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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第五章 エルドラド帝国編
109/173

109:鍛冶屋



「よーしよーし。良い子だねー」


 肌寒い早朝の、宿の側にて。

 僕は寄ってきた野良の子猫を撫でていた。


「猫、好きなんですか?」


 と、リリスが隣にやって来て、同じように腰を屈める。


「うん。猫の方はあんまり僕の事好きになってくれないけど」


 僕は言いながら、気持ちよさそうに目を細める仔猫の頭を撫でた。


「懐いてるように見えますが」


 と、それを見て言うリリス。


「生前の、猫の事ですか?」


 持って生まれた感の鋭さか、そう問うリリス。


「うん」


 僕は特に否定する理由も無く頷く。


「黒猫のよもぎに、灰色の小梅こうめ。柴犬の小豆あずき


 ちょうど今撫でてる仔猫も、小梅こうめの様な毛並みと水色の瞳であった。


「皆んな凄く可愛いかったんだよ」


 僕は生前飼っていたその三匹の動物達を想って呟いた。









 一晩経ってもクロムさんやティアちゃんからの接触が無かった訳だが、無駄に時間を過ごすのも嫌である。

 せっかく帝都に居ると言うのもあるが、一応僕にはもう一つ用事がある。

 それは魔王さんから紹介をいただいたエルフの方だ。

 帝都に居るだろうとの事だが、今居る詳しい場所は魔王さんも把握していないらしい。

 他の候補としては、帝国内に存在する森の奥深くに在ると言うエルフの住む村だが、町に出ている可能性の方が高いと。

 その方に関して分かる事は他に考古学者である事だけだ。

 なるほど。確かに歴史には詳しいだろう。

 一先ず帝国考古学協会なる連合組織の事務局に行って、『エレン・ラル=ヴィルチ』という名前から調べても貰ったが、存在する事は確実らしい。

 だが各地の遺跡を点々としてるらしく、今現在の詳しい居場所までは特定できなかった。

 来た時の言伝くらいは頼もうかと思ったが、今は僕らの居場所が安定してないので頼みずらい。

 結局またの機会にする事にした。

 魔王さんお墨付きの人である以上、やはり会いたい所だが。


 そんなこんなで手がかりも掴めず帰っていた時、僕は迷子になった。

 自分でもびっくりだ。リリスと歩いていたのにいつの間にか一人で道の分からない所まで来ていた。

 どうしようかと突っ立って悩んでいると。


「あわっ」


 急に人から打つかられた様な軽い衝撃が加わり、僕は小さく声を零した。

 後ろを見ると小柄な少女が居た。


「あ、ご、ごめんなさい」


「いえ、こちらこそ」


 両手を前に頭を下げる少女に応じる。

 綺麗な青髪を持った可愛らしい少女であった。

 両サイドの髪をひと束編み込み、後ろで束ねて団子を作っている。

 見ただけで上等な物だと分かる白のローブを羽織り、中は青を基調とするドレスの様な服を着ていた。

 身長も年齢もマリンより下回るだろうと言う程度。

 会釈だけして僕が踵を返して歩き出すと。


「あ、あの」


 そうおずおずと声を掛けられ振り返る。


「あ、あへへ。実は道に迷ってしまって」


「あらま」


 困り顔で笑う少女。


「んー道案内してあげたいのは山々何だけど……実は僕もなんだよね」


「え」


 と、その言葉に少女の表情が固まった。


「大人でも迷子ってなるんですね」


「えへへ。大人に見えた?」


 少女は苦笑いしていた。


「まぁでも、少なくとも僕と居た方が安全か」


 人攫いとかもあるみたいだしなぁ。


「せっかくなら色々回りたいです!」


「おっ、じゃあ適当に行っちゃう? 繁華街の方面なら何となく分かるよ。僕の連れも見つけてくれるだろうし」


 人の多そうな公園に居ればきっとリリスが見つけてくれる。

 こっちの警察組織はどれか分からないし、リリスと合流して判断を仰ごう。









「わー、これが露店ですか! 凄いですね!」


 少女は立ち並ぶ屋台や露天商を見て目を輝かせていた。

 きっと観光で来たんだろう。


「変わった匂いがします」


 くんくんと周囲を嗅ぐ少女。


「見て見て!」


 興奮した様に裾を引っ張って指差す少女。

 その方には串焼きを売る屋台があった。


「本当にこうやって食べ物を提供してるのですね。食べても当たらないかしら?」


 興味深々と言った様子の少女。


「ごめんね。今僕お金持ってないから買ってあげられないや」


 奢ってあげたいのは山々だが、生憎手持ちは無かった。


「確かお金を払うんでしたよね! お金なら持ってます!」


 一瞬きょとんとした少女だったが、合点がいった様に言って懐から巾着袋を出し屋台へと近づく。


「お幾らかしら?」


「らっしゃい! 一本200ガルだよ!」


 少女に応じる店主のおっちゃん。

 ガルとは確かこの国の通貨単位だったか。


「どれだろう」


「んー、とりあえずこれで買えるんじゃない? なんか綺麗で大きいし」


 二人で巾着袋の中身を見て話す。

 どれも黄金色に輝く大きな硬貨だった。


「これでどうかしら?」


「え? き、金貨? あちゃー、お釣りあるかなぁ」


 一つ摘んで出した少女に、店主のおっちゃんは困った様に言う。

 え? これって本物の金貨?

 あんま無闇矢鱈と見せない方がいいかもな。


「ごめんなお嬢ちゃん! これお詫びにサービスな! お嬢ちゃん可愛いから特別だ!」


「まぁ! ありがとうございます!」


 そう言って差し出された串焼きを受け取る少女。

 僕らは店を後にする。


「こ、このまま食べるのかな?」


 貰ったはいいものの、少し戸惑いながら訊いてくる少女。

 僕がこくりと頷いて少女は一口頬張る。


「どう?」


 険しい表情で口を動かす少女に問う。


「お、美味しいです」


 気に入らなかったみたいだな。


「む、無理しない方がいいよ」


「いえ、せっかくのご厚意で頂いた物ですから」


 と、意地になってまた口へと運ぶ。


「ゔっ!」


「ちょっ、無理する事ないって! 僕が食べようか?」


 嘔吐えずいた少女の背中を摩りながら僕は串焼きを受け取る。


「まさか、盛られた……?」


「いや、それは無い」


 この子天然なのか?

