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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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93:女神の考察



 くふふふふ。

 成功、成功、大成功! そう言っても差し違えないのではなかろうか。


 私はエリィの時に案内されていた部屋にて、そうほくそ笑んだ。

 預咲さん達のあの驚きぶり。これだけで態々天界に一度戻っただけはある。


 魔王アルディが天界への転移魔法陣があるとの話をしていた時、私はぴんと来た。これで本来の体で皆んなに会える! と。

 元々紅の魔王が神々に協力的なのは天界では周知の事実であった。故に私はなんの憂いも無くこの城へと来たのだ。

 食事の案内を受けた時に私は抜け出し、魔王アルディへと事情を伝えて、天界へと帰った。

 当然だが魔王は私が神である事は見抜いていた。

 故に話は早かったが、ここからが手こずった。

 さっさと本来の体に魂を入れ替えてもらい、魔王城に再び降臨するつもりが、思ったより許可に時間が掛かったのである。

 最終的には先輩の後押しもあって降臨する事ができたが。

 魔王アルディには迷惑を掛けてしまった。私の我が儘に付き合って、預咲君らを城に留めて貰った件は後で改めて謝罪と礼をしよう。


 ともかく二人と再会できて良かった。

 会っているのに再会なんて可笑しな事だが。

 グレンの奴、じゃなくてグレンさ……いやもうグレンの奴でいいや! とにかくあの人が居ないのは少し残念だ。

 折角ならこの姿でのお灸を据えてやろうかとも思っていたのだが。


 まぁ、それはいいとして、一応この体でしたい事ならあった。

 それは魂の確認だ。神が魂を視る事ができるのは身体的特徴の様な物で、人の体ではずっと精度が下がっていた。

 故にこの場を借りて魂を確認しておきたかった。

 マリンさんのもそうだが、リシアさんには『寵愛の祝福』が掛かっているとの事なのでそれも目にしておきたかった。

 因みに本人が自慢していた。

 グレンの奴が街で喧嘩して回ってる最中、女子組は宿で大人しくしてた訳だが、私も部屋に入って暇つぶしに混ざっていたのだ。

 ので、エリィの方では皆んなとそれなりに仲良くできている。


 因みにグレンはあれからも街で喧嘩して回り、実際に町を占めてしまったとの話だ。

 あいつもうここ住めよと思ったのは秘密である。

 後はリリスさんの魂も一応確認しておきたかった。

 何故ならリリスさんの魂に『天賦の加護』が掛かっていた見覚えなどないのだから。


 ともかく、一度二人で会おう。

 そう思い私はリリスさんの部屋へと向かった。









 コンコンッと扉を叩くと、『はい』と言う簡潔と言うか淡白な返事があって扉が開いた。


「エリア様!」


「へへへ。どうも〜」


 開いた扉の向こうには嬉し驚きな様子のリリスさんが居た。

 濃い紺色のキャミソール姿で、下は同色のショートパンツを履いている。

 部屋着姿で寛いでいた様だ。

 リリスさん好みの恰好だろうが、『こんな服持ってたっけ?』と若干思う。


 一目見ても分かる滑らかで仕立ての良い布地。

 言ってはなんだが、リリスさんはそこら辺無頓着なので、だいぶヨレヨレで長年愛用しているのが分かる様な部屋着をいつも来ていたのだが……

 まぁ、いいか。


「入っていいですか?」


 黒髪を揺らして頷くリリスさんに促されて部屋へと踏み入る。

 若干迷った末、私達はベットに一人分空けて座った。


「えっと。どういった御用向きで?」


「それはですね」


 問われたので丁度良いと思い、私は早速リリスさんの魂をよく見た。

 胸の辺りの奥深くに浮ぶ球体。ゆらゆらと湯気の様な物が飽和する。

 それを私はよく観察する。


 う、む……話をしてる時からちらちら見えていたから分かっていたが、やはり普通の魂だ。

 しかし魔王アルディが嘘を付く理由が分からない。

 かと言って魔王の言ってる事は呪いが効かなかった理由としては丁度良い。

 それか本当はリリスさんは呪いが効いていて、気丈に振るっていたリリスさんを庇う形で理由付けした?

