僕らは移動を再開した。

 ただ後ろからは、男性の啜り泣く声が響いていた。









 街は所々火の煙が上がり、警鐘やサイレンが鳴り響き、人が慌ただしく動きだす。

 有事である事は間違いない様だ。


「アズサ。これ」


「あ! サンキュー!」


 帝都を駆け抜ける中、クレナに相棒を渡される。

 右腰に落ち着く相棒。やはりこれがなくてはな。


 牢屋は王城内にあった様だが、幸い道中の交戦も無く脱出には成功している。と言うか、クレナの行きの時点で避けられない相手は既に無力化していた様だ。

 中々ゴリ押しでの脱獄である。

 道順ルートはグレンが調べ上げた隠密性重視の道。どうやったか謎だが、クレナの元に道順とグレンのサインが書かれた紙が届いたらしい。

 あいつも中々危ない橋渡るな。

 だがこう言った無茶する時には頼りになる奴だ。


「リシア。衛兵が持ってた。取り合えず持っとけ」


「了解」


 そう言ってクレナは銃を渡す。リシアも素直に受け取っていた。


「それで? リリスがどこに行っちゃったか目星はあるの?」


「それが問題だ。リリスならどこに行くと思う? いや、ここはリリスが、『俺達がリリスならどこに行きそうか』、と言う事を考えて場所を選んでいる筈だから、リリスが俺達がリリスを、あぁクソ!」


「お、おーけー。ややこしいけど、何となく言いたい事は分かった!」


 僕は少しリリスの身になって考えてみた。

 宿、広場、飲食店、組合ギルド、色々な場所が思い浮かぶが。


「やっぱり、リリスがまだこの町に居るとはとても思えないよ。リリスならきっと出る筈だし、その答えに僕らが達する事も、リリスなら見込む筈だ」


「ああ。俺も同じ考えだ。そして行先はきっと北東。アルヘイムとを行き来する転移陣のある場所を目指す筈だ。例え使える見込みが無くとも、俺達が共通で知っている場所はあそこくらいだろう」


 なるほど。

 きっとそこで間違いないな。


「だが一つ憂慮しなければならない点がある」


「何?」


 と、クレナの呟きに問うと、彼は一泊置き。


「実際に、リリスがバティンの悪魔憑きである可能性だ」


 そう答え、僕はそれに一際心臓が波打つのを感じる。


「ありえない! そんな事ない!」


「分かってるよ! そう思いたいよ……。だがな、リリスのあの強さが、バティンの力を借りての物であるなら、俺は納得する」


 その言葉に、険しいが真っ直ぐ前を向いた視線に、僕は返す言葉を失くす。


「そしてだ。このタイミングでの悪魔教の襲撃。そのお陰で俺達は逃げおおせているが、仮にリリスがバティンに精神を乗っ取られて、今現在も悪魔教側に付いてるとしたら、どうする?」


 僕は徐々に走る速度を落としていった。

 ついには立ち止まり、数歩先でクレナは僕を振り返った。


「その時は遠慮なく討伐されるだろう。俺達は何かしらの共犯者として追われる事になる。今もそうだからそこは覚悟の上だが」


「リリスを見捨てれない!」


「そう言う事だ」


 間入れず叫ぶ僕に、クレナも頷く。


「仮にだアズサ。今蔓延っている悪魔教共の掃討に、俺達が貢献したらどうだ? 喩え結局捕まる事になろうと、共犯者の疑いは薄れ、減刑もされるだろう。何より、リリスの元に近づく。そしてリリスをバティンや悪魔教のクソ共から奪還する」


 グッと、僕は拳を握った。


「無論、今のは全て杞憂で、リリスは一人陣の方へと向かっているのかも知れない。まぁ、その時は……皆で笑ってお縄になろう」


 そうクレナは、最後清々しい笑顔で言い切った。


「よし。腹は決まった。戦おう」


「無論だ」


 クレナは短く応じる。

 据わった目だ。きっと僕もそうだろう。


「まぁ、取り合えずはマリンと合流して……」


 そう再度走りながらクレナは呟いて、次第速度を落として止まった。

 視線を周囲に動かし続ける。


「居ないじゃない」


 と、リシアが呟く。

 クレナの表情が焦燥に染まった。

 ま、まさか迷子!?

 このタイミングで!?


