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勇者ですが、契約した仲間が経歴詐称しててもう遅い!  作者: メメント
第一章 回復してくれない僧侶
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第2話 ざんねんなそうりょ

「私、勇者様と旅に出るのが昔からの夢だったんですよ~。てへへ」


 城下町外の草原を握りこぶしをぶんぶん振りながら歩くソーニャがテンション高く言う。

 それを隣で聞いている俺もなかなかの上機嫌だ。

 それもそのはず。動機やきっかけはともかく、世界を救うと決めてからずっととんとん拍子だ。赤髪の僧侶は可愛く有能だし、何もかもうまくいきそうな予感もしてくるというものだ。

 さてさて目指すはふたりめの仲間の元。お日柄も良く、順調そのもので幸先がいい。

 いまは不安もあまりない。何しろ魔法学校の回復魔法科という大層なところを首席で卒業したという僧侶が味方にいるのだから間違いなしだ。

 と、いうのはいささか早計か。ここは異世界、気を引き締めなければ。


「そういえばさ、魔王がいるってことはその手下もいるわけだろ? いわゆるモンスターっていうの?」

「はい、魔物という怖い存在がいます。人を見ると襲い掛かってきます」

「それって、俺でも倒せるのか?」

「そりゃ生き物なのでもちろん倒せますよー」


 同じ生物なのだから倒せぬ理屈はない、うん、実に合理的な回答だ。頭もいいらしい。


「そう言われても俺って普通の人間だぞ。イケイケって成り行きで冒険に出ちゃったけど大丈夫なのか?」


 ぼやきながら試しに国王から支給されたこん棒で草を刈ってみたが、どうも頼りない。

 そもそも戦闘経験など皆無なのだ。自分のポテンシャルを疑いたくもなる。


「最初はみんな戸惑いますけど、魔物を倒すとどんどん強くなっていくので心配しなくても大丈夫です」

「あ、経験値でレベルアップするってやつ?」

「はい、レベルアップってやつです」


 ソーニャがにっこり微笑みながら同意する。

 耳慣れた言葉に自ずと俺の胸が躍る。これは希望のワードだ。


「それって前から気になってたんだけど、あ、前からっていうのはこっちの話で、どういう仕組みで人間はレベルアップするんだ?」

「敵を倒すとよーし倒したぞって自信がつきます。自信がつくと立ち振る舞いや行動がどんどん洗練されてきてやがて強くなっていきます。それがレベルアップです」

「えっとつまりレベルってわかりやすく言うと、精神の強さこそ肉体の強さっていうこと?」

「いいえ、わかりやすく言うと気のせいです」

「気のせい」

「はい、強くなったぞっていう気のせいです」


 どうやらこの世界ではそういうシステムらしい。

 都合よく受け取るなら、精神的に成長するということこそが肉体的にも成長できるということなのだろう。

 要するに簡単に殺せる弱い奴ばかり倒していても強くはならない。自分より強い相手を倒してこそより強い自信に繋がり強くなれる、というわけだ。なんとなく理に適っているような。いないような。


「なら魔王を倒すには俺が勇者としての自信を持たないといけないってわけか」

「ええ、冒険の旅を経て勇者様としての経験を積めばきっと魔王を倒せるはずです」


 平たく言えばレベルとは意識の高さ。仲間探し、サブイベント、お使い、中ボスなどの通過儀礼を経れば自然と実力がついていき、いずれ魔王を倒せるレベルにまで到達できるということなのだろう。


