108:革命で起こされた国
「自由だー!」
晴天の下、私は両手を上げると高らかに宣言した。
「お前は端から自由だろ」
それにいつもの調子で口を挟むグレン。
そんな事は気にせず、私は丁度近くにあった女神像へと跪いてみせた。
「おお、女神様。何と麗しい」
序でに祈りを捧げて媚を売っておく。
「何だお前? ルリヤ教徒だったのか?」
ルリヤ教。
この国の国教……では無いが、エルドラドの宗教と言えばルリヤ教であった。
約200年前のこの国の建国の際、一柱の麗しき女神様がご降臨し、この国の繁栄と安泰、そして神の名の下に建国を宣言したのである。
少なくともそう言い伝えられている。
「かも知れない! 何なら入信てくるぅ!」
私は適当に走り回って行く素振りを見せた。
「お前、ハブられてテンションおかしくなってんだろ?」
私の中で『グサーッ!』と何かが刺さる音がした。
「べべべべ、別に!? 私だって誘われたし! 寧ろ私から断ったし!? 気を遣ってあげたからぁ!?」
「はいはい」
グレンは適当に応じて腰掛け椅子へと後ろ手に体を預ける。
組合を出てから自由行動をする事となったのだが、私とグレンは預咲君らと一旦離れた。
グレンはいつもの調子で適当に距離感を保ってるだけだろうが、私は違う。
ハブられて……は無い! 断じてない! うん!
私が離れたのには一応理由があった。
話の流れから女子組男子組で分かれる様で、当然私も誘われはしたのだが、私から断っておいた。
それは偏に気を遣ったのも勿論あるのだが、リシアさん並びにリリスさんの魂には『恩恵』が掛かっている。
これはどう言う事かと言うと、彼女らの瞳を介して私の行動をも視る事ができると言う事。
文字通り〝監視の目〟だった。
一応私は預咲君の監視役。そんな中で預咲君の元すら離れて女子組と楽しく過ごしてる何てのはサボりと見られるかもしれない。
何せ一緒に行動してる事自体勝手にやってる事だ。
依然として彼女の主神は謎だが、リシアさんの主神はほぼ間違いなく天界上層部かその間者だろう。預咲君との出逢い方やタイミングができすぎている。
ので、彼女の前ではせめてちゃんとしなきゃと思ってるのだ。
まぁ、最初それらの事は思い付かずに全然楽しく過ごしてたから、ぶっちゃけ今更なんだけどさ……
ただ怖い。天界から何も無いのが余計怖い。
この前ちょろっと帰った時は別に何も言われなかったけど、それが怖い!
絶対アズサ君と共に居る事は把握してるよね。ぶっちゃけ開き直っちゃってる訳だけど。
「あぁー! 後先考えないくらいのクズになりてー!」
このクズになりきれないクズ感。
そっちの方が精神衛生上一番損してそう。
「いいなぁ」
「褒めてないのは分かる」
私の視線を受けてグレンはそう半目で言っていた。
「にしてもエルドラドかぁ。ここってすっごく強い騎士居たよね?」
「あ? ハルバルト・ラインの事か? この国一番の騎士と言ったらそいつだろうな。確か戦神と豊穣の祝福が掛かってるとかだったか」
私はその応えを聞いてガクリと首を垂れた。
戦神と豊穣かぁ〜。被ってるんだよなぁ〜。
私が今まで二度だけ見た事ある祝福とはその戦神と豊穣だった。どうせなら新しい祝福を見たかった。いや、それで言えば最近新しく『寵愛の祝福』は見た訳だけど。
預咲君に掛かった六つの祝福。その内私が見て分かるのは『戦神の祝福』と『豊穣の祝福』が掛かっている事だけだ。
残り四つの祝福は何なのか、『寵愛の祝福』以外である事の他は今の所謎だ。
これからは預咲君の祝福の事も調べて行く様にはしたい。
多分自分の目で視比べるのが手っ取り早い。
特にあのとんでもない量の神聖力を奔流させる『戦神の祝福』は調べるべきだろう。
「調べ物するには……そういや組合って軽く図書館も運営してたりするよね?」
「そうだな。これだけ大きな町の支部ならあるだろう」
と、私の問いに答えるグレン。
「この国って実力主義じゃん? 魔物が多い分、冒険者の事も受け入れてられてるし、預咲君に着いて行ける様真面目に頑張ってみよっかなーんっ♪」