 いいや。それはいくらなんでも考えすぎの様な……


 そう思って私はますます顔を近づけ、見る事に集中した。

 二の腕を掴むとリリスさんの体がびくりと反応する。


 いや、言われてみれば何だか付いてる様な。

 もやもやっと掛かってる気がしなくも無い様な。

 お、おおっ。見えてきた見えてきた。

 ふむふむ。これが天賦の加護ですか〜。


 私は急に見えてくる様になった『天賦の加護』と思わしき物に、夢中で平らな胸を覗き続けた。


「あ、あの。エリア様」


 と、緊張した様な声に私は顔を上げる。


「こ、こう言った事は、まだ早いと言いますか。お互いの事を知ってからと言いますか」


 少し顔の火照った様子リリスさんはか細い声で言い。


「せ、せめて体を拭いてからでぇ!」


「わぁ!? ご、ごめんなさい!」


 私は今の姿勢のイケなさ気付いて、慌てて翻った。


「あ、ほ、ほら? ごみぃ」


 適当にありもしないゴミを摘んだふりして誤魔化す。

 リリスさんはきょとんとした顔で瞬きしていた。


「あ、あの。以前、魔王から私には『加護』が付いてると言われたのですが」


「あ、ああ。はい」


 流石はリリスさん。私のしていた事を瞬時に理解したのだろう。

 有り難い事に私のしでかした事は流して、真面目に話すリリスさんに応じる。


「その、違かったらいいんですが。その加護って、もしかしてエリア様が掛けてくれたのかなぁ、何て」


 辿々しく話し、期待の篭った様な上目がちらりちらりと来て、私は冷静になった。


「ごめんなさい。私じゃありません」


 真実こそ、私は簡潔に伝えるべきだと思った。

 ただ視線を下げて目を合わせられなかったのは仕方なかろう。


「い、いえ。訊いてみただけですから。魔王は、記憶と思考を司る神による加護だと言っていましたし。エリア様が、精神と感情を司る神であるという話は知っていましたから」


 そう、自身でも分かっていた事だと話すが、落胆が隠せていない事は否めない。

 それに私はつい遣る瀬の無い気持ちとなる。


「確かに、私は貴女に恩恵を授けていません。そもそも属性が違いますし。でも」


 私は顔を上げる。


「でも、それって。リリスさんの事をずっと見てくれてる、気にかけてくれてる神様が居るって事ですよ!」


 私はリリスさんの目を真っ直ぐに見て言った。

 物憂げだったリリスさんの表情が少し戻った。


「ここだけの話なんですけどね? 魂に『恩恵』を授ける場合に限り、神様側からも利点があるんです」


 そして私はこんこんと語ってみせる。


「それは視る事ができるんです。魂の繋がりを通じて、その恩恵を授けた子を。その瞳を介して下界の事を」


 俗世にも余り知られていないそれを。


「きっと、あなたの事を見てくれていた人は、何処かに居ますよ? もちろん私も。『恩恵』なんて関係なく、あなたを見ていますから」


 そう、私はリリスさんに精一杯寄り添える様に優しく微笑んだ。寂しい気持ちごと包み込める様に。

 対してリリスさんは。


「視る事が……できる」


「はい」


 何か深い思慮に耽る様にそう呟いた。


「私の事を」


 呆然と呟くリリスさん。

 只管ひたすらに深慮に没入していた様子だったリリスさんは不意に顔を上げ。


「それは……例えば、恩恵を授けて、牧羊犬となった者を介して何かを監視する事も、あるいは可能と言う事ですか?」


「え……? ま、まぁ、可能かと訊かれれば、そうですけど」


 急な問いに戸惑いつつ答えると、リリスさんは思慮に耽た様子のまま。


「ずっと、疑問に思ってる事がありました。アズサの監視役は居ないのかと」


 そう、話し出す。


「そしてリシアは、魂に祝福を授かっています。これは……考えすぎでしょうか?」


 私はその問いに息を呑む。

 ありえる。

 ()()()()()()()()()()、ありえる。

 そして預咲さんの監視役が私でいいのかという疑問も、これで解消されるのでは?

 という事は、誰かがずっと、見ていたのだろうか?

 リシアさんの瞳を介して、預咲さんやその周囲を。


「り、リシアさんとの出会いは、どんな様子でしたか?」


 私は動揺する気持ちを押し殺して、精一杯の問いをする。


「アズサが一人で歩いていた時に、リシアから声を掛けらたそうです。それからは、変に気概を買ってしまったようで」


 もし、それが自然な出逢いを演出させられた物だとしたら、どうだろうか。

 精神に干渉する魔法には、本人も気付かぬほどに思考を誘導する魔法がある。

 魔王も言った様に、預咲さんは精神干渉の魔法に強い耐性があるだろう。

 だとしたらリシアさんの方に魔法を掛け、誘導したのなら辻褄は合う気がする。


「大丈夫ですか?」


「あ、あはは。大丈夫ですよ」


 と、リリスさんの心配気な視線を受け、私は虚勢を張る。


「そうですね。今の所、十分にあり得るとだけ」


 となればリシアさんの出生を調べる他、いやそんな事が関係無いからとても厄介なのだ。


「ただ、天界の情報収集の方法には、もっと上があります。これは寧ろ、優しい方かもしれません」


 今は難しい事は置いておき。


「と、とにかく、私から忠告できる事と言えば、避妊はしっかりしましょうねと言う事くらいです」


 私は私ができる精一杯の事として、リリスさんの為になる様、気持ちが伝わる様に二の腕をがっちり掴むと真っ直ぐに告げた。


「え、エリア様……そ、そのぉ」


 対してリリスさんは弱った様に視線を落とし。


「お、女の子同士では、できないと思うのですが」


「へ?」


 恥じた表情で言われ、私は今の姿勢に気付いた。


「えっ、ああ! な、なーんて! ほら、ごみぃ」


 また適当に摘んで誤魔化す。

 一時リリスさんは火照った顔のままだったが、それも一旦落ち着くと。


「あの、どうすべきでしょうか? リシアは大切な仲間です。例え思考が誘導された物だったとしても、ここまで築いてきた物があります」


 そう真面目な表情で話して。


「それとも、それも偽物なのでしょうか」


 一層と物憂げな表情で視線と顔を下げた。


「そんな事ありません」


 私は気付くと口に出していた。


「実は途中から貴女達を見ていましたが、リシアさんが精神干渉を受けている様子はありませんでした。なので最初はどうあれ、リシアさんが貴女方と行動を共にすると誓った意思や、その後の信頼も紛れも無くリシアさん本人の物ですよ」


