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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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92:仲間の意味



 『折角だ。案内しよう』その言葉を皮切りに、魔王さんは寝てしまったティアちゃんをクロムさんに預けて僕らを案内してくれた。

 魔王さんを先頭に城内を進む。


 広々と空間を贅沢に使った城内の風景。余計な調度品を飾るよりもいっそ威厳が守られてる様に思えた。

 赤い絨毯の敷き詰められた緩い階段を降りていると、中央の広い踊り場の壁に何か巨大な物が架けられてあるのに気付いた。


「お、大きな鎌ですね」


 それは鎌だった。

 僕はそれを見上げながら言う。

 魔王さんの身の丈すら優に超える持ち手の長さ。恐らく2.5メートル程ある。

 重厚な質感から持ち手すら金属だと言われても納得する。

 何より目を惹くのは首をもたげる刃の部分。一度振ればたちまち何十人と切ってしまいそうな長く鋭い刃。身の丈に相応しく刃渡り二メートル近くあろう。薄く紫の光沢を持つ、白銀の刃であった。

 見るからに業物。よく見ると湾曲する刃の背中に沿って、細かい文字が彫ってあった。


「ああ、貰い物でな。この鎌一振りで、この城を壊す事ができれば、建て直す事もできよう」


 と、魔王さんは答える。

 つまりはそれ程の価値もあると言う事か。


「所謂神器と呼ばれるクラスの武器だ。本来神の敵対者たる我々からしたら、その呼び名は些かどうかと思うがな」


 と、冗談かそう言っていた。









「美味しそー!」


 案内された部屋には既に料理が並んでいた。

 コース料理らしき物がそれぞれて配置されている。

 湯気立つスープがたった今用意された物である事を知らせる。

 中央に鎮座するのは厚めのステーキだった。

 魔王さんは案内をし終え既に退室済みだ。

 それからエリィもいつの間にか居ない。まぁ、グレンの連れだし放っておいて大丈夫だろう。

 僕らはそれぞれ適当な席に着く。


 何の肉だろう。

 ひ、人の肉とかじゃないよね……?

 つい失礼極まりない考えが過ぎる。


「いただきます」


 と、皆んなの視線が何となく僕に向いていた。

 はいはい。僕が毒味役って事ね。何て思いながら左手にフォーク、右手にナイフを持って肉を切る。

 僕に毒とか効かなそうだからこの役に意味は無さそうだけど。

 そう思いながら分けた肉を口に運び。


「うっっっっま!」


 あまりの美味しさについ感想が飛び出た。

 こちらの世界に来て食べた肉で一番美味かった。

 甘い脂の乗った牛肉だ。放牧育ちを思わせる様な満足感のある食感。

 こちらの世界の肉は正直硬いし臭い。これの様に品名ブランドが付いてそうな肉もあったんだと僕は感動した。

 僕の反応を見て皆続く。


「リリス大丈夫?」


 そんな中、肉を切るのに苦戦していた様子のリリス。

 行儀は悪いが、ちょうど隣だし椅子ごと寄って、リリスの手に被せる様にナイフとフォークを持って切ってあげた。


「指はここだよ。あ、リリスって右利きだったよね? じゃあナイフはこっちかな。僕も作法は詳しくないんだけどね」


 こちらの世界の作法となると益々知らないが、序でに適当に教える。


「どうも」


 リリスが一言言う。

 解せない気持ちの篭ったお礼だったな。

 できなくて悔しいんだろう。


「にしても、思ってたよりずっと良い人で良かったね」


 僕は席を戻しつつ言った。


「ああ。ティア姫が来た時は何事かと思ったが」


「だいぶお転婆だったね」


 正面に座るクレナが返事して、僕は苦笑する。


「そう言えば、マリンは天使とのハーフだってね。びっくりだよ」


 と、僕はその左隣りのマリンへと向けて言った。


「わ、私が、一番びっくりしてます」


 マリンは視線を下げて辿々しく応える。

 何だか話が濃過ぎて色褪せちゃってるが、大分重大な情報だ。

 そう言えばマリンと最初にあった頃、天使の様な娘だなと思ったっけ。


「お、お腹違いって……本当ですか?」


「ああ。隠しててすまなかった。と言っても、俺の実母は俺を産んですぐ亡くなったそうだから、俺も余り実感は無いんだが」


 隣を向いて問うマリンにクレナは答えた。


「血の繋がりなんて関係無いわ。大事なのは愛よ」


 と、クレナの右隣りに座るリシアがマリンに向けて言った。

 それにマリンは複雑そうに微笑んでいた。


「この際だから言うが、一つ共通認識にしておきたい事がある。アルディ陛下の話では俺達兄妹は主からの特別なめいを賜ってるとの事だ。聞くにこれまでの重要な出来事は主の御導きらしい。これからも何らかの接触があるかもしれない」


