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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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エピローグ:人は望む物ではなく、同質の物を引き寄せる



「え……?」


 目の前のエリア様はそう呆けた様に零す。

 それもそうだろう。開口一番に話す内容にしては重過ぎる。

 だが隠したくはないのだ。

 皆んなと居る時はとてもじゃ無いが話せない事。ロビアの件での事の顛末を僕は話した。


 僕が人を殺した事。

 それは街を守る為であった事。

 一時は精神的にやられて嘔吐する日が続いた事。

 今回の旅の経験でそれらも自分で落とし込めた事。

 公な事は知っている物とし、あくまで僕が軸の話をした。


「そうですか……。あなたの口から聞けて良かったです」


 話し終えた時、エリア様はそう優しい目で言った。


「辛かったと思います。誰にも理解できないと思います。それを自覚し、孤独だったと思います。何処にも吐き出せず、ぎりぎりだったと思います。逃げ出したいですよね。一人になりたかっですよね。もう全部忘れたくなりますよね」


 エリア様はそう何度も僕の気持ちを代弁してくれた。

 今にも溢れ出しそうになる思いを優しく包み込んだ。

 エリア様は踏みより、僕を抱きしめた。

 後ろ髪に細い指が通る。


「あなたは、正しい事をしましたよ。皆さんを守ってくれて、ありがとうございます」


 その後は止め処なく泣き続けた。

 僕はやっと、報われた気がした。









 翌朝。窓から惜し気も無く差す日の光に目覚めた。

 そう、日の光だ。

 今日は王都で月に一度だけある陽光を解放する日らしい。

 暖かくて気持ちの良い日の光を浴びて伸びをする。


 不思議だ。

 人前で泣いたのに寧ろすっきりしてる。


 窓から景色を見ると湖の途中から急激に暗くなって見えた。

 単純に結界の外は夜なのだろう。

 最後にこの町の昼を見る事ができて良かった。


 エリア様にも会えた事だし、いよいよこの城から出る事となった。

 どうやらエリア様を待つ為の10日間だったらしい。


 部屋で着替えていると扉がコンコンッと叩かれた。


「入るわよー」


 返事も待たずに入るリシア。


「こんなお約束の逆みたいな事ある?」


 僕は嫌味と冗談を込めてリシアに言った。

 僕は偶々パンツ一丁だった。


「あら、失礼。ちょっと暇でね。ゆっくりさせてよ」


 全く気にした様子も無くベットに寝転がるリシア。

 外向きの格好で既に準備は済ませてる様だ。

 ただ髪は流していた。

 リシアなりのけじめの付け方なのだろう。


 ズボンを履いてベルトを締める。

 少し迷ったが、相棒である剣は右の帯へと差した。


「結局私の待ち人は何だったんでしょうね。占いされた時に言っていた」


「さぁ。占いなんてそんなもんでしょ」


 僕は上着を着つつ適当に応じる。


「それかまだ先の事なんじゃない? 旅はまだ続くんだし」


「それもそうね」


 その言葉に、リシアも解せない気持ちを飲んだ様だった。









 クロムさんに案内されて謁見の間に行くと、魔王さんとティアちゃん、そしてエリア様が居た。


「お前達まだ居たのか」


 と、ティアちゃんが言う。


「もう出て行くよ」


「では最後にたっぷり血を飲ませろぉ!」


「ちょっ!」


 元気よく駆け出すティアちゃんと取っ組み合いへと成る。


「ティア。やめなさい。あれを飲みすぎると胃もたれを起こすぞ」


 と、魔王さんの言葉でティアちゃんの力が緩んだ。

