若者と男の話 - ⑥
若者「おじさん、こんにちは。」
男「やあ、こんにちは。」
若者「今日学校で携帯取り上げられちゃった。」
男「そうかい。」
若者「何もできなくて退屈だよ。」
男「じゃあ僕と話そう。」
若者「そうする。」
男「うん、そうしよう。」
若者「今って便利だよね。何でもスマホでできちゃう時代だよ。」
男「そうみたいだね。」
若者「色んな情報がネットで見られて、いい時代だよ。」
男「そうかな。」
若者「そうだよ。何でも調べられるし、世界中の誰とでも繋がろうと思えば繋がれるんだよ。」
男「それはそうだね。」
若者「どんどん皆が賢くなっている気がするよ。」
男「それはきっと錯覚だ。」
若者「そうかなあ。」
男「情報は所詮情報だ。それによって賢くなったとて、何も変わっちゃいないことの方が多いもんだよ。」
若者「よく分からないよ。」
男「君の言う賢くなるって、どういうことだい?」
若者「だから、色んな情報を知れること。」
男「それによって何か変わることがあるかな。」
若者「たくさんあるよ。自分が損しないように下調べだってできるから、変な失敗は減るし、色んな場所の色んな人と繋がれるから、今生活している世界で変に悩まなくもなるし。」
男「それはいいことだね。じゃあ、どんどん調べて色んな情報を知っていけば、下調べして変な失敗をしないことや、今生活している世界で変に悩まなくなりたいのは何故なのかも分かるってことかな。」
若者「・・・おじさんが言いたいこと分かったよ。」
男「そうかい。」
若者「でも多分、皆そんなこと考えてないよ。考えられなくなってるのかも。私みたいに。」
男「それは悪いことではないよ。時代のせいでもない。有史以来ずっとこうだったはずだ。」
若者「でもやっぱり損はしたくないし、くよくよ悩みたくもないもん。」
男「それは僕だってそうさ。だから僕は、携帯を持たずに考えているんだ。」
若者「ずっとこうやって時間稼ぎして、いつかハッと気づくのかな。」
男「どうだろうね。やっぱり知ったところで変わらないものは変わらないよ。」
若者「じゃあ何を知りたいんだろう。」
男「それは決まってるさ。その何を知りたがってるのさ。」
若者「じゃあ尽きないね。」
男「そうだ。だから面白いのだ。」
若者「携帯手放せてよかったかも。」
男「そうかい。」