 私は優しく微笑んで言った。

 それにリリスさんはほっとした様に表情を軟化させると。


「そうですか」


 そう言った。

 一先ず話も落ち着き場が和む。

 にしても、普段は感情を露見させる事の無いリリスさんだが、意外と仲間思いでその事となると気持ちが揺さぶられる様だ。

 私はその事を素直に嬉しく思う。


「後。エリア様、目を逸らさずに答えて欲しいんですが」


「え? は、はい」


 と、不意に顔を上げて飛んだ言葉に、条件反射的に目を合わせ。


「エリィさんは今どちらに?」


「えっ。えーとー」


 つい目を泳がせた。逆に焦って目を合わせ。


「さ、さぁ?」


 自分でも分かる程に、下手過ぎる誤魔化しをしてしまった。


「エリィさんって、エリア様ですよね?」


 じっと目を覗かれて問われる。


「は、はいぃ」


 ついに根負けして白状してしまった。

 そ、そっか。リリスさんは魂が視えるから。

 本来格上の魂は見れない筈だが、例外は幾つかある。

 今回はその例外だろう。


「魂もそうですが、膝枕もしてましたし。何だかあの時と同じ構図でよもやと思いました」


 あ、ああ、あの時かぁ。

 そう言えばその後のリリスさんは預咲さんに対して膝枕の事で詰問していた。

 って事は、あれは本当にツンデレでもなく、私の反応を見る為の探りだったのだろう。


「本当は最初アズサの監視役と思ったのですが……いえ、それも本当なのですよね?」


「あ、はい」


 もはや隠し事は無理そうだなと私は吐いた。今の敬語は癖とかじゃく先輩とかに対する素の敬語だ。

 当然エリィの正体が私である事と監視役である事は両立する。事実そうだ。

 言われてみればその後のリリスさんの態度は威嚇か牽制でもするかの様だった。

 恐らく、私が預咲さんの魂を扱った事で確信へと至ったのだろう。

 私の知らぬ所でこの様な思慮を巡らせているとは。

 流石は『天賦の加護』を受けているだけはある、のかも知れない。


 その時私は不意に『ん?』と疑問に思う。

 私の魂を見れた事は例外として受け入れらるが、最初から預咲さんの魂を見れたのはその例外を適用すると矛盾する。


「あの、リリスさんは最初から預咲さんの魂を見て驚いていましたよね? 一体どこまで見えていたんですか?」


「祝福が六つ掛かっている事……それだけです」


 そうか。恐らくそこまでは自力で視る事ができたのか。

 恐らくリリスさんが魂を見る事ができるのは才能だ。本当に時々だが人の子でも居るのだ。


「そういえば、魔王の魂はもやがかかったかの様にまるで見えませんでした」


「ああ。自分より格上の魂は見えないんですよ。ほら、預咲さんの魂の事だって、天使の方で騒いでたのはレミリアさんだけでしたし」


「確かに」


 ま、最初それは知らなかった訳だけど。

 リリスさんも知らなかった筈だ。今の返事も適当に合わせた物に私は思えた。


「と言う事は、レミリアはアズサより格上の魂という事ですか?」


「えーとー、そうなりますかね? 天使は種族的に元々見え易い質ではあるので、格上という限りでは無いかもしれませんが」


 重ねられる問いに私は適当に答える。


「私がアズサの魂を見えるのは、私の魂がアズサのそれより格上という事でしょうか?」


「え? うーん。違うみたいです。寧ろ結構新しい方かと。まぁ、時折り才能で格上まで視える方も居ますし」


 私はまた魂を覗きつつ答えた。

 だが分かっていた。リリスさんの表情が段々と暗くなっている事に。


「格上……格上って一体何なんですか? 格上って言葉で誤魔化してますけど、でもそれって──」


 続く言葉を止める様に、私はリリスさんに抱き付いた。


「大丈夫。大丈夫です。私が保証します。貴女の魂のレベルは1ですし、皆さんもそうです。預咲さんの事は心配しないでください」


 自分でもこれは、狡いやり方だなと分かった。


「仲間なんですから、ね?」


 そしてそう、顔を戻すと言葉を重ねた。

 リリスさんはまだ少し落ち込んだ表情のまま視線を下げ。


「……はい」


 その一言だけ、精一杯返した。



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