「この国じゃ女性冒険者は嫌煙されるぞー」
「え? そうなの?」
「強けりゃ別だがな。冒険者なんて低俗で、地位も低い浮浪者の行き着く所だってな。売女呼ばわりされたくなきゃ覚えとけ」
「なっ。ば、ばい……。酷いよ! そんな言い方!」
グレンの言い草に私は憤る。
「あぁ? 低俗で無学な冒険者なんて水商売みたいなもんだろう? 利用する奴はとことん利用するし、毛嫌いする奴はとことん毛嫌いするんだよ」
対してグレンはそう有りなんと言って肩を竦めた。
確かにそうかも知れないけど……。仕方なくやってる人も居るだろうに。
そう言えばこの国では限定的だが奴隷制が残ってるんだっけ。
これが資本主義なのか? 天界は社会主義だったからなぁ。
と、そう考えながら、今頃女子組は何してるのかと思いを馳せた。
◯
「ふん、ふんふふーん♪」
リシアは上機嫌に鼻を鳴らしながら店内を物色していた。
リシア、リリス、マリンの三人は女性物の下着を取り扱う店へと来ていた。
都心の店らしく品揃えもいい店内にリシアの機嫌は上々である。
「こうやってゆっくり買い物するのも久々ねー。やっぱいいものよね〜」
そう言いながらリシアは二人を振り返ったが、二人は店内に入ってもあまり気が乗り切れていない様子だ。
「偶には形に残る息抜きも必要よ? 下着なんて必需品だし一石二鳥じゃない」
「まぁ、そうですかね。嗜好品のイメージが強かったもので」
「確かに値は張るもんね〜。ま、旅も終えたし自分にご褒美って事で?」
真面目なリリスにはそう言い聞かし、リシアは物色を再開する。
「こう言うのは、よく分かんなくて」
「可愛いと思ったので良いのよ」
慣れてない様子で縮こまるマリンを振り返るリシア。
「あら、マリンったら。旅の間に少し背伸びたんじゃない?」
「そ、そうですかね?」
「ふふっ。いつか追い越されちゃうかもね」
なんて言いながら、リシアは差分を確認する様にマリンの頭に手を置いた。
実際少し前はほぼ一緒だったリリスよりも少し身長が高くなっている。
「そう言えば、二人ともキャミソールばっかでブラの洗濯は出して無かったわね。やけにピンと来て無い訳ね」
言いながらリシアはマリンの後ろに回って、両手でマリンの胸を包んだ。
「あ、あの……」
突拍子も無い行動にどうしていいか分からず固まるマリン。
「B……いえ、まだAね」
軽く手の中で感触を確かめながらリシアは呟く。
と、それも解放され息を吐くマリン。
「でもそろそろ必要になってくるんじゃない? この際だし買っときましょ」
軽く赤面するマリンへリシアは平然と話し、次に視線を紺色の着衣に包まれた胸へと向けた。
「リリスちゃんは……まだ大丈夫そうね」
その言葉にリリスはぱちくりと碧眼を瞬かせた。
◯
それぞれ適当に分かれてから、僕はクレナと街を歩いていた。
「せっかくなら兄妹二人の時間作ればよかったのに」
僕はそう思わずには居られず、つい隣のクレナにそう零す。
「別に今更いいだろう」
「とか言って、気恥ずかしいんでしょ?」
ニヤニヤと笑いながら肘で突っつくと、凄く嫌そうな顔で見返してきた。
乱雑に頭を撫でられ僕は『うぎゃ』と零す。
「逆にお前はどうなんだよ? 言っては何だが、お前はマリンからしたら呪いを解く切っ掛けを作ってくれた救世主の様な物だ。マリンは奥手な方だから、お前の方から何か行動を起こしてあげるくらいは、な」
「ん? どうゆう事?」
僕は話が分からず問い返す。
「勝手な色眼鏡かもしれないが、マリンはお前に多少の気がある様に見えるぞ」
「え、え〜? どうだろ? 嬉しい事は嬉しいけど、それならもうちょっとちゃんと恋愛して欲しいけどね」
と、至って真剣な表情で言ったクレナに僕は若干の戸惑いを覚える。
「だって今選ばれたって、それって消去法で僕と仲良くするしかなかったからじゃない? それで選ばれたって、僕もちょっと困っちゃうよ」
僕はそう自分の考えを話す。
「せっかく呪いも解けたんだし、マリンはこれから沢山恋愛も交友もして欲しいけどなぁ。喧嘩も失恋も」
