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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第五章 エルドラド帝国編
112/173

112:第二皇女



 夜更けに沈む静寂の中、一人部屋のバルコニーへと出た。


「第二皇女と会うらしいな」


「耳が良いみたいで」


 下から来たグレンの声に返事する。

 あいつは真下の部屋を取ってるらしく、姿は見えないが同じ様にバルコニーへと出ている様だ。

 僕は柵に腕を置き、月明かりに照らされた街を見下ろした。

 流石にこの時間は寒いな。


「それで? 何だよ話って。こんな時間に呼び出してさ」


 僕は早々に話を切り出す。


「これはリリスには話してるんだが、やはり言った方がいいと思ってな。お前ら、最近何かに着かれてるぞ?」


「え? な、何かって何?」


「さぁな。ただ気をつけろ。恐らくプロだ」


「何で僕らに……って」


 ティアちゃんか。

 何かに巻き込まれる理由はこれで十分な気がする。

 嫌だなぁ。面倒なのは。

 まぁ、何かあってもクロムさんがどうにかしてくれるかな?

 魔王さん推薦なら腕も立つだろうし。


「分かってると思うが、今お前のすぐ近くには一国の要人が居る。何がどう絡んでるかは知らんが、警告くらいはしておこうと思ってな。まぁ、判断するのはお前らだ。好きにするといい」