 と、クレナはナイフとフォークを一旦置いて真面目に言った。

 そうか。魔王さんの話じゃ二人は天界にとって特別な存在。

 聞いた話ではまるで天界の所有物の様な扱いだった。

 天界にとってマリンの利用価値が高いと言うのなら、今後何かあるのかも。


「問題はその時にどうするかだ。受け入れるのか、拒絶するか」


「主に意向に叛くと? 全てのめいは主に帰するのに?」


 リシアがクレナの言葉に口を挟む。


「実際呪いの事は受け入れ難かった。理由を聞いて納得はできたが、本当は文句の一つくらいは言うつもりだった」


「ちょ、ちょっと」


「冗談だ」


 クレナの言い草につい僕も口を挟むと、クレナは肩を竦めて応えた。

 絶対冗談じゃないな。 


「管轄の神とやらに直接話す機会でもあれば良いんだがな」

 

 と、クレナは遠くを見る様に言っていた。


 管轄の神、か……

 クレナ達は故郷であるロビアから大きく離れてしまっているが、そこのとこ管轄の神とやらはどう思ってるのだろう?

 もしかして神様的すごい力で今も視ていたりして……なんて、ないか。


 僕は自身の考えに内心苦笑したのだった。









 ベットと机と椅子だけある簡素な部屋。

 奥の窓からは遠くの暗い山々とぎりぎり左手に町の灯りが見え、北西向きの部屋だと分かる。

 必要最低限の部屋って感じで正直王城にある客室には思えない。

 公的客ではない訳だし、使用人様なのかもしれない。


 食事を終えた頃クロムさんに案内された部屋であった。

 食事も一人部屋も用意してくれる何て、それだけで僕らには格別な待遇だ。

 と、部屋の扉がノックされる。

 扉を開けると案内を終えたらしいクロムさんが居た。


「アズサ様。先程はお嬢様が大変な無礼をし、誠に申し訳ございませんでした」


「は、はい」


 開口一番謝罪と共に頭を下げる。

 まぁ、子供のした事ですし。なんて言える範囲は越えてるので僕は微妙な返事しかできなかった。


「言い訳がましいのは重々承知ですが、どうか老体の戯言だと思ってお聞きください。立場上お嬢様に歳の近い友人は居らず、人付き合いが分からないのです。お嬢様が遠慮無く接せられる相手と言えば、お父上であられるアルディ陛下のお客様になります。遠慮無くとは力加減の事もそうで御座います。アルディ様のお客様と言えば貴族階級の者。つまりは相応の強さを持った者達であります故、お嬢様は遠慮無く剣を振るうのです。剣術を遊びだと思っておられるのです。あれでお嬢様は甘えていらっしゃったのです」


 つらりつらりと語るクロムさんの言葉を聞く。


「その上、歳も技量も近しい相手は初めてで、きっと興奮してしまわれたのだと思います。城内にて窮屈な生活を強いられてる姿を直近で見ていては、あの様に無邪気な姿を咎める事は、私にはできず……」


 そうクロムさんは悲痛さと申し訳なさの混じった表情をする。

 なるほど。今までティアちゃんを相手して来た人は対応できる技量を持っていたのか。

 それに慣れていたティアちゃんはその調子のまま僕を相手してしまい……と。

 まぁ、こんな顔でそう言われては溜飲を下げる他あるまい。









「え、えーと。どうもね」


 それぞれの部屋が左右に並ぶ廊下を戻った所に、ロビーの様な空間があった。

 縦長の空間で、奥にある大きな窓から泉や山々の夜景が一望できる。

 ソファーやテーブルが並び、居間の様に寛げる場所だ。

 実際孤立した空間で、入り口には扉がある。

 僕はその扉を背に、それぞれが適当に寛いでいる皆んなへと挨拶した。

 この場に居るのはリリス、マリン、クレナ、リシアの四人だ。


「一応、改めて言おうと思って集めました。多分、皆んなも多少は気になってると思うから」


 皆んなの視線が集まる。そして僕は簡潔に言う。


「さっき、魔王さんに相談した通りだよ。僕には前世の記憶がある。前世で『また会いましょう』と約束した人が居て、その人に会う事が僕の最終的な目標。まぁ、黙っててごめんね」


