111:二匹の猫と一匹の犬
今しがた声を発したと思われる少女が、こちらを向いて驚いた表情で固まっている。
その両脇一歩下がって居る他二人も、こちらをじっと見ている。
三人とも獣人と呼ばれる存在だった。
中央の少女が水色の髪をした頭に猫耳を持つ少女。右手に居るのが青髪をした頭に猫耳を持つ少女。二人とも14、5歳くらいと見受ける。
そして左手に居るのが赤毛を伸ばした頭に、犬の様な垂れ耳を持つ小柄な少女。13歳くらいに見える。
こちらを観察する様に見てくる三人を『何だ?』と見返して居ると、赤毛の少女がてくてくとこちらに寄って来た。
「あ、あの。急にこんな事言われても、不審に思うかと思いますが……私達に見覚えは?」
「え? えーとー」
そう赤茶色の瞳で見上げて問う赤毛の少女に、僕は困ってしまって三人を見る。
「な、無いですけど」
僕は躊躇しながらも答える。
と、その返事にずっと無表情だった青髪の少女が踵を返して歩き出す。
「あ、よ、ヨモギちゃん!」
よもぎ?
慌てた様に呼び止める赤毛の少女の言葉に首を傾げる。
と、赤毛の少女はすぐにこちらを向き直り。
「い、犬と猫二匹です! わ、私達前世で動物だったんですけど、その時私達をお世話していた人とどこか似てるんです! だ、だから」
必死に訴えかける少女の言葉に、僕はふわりと内臓を撫でられたかの様な感覚を覚える。
これは緊張だ。
「つまりは私達の前世のご主人じゃ無いか……ってにゃ。心当たりは?」
と、尻すぼみしていった赤毛の少女に変わる様に、水色の髪の少女がこちらに近づき問う。
僕はその猫耳を持つ少女の水色の瞳を見て。
「ある」
そう思わず呟いた。
足先の感覚が無くなっていくのを覚えた。
「でも、嘘だ……。そんな事」
震えそうになる足で小さく後ずさった。
揺れる瞳で二人を交互に見た。
赤毛の少女が目に止まる。
どこかに感じるその面影。
「あ、小豆?」
いつか飼っていた柴犬の名前を呼ぶ。
「そう呼ばれていた気がします!」
ピンッとふさふさの尻尾と背筋を立て、やっと最後のピースがハマったの如く頷いた赤毛の少女。
でも、そんな。
でき過ぎてる。
「す、姿が違う筈なのに、何で」
『分かったの?』とは言えなかった。その言葉は既に認めている事実を明確にしてしまうから。
「な、何となく?」
そしてその答えは、僕が彼女らに感じてる物と同質の物だった。
◯
『うおぉぉんっ。おんっ、おんっ』とでも表現しようか。文字に起こすと馬鹿馬鹿しいな。
ともかく僕は大きく泣いた。それはもう子供の様に。
そして前世、生前での主従関係、いや友達、いや家族だった者同士の感動の再会への相手の第一声は。
「うわっ。何この人。めっちゃ急に泣いた。ちょっとヤバい人声掛けたかにゃ?」
「そんな事言わないでよおぉぉっ!」
冷たい事言う水色の髪の少女に僕は泣き叫ぶ。
「こ、こらっ。リアちゃん。きっと再会に感動してるんだよ。ねっ?」
「うん! うんっ!」
笑って問いかける赤毛の少女に頷く。
涙が溢れてまともに前を見れない。
「本当に小豆なの? 本当の本当に?」
「はい! 前世は記憶から察するに犬でしたよ! 多分アズキです! 今はメイですけど」
と、最後困った様に笑う赤毛の少女。いや、メイ。
「本当に、こんな……! 会えて、よかっ」
僕は言葉の合間に嗚咽を零す。涙を拭う。
「メイったら凄いにゃ! 本当にご主人だったなんて!」
「う、うん」
元気な水色の髪の少女とは反対に、メイは青髪の少女の行方が気になるかの様に目で後ろを追った。
「ご主人私の事も覚えてるの? 私はメイと違って殆ど前世は覚えて無いんだけど」
泣き腫らしたろう目で水色の髪と瞳、立派な猫耳を持つ少女を見る。
「猫って事は、小梅か蓬のどちらかと思うけど」
その返事に少女は心当たりがあるかの反応があって少し間が空いた。
「へぇ〜。じゃあコウメかにゃ」
「う、うん。何だか雰囲気的にもそう思う」
この人当たりの良い感じ。灰色の毛並みをしていた小梅に似てる。