 そうぶっきらぼうにも取れる言い方で彼は言った。

 が、色々考えた上での事なのだろう。


「ねぇ。何でそんなに僕らの事を気にかけるのさ」


「言ったろ。お前らの事が少し気になったからだって」


「それじゃ納得行かないよ。その理由を説明しないと」


 到頭踏み込んで訊いたそれに、場の雰囲気もあってか彼は次第に口を開いた。


「俺にも仲間が居てな。お前らみたいに腹の中見せ合った仲じゃ無いだろうが、ずっと一緒に居た」


 まるで思い出す様に彼は語る。


「だがお前の何かを見て俺の元を去ったんだ。だから、お前と居れば何か分かるかなって」


「その人って、あの青髪の人?」


「よく覚えてるな」


「君が誰かと居るの、エリィ以外じゃあの人しか見てないし」


 懐かしのロビアでの日々。

 彼はその人の事を気にかけていた様で印象に残っている。


「つまり振られた女の子の跡を追ってるって事? 未練タラタラじゃん」


「チッ……お前が隣に居たら抓ってる所だ」


 居なくてよかったぁ。


「十中八九無いとは分かっているが、お前その青髪と面識は無かったよな?」


「無いよ。あり得ない」


「そうか」


 確認の為訊いた様で、そこに落胆も安堵も無い。


「でも、そっか。君も人を探してるんだね」


 僕は気づくとそう呟いていた。

 もしかして、『あの人』の方も僕を探してくれてるのかなぁ……

 なんて。









 数日経って、漸く予定の日になった。

 予定とはティアちゃんと共に皇女様に会う日だ。

 ここ数日色々と濃くて長かった気がする。


 宿の前まで二台の馬車が迎えに来ていて、僕らはそれに乗り込んだ。

 四人乗りの馬車で、ティアちゃんとクロムさんが乗ってる馬車に僕とクレナで乗り込んだ。

 もう一台の方にエリィを含めた女子組が乗り込む。グレンは相変わらず面倒事にはのらりくらりだ。

 今更だが、こんな大所帯で行っていいものか。

 まぁ、僕一人で行くよりはよっぽどいいけど。


「これ、お土産。良い子にしてた分のご褒美だよ」


「わー! 何なのだ?」


 僕が取り出した小さな箱にティアちゃんは目を輝かせる。

 包装を雑に破いて取り出した中身は、紫色のリボンだった。

 艶やかな布地で、髪留め用である。色はティアちゃんの瞳をイメージして選んでみた。あざといくらい可愛らしいのがティアちゃんには似合う。それにこう言うの好きそうだ。

 安物のつもりは無いが、まぁ、さすがに王族からしたら大差ないだろう。


「綺麗なのだ! 褒めて遣わす!」


「身に余るお言葉です」


 冗談っぽく頭を垂れてみせる。

 それなりに喜んではくれたみたいだ。









 向かった先はなんと王城である。

 まぁ、皇女様に会いに行くんだから当たり前かも知れないが、さすがに緊張する。


 門を通ったと思ったら延々と続く様な道や所々橋があり、立派な城壁を潜って漸く王城が目の前に来た。

 それもだだっ広い庭だ。いや、玄関前だしそもそも城なので庭と言うかは分からないが、とにかく贅沢な土地の使い方である。


 ちなみに相棒の鞘だが無事完成して、今の今までは右の腰に落ち着いていた。

 一応客人扱いの様で、門のところで早々にも没収されてしまった。

 まぁ、仕方ないだろう。

 ごめんよ相棒。


 その後使用人っぽい人達に丁寧に案内されて場内を進む。

 印象は青と白、である。

 青い大理石の様な石材で床は埋め尽くされ、柱や壁は白い石材。

 外観もそうだったが場内も非常に綺麗であった。

 見た目に凝られた建造物と言う意味でもそうだが、単純に清潔感がある。

 廊下は磨かれ、自然の光が入るよう計算されている気がする。


 そして皇女である。

 この国の第二皇女。

 客室にて寛いで待っていると、ついにご対面の時は来た。

 幾人かの使用人と騎士を側に客室へと入って来る第二皇女。


 綺麗な青の髪と瞳を持つ美しい少女である。

 色白で小柄。年齢は12、3とかか? 身長もマリンより低い。

 サイドの髪をひと束編み込み、後ろで束ねて団子を作っている。

 服装は白と青を基調とするドレス姿。

 王女然とした美しいお姿だ。


 って……


「「あー!」」


 僕と皇女は目を合わせるなり、そう互いに指を指して驚いていた。

 何せその皇女とは、最近迷子になっていた所に居合わせた女の子だったのだから。









 迷子になっていた所に居合わせたってのが僕もそうなのが悲しい所だ。まるで叙述トリックだな。なんて一人で可笑しくなっていたらリリスに肘で小突かれた。

 幸い思考を読まれたのではなく、僕の態度に対してだったらしい。

 いや、そっちも大概だが。

 ともかく人に指を指すのはやめて姿勢を正した。


「え、えっと。失礼致しました。わたくし、エルドラド帝国第二皇女のティアラ・フォート・レル・エルドラでございます」


「お初にお目にかかります。わたくし、アルヘイム魔王国第一王女、ティア・ラミリィ=ラヴ・ウル・アルヘイムと申します。どうぞご気軽にティアとお呼びください」


 誰だと言いたくなる様な外向きのティアちゃんが、同じく冷静さ取り戻したらしいティアラ姫に応じる。

 やっぱ並ぶと顕著だが、ティアちゃんは発育遅めで身長が低いな。

 まぁ、ティアラ姫の年齢は知らないが。


「アズサと知り合いなのだ?」


「なのだ? え、ええ。そうなのだ、です。困っていた所を助けて……いただいて」


 さっそく口調が崩れたティアちゃんに、ティアラ姫が影響を受けつつ応じた。

 一瞬間があったのは僕の顔を立ててくれたのだろう。

 何てできた子なんだ。


 小さく『あ』と呟いて、リリスに気付いたティアラ姫が白い手袋に包まれた手を振る。

 リリスもそれにローブを摘むとお辞儀した。

 見よう見真似だろうが、リリスがすると様になるな。


「何だが置いて行かれてる気がするのだ……。まぁ、いいのだ。仲良くするのだ!」


「え、ええ。よろしくお願いしますね」


 両手を上げて元気に言うティアちゃんに、ティアラ姫は少々面食らいつつも応じていた。









「で、えーと。そちらの方々は?」


 と、挨拶もそこそこに、当然ティアラ姫の興味はこちらに向く。


「あ、こ、これを。アルディ陛下からの物です」


「まぁ、ご苦労様です」


 僕は緊張しつつも魔王さんから預かっていた封筒を差し出した。

 どれくらい近づいていいか分からず恐る恐る近づいたが、側に控えていた給仕の人が受け取ってくれた。

 僕から渡したのは形式的な物で、中身は適当な挨拶程度の手紙らしい。

 そりゃ国家機密級のヤバい物を僕に預けないだろうが。


「ティア様の……お友達か何かですか?」


「アズサはアズサなのだ」


「た、ただの一介の冒険者です」


 説明不足なティアちゃんに変わって言う。

 身元不明の不審者集団な訳だが、首飛んだりしないだろうか?

