3話
「それで俺はどうやって魔王を倒せばいいんだ? これといって魔王を倒せるような力に心当たりなんてないんだけど……」
「そこは私の出番ですね。私がチート能力を授けることで貴方は魔王と渡り合えるようになるのです。もちろん、能力を貰ったからと言ってすぐにというわけには行きませんが、鍛錬次第では魔王を倒すことも可能になると思います」
「完全にずるじゃんそれ。そんなことしてもらっていいのかよ。俺が倒したというよりあんたに貰った能力で倒したようなもんじゃないか。俺だって自分自身の力で倒したいんだけど」
「構いませんが、魔王どころか魔族にすら勝てずに死ぬことになると思います。勇者という名ばかりの存在になってしまいますね。どうしてそんな考えになるのですか? 貰えるものは貰っておくべきかと思いますけどね」
俺の美学がわからないってのかよ。
一人でそれも、完全に自分の力でことを成すということの大きさがわからないのか? 俺だってカレーパンを誰かに手伝って貰って手に入れてたんじゃ大した意味なんてなかったんだ。俺自身の手で掴み取ったということが大事なんだよ。
しかし、カレーパンを食えてないんだよな俺。これこそ神のいたずらだろ。なんで俺がこんなひどい目に合わないといけないんだよ。学食戦争に勝てば食べれたはずのカレーパンが今では、異世界に転生して魔王を倒さないと食べられないものにまでレベルアップしている現実の理不尽さに打ちひしがれそうだ。割と意味がわからない。
「俺が間違ってた。よく考えれば俺には特別な力もないし、強いわけでもない。そんな俺が自分の力で魔王を討伐するなんて無理な話だったんだ。あんたの力を貸してくれ。俺が異世界に転生して魔王を討伐してくるよ」
「その心意気です。カレーパンのためだけにここまでやる気を出すことができる貴方ならばきっと魔王を討伐することができます。我々神々の悲願ですからね」
「え? ちょっと待ってくれ。我々は神々ってどういうことだ?」
「言ってませんでしたか? 私はこの世界を管理している神です。上から32番目に偉い神様なのですよ。貴方ももう少し私に対する態度を改めて信仰心を持つべきところですかね」
いやいや、転生とか言っていた時点でおかしいとは思っていたが、まさか神様だったとはな。通りで異世界転生とか魔王討伐とか色々話が出てくるはずだ。
神様だとしたら、それこそカレーパンを出してくれることなんて朝飯前だろ。どう考えても魔王討伐の報酬にするほどのもんじゃないよな。俺以外だったら速攻断ってるところだぞ。今更ながら俺もカレーパンってどうなのってなってるところだよ。それこそ、不老不死にしてくれとかそういうレベルのお願いをするやつにカレーパンってあほだろ俺。とんでもねぇ大バカ者でしかないじゃないか。
「俺が悪かったよ。あんたが神様だって知ってたらカレーパンなんてちゃちな願いにしてなかった。ちょっともう少し願いについて考えてみてもいいか? 冷静になってみたらカレーパンは人生をかけた大勝負の報酬には物足りない気がしてきたんだ」
「別に構いませんよ。魔王討伐するまでの間ゆっくり何がいいか考えてみてください。無理難題じゃなかったらある程度のことは叶えて上げましょう。もちろん、魔王討伐を達成してからの話ですが、それを楽しみにして頑張ってくださいね」
「いいですか? わかりました。すぐに魔王を討伐してきて、願いを叶えて貰いますよ。本当にどんな願いでもいいんですよね? まぁ、俺に思いつくようなレベルの願いなんて大したもんじゃないからな。お願いしますよ」
「それは約束できませんが、できるだけいいお願いを考えておいてくださいね」
これはとてつもないことが起きてしまっている。
カレーパンだと思っていたお願いがまさかのランクアップだ。これで、とてつもないお願いを思いつけば俺の勝ちだ。どうにかして、いいお願いを思いついて見せるぜ。
「それじゃあ、チート能力をお願いします。とびきり強い能力で魔王を簡単に討伐できるようにお願いします。俺は楽して勝ちたいわけじゃないんですけど、そこまで努力ができるかと聞かれればそれは難しいところなんで」
「他人に頼るばかりではいけませんよ。あ、いえこの場合は私は神なので神頼みですね。どちらにせよ、良くありません。私の力に頼るばかりでは貴方自身の成長につながりません。ちょうどいい位の力で調整して見せますね」
「いやそういうのいりません。俺も自分のセンスには自信があるんで。力さえもらえたらものすごい速度で進化して見せますよ。神様から貰った力を使って魔王に負けるなんてそんな無様な真似を俺ができるはずありませんから。俺だってプライドってもんがあるんですよ」
「では力を授けます。この力を持って異世界に転生することになります。それでは頑張ってくださいね」
「力を貰ったらそのままってことですか?」
「はい。光に包まれて次に目に入る光景は異世界というわけです。これからは貴方は自分の力だけで生きていかなければなりません。もちろん、チート能力は貴方のものです。存分に使ってくださいね」
それだけ言うと、俺の視界は光に包まれた。