それから色々と三人で話した。
先ず、三人は帝国内に存在する獣人族が集まる里での生まれである事。
その中でも三人とも里の中枢を担う家系である事。
そして里の風習で、跡取りとなる者は里から出て数年の旅をし知見を広める事。三人はその風習に従事している最中である事。
前世の事は其々何となく覚えていたり、何かのきっかけがあったりと様々ではあったが、とにかく三人で同じ人物の元飼われていたのは共通認識だったらしい。
前世の事を考えると記憶やその時の動物としての感覚が混濁していて自分が何者かであるかは判断しずらかったらしいが、主に小豆の記憶で何となく其々犬と猫であろう事は分かった様だ。
だが前世の事で分かったのはそれだけらしい。
『だって私、ご主人の事鈍臭い猫だと思ってたし。多分前世の時から動物としての自分を自認できてたのはお姉ちゃんだけだと思う』
とは水色の髪の少女、リアの言葉だ。
それぞれ前世では柴犬であった小豆がメイ、灰色の猫だった小梅がリア、そして黒猫の蓬だけヨモギのままだ。
とんでもない偶然だ。
そして小梅と蓬は今世では双子の姉妹らしい。
「リアかぁ……良い名前だ。もちろんメイも。そっか、そっか。ちゃんと元気にやってたんだね。良かった。本当に良かったよぉぅ」
僕は一通りを聞いてまた泣いてしまった。
「ご、ご主人泣きすぎだにゃぁ〜」
「だ、だって、ごぶべぶぇ」
「ご、ごめん。なんて?」
苦笑い気味に聞き返すリア。
「アズサ!」
と、聞き覚えのある声が渡る。
リリスがこちらに駆け寄ると僕を庇う様に前に出て、二人に睨みを効かせながら後退した。
「ち、違っ。リリ、リリス。リリス、違うんだっ。大丈夫だから。そう言うのじゃないからっ」
僕は誤解してる様子のリリスに必死に言う。
「お、お連れさんかにゃ? 初めまして」
若干緊張した様にリアが言い、メイもぺこりと頭を下げた。
◯
「は、はぁ。にわかには信じられませんが」
と、掻い摘んだ説明を受けたリリスがそう零す。
それはそうだろう。僕だって夢みたいな出来事だとは思っている。
リリスは話を信じる信じないとは別で、いきなり現れた少女二人を警戒してるみたいだった。
僕は改めてよく二人を見る。
リアは綺麗な水色の髪を肩に掛かるまで伸ばした少女で、特徴的なのは人の耳よりずっと上から生えた猫の耳。その毛並みは髪色と同じで淡い水色だ。
身長は僕と同じか少し低いくらい。僕の身長が160ちょっとだから、女性にしては高い。ヒールのある靴を履いてるとは言え僕の身長に迫るとは。
と言うより猫耳まで入れたら全然抜かされちゃう。
成長を喜ぶ嬉しい様な複雑な気持ちだ。
そう言えばリシアが獣人は成長が早いとか言ってた気がするな。
服装は日差し避けの短い青色のマントを羽織り、中は可愛らしい白のブラウス。胴回りに皮素材のコルセットを着ている。
腰のベルトにはポーチと革の鞘の短剣が下がっている。
青のミニスカートからすらりと伸びる長い脚には、膝上まで白いソックスが覆い、更にロングブーツが膝下を覆う。
ちょっとヒールが高くて、茶色い皮素材。コルセット同じく紐で結ぶタイプだ。
全体的に青、白、茶色が意識された格好だ。
何より気になってしまうのはスカートから伸びる水色の毛並みの尻尾だろう。
しっとりとした毛並みの猫の尻尾。よく手入れされているのが分かる。
スカートを捲って付け根を確認したい衝動に駆られるが、流石にそれをすると知的好奇心からという言い訳の前にお縄だろう。
何よりアルヘイムで前科ありだ。リリスからの信用がガタ落ちかねない。
メイは赤毛の髪を背中に流れる程伸ばした少女で、癖っ毛の髪がぴょんぴょん跳ねている。そして犬の耳が頭の上にペタンと垂れる。
犬耳も同じように毛並みは赤毛である。赤毛の中でも茶色味の強い赤毛だろう。栗色? クリーム色? それか全部足して割った様な色だ。総じて茶色でいい。
身長はリリスと同じ印象だ。素のリリスとだ。少しヒールのある靴込みでそれだから、150c m無いのは確実だろう。