 そう思いながら僕は串焼きを食べてみた。

 うん。何処にでもある様な普通の串焼きだ。

 僕もこの世界に来た最初の頃は臭みの変化に無理してた時もあったが、一月もする頃には完全に慣れていた。

 確かに僕も最初の頃に匂いの強い物食べてたら気持ち悪くなってただろう。

 少女はよっぽど今まで質素な物を食べて来てたのかもしれない。

 ともあれ僕は美味しく串焼きを戴いた。


「次です! 次行きましょう! リベンジです!」


「う、うん。ちゃんとお金は払うんだよ?」


 切り替えの早い少女に僕は付いて行った。









「ゔ、ぶっ。うおえぇぇ……!」


「だから言ったのに」


 道の隅で嘔吐する少女の背中を摩りながら僕は言った。

 一時そのままの姿勢で周囲へ視線を流していると。


「あ、リリスぅ!」


 僕はリリスを見つけて手を振る。


「探しましたよ。まったく……。そちらは?」


「ん? ああ。この子と露店とか屋台とか回ってだんだけど、ちょっと食当たり起こしちゃったみたいで」


 視線で問うリリスに、少女の背中を摩りながら説明する。


「なるほど。私が探してる間、適当な女子おなごを引っ掛けて遊んでたんですね」


「いや、言い方」


 全面的に否定したいが間違いでもない気がする。


「まぁ、私は一向に構いませんが。私の関わる所では無いですし。別にどうでもいい訳ですが」


「り、リリスってばちょっと拗ねてる? ごめんね、迷子なのにじっとしてなくて。この子が迷子みたいでさ。公的機関に預けたいんだ」


 何だか当たりが冷たいリリスに説明する。


「なるほど。そう言う事でしたか」


 と、納得してくれた様子。

 リリスは少女に近づきそっと背中に触れる。


「大丈夫ですか?」


「は、はい……いや、やっぱ無理かもっ」


 問いかけるリリスに、少女はお腹を抑えて答えた。









 食当たりは魔法では治せないらしい事を今日学んだ。

 あと有料だが公衆便所がある事と、帝都にはしっかりとした下水が通っている事も。


「あ、あの、色々とすみませんでした。じゃなくて、ありがとうございました。い、いや、やっぱ両方で」


 少女はそう言って深々と頭を下げた。

 多少寄り道はしたが、無事警察組織へと届ける事ができた。

 今更だがこの世界の文化的水準は非常に高い。


「ええ。引き続き水分をしっかりと摂るのですよ?」


 と、実利的な返答をするリリス。


「間に合ってよかったね!」


 気持ちを込めて言ったが、リリスに肘で突っつかれた。


「お、お大事に!」


「は、はい」


 代わりと言った無難な言葉に、少女は赤面しつつ応じた。


「あの、本当にありがとうございました。楽しかったです」


 と、改めて少女は言って微笑んだ。

 変わった趣味をお持ちと言う訳では無く、多少のトラブル含めて新鮮だったと言う事だろう。うん。









「また人探しかぁ。何だろうなぁ、この振り出しに戻った感」


 少女とも別れ、リリスと路地にて休憩しながら僕はそう零した。

 まるで、そう。ロビアに来た時みたいな感じだ。


「まぁ、今までで得た物もある訳ですし」


「そうだね」


 確かにあの時と比べると仲間も増えたし、その仲間の悩みも一つ解決された。

 それはとても誇っていい事だろう。

 それに、今は明確で大きな目標もある。気が遠くなる話だけど。


 これからのすべき事はエルフの方を探す事と、引き続き言葉の勉強、後は単純に強くなる事か。

 そこから派生して増える選択肢がある筈だ。


「あ。そう言えば新しく勉強する為の媒体は欲しいかなぁ、なんて。絵本に出てくる単語はもう分かるし」


