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08 平和荘 (4)

 ダイニングは、高級レストランっぽい雰囲気にあふれた場所だった。

 部屋の中央には六人掛けの大きなダイニングテーブルが二つ横に並べられていて、十二人分の席がある。


 すでに明るい赤銅色の髪の女の人と、背の高い東南アジア系の男の人がお料理を運んでいた。女の人は、いかにもスパイ映画に出てきそうな、スタイル抜群の美女だ。スタイル抜群とわかるのは、セクシーとしか言いようがない感じの、体の線が出る服装だから。しかもスカートは結構なミニ。


 私は松本さんのほうを向いて「何をお手伝いしたらいいですか」と尋ねてみた。でも松本さんはにこにこと首を横に振る。


「今日は千紘ちゃんの歓迎パーティーだからね。何もしなくていいんだよ」


 女の人は、私に気づくと中央付近の椅子を引いて、座るよう身振りでうながした。


「主賓はこちらへどうぞ」


 女の人の口から出てきたのは、とてもきれいな日本語だ。私はびっくりして、目をパチクリさせた。どう見ても白人系の顔立ちなのに、少しもなまりがなくて自然な日本語なのだ。


 勧められた椅子におずおずと座ると、ステファンともうひとり、男の人が入ってきた。この男の人もまた背が高い。どこの国の人なのか、容姿からは判然としなかった。肌の色は濃いけれども、黒人よりは薄い。肌色は東南アジアの人と似ているものの、アジア人にしては彫りが深く、彫刻のように顔立ちが整っている。


 私がシェアハウスの住人たちを観察している間に、食事の準備は終わっていた。全員が着席すると、ステファンがシャンパンの入ったグラスを掲げた。


「では、佐藤千紘ちゃんを歓迎して、乾杯!」


 住人たちもグラスを掲げて「乾杯!」と唱和する。私も一応、形ばかりグラスを掲げた。未成年だからグラスの中身はシャンパンじゃなくて、ジンジャーエール。ぱっと見には違いがわからず、雰囲気だけは仲間入りしている気になれる。


 テーブルの上には、あまり見慣れない洋風の大皿料理が並べられていた。自分で食べる分を、好きなだけよそって食べる形式らしい。


「じゃあ、食事しながら紹介するね」


 お料理を取り分け終わると、ステファンが紹介を始めた。最初に紹介されたのは、赤銅色の髪の女の人だ。体にぴったりした白いミニスカートのワンピース姿で、スリーサイズのメリハリに迫力があるというか、何とも言えない存在感がある。


「彼女は、メアリー・ハート。弁護士で、うちの事務所で一番偉い人なんだ」

「嘘だから!」


 ステファンの紹介に、メアリーは吹き出した。コーラルピンクのマニキュアをした手をあしらうように振りながら、「所長はステファンなのよ」と教えてくれた。


 彼女はニュージーランド出身で、アニメ好きが高じて日本に留学してきたそうだ。そしてそのまま、弁護士の資格を取って居着いてしまっているらしい。

 留学するまでは、日本語の学習は完全に我流だったと言うのだけど、それにしてはものすごくナチュラルだ。語学の天才じゃない? そう正直な感想をもらしたら、ご機嫌そうな笑顔で「あら、千紘ちゃんっていい子ねえ」と返された。ステファンが「事務所で一番偉い人」と言った意味が何となくわかるような気がした。


 次に紹介されたのは、東南アジア系の背の高い人。


「こちらは、ザイーム・アクラム。彼もうちの事務所の弁護士だよ」


 ザイームはマレーシア出身で、中学生のときに親の仕事の都合で日本にやってきたそうだ。そのまま日本で進学、就職して現在に至る。この人も、ほんのわずかになまりがあるものの日本語がとても流暢だ。温厚そうな丸顔で、口数はそれほど多くない。周りが話しているのを、にこにこと静かに聞いているタイプのようだ。


 その次に紹介されたのは、国籍不明の背の高い人。


「彼は、ジョージ・アンダーソン。千紘ちゃんの学校の英語教師だから、学校でも顔を合わせることがありそうだね」


 この人の出身はアメリカだそうだ。にこやかに「ヨロシク」と英語なまりの日本語で挨拶されて、ちょっと感動した。この家で初めて見る、外国人らしい外国人だったから。


 ジョージの隣に座っているメアリーは、私のほうに身を乗り出して口をはさんだ。


「ジョージは日本語がイマイチどころか、からっきしなのよ。通じてないと思ったら英語で話してあげてね」

「日本語ムズカシイね」


 メアリーにこきおろされてもジョージは気にした様子もなく、ただ肩をすくめるだけだ。それをメアリーは呆れたように横目で流し見ながら、暴露話を続ける。


「この人の最初の挨拶は、今でも忘れないわ」

「『カンザス!』だっけ?」

「ちがーう。『コロラド!』よ」


 ステファンが横から当てずっぽうを言うと、メアリーは目を据わらせて正解を答える。そのやり取りを聞いて、私は首をかしげた。カンザスもコロラドもアメリカの州の名前だということくらいはわかるけど、それと挨拶に何の関係があるんだろう。


「もう間違わないネ。『オハイオ!』デショ」

「そういう覚え方するから間違うのよ。ちゃんと最初から『おはよう』って覚えとけばいいのに」


 なるほど。言われてみれば、確かに「オハイオ」と「おはよう」は似てないこともない。出会い頭に「コロラド!」と声をかけられ、面食らって言葉を失っているメアリーの様子を想像したら、何だか笑えた。くすっと笑った私に、ジョージは笑顔を向ける。


 目を据わらせたメアリーの暴露話は、まだとまらない。


「『メアリーとは壁仲間ダネ』なんて、わけわかんないことも言われたことがあるし」

「何ですか、その壁仲間っていうのは」


 思わず質問してしまったところ、メアリーは待ってましたとばかりに呆れ顔で説明をする。


「『壁にミミ、アリー、ジョージにメアリー』って言うからですってよ」


 説明を聞いてもまだ意味がわからず、眉を寄せて少し考えてしまった。そしてやっと気がついた。「壁に耳あり障子に目あり」のことか。なんという聞き間違いだ。しかもそれでいて、それっぽくフレーズになっているところが笑える。


 まだまだ続きそうなメアリーの勢いを、ステファンが苦笑しながらとめた。


「まあまあ。耳で聞いて覚えると、ありがちなことでしょ」


 そして最後のひとり、松本さんを紹介してくれた。


「彼は、カルロス松本。ブラジルからの留学生で、千紘ちゃんが入学する高校の隣にある大学に通ってる」


 紹介を聞いて、私は目を見開いた。松本さん、日本人じゃなかった!

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