 人の血を脂っこいみたいに言わないでほしい。

 実際油分凄そうだが。


「君は精神体生命体だからね。血液も魔力そのものだろう。血液に含まれる魔力に味を感じる我々には、君の血液は極上のものだろう」


 や、やだなぁ。何か狙われてそうで。

 実際ティアちゃんは魔王さんの隣に戻りつつも、僕を見る目が獲物を見るそれだ。


「して、君ら今後の予定はあるのかね?」


 と、魔王さんが改まって問う。


「まぁ、のんびり帰ろうかと」


「ふむ。君達が良ければだが、エルドラド帝国北東部に向けた転移陣を貸そう。あれは個人的に設置している物なので天界の面倒な許可も要らないしな」


「えっ。そ、そんな事いいんですか?」


「ああ。少し遠いがな。町を出た郊外に隠してある。後で場所を教えよう」


 そう頼もしく頷いてくれる魔王さん。


「で、では有り難く。ありがとうございます」


 僕らは深々と頭を下げた。

 本当に貰ってばかりだ。


「礼と言っては何だが、お使いを頼まれてくれ。これをある人物に届けてほしい」


 と、蝋で留められた一通の封筒がクロムさんから手渡される。


「宛先は裏に書いてある」


「わ、分かりました」


 後出しだがこれだけの事をしてもらった以上はしっかりと熟さないとな。


「それから、もし君の人探しの為に博識な人物を探しているなら、私から一人紹介しよう。一筆書いておいた。恐らく帝国に居るためちょうど良い」


 と、魔王さんがそう言って、新たに封筒がクロムさんから渡される。


「種族はエルフだ。奴らは個体によっては200年生きる。必然と博識にもなるだろう。何より、使い勝手の良い魔法を知っている。君が覚える事を期待しているよ」


 魔法かぁ。そりゃ魔法のある夢みたいな世界に来た以上は使ってみたい物だけど。

 結構難しそうなんだよなぁ。


「いろいろとありがとうございます。後、これは我が儘なんですが、氷の時代を知る400歳以上の方とかってご紹介いただけますか?」


 ともかく僕はお礼を言い序でに問う。


「400と言う年数はどの種族にとっても一種の区切りでな。中々居ないのだよ」


「そうですか」


 僕は落胆を隠しつつ頷く。

 今後氷の時代に集点を当てて調べていくつもりだった。

 僕の前世が戦いの世に生きたと言うのなら、当然その時代に集中する。

 話も区切りが付いて間が空いた所で、クレナが一歩前に出る。


「この度の格別なご高配、感謝の意が絶えません。マリンの件も、言いそびれていたので改めてお礼申し上げます」


「なに。元の状態に戻しただけだ。礼には及ばん」


 深々と頭を下げたクレナに、魔王さんは毅然とした態度で応じた。

 マリンもローブを摘んで会釈する。


「ともかく、お世話になりました」


 そして今一度僕らは魔王さんへと礼を言ったのだった。









「また一時会えなくなりますね」


 謁見の間を出た廊下にて、僕らはエリア様と向かい合っていた。

 城にある転移陣にて天界へ帰るエリア様とはここでお別れとなる。


「ええ。ですが、こうやって会えて良かったです。数年後か、数十年後の事かと思ってたので」


 僕は不思議と悲しくはなかった。

 もちろん一時また会えないかと思うと寂しくも思うが、一度再会できた事が心の余裕を生んでいた。

 きっとその寂しさも仲間ですぐ埋まる。

 そしてここに来ればまた会えるかも知れない。


 だがふと、エリア様の方は仲間が周囲に誰も居ない事に気づいた。


「エリア様。いっそもう僕らと来たらどうです? そっちの方が楽しいですよ」


「行く行く! 全然行く! ちょー行っちゃう!」


 冗談半分だったが勢い良く言われて呆気に取られてしまう。

 エリア様はすぐにハッと意識が戻った様になって、居住まいを正した。