「なるほど。確かに」


 僕の言葉にリリスも考える素振りをする。


「であれば、クエイトロンの冒険譚か、英雄王ガリヴスの魔王退治か……童話の有名どころはこの辺ですかね」


「どっちも面白そう!」


 でも選択肢はまだ絵本ですか。

 い、いいんですけどね? 俗的なこの世界の知識を学べる訳だし。


「そろそろ行きましょう。あんまり遅くても心配されてしまいます」


 リリスが立ち上がり、ローブに付いた塵を払いながら言った。

 差し出された手を取って僕も立ち上がる。その時リリスの内の手首に何かちらりと光る物が見えた。


「ずっと気になってたんだけど、その手首の何?」


 僕の言葉に、リリスは袖を上げて右の手首を晒した。

 白くて柔らかそうな手首には目の粗い紐が一周し、内側の位置に2センチ程の青い宝石が結ばれていた。

 割と雑だ。


「魔石です。魔力制御の補助の為に付けています。杖を持つより身軽なので」


「へぇ〜。綺麗だね」


 手を取りまじまじと見つめる。


「これがリリスの力の秘訣の一つかぁ。ふむふむ」


 何かの結晶の様に半透明で綺麗な魔石である。


「アズサは成長しましたね」


「えへへ、そうかな?」


 と、唐突にリリスが僕を見上げて言う。


「アズサ。きっとあなたはこれからもっと強くなります。その力の使い先が試される時も来るでしょう」


 そう、リリスは真剣な様子で言って。


「大いなる力には、責任が伴う物です」


 僕はその話の内容に首を傾げた。

 何故今そんな話を僕にしたんだろう。

 そう思いながら、僕はリリスの背後から近づく人影を目の端に捉えていた。


「ちょっとおいで」


 リリスを引き寄せ前に出て、ちょうど影から出て斧を大きく上に振りかぶっていた巨軀の男へと対峙する。


「ぐっ……!」


 間入れず腹に蹴りを入れ、えずく男の両手を持って、力一杯鳩尾を膝で打ち上げた。

 男は気絶しその場に倒れる。

 僕はリリスを共らって後退しながら、腰の剣へと手を翳していた。

 次第動かないのを確認して緊張を解く。


「い、一体」


「さぁ。治安はあんまり良くないみたいだね」


 急な状況の変化に目を丸くするリリス。

 恐らくは強盗だろうな。

 にしても雑な奇襲だな。

 ロープは無いので男が付けていたベルトで無理やり後ろ手に縛っていく。


 やはり僕の体は強くなってるらしい。

 魔王さんの話では、僕は殺気を向けられる程前世の感覚とこの体本来の力が解放されるらしい。

 今の所大きくそれを確認してるのはグゼンとの戦いと、恐らくだが魔王さんとの模擬戦もそうだ。僕の技術や能力はそれ以前とそれ以降に分けられると思う。


 そして何より、本物の殺気を向けられる経験を得て、少々肝が据わったみたいだ。

 今も何だかすごく冷静だ。


「あ、見てよこれ。指名手配だって。懸賞金貰えるんじゃない?」


 ちょうど壁に貼ってあった手配書を見て僕は言った。

 不意な臨時収入が期待でき、僕は機嫌良くリリスを振り返った。

 と、何故かリリスは優しく微笑んだ。


「本当に、強くなりましたね」


 そしてそう言った。









 時間は持て余してしまっているので、クレナの発案で武器屋街へと行くことになった。

 リリスも興味を示し、結果マリンもリシアも付いて来た。

 ショーウィンドウに並んだ鎧や剣もあれば、工場の風景が見える店もある。

 マリンがちょっとビクビクしながら周囲を見ている。

 普段ならフードを被って大人しくやり過ごす様な場所だからな。まだ呪いが解けてるのに慣れないのだろう。