服装は白いフリルの付いた淡い赤色のワンピース姿。清楚ながら健康的な四肢を出している。
髪の毛の上から羽織った赤い頭巾。フードは被らずマントとして使ってるみたいだ。
リアと同じく皮素材のコルセット。膝辺りまで降りたスカート部分と白の前掛け。しっかりと肌を隠した白いソックス。膝下まで覆った丈夫そうな皮のロングブーツ。ベルトから下がった大きめのポーチと革の鞘の短剣。
赤、白、茶色を基調とした可愛らしい恰好だ。まるで童話の中から飛び出してきたかの様な印象を受ける。
そして後ろで揺れる茶色い尻尾。フサフサのふわふわだ。それがメイの後ろからチラチラと見え隠れしていた。
スカートが上がってないのを見るにこちらは何処からか服の外に出してるみたいだ。
どうにか隙を見て後ろへ回りたい。そして付け根を確認したい。
無論知的好奇心からだ。
ずっとニコニコと微笑んでいるメイ。
目が合うと小豆の頃の人懐っこさを思い出させる様な微笑みを返してくれた。
一歩近づいて手を半ばまで上げて止まる。
こちらを疑問そうな目で見つめているメイ。
あ、危ない。撫でる所だった。
そうだ。勘違いしていた。
あくまで前世が僕の友達だったってだけで、今は彼女達の、彼女達としての人生があり、それを歩んできたんだ。
普通今世からしたら前世なんてただのついでだ。
ましてその飼い主だった僕との関係性や重要度なんて高が知れてる。
僕はその思いを胸に、出しゃばり過ぎない様にと己を戒め、不思議そうにこちらを見ている二人を見た。
──ああ、でも。かわいいなぁ。相変わらず……
「うっ、う。よかった。よかったよおおぉぉ」
「ま、また泣いた」
最早慣れてしまった光景の様にリアが呟いた。
「ご、ご主人が泣くから、何か私も……うわぁぁんっ!」
「んっ、ぐっ……うん。うん」
と思ったらリアも涙を流し始め、メイまで涙ぐむとただ頷いていた。
「な、何の涙にゃ〜?」
「分かんないいぃぃ」
泣きながら訊かれたそれに泣きながら応じた。
流れ動き回る内心の感情は、最早それが何なのか判別できる程の形を成していない。
周囲から見れば最早奇行集団であるが、これは紛れもない奇跡が生んだ感動すべき場面なのだった。
「ど、どうしよ」
ただ一人リリスが戸惑った様に僕らを眺めていた。
◯
「じゃあ私はもう行きますがいいですね?」
「え? ああ、うん」
リア達と話し込んでいると、後ろで様子を見ていたリリスが声を掛けてきた。
「アズサも遅れない様にしてくださいね」
「うん」
どうやら気を使わせてしまったようだ。
いや、この場合僕の気が利かなかったのだろう。
「ねぇねぇご主人。今の人、恋人だったりするの?」
と、リアがニヤニヤと笑みを浮かべて訊いてきた。
「えっ。ち、な、仲間だよ!」
「にゃはは〜っ。なーんだ」
僕が慌てて否定すると、リアは笑って頭の後ろに手を組んだ。
「ちなみに訊きたいんだけど、その『にゃ』ってのは」
「ああ。まぁ、方言?だにゃ」
おお。リアル猫っ子だ。
僕はその存在に感動する。
「あ、あの、ご主人様」
と、メイがおずおずと声をかける。
ご、ご主人様って。
「お願いがあるんですけど」
「ん? 何?」
「に、匂い、嗅いでもいいですか?」
「匂い? どうぞ?」
お安い御用だと無防備になってみせる。
メイは僕に近づき、胸辺りまで来ると目一杯鼻から空気を出し入れしていた。
「これがぁ! ご主人様のぉ~!」
思ってた十倍くらい本気で嗅がれた。
なんか恥ずかしいんだけど。
「あぁ!? ちょっと!」
と、その時リアが僕に向けて何かを散布し、メイが咎める様に見る。
花の様な優しい香りが届いた。
「これ、おすすめの香水。これでご主人も更にモテモテにゃ!」
そう笑顔で言い切るリア。
「今のままでいいのに〜!」
「メイだってこれ好きにゃろ〜?」
相変わらず二人は仲良いな。
動物だった時もよく戯れ合ってたっけ。
「小豆……じゃなくて、メイ」
「アズキでいいです!」
僕がつい呼び間違えて言い直すと、メイは力強く応えた。