僕はそんな事を他人事なのに期待を膨らませながら言った。
クレナはそんな僕の様子を見た後、ふっと笑い。
「そうだな」
と、そう同意した。
「まあ、兄の俺から言わせてもらえば、多少の不安は残るものの、お前なら妹を預けられるがな」
「え!? ちょ、な、何言ってんのさ!」
「冗談だ」
僕が慌てるとククッと喉を鳴らして笑うクレナ。
「……お義兄ちゃん」
「それはやめろ」
めっちゃ真顔で言われた。
◯
とある広場にて、僕は皆んなの合流を一人待っていた。
広場の中央には巨大な石像が建っていた。
土台も含めると五メートル程もありそうだ。
戦士風の男性の石像。見た所若い。
「革命家、ハルバルト・ライナーの石像ね」
と、一人やって来たリシアが背後からそう声を掛けた。
「革命家?」
「エルドラドは革命が成功して起された国家なんだけど、その革命に大きく関与したとされるのが革命家のライナーよ。革命軍を指揮し、後の新国王の忠実な剣だった。それ以降ハルバルト家は王家に従えている騎士の家系なの。この国で一番強いとされている騎士はその直系の子孫らしいわよ」
「へぇ」
僕は説明を聞きつつ石像を見上げる。
「彼にはある逸話があってね。魂に何かの祝福が掛かっていたらしいの。でも結局、何の祝福までかは分からなかったらしいわ」
「よっぽど珍しい祝福だったんだね」
「ええ。気になるわよねぇ。珍しいと言えば『天秤の祝福』だけど」
と、僕は振り返ってそれは何かと目で問う。
「運命と裁量を司る神による祝福の事よ。その珍しさに反比例して知名度は『聖杯の祝福』に並ぶわ。その理由は祝福の効果にあるの」
その焦らす様な言い方に僕が答えを求めていると、リシアは肩を竦め。
「単なる噂だけどね。〝未来予知〟……なんて言われているわ」
「え、す、すごっ。そんな事あるの?」
予想を遥かに上回るその内容に僕は半信半疑となった。
「確かな事じゃないわ。けどね、その祝福を受けた人は何かしらの効果を実感する時があるそうよ。それは夢を見たり、五感に無い感覚的な物だったりもする。そして誰かが『何故分かったのか?』と訊くと、皆口を揃えてこう言うそうよ」
そしてリシアはその答えを言った。
「『何となく』、って」
一言、そう。
「いつしかそれは博打の神による勝利の祝福だとか、商人には商売の神などと囃し立てられ、その効果の重みから運命の名に収まった。天秤の牧羊犬は定めを覗く神の奇跡を得るに相応しき器か試される事となる」
リシアのその話しに引き込まれていく。
「それはまさに天の者が測りし事。天秤による裁量の決定。故に名を──『天秤の祝福』」
両腕を軽く広げて言ったリシア。僕はその背後に巨大な秤を幻視した。
天秤の祝福。だいぶ風変わりな性能らしい。
と言っても、僕が他にまともに理解してるのは『天賦の祝福』くらいだが。
「『天秤の祝福』ですか……。とても珍しい祝福なのは知っていましたが、やはりリシアは物知りですね」
と、途中から話を聞いてたらしいリリスがやってきた。
「ふふん。革命家ライナーの祝福が未だ謎だから、珍しい祝福は何かって話からね」
「なるほど。確かに、魂に直接掛かった祝福は魂が視える者が視定める他ありませんからね。もどかしいものです」
そうリリスは得意げなリシアに応じながら、僕の方を向いていた。
「って、あれ? 革命? があったの? でもこの世界は400年平和な筈じゃ……。あ、それとも革命があったのはそれより前って事か」
「革命があったのは200年前らしいけど」
僕の呟きにリシアも疑問気ながら応えてくれた。
そして視線はリリスに向く。
「アズサ、語弊がありましたね。国家間の戦争が無いだけで、内戦や小競り合い程度の事なら割とあります」
「えぇ!? えぇ……」
僕はその説明に緩急を付けて驚き落胆する。
400年平和と言う話は僕がこの世界に来てまだ始めの頃に知り、この世界に生きる事を選んだ身として嬉し驚きなニュースだったのでとても印象に残っているのだ。
でもまぁ、国家間の戦争が無いだけまだマシか?