 そして僕は僕で興味深く周囲を見る。

 時折り見かける、大柄ながら背が低く、お腹の出っぱった人々。

 あれはもしかしなくても……


「ドワーフね!」


 その答えはリシアが言った。


「おお! 初の妖精系!」


 ドワーフ。

 本来なら架空の生物とされる種族。主には地中を好み、岩穴で暮らすなんて言われている。

 矮躯でありながら屈強、豊かな髭を生やしている。

 リシアの説明通りだ。

 ドワーフには鉱夫、あるいは細工師や鍛冶屋などの職人が多いらしく、必然的に鍛冶屋街にはドワーフが多く居るらしい。


「え、刀だ! 刀がある! やっぱ形状の種類としては存在してたんだね!」


 と、僕は知ってる武器を見つけて興奮気味に話す。

 僕の国の伝統的な物と比べて垂直で見た目は若干違うが、細身片刃の剣と言えば刀だろう。

 これは直刀と言ったところか。


「にしてもあんまり種類ないね。見たのも僕初めてだよ。切れ味は良い筈なんだけどなぁ」


 と、饒舌になる僕に比べ、皆んなの反応はあまり芳しくなかった。

 どうしたのだろう?と疑問に思っていると。


「まあ、要は刀ってのは対人用であり、殺人用だ。あまり好まれないのは、仕方ないだろう」


 と、どうやら空気を読めてなかったらしい僕にクレナが説明した。

 あ、そ、そうか。

 僕の世界じゃ武器と言ったら大概が対人用だった。

 でもこの世界の脅威と言ったらまずもって魔物だ。隣人ではない。

 じゃあ対人に特化した武器がこの四百年平和な世界で嫌われるのは当然な話か。









 その後魔法の杖(ワンド)を見たいと言うリリスにリシアとマリンが付いて行き、僕とクレナでとある鍛冶屋へと来ていた。

 元々クレナが目星を付けていた店らしい。


「んん? 何だぁ? ここはちびっ子の来る所じゃないぞ」


 と、無骨に武器が並べられる店内にて、頑固な職人のお手本の様な反応をする方が一人。

 濃い肌色の背の小さい男性だった。僕より背が小さい。なんならティアちゃんと同じくらいだろう。

 堀の深い顔に白い髭を蓄えている。渋い男だ。十中八九ドワーフだろう。

 近くで見ると顕著だが、かなり筋肉質で腕が太い。ただ太ってるとかではなさそうだ。


「一応、冷やかしではないですよ」


 と、その男性に応えるクレナ。


「ふんっ。ウチは基本持ち込みで作るんだぜぇ? 素材が無けりゃ紹介できる物もぇな。そこに並んでるのも、お前達にはちとぇ」


「その様ですね」


 と、クレナは男性に応え、僕の方を向くとクイッと顎で男性を指す仕草をした。

 我が意を得たりと、僕はポーチからとある物を取り出した。


「こ、これは!」


 それを見て目を見開く男性。


「おお。見ただけで分かる何という純度……」


 男性はそう言い、それに魅入られたかの様に両手を翳して凝視する。


「これ何なんですか? 上位悪魔の体から取った一番硬い部位らしいんですけど」


「上位悪魔! いやそれも納得だな」


 僕がポーチから取り出したのは、懐かしの上位悪魔を屠った際に得た素材である。

 紫の水晶の様な物体で、鉱石の様にゴツゴツと角ばり、緩く湾曲した円錐型である。

 そしてずっしりと重い。

 リリスからのお土産でもある。


「是非! 是非これをワシに譲ってくれ! 最高の武器を仕上げてみせる!」


「えと。じゃあ、はい。お願いします」


 僕は二つ返事で了承した。


「特注品だな。お代は?」


 と、すかさずクレナが割って入る。


「そうだな。これを仕上げるとなるとかなりの時間が掛かるだろう。予約も入っておるしの」


 我に返った様に話す男性。