「え。でも、今は『メイ』って言う立派な名前が」
「じゃあ名前変えます! 私は今日からアズキです!」
「えぇ!?」
流石にその言葉に仰天する。
「元々『メイ』って名前も自分で付けたものなので」
「え? 自分で?」
「獣人族の慣わしにゃ。私達の村で産まれた子は5歳から10歳くらいにかけて自分で名前を付けるのにゃ。私の『リア』って名前も、自分で付けたにゃ」
と、リアが説明してくれる。
「へぇ〜。ん? じゃあ蓬も?」
「ああ。それがちょっと複雑でにゃぁ」
リアは腕を組んで困った様に眉を寄せてみせる。
「私達猫系の跡取りとなる子は現当主が名付ける習わしなのにゃ。その時に『ルナ』って言う可愛らしい名前をつけられて、それがお姉ちゃんの本名なんだけど」
と、リアは語ってくれる。
「私が物心つく頃にはもう『ヨモギ』って名前を自称してたにゃ。周囲は必死にルナって名前を自覚させようとしてたけど。まぁ、結局無理だったみたいにゃ」
なるほど。
「お姉ちゃん頑固だからにゃー。一応はルナ・スプリガンが本名で合ってるんだけど、ヨモギって呼ばれない限り家族でも無視してたから、もう村の方じゃこっちで定着しちゃってるにゃ」
なんだか蓬らしい話だったな。
蓬のマイペースさは随一だ。
「お姉ちゃん喧嘩も強いし、文句言える人もあんま居ないしにゃ〜」
「え、喧嘩も強いの? あの見た目で?」
僕は先程一瞬見た青髪の少女の姿を思い浮かべる。
見た目はただの少女だったが。
「そうにゃ。派閥争いの激しい村内で次々に勢力をまとめ上げ、実質的総長へと上り詰めたにゃ」
「あ、相変わらずだね。蓬は」
「相変わらずなの?」
僕は生前での蓬の振る舞いを思い出して苦笑いした。
「うん。蓬、メス猫なのにボス猫だったから」
蓬は元々野良だ。
ご縁があって家で飼う事となったが、定期的に見回りや集会には行ってた様だ。
近所じゃちょっとだけ名の知れた猫だったのである。
今思えばよく人の元に収まったな。
「それはそうと、そろそろお姉ちゃんの行方が気になるかにゃ」
「うん。そうだね」
と、リアの言葉にアズキも賛同する。
「私は行くけど、メイはどうするにゃ?」
問われ、アズキは迷う様に僕の方を見た。
「あ、あの、よければ、もうちょっと一緒に居てもいいですか?」
「え? もちろん!」
と、アズキが恐る恐る訊くので二つ返事で頷いておく。
「じゃあ行ってくるにゃ」
「あ、り、リア……さん?」
「リアでいいにゃよ」
困った様に苦笑いして言うリア。
正直助かる。
「その、僕も一緒に探すよ。蓬にも会いたいし」
「いいけど、大丈夫にゃ? さっきの様子じゃ予定ありそうだったけど」
あ、そうだった。
自由時間を取る代わりに夕食は一緒に取る事になってるのだった。
これ以上時間を取ると、今度は僕が迷子扱いになって捜索される事になる。
リアは先程のリリスとの会話の事を言ってるのだろう。
リアはちゃんと見てるなぁ。
◯
結局リアとは別れる事となり、僕はアズキと久々の散歩に繰り出す事となった。
アズキはまだまだ話し足りない様だ。
僕だって話し足りないところだ。
「異世界ですか! ああ、なるほどぉ! 確かにヨモギちゃんが雰囲気が違うから、別の国だろうとは言っていました!」
やはりと言うか、アズキ達は前世を異世界で過ごしたと言う自覚は無かったみたいだ。
その点蓬は違和感を感じてるから流石だ。
先程の僕の姿が違う云々の話は単純に成長した姿だからと解釈したのだろう。僕がアズキ達と過ごしていたのは幼少期である故。
「にしても世界を渡って来るなんて。さすがご主人様ですね!」
「ご、ご主人様はなんだかむず痒いなぁ」
「え〜、あずきこれがいい」
「じゃあそれにしよう!」
甘える様な言い方に即答する。
何てあざとい可愛さなのだろう。天然なのが恐ろしい。
というか、やっぱりアズキは女の子か。
転生後に性別が違う事もあるみたいだな。
そこのとこの記憶はアズキなさそうだし黙っとこ。