 ほんとに場違い感が凄いんだけど、魔王さんは何を思って僕らに一噛みさせるんだ。


「アズサ様?」


「失礼ながら、存じては」


 と、ティアラ姫が視線を向けた騎士はそう応えた。

 中年の男性だ。赤銅色の髪と瞳、そして軽装な鎧を着ている。

 何というか、一目見て只者ではないと分かる。身の熟しと言うのだろうか? 素人目だが隙が無い様に思う。

 魔王政府の人や魔王さんと関わって目が肥えてるのかも知れない。









 あれ? どうしてこうなった?


 僕は目の前で木剣を構える騎士を見てそう思った。

 赤胴色の髪の、あの強そうな人だ。


 ここは一応屋内だが天上も広く、床は石畳で頑丈そうだ。

 そして周囲をぐるりと囲う観客席。

 まぁ、所謂闘技場と言うやつだ。本来は訓練場の一つらしいが。

 ティアちゃんとティアラ姫の二人を中心に、僕らはそれなりに穏やかなお茶会を行い、その後場内を案内しながらお散歩、そして闘技場を見ると案の定ティアちゃんが『近衛騎士なのだから強いのだろう? 私と戦うのだ!』と言う元の我が儘お嬢様っぷりを遺憾なく発揮し、折衷案としてお互いの騎士同士が模擬戦をする事で落ち着いた。

 で、ティアちゃんの推薦で僕だ。


「おお! こう言うのが見たかったのだ!」


「そうでしたか? 喜んでいただけて良かったです」


 と、そんなティアちゃんとティアラ姫の会話が観客席の方から聞こえる。

 手を振るとエリィとティアラ姫だけ振り返してくれた。

 純粋で可愛らしい子だ。


「え、えーと。よろしくお願いします。作法とかあんまり分かってませんが、目を瞑っていただけると幸いです」


 僕はそう会釈しながら騎士に言った。


「ええ。簡略的な物で構いませんよ。それぞれの得物を眼前に掲げ、15度の礼、好きなように構え、後、合図共に始める……。帝国流で構いませんか?」


「あ、は、はい!」


 騎士の言葉に頷く。

 良かった。簡単そうだ。


 僕は隙の無い立ち姿の騎士を見る。

 これは何もティアちゃんの我が儘に付き合っただけではない。断ろうと思えば断れたのだ。

 だがこれは何かを掴み得る貴重な機会だろう。魔王さんの時もそうだったが、やっぱ人から学び取ってなんぼだ。

 普段は関わる事すらない人なのだから、こうやって模擬戦をできるのはありがたい事だ。


「あの、せっかくなので名前訊いてもいいですか? あ、僕は預咲です」


「おや、これは失敬。私は皇家に従える忠実なる剣、ハルバルト・ラインと申します。以後、お見知りおきを」


 ハルバルト・ライン? どっかで聞いた事ある様な……


「ああ、あの人が……掛かってるのは体の方だったのか。じゃあどっちにしろ」


 と、前列に集まっていたエリィが何やら呟いていた。


「あ、もしかして革命家の……?」


「ご周知いただけてるとは光栄です。彼の革命家、ハルバルト・ライナーとは私の七代前の先祖に当たります」


「へぇ~。確か珍し祝福を受けているんでしたよね」


「ええ。私には体に二つの祝福を受けています。『戦神の祝福』と、『豊穣の祝福』です」


 あれ? 僕は革命家ライナーの方を言ったつもりだったが、この人も受けてるのか。

 何気に祝福を受けた人って、リシア以外じゃ初めて見るんじゃないかな?