 冷静さを欠いていた様だ。


「どうだ? ここは正規の依頼と言う訳ではなく、ワシの一存に任せてみては。仕事の合間に少しずつ工程を進めよう。ただしお代は要らん」


「具体的にはどのくらい掛かる?」


「一年は欲しいな。そして無事仕上げた暁には武器の命名と、ワシの名を掘らせてくれ。きっと後の世に残る武器となる」


「なるほど」


 クレナが納得して僕の方を見る。


「えっと。じゃあお願いします」


「うむ。任せてくれ」


 頭を下げる僕に、男性は確と頷いてくれた。


「ワシの名はガルドだ。一年後に手紙でも送ってくれ」


「はい。ガルドさん。よろしくお願いします。僕はアズサです」


「うむ」


 ガルド氏はメモに色々書いて、改めて素材となる水晶を見る。


「ちなみに、何を作るんですか?」


「少しずつ削って短剣を作るつもりだ。この素材であれば幾らでも魔法を付与できる魔剣となり得るだろう」


 短剣か。確かに予備の武器は一つあってもいいかもな。

 接近戦となるとリーチがある武器は不利になる。道中で出会した狼猪獣ヴォア・ウルフとの戦いの様に、揉みくちゃになれば短剣が有利なのは明らかだ。

 これはいい機会だろう。


「あ、そうだ。せっかくなんでちょっと見てもらいたい物があるんですが」


 僕は言いながら相棒をゆっくり抜いた。

 晒け出る紅の刀身。


「片手直剣にしては随分と重いな。それに堅い」


 ガルド氏は剣を受け取り、まじまじと眺めて言う。


「抜くの大変じゃなかったか? 普通の剣はここに溝があるだろ。とか血溝って言うんだがな。本来あれで血を流す事によって気圧を下げ、抜きやすくするんだ。それに剣自体も軽くなる」


 ガルド氏は言って、剣の中央を指した。


「だがそれがない。まるで重さと堅さだけを追求し、叩き割る、叩き潰すのを極める為の剣だな」


「本来ならもっと重いらしいです。封印がされてるとか」


「これよりも重くなるってのか……。いよいよその類いの剣だろうな。骨切り包丁の様に叩き切る為のものだろう」


 と、相棒を返され受け取る。


「それか……」


 何か言い淀んだので、首を傾げて続きを待っていると。


「ははっ。いや、考えすぎなんだがな? 剣ってのは行く所まで行くと堅さのみを追求する様になるらしい。当たり前っちゃ当たり前なんだかな。素材や魔法加工による特殊効果や属性などは二の次に、斬撃や衝撃に耐えられる様、ひたすらに純度と硬度を高めるんだ。要は戦いに付いて来れる様にってこった。山をも更地してしまう様な、練り上げられた闘気を受け流せる様にな」


 その言葉に、僕は手元の相棒を見下ろした。


「それこそ、魔王とか。天上の神々とか。そんな想像も及ばん次元の話しさ」


 それは……考えすぎだろうな。

 相棒を頼りにはしているが、たかが組合ギルドの掘り出し物に期待するには荷が重いだろう。


「それかその剣について詳しく知りたいなら、つかの部分を取ってめいを確認すればいい」


「いえ、そこまでは……」


 態々いいかな。相棒の身包み剥がすみたいで可哀想だし。

 そう思いつつ、僕は腰の鞘へと相棒を納めた。


「ん? その鞘は合っていない様だが?」


「え? あ、そういえば」


 ガルド氏の言葉に、僕は剣を鞘ごと帯から抜く。


「ったく、しゃあねぇ。うちで作りな。個人的にもその剣は気になるしな」


「あ、はい」


 僕は相棒をガルド氏に任せる事にした。

 特注での短剣と鞘の製作を依頼し、この場での用事は終えた。



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