そこにあった誕生日プレゼント
「3、2、1、、、」
カウントダウンが始まった。時計の針が夜の0時を回ったところで、リビングにクラッカーの音が鳴り響いた。
「ハッピーバースデー!!!」
私は北海道に住む高校1年生の高橋明里、誕生日は2月27日で、この日を境に16歳になる。誕生日が嫌いな人はまず、いないだろう。みんなから祝福されると幸せな気持ちになれるし、現に今も家族から祝ってもらえている。365日のたった1日だけれど、ハロウィンやバレンタイン、大晦日よりもビッグイベントである。そして、やっぱり1番私が楽しみにしているのが誕生日プレゼントで、大概のものは頼めば親が買ってくれる。1週間前に前借りという形で、念願のブルートゥースイヤホンを買ってもらった。誕生日って、なんていい日なんだろう!
簡単な誕生日会の後、そのまま私は幸せな気持ちで布団にもぐり込んだ。明日、学校でも祝ってもらえるかな?少しどきどきしながら、私は眠りについた。
けれども、朝家を出ると、外は吹雪いていた。大学生になったら、絶対に雪が降らないところに引っ越そうと思いながら、学校までの道のりを歩いた。いつもよりきれいにセットした前髪も崩れちゃったし、誕生日なのに、、、
-学校-
「明里、誕生日おめでとう!!」
「明里ちゃん、誕生日なんだね、おめでとう」
「高橋さん、誕生日おめでとう」
みんなありがとう!やっぱり誕生日はいい日だった。おめでとう、その言葉を言ってもらえるだけで、今日の朝の憂鬱が吹き飛んだ。それに、誕生日プレゼントにお菓子やジュースをくれる人もいて、私はとても嬉しい気持ちになった。他の子の誕生日にちゃんとお返しをしないといけないなと思いつつ、私は内心そわそわしていた。隣の席の広田光樹くん、仲がいい男子の一人であったが、おめでとうとまだ言ってもらえていない。別に強要しているつもりではないのだが、他の子が私に言ってきてるのを見て、今日が私の誕生日だということは多分知っているはずだった。
まだかな、まだかなと待っている内に、遂に最後の授業が終わってしまった。
(はぁー、まだおめでとうって言ってもらえてない、なんて言えるわけないよ、、)
みんなに祝ってもらったし、まあいっか、、私は友達と帰ろうと思って席を立った。すると、思いがけない言葉が隣の席から聞こえてきた。
「あ、今日、誕生日だったよね、遅れたけど、おめでとう」
「うん、ありがとう!」
もう半ば諦めていたので、私はとてもびっくりしたのと同時にとても嬉しくて少しはにかんでしまった。そして、嬉しさに一人で浸っていると、また、隣の席から思いがけない言葉が聞こえてきた。
「あのさ、誕生日プレゼントあるんだけど、外でもいい?」
「え、ありがとう、外で?うん、いいけど、、」
まさかまさかの誕生日プレゼントもあるなんて。でも、外でという言葉が少し胸に引っかかった。今、ここでは渡せないものってこと?何か見られてまずいものだったりするのかな?そんなことを考えながら、学校の外に出た。二人きりのシチュエーションに少しどきどきしていると、
「向こうに置いてるから取ってくる」
そう言って、広田くんはその場を離れてしまった。私は何を渡されるんだろうと不思議に思った。こんな雪の中に置いていたら、雪に埋もれてしまいそうだ。告白ってのはまさかないよね、、一瞬思い浮かんだが、それを一旦考え始めると、急に胸がどきどきしてきた。そして、広田くんが帰ってきた。後ろに手を回している。どうやら何か持っているようだった。一体何なんだろう?