 僕は結果的にマリンの呪いを解く目標を利用した事になったと思い、その分で謝った。


「それが、あの時言わなかったもう一つの目標ですか」


「うん。さすがリリス。よく覚えてたね」


 リリスは肩を竦める。


「何で隠してたの? この様子じゃ誰にも言ってなかったのね」


「隠してたつもりは無いんだけど。まぁ、一応言う必要が無いと思って言わなかったのが理由であり、建前になるのかな?」


 リシアに応えつつ僕は皆んなを見回す。


「本音の方は……うーん、何だろう」


 そして僕自身あまり深く考えていなかったので少し悩む。


「あくまでもマリンの呪いを解く名目で行きたかっただと思う。多分、それを理由に混ぜちゃうと方向性が変わったと思うんだ。だってこれって完全に私情な感じしない? 例えば運良く道中でマリンの呪いが解けたとしたら、それって僕の掲げた理由と気持ちの方は迷子になっちゃうじゃない? それにマリンにも行く事を強要する事になってたと思う。だから、これで良かったと思うんだ」


 僕はそう思いつくまま言った。だが本音である。


「ま、確かにそうだな。全員の私情と目標を共有しても雁字搦めになるだけだ。俺はそれで良いと思うな」


 と、クレナは一通り話を聞いて言った。そして僕を見返し。


「それで? 今こうやって本音を語った訳だが、それを俺達共通の目標にしようとは打診しないのか?」


「う、うーん。正直考えたんだけど」


 その言葉にまた悩む。


「やっぱり僕のは私情性が強すぎると思うんだ。今は共通の目標も無いから僕も大っぴらに言えたけどさ。それで全員の行く末を担うには重すぎるって言うか」


「その程度なのか? その人に会いたいと言う気持ちは」


「違う」


 思わず即答した。


「ごめん。ありがとう。気付かされたよ」


 そして思考が纏まりはっきりとする感覚を覚える。


「言い方が悪かったみたいだ。僕は例え一人になっても『あの人』に会いたい。とても強い想いの約束だった筈なんだ。だからその為に協力してほしい事があったら皆んなに頼むと思う。今はそれが無いから具体的な事思い浮かばないけど、その時は、よろしくお願いします」


 僕は皆んなに深々と頭を下げた。


「それでいい。これでアズサの目標を支える事が、俺達共通の大いなる目標の一つとなった」


 そうクレナは満足気に頷いていた。


「ふふ。都合の良い約束ね。悪くないわ」


 微笑んで言うリシア。

 マリンもリリスも特に反対は無い様子。


「だがその話で行くと、俺達は結局何の集まりなんだ? 何を目的とする、何の為の仲間なんだ?」


「一緒に居る。それだけじゃない?」


 僕は何の気なしにクレナに答えたが、実際それが僕らを表す一番正しい言葉に思えた。

 流石に安易な物だったか、皆少し頬を緩ませ見合った。


 一緒に居る事が目的の、一緒に居る仲間。それでいい。それがいいんだ──









 皆んなと少し話し、僕の探し人は便宜上『あの人』と呼称する事となった。

 それから『あの人』に関して分かる事として、恐らくはこちらの世界の人であると言う事が挙げられる。

 垣間見た白い髪以外の根拠として、あの時頭に響いた声は母国語ではなかった。

 僕がこの世界で感じる頭に直接届く様な声でもありながら、その言葉を思い出す様な不思議な感覚。

 実際こちらの世界の言葉と照らし合わせ、あの時の言葉の発音と同じである事が分かった。

 これで地域と時代を特定できるかと思ったが、そう言えば共用語である神聖語は世界共通だった。

 となれば神聖語の起源くらいはこれから勉強していくべきか……


 ともかく、今現在の進展はほぼ0である。



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