「あ、あそこ」


 と、リシアが指差す先、こちらへ背を向けて歩くマリンの姿があった。

 直ぐに駆け寄る僕ら。


「マリン! 勝手に動いちゃダメだろ!?」


 そう真剣に怒ったクレナ。


「ご、ごめんなさい」


 マリンは謝り、クレナもほっと力を抜いた。


「無事で良かった。何かあったのか?」


「ううん」


 クレナの腕の中で答えるマリン。


「そっか。もうお兄ちゃんと離れちゃダメだぞ」


「うん」


 二人は手を繋いで落ち着いた。

 一先ず無事が確認できて安心である。


 と、気づくと一人の少年がこちらに来ていた。

 黒い髪に一、二束青い髪が混ざり、瞳の色も深い青だった。

 酷い猫背で顔は角度を変え、明後日の方を向いているのに視線はこちらに寄越している。こちらを見ているのに何故か目は合わない。

 そして思わず寒気だってしまう様な笑みを浮かべていた。


 失礼ながら、ちょっと友達にはなれない感じだ。


「ふへっ、ふへぁっ」


 少年が笑う。

 瞬間、僕とクレナは剣を引き抜いた。


 少年の腰に差してある剣。

 このタイミングでこの狂った登場。

 どう考えても悪魔教だろう。


 と、僕は屋根の上に立つ人影に目が留まる。


「あ、リリス!」


 それはリリスだった。

 リリスはこちらが気づいたのに気づくと、ローブを翻して去って行った。


「ま、待ってよ、リリス! どうして逃げるの!? ッ」


 少年の振るった剣を相棒で受け止めた。

 直ぐにクレナが少年を蹴り飛ばす。が、同時に飛んでいた様で、少年に傷は無い。


「アズサ。ここは任せて先に行け。今リリスを見失うと拙いぞ。行先は見当もつかない」


「りょ、了解! 任せたよ!」


「ああ、そっちこそな」


 その会話を最後に、一度僕は皆と離れた。









 アズサが離れた後、クレナは二人を背に少年と対峙していた。


(あいつに自覚は無さそうだが、やはり身体能力や練度が上がっているな)


 意外にもすんなりと少年を横切り、駆け抜けて行ったアズサを見て思うクレナ。


「リシア。自分の身を守る事だけを考えていればいい」


「え、ええ」


 クレナに応えるリシア。

 銃を構えるその手は、震えていた。


「一応聞いておくが、何者だ?」


「何者ぉ? ふへ。ふへへっ」


 少年はふざけた様に笑い。


「ふへぁあ!」


 斬りかかった。

 剣戟の応酬を行う二人。


(この太刀筋……)


 そして、クレナは何か既視感を覚えた。

 前にもこんな事があった筈。

 そうだ。あの時である。ロビアの町の武器庫にて、襲撃を受けた時だ。


「お前は……そうか。この戦いも二度目……いや、よもや三度目だな?」


 少年は薄ら笑いを浮かべるだけで答えない。


「しかし面が違う。お前のその体、本当にお前の物か?」


「ふっへへ。もう俺のだよ」


「そうか……」


 その返答を聞き、クレナの目は据わる。


「今回こそは逃がさない。いや、普通に殺す」









(り、リリスったら、どんな所走って……)


 そう思いながら、僕もパルクール宛らに屋根の上を走っていた。

 三角屋根に足を滑らせる中、いずれ一人の男が目の前に対峙した。


 白髪で深い緑の瞳。

 腰の剣と纏う雰囲気から一般人でない事くらいは分かる。


「どけよ。殺すぞ?」


 そう睨みつけて告げた。


「ククッ。相変わらず良い殺気を放つな」


 と、余裕ある男の発言に眉を顰める。


「誰?」


「グゼンだ」


「は?」


 思わず声を零した。


「グゼンは殺した。他でもない俺がな。それとも襲名制か何かなのか?」


「いいや、私は紛れもない、貴様と戦ったグゼンだ」


 グゼン。ロビアで確かに殺した相手。しかしどこか感じる似通った雰囲気。


「ありえない」


 僕はそう呟いた。


「あの時、確かに私は死んだ。だが、私の魂は別の者の肉体に入れ替えられ、こうして復活を果たした」


「べ、別の者……だと?」


 在り得なくはない、のだろう。

 この世界は普通に輪廻転生が認知されている。その応用か。


「お前、バティンの下に付いてたらしいな? 紅の魔王から聞いた。お前等は何なんだ! 本当にバティンが復活したとでも言うのか!?」


「ふっはは! バティンか……。ああ、そうだな。今頃、当てつけにルリヤ教の教会で復活の儀でも行ている事だろう。まぁ、私には関係ない」


 と、男、いやグゼンは答え、剣を引き抜くとその先をこちらに向けて来た。


「私に興味があるのは貴様だけだ。貴様を殺しに来た」


「ああ、そう。じゃあ殺すよ」


 こいつに興味はない。

 サクッと殺してやる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