「だ、大丈夫です。行きたいのは山々ですが、私には天界での仕事があるので……。それに」


 と、優しく微笑み。


「私は皆さんを陰ながら見守っております。それで今は十分なんです」


 そう嬉しそうに言っていた。

 何だか楽しそうである。

 と、リリスが踏み寄り、エリア様も察して軽く手を広げた。

 そして抱き付くリリスをエリア様も抱擁した。


「あの、エリア様」


「はい。なんですか?」


 リリスは抱き付いたままエリア様を見上げて。


「ママって呼んでもいいですか?」


「え。ま、ママ?」


 流石にその言葉にエリア様も戸惑っていが。


「い、いいですよ?」


 そう若干のぎこちなさが残る笑顔で応えていた。

 次第満足気な表情でリリスは戻る。


「あ、あと、え、エリィさんの事も、よろしくお願いしますね? 序でにグレンのや……さんも」


 と、エリア様はそうおずおずと言っていた。


「もちろん。陣の位置を教える事は忘れていませんよ。自由奔放なあの二人が何処に居るか探すのは少々手間ですが」


「あ、はは。それは私からやっておくので、気にせず行っちゃって大丈夫ですよ? と、とにかく、な、仲良くしてくれると嬉しいです」


 それにクレナが応え、エリア様はそう背中を小さくして言う。


「預咲さんも。ね?」


「まぁ」


 僕はその問い掛けに生返事する。

 僕の反応にエリア様は苦笑いしつつも、今一度皆んなを向いて。


「では皆さん、また会いましょう」


 そう微笑んだ。









 橋を渡って小さくなっていく集団を、私は魔王城の一面ガラス張りになった場所から眺めて見送っていた。

 この町では見慣れぬ昼間の景色だが、橋も渡り切れば見失うだろう。

 そして私は昨夜の事を思い出していた──









「あ、私から一つお願いがあるでした」


 預咲さんも泣き止んだ頃、私は抱擁を止めて不意に言った。

 預咲さんは赤い目に若干残る涙を、腕で擦って完全に抜き取っていた。

 私は頃居合いを見て。


「エリィさんを仲間に加えてやっては頂けませんか? ほら、あの子結構良い子ですよ?」


「エリィを? ですか? 僕は嫌ですけど」


「え? あ、あれ? ダメなの?」


 当然受け入れられる物と思っていた私は虚を衝かれ過ぎて素で返してしまう。


「確かに良い子です。ただここまで彼女と築いてきた物って別に無いですし。まぁ、一緒に居るのは構わないんですが。そもそもこれって今更僕の一存で決めていい事とも思えませんし」


「え。あ、やぁ、でも。ほら、ね? 彼女も入りたがってるかも知れませんよ? そ、それにほら、ほぼ預咲さんの一存みたいな所あるじゃないですか。皆さんあなたの人を見る目を信用してますし」


 でもあれ? そうなると預咲さんが断るならよっぽどエリィの時の私ってダメな子?

 思わず預咲さんを肯定してしまった論理ロジックに絶望する。元々三人で仲間になったのも、私から誘ったからだと思い出し更に絶望する。


「それだけが理由ですか?」


 と、預咲さんの問い掛けが私の意識を一瞬絶望から引き上げた。


「あ、あなたの事、き、気に掛けてるみたいですし」


「よく分かりません。それだけで仲間になる理由が。それって友達か恋人でいい訳ですし。エリィが何故あんなに僕を気にかけるのかも今一ぴんと来てないです。ああ、そう言えば僕に助けられたとは言っていましたが」


 私は反論の余地が無いそれに言葉が詰まった。


「確かに本人の意志と仲間の推薦があるなら一緒に行動するのもまぁいいでしょう。でも、ここまで助け合ってきた仲間達と同格に接する事は僕にはできません。仲間外れに見えるかもしれませんが、いえ実際その言葉が一番正しいと思いますが、それでもあの人を仲間に加えるのは既存の仲間に失礼だと僕は思います」