「でもなぁ、俺が勇者って俺自身が信じてないからなぁ」

「あれれ、そうなんですか?」

「だっていきなり王様に呼び出されて今日からお前勇者なって言われて信じるか?」

「王様が言うなら間違いないでしょう」

「まったくおめでたいな」

「でも別世界からこの世界へ介入した選ばれし者(プレイヤー)だとうことは確かです」

「プレイヤー、ね。それだって俺以外にもたくさんいるんだろ?」

「一時期はブームですごい数の方が来ていましたが、いまは別の世界が人気らしく、すっかり数が減ってしまいました」

「そいつらはその後どうなった?」

「旅立ったきり戻ってこないので、たぶんみんな全滅したんじゃないですかね」


 気軽に訊いたら勇者たちの末路が結構悲惨だった。


「俺もそうなるんじゃ……」

「いえいえ、単にその方たちが勇者じゃなかったというだけです。勇者様は本物だと思うのでそうはなりません。私はそう信じてます」

「……俺もそう信じたいよ」

「がんばってくださいね。じゃないと私また無職なってしまいますもん。へへ」


 そんな冗談とも本気ともつかない言葉にヒクヒク苦笑いしていると、つと、遠くの茂みが大きく揺れた。

 俺が身構えるより早く飛び出したのは巨大なイノシシだった。イラスト的な愛嬌のある顔をしていて、威嚇するように前足で土をかいている。

 だが既知の生物とは異なり、口から長く伸びた牙が刃の光沢を放っている。


「あれがさっき言ってた魔物ってやつか?」

「ケンシシです。鋭利な牙を持っていてあれを正面から受けると最悪、死にます」

「ちなみに死ぬとどうなるんだ?」

「どうなるって何がですか?」


 俺の素朴な疑問にきょとんとするソーニャ。


「ほらほら、死ぬと教会とかポケモンセンターとか戻るのかって聞いてるんだ」

「よくわかりませんが、死ぬと無になると思います」

「普通に死ぬんだ……」


 あ、察し。


「当たり前じゃないですか。何を言ってるんですか?」

「だな。すまん」


 そら冷たい視線で怒られるわ。


「ということで一旦ここは引きましょう」


 せっかく第一魔物を発見したというのに、彼女は何故かおかしなことを言った。


「待て、何を言ってる。こんな雑魚敵に逃げたらレベルアップもできないだろ」

「いやまだ仲間も揃っていませんし、全員が揃うまで安全を期して逃げましょう」


 この世界で暮らすせいなのかソーニャはやたら危機意識が強く消極的だったが、俺はもうその気になっていた。

 ここで勝てないようなら先などない。

 それに、これが己の器を計るいいチャンスだと思った。

 俺が真の勇者だというなら何か光るものがあるかも知れない。

 それを試したい。


「俺が本当の勇者なのかいまここで見極めたい」

「や、やめましょう。危ないです勇者様」

「心配してくれてありがとう。だがやってみたいんだ」

「怪我したら大変ですって」


 そんな心優しいソーニャの肩に触れ、俺は安心させるように微笑む。


「大丈夫。俺たちなら勝てる」

「俺たちなら……?」

「俺に何かあったらソーニャの回復魔法があるからな。信頼してるぞ」


 彼女はまだ引き止めようとしていたが俺はこん棒片手に迷わず地を蹴る。

 嗚呼、ヒーラーの仲間がいるとはこんなにも心強いものなのか。

 おかげで怪我を恐れず存分に戦える。

 全力でこの一瞬に命をかけられる。


「いくぞ魔物よ。俺が魔王を倒せる勇者なのか試し斬りさせてもらうぞ!」


 言うが早いか、見様見真似で俺は戦ってみる。

 ケンシシは猪突猛進よろしく、直線的な攻撃しかしてこない。

 俺はそれを予測し、看破し、うまく躱しながら反撃を繰り出す。

 闘牛を誘うように動きをし、翻って背後を殴りつける。


「思ったより戦えるな。意外と俺、本物の勇者かもしれん」


 ダメージが蓄積されれば自ずと相手の動きも鈍くなる。

 うずくまっている魔物へ俺は調子に乗って一気にとどめを刺しに行く。


「これで終わりだ!」


 だが調子に乗りすぎたせいか、そこで読みを誤ってしまった。

 窮鼠猫を噛むとはまさにこのことで、仕留め損ねたケンシシが息を吹き返し突進してきたのだ。

 刹那に交錯し、だがしかし俺の渾身の一撃が決まった。

 手応えあり。相打ちだった。後方でケンシシが倒れる音がする。

 すぐさま初戦を勝利で飾られたことを喜びたかったが、いかんせん激痛で叶わなかった。

 見ると脇腹をえぐいくらいえぐれていて血がどばどば零れ出している。


「くそ、やっちまった……。でも俺には僧侶がいる」


 俺は幸運だ。友がいる。頼もしき仲間がいる。

 それも回復魔法を得意とするとっておきの仲間が。

 そんな人を最初に仲間に出来たのは神のお導きというほかない。


「すまないソーニャ、すぐ回復を頼む」


 俺は大の字に倒れながら助けを呼ぶ。

 よかった、すぐに彼女は駆けつけてくれた。赤髪を垂らし温かく見下ろしてくれている。

 これで全快してすぐ楽しい冒険の再開だ。

 なんならここでレベル上げをしてもいいかも知れない。


「ヤスミ!」


 さっそくソーニャが俺に小さな両手を翳して何らかの特殊な単語を唱えてくれる。

 ほう、これが噂の回復魔法というものか。

 光ったりはしないんだな。


「ベヤスミ、ヤスミマ!」


 おや。

 予想以上にダメージがひどいのか、さらに強そうな回復魔法を詠唱してくれているぞ。

 重傷にも即座に対応してくれるなんてなんとも有能な僧侶だ。


「ソーニャ、そんなにすごそうな響きの回復魔法をいくつも使いこなせるなんて君は本当にすごい子だったんだな」

「ヤスミズン!」

「それきっと最高位の回復魔法なんだろう。なんとなくわかるよ」


 ところである。さっきから全然痛みが引かない。

 どこから痛すぎて脂汗がとまらない。震えも止まらない。目もかすむ。

 それにどうしてか彼女が泣きそうな顔で首を振っている。


「いえ、言ってみただけです」

「言ってみただけ!?」


 俺はぎょっとして漫才張りに鸚鵡返しする。目を剥いた。

 そ、そういえばまったく回復する気配がない。

 いまも血がどばどばぴゅーぴゅー出ている。

 う、そういえばだんだん意識が……。


「うぅ、勇者様ごめんなさいぃぃ。実は私、回復魔法は使えないんですぅぅ」

「魔法学校の回復科を首席で卒業してるのにっ?」

「実はあれ嘘なんです。ごめんなさいぃぃ」

「えっと、このタイプの世界で経歴詐称してくるとかあるん?」

「ほんとごめんなさい。しくしく」


 おいシクシク泣いてないでとっとと俺を回復しろこの野郎。


「でもなんでそんな嘘を……?」

「だってぇ、そうでもしないと仲間にしてもらえないと思ってぇ」

「そんなことってある……?」

「ヤスミグラン!」

「なあ、それ使えないんだよな!」

「はい、言ってみただけです……」


 彼女、どうやら回復魔法が使えないヒーラーらしい。

 俺はすぐ思ったね。こんな無能はさっさとパーティーから追放しちまおうと。

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