「はい、これ」
「え、これ?」
私は目が点になってしまった。広田くんの手に差し出されたのはきれいに丸められた雪玉だった。
「うん、めちゃくちゃきれいに作ったんだけど、ほぼ球体にできたから、よかったら誕生日プレゼントにあげようかなって思って」
「うん、ありがとう、、」
私はその手に置かれたきれいな雪玉を受け取った。ずしりとくる重さで、大きさはリンゴより一回り大きいぐらいだった。私は正直、反応に困ってしまったが、せっかく作ってくれたので、少しぎこちない笑顔で彼にお礼を言った。
「じゃあ、大切にしてね」
「うん、、大切にする、、」
満足そうな顔をして、そのまま広田くんは部活に行ってしまった。告白なんて考えた数分前の自分を恥ずかしく思いながら、私はその場に立ち尽くしていた。これはどうしたらいいんだろう、、大切にするって言っちゃったし。手の上で転がしてみると、へこみも一切無くて、本当にきれいな雪玉だった。それに、しっかり固められていて崩れる感じも無かった。一生懸命作ってくれたのだろう。この雪玉をそこらへんに置いておいても誰も気づかないだろうと私は思った。でも、結局、私はどうにも雪玉を手放すことが出来ず、そのまま家に持って帰ってしまった。
家に帰ってきて、私はこの雪玉の処遇についてどうすればいいか考えた。さすがにその日のうちに、そこらへんにうち捨てて置くのは申し訳ない気がしたが、ベランダに置いておいてもいずれ雪に埋もれるか解けてしまうだろう。いろいろ考えた結果、ラップに包んで冷凍庫に置いておくことにした。それなら大切にするという約束には反しはしないだろうと考えた。そこで私は冷凍食品をよけてからスペースを作って、一番奥の底の方に雪玉を置いた。底の白色に同化していて、置いた瞬間このまま忘れてしまいそうだなと思ったが、いつかは思い出すだろうとそっと冷凍庫の引き出しを閉めた。
そして時は過ぎ去り3週間後、終業式になった。3月に変わってから席替えもしたので、広田くんとは席も離れてしまい、今日は1年生最後の日でもあった。そして、私は冷凍庫の雪玉のことなんかすっかり忘れていた。帰りの挨拶も終わり、今日は夜からクラス会がある予定だった。
「じゃあ、また6時にお店、集合ねー」
「はーい」
学級委員の子がいろいろと段取りをしてくれて、最後に思い出を作ろうという会だった。私は家に帰ってから、服をあれでもない、これでもないと迷いながら、落ち着いた感じの緑のレースの服と黒のロングスカートを着て、上から茶色のロングコートを羽織った後、クラス会に向かった。
「はい、チーズ!今日はお疲れ様!」
「明日から春休みだ~」
おいしいご飯を食べるというよりも、いろいろと話すのがメインで、時間もあっという間に過ぎてしまった。最後にみんなでクラス写真を撮って、その後は家に帰る人、二次会のカラオケに行く人に別れていった。私はこれからどうしようか迷っていると、後ろから声をかけられたのに気づいた。
「高橋さん、お疲れ、これからどうするの?」
「あ、広田くん、私は今どうしようか迷ってる感じかな」
「そうなんだ、そういえばさ、あの誕生日プレゼントどうした?」
少し可笑しそうな顔をして、私に尋ねてきた。誕生日プレゼント、、あ!冷凍庫に置いたままだった。忘れそうだなと思っていたら、案の定気づかずに、3週間以上過ぎていた。
「あ、冷凍庫に入れっぱなしだ、、」
「え?冷凍庫?面白いね、高橋さんって。別に壁に投げてくれても良かったのに」
そう言って、ケラケラと笑い始めた。
「大切にしてって言われたから、どうにも出来なくて」
「あれは冗談だよ、冗談。でも、まだ持ってたんだ。あの雪玉、実はバニラ味でおいしいから、今日にでも帰って食べてよ」
「え?あれ味があるの?」
「そうそう。細かく砕いて、かき氷とかにしたらおいしいかも」
「え?さすがに汚くない?」
「冗談、冗談。まぁ、どうするかは任せるよ」
「じゃあ、私、今から帰って食べようかな」
「え?本当に食べるの?」
「冗談!さっきの仕返し」
「やられた、、、」