「ちなみにその効果を訊いても?」


「前者は単純な戦闘能力の底上げ、そして後者は経験値効率の向上です」


「経験値効率?」


「ええ。生物を殺めた際に得られる霊力。その増減に良い補正が掛かります」


 なるほど。そりゃ確かにレベルは上がり易そうだ。


「人々の成長を促す事その物が効果の祝福です。何時しかその主神は豊作と繁栄を司る神などと言われ、その祝福は五穀豊穣にも勝る奇跡だと人々は崇拝しました。故に名を──」


 そして、ライン氏は改めてその名を告げた。


「『豊穣の祝福』」


 と。

 豊穣の祝福。

 地味だがかなり強力な祝福の様だ。


「早くやるのだー! 負けたら承知しないのだー!」


「お嬢様。お戯れを」


「むぅ」


 と、うちの堪え性の無いお嬢様がクロムさんに注意されて口を尖らせていた。

 はいはい。やりますとも。


「えっと。お願いします」


「ええ」


 そう一度頷き合い、互いに作法に則った礼をする。

 次に両手で中央へと木剣を構える。

 クレナから教わった基本的な五つの構えの一つ。正眼の構えである。

 後。


「始め!」


 そのティアラ姫の言葉で、僕は駆け出した。

 圧倒的な格上である以上遠慮は要らない。

 足を踏み込み、腰から力を入れて木剣を振るう。

 軽やかな動きで剣を躱され、往なされる。止められようものなら全体重を掛けたって動かないと思われた。


「わっ」


 大きく空ぶった木剣。そのまま下に打ち込まれ、剣先は地面を突き、足先で固定された。

 気づけばトンッと、肩に木剣が置かれていた。


「そこまで!」


 ティアラ姫の言葉が響き、ふっと木剣を封じていた力が抜かれる。


「この勝負、ハルバルト・ラインの勝利です」


 そうティアラ姫が宣言し、礼をするライン氏を真似て僕も礼をした。


「とても楽しませていただきました。素晴らしい動きでしたよ。アズサさん。ラインも、良き働きです」


「はっ。身に余るお言葉です」


 そう深く頭を下げるライン氏。

 ティアラ姫の言葉はさすがに常套句だろうな。


「むむむ……」


 と、大人なティアラ姫の隣で恨めしそうに唸る姫がもう一人。

 僕はそれに苦笑する。

 ティアお嬢様、さすがにこれは無理がありますって。


 にしても、やっぱ強いなぁ。

 一回の模擬戦で終わったのが勿体ないところだ。


「ふっ。物足りないと言う顔ですな」


「え? あははぁ」


 と、移動を開始した皆んなを見送るのもそこそこに、ライン氏を見ていると図星を突かれてしまった。

 僕のやる気はどっちかと言うと、貧乏性から来るものだが。


「意外と貪欲な精神をお持ちなのですね。せっかくですから、何かご質問等あればお答えしますが」


「え、えっと。じゃあ、せっかくなんで」


 せっかくの機会なので訊いてみる事にした。


「レベルって幾つですか?」


 と、ライン氏は僕の質問に目を丸くしていた。


「ふははははっ!」


 そして途端に大きく笑い出す。


「案外アズサ殿は物怖じしない方の様ですな。いや、失敬。先ほどの模擬戦では勝手ながら、良く言えば慎重、悪く言えば遠慮がちな印象を受けていたもので」


 そうかなぁ? なるべく遠慮はしない様にしてたんだけど。

 まぁ、プロが言うのならそうなのだろう。


「しかし、残念ながらそれにはお答えできません。私のレベルは国家機密であります故」


「そ、そうでしたか」


 レベルってあんまほいほい訊く事じゃなかったのかな?

 悪い事しちゃったな。


「ですが手合わせ頂いた礼です。ちょっとしたヒントくらいはあげましょう」


 と、肩を落とす僕にライン氏は言った。


「ランク別の平均レベルは知っていますか? あくまで巷での噂ですが、私は『A−』相当の強さがあるそうです。そして人類の最高峰、Aランク帯とされる基準レベルは最低90だそうです」


 90? って事は、この人レベル90もあるの?