そんな事をほんの少しだけ膨らみを感じる胸部を見て思った。
「そう言えば、まだはっきりと名前を聞いていませんでした」
「ん? ああ、そうだね。預咲だよ。雨斗預咲」
「家名があるんですか! ご主人様ってやんごとなきお方だったんですか? 今思えば、お家は結構広かった様な」
当時を思い出す様に顔を仰ぐアズキ。
「あはは、やんごとあるよ。向こうじゃ普通なんだ。家は……アズキの体躯じゃ、そう感じたんじゃないかな?」
「なるほどー!」
と、元気よく頷いたアズキ。
「アズキとアズサ。結婚したら一文字違いですね!」
無邪気に言うアズキ。
「そうだね」
それを微笑ましい思いで眺めて頷いた。
元居た国じゃあんま身分の差みたいなのも無かったし、家名の有無で家柄が分かるこちらの文化はいまいちピンと来ない。
王政の残るこの国じゃ身分の差が如実だろうが、それと比べって元の世界じゃ僕は平凡も平凡な平民だ。
でもそういえば、お世話になった親戚のお爺ちゃんの血筋の方は神職か何かでやんごとあったような……
まぁ、関係ないか。
◯
「リシアー」
道中リシアを見かけたので手を振って声を掛けた。
「あら、奇遇ね。買い物はどうだったの?」
「ばっちしだよ」
一応お土産選びも済ませる事ができた。
確と頷く僕にリシアの視線は後ろの方へ向く。
「こんにちわ」
「あ、こ、こんにちわ」
微笑みかけるリシアに、アズキはおずおずと前に出た。
リシアから『何この子?』と言う視線が向く。
「ああ、この子は……なんて言うか。う〜ん、どこから説明しようか」
一から説明するとなると面倒だな。僕が異世界から来たことも説明するか? 別に隠してる訳では無いが、話す理由も無いんだよなぁ。
「あ、アズキです。ご、ご主人様とは……えと、ご主人様はご主人様です!」
と、アズキが語彙無く説明する。
「うぇ〜、気持ち悪。何? あなた奴隷でも買ったの? だとしたら本当に軽蔑するんだけど」
リシアが凄く嫌そうな顔をしてアズキの肩を寄せると僕に対峙する様に言った。
「ど、奴隷? 違うよ。アズキは家族みたいなもんだ」
僕の発言をどう思ったかリシアは眉根を寄せた。
リシアがここまで嫌悪を見せるのは初めてかも知れない。
「あ、えと。と、とにかく、お金で買われた訳ではないです! 身分も平民です!」
と、アズキがリシアへ顔を見上げて言った。
「そう」
それに何か言いたそうにしつつも、リシアはアズキから手を離した。
◯
一緒にご飯を食べようと誘ってはみたが、やはり蓬の事が気になるみたいでアズキは戻ってしまった。
まぁ、今はこうやってお互い生きている以上、必ずまた会える。
手紙を送る場合の宛先も教えてもらった事だし、一先ずはそれに満足しよう。
本音は全然会い足りないがな。特に蓬とは話したいところではある。
まぁ、そんなこんなで宿へ戻ると、女子組は既に食堂に集まっていた。
「あ、預咲君から! 預咲君から別の女の匂いがする!」
と、エリィから香水の匂いであらぬ誤解も受けてしまったので、アズキ達の事を掻い摘んで話した。
にしても、リリスは偶にとんでもない事口走るから油断ならない。
「──とまあ、要約すると昔飼っていたペット達と再会した訳」
「そうなんだ」
説明を聞いて落ち着いたエリィ。
「俄には信じられませんね。私は何なら詐欺を疑ってるくらいですが」
「ううん。リリスちゃん。そう言った詐欺もあるのかもしれないけど、前世が動物で、その記憶がある場合も極々稀だけどあるにはあるんだ。すっごく珍しいけど」
と、意外にもリリスを宥めたのはエリィだった。
説明を聞いて落ち着いた以上に、どこか表情が柔らかい。
「それが預咲君の事を分かる程覚えて居るなんて……。それも三人とも」
まるで浸るかの様に胸の前で手を握り、瞳を閉じて呟くエリィ。
「よっぽど愛情深く接してたんだね」
そう言ってエリィはとても柔らかく微笑んだ。
何故かそこにエリア様の面影を感じて、僕は思わずドキりとした。
エリア教の信徒であると言うのは伊達ではないみたいだった。




