第15話「黒鳥」
Side 天野 猛
天照学園の隣にあり、墓地がある天照島はいわゆる自然豊かの島だ。
昭和の雰囲気を上手く現代に取り入れたレトロフューチャー的な街もある。
そんな島の木々に囲まれた広場で天野 猛と黒崎 カイトは向かい合っていた。
「で? 話ってなに?」
猛がカイトに話しかける。
「悪いことは言わん。子供はこの件から手を引け」
「……突然そう言われて、はいそうですかって引けると思う」
「思わない。だから痛い目を遭ってもらう」
それが合図だった。
互いに変身。
黒崎 カイトは黒いデバイスが飛んできてベルトに装着される。
「「変身!!」」
猛はレヴァイザーに。
カイトは黒い鳥のロボットの様な外観の戦士になった。
背中に戦闘機のような機械の翼。
手には鍵爪を模したようなアームガード。
両足は鳥の足爪。
両手には銃と剣を持っていた。
☆
両者ともに激突。
まさかの接近戦での殴り合いの様相を呈していた。
そんな状態で拳だけでなく、言葉をぶつけ合う。
『お前に何ができる!? ヒーローごっこなら他所でやれ!!』
『ヒーローごっこじゃないし、ヒーローになったつもりもない!!』
『なら何をしたい!?』
『ただ救える人を救いたいだけだ!!』
『自分を犠牲にしてか!? 笑わせるな!!』
『じゃあ貴方は何ですか!? 貴方にだけ人を救う資格があるとでも!?』
激しく金属と金属がぶつかり合う音。
そんな最中で二人は言葉を止めない。
『こう言うのは大人になってからやれと言っている!!』
『待ってたらダメなんです!! 今じゃないと救えないんです!!』
『大人しく大人に任せろ!! お前は友人の死で変な思想に取り憑かれているだけだ!!』
『それでも構いません!! それに――目の前で苦しんでいる人に手を差し伸べない理由にはならない!!』
『開き直りやがって!! 強情な奴だ!!』
と、口論をヒートアップさせながら殴り合う。
それからどれぐらいの時間が経過しただろう。
両者ともに意地で立ち上がってただただ空しく殴り合う時間を続けていた。
『どうした? もう終わりか?』
『そっちこそ、散々アレだけ大人に任せておけと言っておきながら降参ですか?』
『手加減してやったんだ。それぐらい察しろ』
と言った調子で延々と続けようとしている。
「はい。もうその辺にしようか?」
そこでジーニアス司令が介入する。
「猛さん!!」
そして春歌が涙を流しながら猛に駆け寄った。
「春歌ちゃん」
猛は変身を解除して春歌の方にもたれ掛かる。
カイトも限界だったのか変身解除してその場に膝をついた。
「何やってるんですか!? 馬鹿みたいに殴り合って――」
「ごめん。だけど引くわけには行かなかった」
「引くわけには行かなかったって――」
「あの人の――黒崎さんの言うことは間違ってないから」
「え?」
猛の言に春歌は困惑する。
「考えていた事がある。実は自分は間違ってるんじゃないのかって。自信が持てなかった。だけど黒崎さんの言う事を受け入れるワケには行かなかった」
「どうして――」
「それじゃあ今まで自分が、春歌ちゃんや皆と一緒にして来たことがただのヒーローごっこって事になるからさ」
「そんな事のために、あんな殴り合いをして――猛さんは馬鹿です」
「春歌ちゃんまで馬鹿にされたくないからね――」
そこまで言うと黒崎は「買い被りだ」と言って少しヨロ付きながらその場を後にする。
「まあ、ただのガキのヒーローごっこじゃないのは認めてやる。なら最後までキチンとやり通して見せろ。例え誰に何と言われようとな」
とだけ言って足早に去っていった。
「たく。無茶をして――面倒見がいいんだか悪いんだか。ボロボロで辛いだろう。送っていくよ」
ジーニアスはカイトの背中を見ながら苦笑しつつそう提案する。
猛と春歌はそれを承諾した。
こうして猛とカイトの意地の張り合いと言う名のケンカは終わったのであった。