 なんだか途方もなさすぎて実感が湧かないな。

 って言うか、Aランクなんてギルドの張り紙でも見た事ないぞ。

 亜種竜すら余裕をもって狩れるレベルの筈だ。


「あくまで噂と基準を合わせた私見ですがね」


 と、ライン氏はそう悪戯っぽく笑っていた。


「祝福って、確か革命家の方も受けてたんですよね? 何の祝福だったんだろうなー、みたいな……」


 話もそこそこに僕は気になって訊く。


「良く聞かれますが、私にもそれが何だったのかは知り得ていないのです。個人的には、女神ルリヤ様による『天賦の祝福』ではないかと、恐れながらも願望ありきで考えているのですがね」


 女神ルリヤ。

 確かこの国で最も崇拝されている女神だったか。

 この国に来て半月程だが既にその名は耳に届いている。


「約200年前、革命が成功してまだこの国ができたばかりの時、不安が残る民を見かねて一人の麗しき女神様がご降臨しました。その女神様が群衆へ向けてこうお言葉を放ったそうです。曰く、〝天上より来たれし我が神の名に於いて、この国の建国を宣言すると共に、この地に於ける幾千年の繁栄と栄光を約束する〟……と」


 へぇ〜、立派なお言葉だなぁ。


「その女神がルリヤ様であり、その時側で女神をお守りしていた騎士がハルバルト・ライナーです。その事が我らハルバルト家の何よりの誇りなのです」


 と、そう語ったライン氏は少し顔を澄ませた様に見えた。

 少々興が乗ったのかも知れない。


「ええ。本当に、先祖代々から良き働きですよ」


 と、後ろを振り返ると、ティアラ姫を先頭に皆が降りてきていた。

 あ、皇女様に迎えに来てもらうなんて、話に熱中し過ぎたな。


「あの様な悲劇が二度と起こらぬ様、我々は戒めなければなりません」


「悲劇……?」


「ええ。内乱が始まった当初、かつての帝国の前身であった旧シラント王国はとある禁忌を犯しました。戦争に悪魔を利用してしまったのです」


「なっ」


 聞くからにヤバそうじゃん。


悪魔君主アーク・デーモン。悪魔の最上位種。この国では一種の恐怖の象徴です。それを旧シラント王国は召喚してしまったのです。いえ、できてしまったと言った方が正しいでしょうか?」


 そうティアラ姫は話す。


「旧シラント王国は反乱軍の殲滅をその悪魔に命じました。そしてその対価として、悪魔は旧シラント王国の滅亡と、その民の魂を要求しました。旧シラント王国はその要求を呑んだのです」


 僕は話のめちゃくちゃさに絶句する。


「同士討ちになってしまえばいい。旧シラント王国はそう考えていたのです。しかし悪魔の力は強力でした。その力は旧シラント王国でも扱い切れなくなり、ついには旧シラント王国にも牙を剥きました」


 既に終わった歴史の話の筈なのに、僕は固唾を呑んで聞いていた。


「そんな時に現れたのが、ハルバルト・ライナーです」


 おおー。繋がった。

 安心感凄い。


「彼は革命軍を指揮すると共に、悪魔君主アーク・デーモンすら討伐しました。こうして現在まで続く平和は訪れた訳ですが、その間に流れた民の血は計り知れず、その悲劇を繰り返さぬ様、我々は自身を律さなければなりません」


「……な、なるほどー」


 どうしよう。『大変だったんですね』くらいの感想しか思いつかない。

 瞳を閉じて話の締めを示すティアラ姫に、僕が勝手に申し訳なく思っていると。


「伝え聞くその悪魔の名は、バティン」


 と、言葉に、僕は何か引っかかる。


「悪魔教幹部であったとの伝説もあります」


「え?」


 そしてその説明を聞いて完全に思い出した。

 その悪魔の名は、魔王さんが話していたフィットネアの地に住んでいたと言う悪魔の名と同じだった。


「いや、待ってください。バティンは生きてる筈です。だって」


 僕はそこまで言って、はたと気づいた。

 紅の魔王さんとそのバックの天界と言う確かな情報筋ではあるが、それを言ってもいいものか。


「だって?」


 言葉を止めたっきり黙ってしまった僕に、そうティアラ姫は疑問そうな顔を向けていた。


「な、何でもないです」


 僕は結局、そう誤魔化した。



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