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4話

 神様が言っていた通り俺が目を開けるとそこは異世界だった。

 正しくは、異世界らしき場所だ。俺は町の真ん中に転生させられて大通の人ごみにまぎれてしまっている。

 もう少し、転生させる場所を選べなかったのか? これじゃあ、どうしても下手したら大騒ぎだ。俺がひっそりと気配を消したから良かったものを、普通の人間だったらテンパって自分から騒いでるところだぞ。


「しっかし、町並みを見た限りじゃあ確かに地球じゃないよな。文明レベルが低すぎる。街灯とかもないし、もしかしたら電気自体がないんじゃないか?」


 周囲を見渡してみる限りは、少し文明レベルが下がっている程度の違いでしかないが、正確なところは調べてみないとわからないな。俺も、まさか壮大なドッキリとかだという風には思ってないし、神様の言う通り異世界なんだろう。つまり、俺はこの世界で神様から貰ったチート能力を駆使して魔王を討伐しないといけないんだ。

 改めて考えてみても冗談みたいな話だよな。

 これまで普通の高校生だった俺が、異世界の勇者だぜ? ふざけるのも大概にしろってレベルだよ。俺なんかに務まるもんじゃないって言いたかったが、そういうことを言える雰囲気でもなかったしな。チート能力を貰えるから大丈夫だろうと高を括っていたが、大丈夫だったんだろうか? 俺だって魔王に殺されたくないし、実戦経験をある程度積んでから戦いを挑みたいな。


「とりあえず、移動しようか。こんな未知のど真ん中で物思いにふけるってのも難しい。もっと一人で集中できる場所があればいいんだが……」


 この町の地理なんてまったくわからない俺は、人の流れに沿って大通を進む。

 この流れに乗っていれば、どこかしらにつくだろう。無意味に進んでいるわけもないことだし、俺レベルになると、誰について行けばいいかくらい見ただけでわかるんだよな。


「でも、本当に人が多いな。俺の地元じゃまずお目にかかれないレベルの人ごみだよ。歩きずらくて鬱陶しいことこの上ないな。もう少し、数がへってくれりゃいいんだけど、そういうわけにも行かないよな」


 しばらく流れに沿って歩いていると、分かれ道に差し掛かった。


「これはどっちだ? ちょうど半々くらいに別れてるからどっちに行けばいいかわかんねぇな。どうすんだよ」


 ここは俺の得意な勘を発動するしかないか? いや、冷静に観察すればどちらが正解か位見当がつくかもしれない。俺の観察眼にかかればどんな奴も丸裸だぜ。

 実際、どっちに進んでも大した差はなさそうだけど、少しでも楽なほうに進んでおきたいんだよな。。ちょっと遠回りになるとかすっげぇうぜぇし。俺は時間の無駄にはうるさいタイプなんだよ。


「どっちにしようかな。右には買い物をしたバッグを持っている人が多いな。それ比べて、左に進んでいる人の手にはまだ何も持たれていない。つまり、住宅街や宿があるほうが右だ。そして、この大通り以外の店は左にあると見た!! そうなれば、俺が進むべき道は……どっちなんだ?」


 俺は一人で考える場所さえあればどこでもいいんだ。

 ぱっと思いつくのは宿だよな。でも、金を持ってないから止まれないんだよなぁ。まずは、金を稼ぐところからか。俺、バイト経験もないし、この世界ですぐに金を貰える仕事ってないにかないんだろうか? 雇ってもらえても、給料が来月とかになるんじゃそれまで食つなぐことができない。そもそも、野宿が確定してしまう。俺だって、異世界に来て初めての寝床が地面なんて嫌だ。ふかふかのベットとまで贅沢は言わないが布団くらいは望みたい。

 でもなぁ、そう都合のいい仕事があるもんかな。


「あの、すいません。このあたりで迷子になっている熊を見ませんでしたか?」


「え? ああ俺に聞いてるのか。そうだな、俺は見てないな。ってか、熊なんて町中にいるもんか?」


「私のペットのグリーちゃんなんです。ちょっと目を離した隙に居なくなっていまいまして……今頃きっとお腹を空かせて泣いてます。ああ、グリーちゃんが可愛そう」


 熊がペットか。ここは異世界だもんな。俺の常識で物事を判断しちゃいけないんだ。俺だってこの世界に慣れていかないといけない。覚えておこう。この世界では熊がペットは普通のこと。逃げても誰一人騒がない程度の小さなことと。

 それにしても衝撃だな。いくらペットとは言えども、熊が逃げ出したんだ。大騒ぎになっててもおかしくないだろ。熊なんて魔王や魔族に比べたら大したことないから誰も気にしないのか? 襲われたら普通に危ないよな。


「町中で見失ったんだったら、きっとどこかにいるはずだ。すぐに見つかるんじゃないか?」


「そう言っている間にもグリーちゃんはお腹を空かせてるんですよ。それに、あんなかわいい子ほかの人が見たら放っておくはずありません。誘拐されるんじゃないかと気が気じゃありませんよ。私のグリーちゃんは国主催の熊コンテストで準グランプリを取るほどの美人さんなんですからね」


「……そうなのか。そりゃ早くみつかるといいな。それじゃあ、俺は急いでるから」


「待ってください。これも何かの縁です。グリーちゃんを探すのを手伝ってもらえませんか?」


 しらじらしいな。絶対それ目的で俺に話しかけてきただろうが。

 残念ながら、俺は自分の命を明日へ繋ぐことに精一杯になってるんだ。そんな熊なんて他愛もない存在に構ってる場合じゃないんだよ。丁重に断ろう。


「悪いな。俺も金を稼ぐために仕事を探してるんだ。つまり、時間がないんだよ」


「余計にちょうどいいじゃありませんか。グリーちゃんを見つけて貰ったら報酬としてお金をお渡ししますよ」


「是非、やらせてくれ」



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