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2話

「おおぉぉい、俺の飯も買ってきてくれって言ったじゃないか。これじゃあ、俺は今日飯なし確定じゃんか」


「すまねぇ。俺もカレーパンをゲットすることで頭がいっぱいだったんだ。誓ってわざと忘れてきたわけじゃないんだ。だからなぁ、許してくれよ」


「別にいいんだよ。そうだよ、俺が昼飯を我慢すれば丸く収まるんだ。それぐらいのことどうってことないさ」


「ありがとう。それじゃあ、俺はカレーパンを食うからじゃあな」


 後ろから悲鳴のような声が聞こえてきたような気もしたが、俺はカレーパンを食うのを我慢できなかった。

 俺のベストポジション。施錠された屋上へ続く階段へ向かった。


「やっぱりここが最強だよな。よしっ、今日も誰もいないな。うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 カレーパンを食うことに頭の要領をほとんど制圧されていた俺は、いつもだったらありえない凡ミスをしてしまった。

 なぜか階段を踏み外した。


 ゴロゴロゴロゴロ。


 勢いよく階段を転がり落ちて、壁にぶつかって止まった。

 や、やばい。死ぬほど体がいてぇ。このままじゃ、気を失ってしまう。俺のカレーパンは無事か?


 庇うように懐に忍ばせたカレーパンは中のカレーが飛び出すこともなく無事だった。

 よかった、これで後でカレーパンが食える……。

 俺の意識はここで途切れた。





「起きてください」


 俺は意識がまだおぼろげながら聞こえてきた声に反応した。


「う、うぅ。カレーパンはどうなった?」


「まず出てくる言葉がカレーパンですか。よほど、楽しみにしていたのですね」


「そうだ!! 俺のカレーパンはどこだ? おいっ!! 懐に入れてたはずなのにどこにもねぇぞ!!」


「いきなり大きな声出さないでください。残念ながらここにはカレーパンはありませんよ。というよりも周りを見ておかしいと思わないのですか?」


 カレーパンばかりに意識が言っていたが、ここがどう見ても俺が素っ転んで転げ落ちた階段じゃない。それどころか、学校ですらないぞ。薄暗い空間にこの女の人が座っている椅子があるだけの質素な空間だ。


「どうなってる? 俺は確か階段で転んで……保健室はこんなのじゃないよな?」


「貴方は死んだのです。足元をおろそかにした結果、階段から転げ落ちたところまでは覚えていますよね? その時に運悪く首の骨を追ってしまったのです。本来は即死するような大怪我ですが、貴方のカレーパンに対する並々ならぬ執着が少しだけ命を繋いだのでしょう」


「そんな馬鹿な。確かに体は死ぬほど痛かったけど、本当に死んだって言うのか? それを信じろと?」


「信じる信じないの問題ではないのです。それが真実なのですよ。証拠に、貴方の懐にカレーパンは入っていなかったでしょう? それでは足りませんか?」


 女の人の言う通りだ。

 俺が大切に懐に入れていたカレーパンを奪うことなんて不可能なんだ。俺が気絶している間に奪おうとしても体が反応して守り切れているはずだ。それがないということはそれだけの事故が起きているということなんだよ。

 死んでいたら俺でも守ることはできないかもしれない。そもそも、今の俺の肉体は生前のものと同じかと言われればそれも違うかもしれないからな。元々持っていないものを守ることはできないからな。


「俺がカレーパンをなくすことはありえないからな。一旦信じることにする」


「あっけないものですね。本当にカレーパンで信じてもらえるとは思いませんでした。変態ですね」


「いきなり何だよ。あれはそれだけのカレーパンだったんだぞ。半年に一度あるかないかのチャンスだったんだ。俺だって足元がおろそかになるさ。まぁ、まだ食べてないんだけどな……そうだよ!! 俺はまだカレーパンを食ってないんだ!! 早く俺を生き返らせろ!!」


「だからいきなり大きな声を出さないでください。もう死んでいる貴方を生き返らせることなどできません。私にもできることとできないことがあるのです。カレーパンは諦めてください」


 馬鹿なのか? 俺にカレーパンを諦めろだと? 俺がカレーパンをどれだけの間楽しみに待っていたと思ってるんだ。俺は半年前の雪辱を今日やっと果たしたんだ。それが、カレーパンを食べられない? そんなふざけた話があってたまるか。許されるはずがない。俺は絶対にあのカレーパンを食べるんだ。そうしないと死んでも死にきれねぇ。


「だったら何のために俺はこんなところに呼び出されてるんだ。まさか、死んだ奴らは全員呼び出されてるとでもいうのか?」


「それこそが本題なのです。貴方にはこれから異世界に転生して魔王討伐を目指していただくことになりました。討伐を成し遂げた際は……そうですね、私の力を使って何とかそのカレーパンを手に入れて見せましょう」


「やる!! 俺は魔王討伐するぞ!!」


「私が引くほどのやる気ですね。ですが、ありがたいです。これまで何人ものの勇者を送り出してきましたが、魔王討伐は現在まで叶っておりません。どうか、貴方が魔王を討伐してくれることを祈っております」


 魔王とか言うのを討伐すればカレーパンを食える!! それだけで十分だ!!


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