それから、私はそのまま家に帰った。いつもは自分の部屋に直行するけれど、私は帰って冷蔵庫の前に立っていた。あの雪玉どうなってるんだろう。少しどきどきしながら3週間ぶりに冷凍庫を開けると、中身はこの前見た配置とは違っていて、しかもぱんぱんに入っていた。大丈夫だったかな??そう思いながらガサゴソと中をかき分けて、奥の方に置いていた雪玉のところまでたどり着いた。
「あ、、、」
しかし、雪玉は一目見ただけで分かるぐらい無残な姿に変わり果てていた。ラップで包んではいたが、ところどころが崩れてしまっていた。私は雪をこぼさないようにそっと雪玉を取り出した。冷凍庫の引き出しをバタンと閉じて、机の上に置いた。バニラ味なんて言ってたけど、冗談だよね、、私は恐る恐るかけらを取り出して、雪を舐めた。舌の上で溶けた水をゆっくりと転がしてみる。
「だだの水、、だよね?」
バニラの風味はみじんもしなかった。私は口をすぐに水ですすいで、雪玉をもってベランダの引き戸を開けた。
「えい!」
私は狐につままれた気持ちになって、雪玉をベランダの壁にぶつけた。ボスッという音とともに、あっけなく雪玉はバラバラに崩れた。けれど、その中から赤紫色の何かが見えて、積もった雪の中にすっと落ちた。
「え?何?」
私は雪に埋もれていたサンダルを掘り出して、靴下越しに冷気を感じながら、それを取り出した。あまり重量感はない。周りに付いている雪や氷を手で取り払うと、それは手の平サイズで赤紫色のリングが顔をのぞかせていたが、外は暗い上に、表面に氷の層がカチコチに凍っていて、それが何かよく分からなかった。
「何だろうこれ」
私はベランダから帰って、台所の蛇口の水をひねった。水に当てると、徐々に氷が解けてきて、何か文字が見えてきた。
(ん?これってもしかして、、、)
「Haggen-Dazs」
広田くんからの誕生日プレゼントはハーゲンダッツのバニラ味のカップアイスだった。確かにバニラ味とは言っていたけど、予想外のプレゼントに私は驚きを通り越して笑ってしまった。もし、どっかに捨てたりしてたらどうするつもりだったんだろう。そして、フタの表面にはマジックペンでバースデーメッセージが書いてあった。
「誕生日おめでとう
高橋さんへ」
をの文字に二重線を引いて、へと訂正されていたが、「高橋さんを」ではおかしいので、書き間違えたのだろう。水に濡れてしまったハーゲンダッツのアイスをタオルで拭いて、冷凍庫に戻した。そして、お風呂上がりに冷凍庫からアイスを取り出して、スプーンで一口食べた。いつも食べているバニラアイスとは違って上品な味が口に広がった。高級品で滅多に食べられないので、私は心の中で広田くんに感謝した。
(ありがとう、めっちゃおいしいです)
底のくぼみにはまだ氷が固まっていたおかげで、手がちょっと冷たかったが最後までアイスがあまり溶けずに、おいしく食べることができた。食べ終わった後、プレゼントにはメッセージが書いてあったのでそのままゴミ箱に捨てるのはさすがに忍びなくなった。私はフタの方だけを取っておいて、カップを捨てた。
-1日後-
カップの底にあった氷の層は溶けて、底に書いてあった文字が浮かび上がる。
「好き」
「そこ」にあった誕生日プレゼントはどうでしたか?
光樹は明里のことがずっと気になっていましたが、なかなか勇気が出なかったので、天に運命を任せることにしました。普通、誕生日プレゼントに雪玉をもらっても、どこかに置いてしまって、そのことを忘れてしまうでしょう。だから、一応、好きというメッセージは書いておいたけれど、雪玉の中身に気づいて、かつ、誰もカップの底なんて見ないので、そこを見たときだけ相手に気持ちが伝わるということにしました。でも、カップの底が氷で固まっていたのはさすがに光樹も計算外で、ほとんどの人は気づけないでしょう。そして、最後に光樹が誕生日プレゼントにハーゲンダッツを選んだのは「愛す」というメッセージを込めたからでした。(でも、高校生にしてはちょっとくどいような気もしますが、、、)
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