少なくとも規模が全然違うだろうし……
「所で、買い物はどうでした? 何か買ったりしましたか?」
「ん? いや、何も買ってないけど」
「偶には形に残る息抜きも必要ですよ?」
と、リリスの碧眼が僕を見上げる。
僕もクレナも個人的な物は何も買ってなかった。
僕って物欲あんま無いからなぁ。
「そう言うリリスは何か買ったの?」
「買ってませんけど」
あれ? なんか不機嫌。
「じゃーんっ。ねぇ、これ見てよ。『雨上がりの土の匂い』だってよ? 香水も見てきたんだけど、色々テスターを貰っちゃったのよね」
と、リシアが液体の入った小さな瓶を出して言った。
栓を外してくんくんと嗅ぐリシア。
「案外イケるわね。後でマリンにあげようかしら?」
「いや、何でマリンが出てくるのさ」
「あら、あの子意外と匂いフェチよ? この前だって、クレナの使用済みの」
「わー! わー!」
と、リシアが何か言いかけた所でそれをかき消す様にマリンが声を上げてやってきた。
「り、り、リシアさん!? いい、いったい何を!」
「あら、マリン。居たのね。ごめんなさい、言っちゃダメだった?」
「さ、さぁ! 一体何の事だか……!」
今まで見たマリンで一番狼狽した様子だった。
「ち、ち、因みに、何を言おうとしてたんですか?」
そう問うてマリンはリシアに向けて耳を出した。
リシアも合わせてその耳元へと口を寄せ。
「ふー」
「はぁあんっ。って、やめてください!」
息を吹きかけられてマリンは怒っていた。
プンスカと擬音が付きそうだ。
「ふふ。マリンったら、意外とイジメがいいがあるわね。そっちの方に興味なかったけど、あなたならアリかも」
と、そう言って妖艶に舌舐めずりするリシア。
「は、はわわっ。私の貞操がぁ」
マリンは慌てた様子で僕の背中へと隠れて行った。
「リシア?」
「んもぅ。ちょっとからかっただけよぉ」
少し咎めて見るとリシアはそう垂れる。
「ふふ。でもマリン。あなたきっと素質はあるわ。いずれあなたから求めてくるかもね」
と、その視線を受けて背後でびくりと震えたのが分かった。
「わ、私はお兄さん一筋です!」
「俺がどうかしたか?」
「ほぅえ!?」
タイミング良く来たクレナにマリンが素っ頓狂な声を上げていた。
◯
外で適当に食事も終え、宿に戻っている時。
「あ、アズサさん」
「ん? どうかした?」
僕が一人で居る隙を突いた様にマリンが話しかけてくる。
「そ、その。相談が」
やはり、それは気のせいではなかったみたいだ。
◯
宿の裏にてマリンと向き合った。
「何か悩み事?」
「い、いえ。今はこれと言った悩みは」
率直に訊いた僕にマリンも答えた。
言葉通り最近のマリンに変わった様子は無かった様に思えるが。
「その、悩みと言えば、なんですけど……私が呪いを解く事を迷っていた理由、覚えてますか?」
「本当の意味で嫌われるのが怖いってやつ?」
「そ、それも本当なんですけど、他にもあって」
他に? 何だろう。
マリンの気持ちは散々考察もしてたし話も聞いて、結局それに落ち着いた筈だけど。
「ああ、僕らに気を遣ってるみたいな話だったっけ?」
「ち、違うんです。そんな、いい、理由じゃ……殊勝な理由じゃ、ないんです」
マリンは辿々しく言う。
「その……あ、浅はかですけど」
そう自信が無い様に躊躇いながら。
「か、構って、欲しかったから」
恥ずかし気にそう言った。
「呪いが解けたら今みたいに構ってくれないんじゃないか、優先されないんじゃないかって、考えちゃって……。魔王領で時間ができた時も、ついその考えが戻ったりして」
そう視線を下げて独白していたマリンだったが不意に視線を上げ。
「でもお姉ちゃ……リシアさんが言ってくれたんです。『呪いを越えた愛があるなら、それこそ解けても変わらない』って」
そう言い切った。
「それに──」
「それに……?」
「い、いえ! 何でも!」
何か言いかけた様子のマリンに続きを促すも、そう誤魔化されてしまう。
マリンはそこまで語って、また視線を下げた。
「幻滅、しましたか? ただの、我が儘だなんて」
「え」
不意な自分を卑下する言葉に呆け、僕はつい笑う。