 そう預咲さんは泣いた後だと言うのに真っ直ぐな目を向けて言った。いや、泣いた後だからこそ意志と瞳が据わっていた。

 それだけ今居る仲間の事を想ってくれてるのは嬉しい様な、私は少し複雑な気持ちになる。

 だが一つだけ疑問だった。


「あの、預咲さんって一体何を基準に仲間になるか誘っているんですか?」


「え? それは」


 ──と、預咲さんは言葉に詰まった様だった。

 何かを思い出す様に表情が落ち込み、何だが空気が重くなった。


「え、えっと。いえ、言いたくないなら良いんですけど」


 今の私にはそう言い添えるのが精一杯であった。

 だが、これで既存の仲間に有ってエリィに無い物がある事は分かった。

 今はそれで十分としておこう。









 ──そんな事があった事を、私は今一度思い返していた。

 気付くと預咲さん達は見失い、定まらない視線は下へと向けた。


「どうだったかね? 久々の再会は」


 と、魔王アルディの言葉に私は振り返った。


「あ、ありがとうございました。アルディ様。いろいろと無理を言ってしまい申し訳ないです。久々の再会、とても良き時間を過ごす事ができました」


 私はお辞儀をして常套句を並べた。


「ふむ。それは良かった。君らの再会に我らは多大な労力を費やした訳だからな」


「は、ははは……す、すみません」


「良いさ。ただの嫌味だ」


「うぐっ」


 平然としてるのにちくりと刺す魔王の言葉に唸る。


「請求書は後で天界に送るとして……。にしても、正体は明かさないのかね? 言えば話も早かろうに」


「い、言えないですよぅ。それが任務ですから」


 何か嫌な言葉が聞こえたが気にしないものとして、私は魔王の言葉に応じる。

 立場上情報通であろう魔王であるが、流石に私の業務内容までは把握して無かったみたいだ。

 魔王は同じく窓際に立って、自身の城下町を眺めた。

 魔王の眼を持ってすれば預咲さん等が何処に居るか分かるだろう事は安易に想像が付く。

 そして、魔王は実際に彼らを眺める様に。


「そうか」


 と、応えたのだった。









 街も出て暗い道を進んでいた。

 本格的な山道はまだ遠く、背後を振り返れば湖に佇む黒塗りの城が少しは小さく見えた。

 空には少し欠けた赤い月が登り、申し訳程度に僕らを照らす。

 ランプを持ったクレナを先頭に僕ら五人は南下していた。

 転移陣を目指して元来た山道を辿っているのである。

 道中に目印となる墓標の様な物があるらしく、そこで特定の呪文を唱えた後、森に入れば隠蔽系の魔法が解けて顕になった陣があるらしい。


「漸く終わりかぁー」


 僕は背伸びして、これまでの旅路を思い出すと言った。


「用事も済ませたら何する? 僕的にはロビアに戻る理由は無いんだけど」


「俺達も特には無いな。放浪してた身だ。故郷と言う印象は薄い」


「私もそうね。ずっと同じ所に居れない質だし」


 クレナ、リシアと僕の言葉に続く。マリンもこくこく頷いていた。

 じゃあ一時帝国で過すのもありかぁ。

 帝国と言うからには大国だろうし、職に溢れる事も無さそうだ。


「リリスはどうしたい? 教会とかには顔出さなくて良いの?」


 僕は後ろのリリスにも振り返って訊いた。


「私の事は気にせず」


 と、リリスはそう平坦に応じた。

 僕はそれに少し意外に思いつつ、元々こんな具合であったかとも納得しながら歩き。


「そち等、待ち給え!」


 甲高い少女の声が響き、僕らは足を止める。

 振り返ると幼い少女が一人、堂々と仁王立ちしていた。


「え、てぃ、ティアちゃん!?」


 それは魔王の娘。ティアちゃんであった。


「ど、どうしてここに?」


 僕は驚愕しつつ問う。


「私もついて行くのだー! 私も旅に加えろー!」


 ティアちゃんはそう屈託の無い笑顔で言って、元気良く両手を上げていた。



 え……? まじ?



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