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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第一章 七日間の旅編
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プロローグ:女神様



「なにこれ?」


「えっ」


 気づくと知らない場所に居た。

 四方七メートル程の空間で、全体的に薄い黄色に光って見える。

 そこにポツンと椅子が二つ。その椅子に向かい合って座る僕と少女。

 他には少女の側に小さな丸テーブルがあるのと、その後ろに扉があるがそれだけである。


 少女は十七、八歳くらいの見た目で、桃紫色の瞳と、薄桃紫の銀髪をしていた。

 服装は祭服と着物の特徴を合わせた独特な物で、それは白を基調とし、所々桃紫色の刺繍がある。

 そしてその少女が、僕の胸辺りを怪訝な目で見ていた。


(何だろう?)


 その人の見る自身の胸を見下ろす。

 なんら違和感無い、無地のシャツ。


(というか、ここどこだ?)


 漸く湧いた疑問に辺りを見渡す。


(なんだかまるで……)


 そこまで考えて、僕は不意に最新の出来事を思い出していた。









 部屋に鳴り響く、お鈴の音。


 畳の部屋の隅にて仏壇へと手を合わせる。耳に心地よく残る音も消えた頃、合わせていた手を下ろす。

 仏壇に飾られた一枚の写真。

 二匹の猫と一匹の犬が、ソファーのクッションに転がり身を寄せ合っている。

 茶色い柴犬と、黒猫と、灰色の猫。

 既に見慣れたその写真に自身の姿が朧げに反射する。


「おはよう、クンヨ~。お前本当はここに居ちゃいけないんだぞ?」


 と、側に寄って尻尾を振るそれを撫でる。

 小麦色の硬い毛玉。狐である。

 噛みつかれながら一通り撫でた後、噛みつかれながらその子へリードを付けた。


「行こっか」









 午前。

 古い木造の一軒家を出て、外を狐の歩調に合わせて歩く。

 小刻みに聞こえてくる土を踏む音。


 そんな、いつもの。

 変わらぬ日常の一場面。

 不意にリードに重みが増し、狐を振り返った。

 そこにはその場に留まったクンヨの姿がある。


「どうしたの?」


 周囲を見るが特に変わった様子は無い。

 じっとその子が動き出すのを待って眺めていた。

 その時、ぴくりとクンヨの耳が動いた。弾かれた様に顔を上げる。


 ──ああ、もし……なら……


「え?」


 どこからか、凛と鈴の音の様な声が聴こえ。

 振り返って道を見渡すも、そこには誰も居らず。


 ──また…………で……


 その声は途切れ途切れで、雑音が混じったかの様に聴き取り辛く。

 僕は、その女性の声が聴こえた時──









 それから……

 それから、どうなったんだっけ?


 僕はその先がどうも思い出せず、まるで思い出せる気もしなかったのでもどかしいながらも諦めた。


 目の前にはこちらへ怪しい者か物でも見るかの様な視線を向ける少女が一人。

 大凡見慣れたものではないその髪と瞳の色も、端正な顔立ちが飽和してか違和感が無い。

 美人な顔立ちながらどこか幼くも見える。


「あ、あの」


 状況がよく分からず、僕はとりあえずとその少女に話し掛ける。


「はい!」


 と、少女は僕の胸辺りから目線を外すと、慌てて返事する。

 まさにハッとなるという感じだ。


「こ、ここは、どこなんですかね?」


「ああ、はい。ここは……まあ、ザックリ言うと、天界です」


 ざ、ざっくりって。


「天国的な?」


「いえ、ここは天国へ行くか、転生するかを選ぶ場所です」


 少女はそう然も有りなんと言った。

 天国?転生? 何言ってるんだ?

 いや、言葉の意味くらいは分かる。分かるが……


 恐らくは怪訝気であろう僕に対して、少女の方はまたも僕の胸辺りを、今度は睨む様に見始めるとそれっきり黙ってしまう。


「あの」


 物音一つ無いこの部屋で、僕は少し居た堪れなくなり声を掛ける。


「はい」


「その、状況を知りたいと言いますか」


「ん~、状況ですか」


 少女はそう呟くと目を合わせ。


「やっぱ死んだんでしょう」


 そう当然の事の様に言う。

 し、死んだ?


「あ、言い忘れてましたが、お悔やみ申し上げます。天徒あまと預咲あずささん」


 と、思い出した様に言って頭を下げる少女。

 お悔やみ申し上げます、か。

 まさか自分の事として言われると思わなかったが。

 それに、こんな早く。


「確か、十六。いえ、まだ十五ですか?」


「ああ、はい」


 少女がテーブルにある紙束を捲りながら確認する。


「私の名はエリア。女神エリアです」


「どうも」


 少女改め女神エリアに会釈する。


「えーと、一つお聞きしたいんですけど、いいでしょうか?」


「あ、はい。なんでしょうか」


 と、女神エリアによる改まった言葉に居住まいを正す。


「どうやって死んだんですか?」


 いきなりそれか。


「えーと。それが、よく覚えてなくて」


 僕は苦笑い気味に答えた。

 と言うか自分が死んだ事自体半信半疑なんだが。


「すみません。普段はこんな事ないんですけど、なぜか情報が少なくって」


 エリア様は困った様に紙束を捲りながら言っていた。

 と、その時『ゴトンッ』と何かを落とした様な物音が上から聞こえ、エリア様と二人天井を見上げる。

 数秒。また静寂へと戻り、僕らは視線を戻した。


「で、どうします? 天国か、転生か」


 と、じっと視線を合わせて問われる。

 い、いや、いきなりそう訊かれても。


「えーと、天国ってどんな所なんです?」


「天国は、ですね……。面白くないです」


「はぁ」


 またも適当な説明をされ、もうどんな反応していいのか。


「ええ! ですから、絶対に転生の方がいいと思いますよ!」


 途端、そう力強く言うエリア様。

 転生ねぇ。新しい人生を送るってやつ?

 でも、それこそ本当の死みたいなもんじゃ……

 そもそも、僕が本当に死んでいるのかどうかも今一信じられないと言うか。


「預咲さん、早く!」


「ああ、はい」


 急かしてくるエリア様。


「も、もう転生でいっすか!?」


 今度は転生で押し通そうとする。

 なんでそんな焦ってるんだろう?

 っというか、何だかこの人は僕が天国に行くのを拒んでる様な……


「え?」


 途端部屋が青く光りだし、声を漏らした。


「こ、これは」


 呟き、部屋の床を凝視するエリア様。

 僕もつられて下を見ると、そこには床一面に広がる幾何学模様があった。

 青い光で描かれたそれは、見覚えの無い文字がびっしりと書かれていた。


(な、なんだこれ?)


 そう思う間にもその光は増して行き、謎の浮遊感と共に、僕は光に包まれていった。



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― 新着の感想 ―
突然の状況に戸惑う主人公と個性的なエリアのやり取りがおもろいです笑 死んだ自覚がないまま転生を迫られる展開は一体これからどうなるのだろうと続きが気になります。特に最後の謎の光と幾何学模様が物語にどんな…
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