「ううん。そんな事ないよ。寧ろ安心しちゃった。とっても人間らしい悩みで、良かったって」
そう偽らざる本音を言う。
マリンはきょとんとしていた。
「ああ、悩んでたのに、良かったって言うのもおかしいけど」
僕はそう言い加えて、山脈に行く前の日々を思い出す。
結局やはり勘ぐり過ぎてたのだろう。
呪いに関する悩み……ではあったのだろうが、これくらいの歳の子なら誰にでもある様な、利己的でくだらない、そんな悩みだ。
「と、とにかく、今のが本当の本当で、最後の最後の私の本音です」
「うん。話してくれてありがとう」
僕が微笑んで言うと、マリンも少し口元が緩んだ。
「それから、そんな風呂敷を広げる訳では無いんですけど、本題は別でして」
と、そう言ってマリンは右の眼帯を取る。
「だ、大丈夫なの? 目の調子とか」
「は、はい。実は、目自体はもうずっと前に良くなってて」
寝る時くらいは外しているマリンだが、白昼に晒しているのはとても珍しい。と言うか初めてだ。
明るい日の光に照らされた今ならその瞳の色も分かり易い。
マリンの右目は左目と比べて、少し色彩の薄い空色だった。
「でもその……こんな目だから、やっぱり付けとこうって、外さなかったんですけど」
「え? どうして? あ、やっぱり呪いがあったから? 目が合うだけでも影響あったもんね」
「い、いえ。それもあるんですが」
と、少し言い澱む様に間を置いた。
「その、色が違くて。き、気持ち悪いかな……て、思って」
「ええー? どうして? すごく綺麗じゃん!」
視線を下げて言ったマリンに僕は反射的に応えた。
と、それにマリンは目を丸くした。
「あ、ごめん。もしかして、オッドアイが排他的な文化とかあった? ごめんね、文化とか疎くて。決して悪く言うつもりはないんだよ」
「ち、違います。その」
と、マリンはまだ少し驚いた余韻が残る様子で。
「綺麗とか言われたの、初めてだったので」
呟いたそれに、僕は鼻から大きく息を吸った。
「マリンは綺麗だよ! もっと自信持っていいよ! 今まで呪いの影響であんまり目立ってなかっただけだよ!」
今までの呪いによる損、不幸を感じて僕は勢いよく捲し立てた。
「呪いも解けて、きっとこれから沢山『綺麗だね』って言われるよ!」
そして一際息を吸い。
「なんなら、僕が一生分言ってあげる!」
そう言い切った。
暫し呆気に取られていた様に見上げていたマリンだったが、次第にくすくすと目を窄めて笑い出した。
そして小さな肩を揺らすのもやめ。
「ありがとうございます」
そう、微笑んで言った。
陽光に照らされて一層輝く金髪と、透き通る様な白い肌。大きな碧眼が窄められ、とても綺麗な少女の笑顔だった。
そう、まるで天使の様な。
「なぁにー? 二人っきりでよろしくしちゃって〜」
と、そう言ってニヤニヤと笑いながらリシアが陰から出てきた。
「マリンは私の妹みたいなものよ〜? 付き合うならたーんと報告なさい?」
「なっ。つ、付き合うだなんてっ」
マリンに寄り掛かる様な形で背後から抱きつき、放ったリシアの言葉に軽く狼狽する。
何を言い出すかと思えば、マリンはまだ子供なのに。
実際その慣れない単語にか、抱きつかれているからか、マリンの顔は赤かった。
「あら、珍しい。眼帯外してるじゃない」
と、リシアは抱きつくのをやめ、話を変える。
「綺麗なオッドアイね。羨ましいわ」
「羨ましい……ですか?」
「もちろん」
呆然と問い返すマリンにリシアは頷く。
「すごく綺麗じゃない。一時期憧れたわぁ。あなたのも、とても綺麗な瞳よ」
リシアの言葉を反芻する様、考え混む様にマリンは間を開けた。
「眼帯、外してみます」
そしてそう言った。
リシアがこちらを向いて目が合った。微笑むリシア。
聞いてたな。きっと。あんまり褒められる趣味じゃないな。
でも、嘘でもないんだろうな。
僕は微笑み返した。
「でも、あなたってばいつからオッドアイだったの? それとも産まれつき?」
「い、いえ。いつからは……少し、忘れました」
「そう。なら仕方ないわね」
と、そう二人は話していた。




