表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Evil Zero  作者: たいやき
日本 旅立ち編
8/15

懐かしく、そして新しく


今日は夕方、そして夜と良い景色を見させてもらった。私がよく見ていたのは灰色に濁った空、吐き気のするような死臭がするような、そんな場所だ。


少し強い風が私に当たってきた。

『さぁ〜』っと上にある木の葉が揺れて落ちてくる。


落ちてきた木の葉が私の頭の上に乗った。

その葉を手で取って見ると綺麗なピンク色をした桜だった。


その綺麗さに釣られて思わず上を向いても暗くてその綺麗な桜は見えない。


その変わり、夜という暗黙の世界に包まれた中で輝く石のような物が何百、何千、何万と私、いや全ての生き物の上にある。


しかしこんな空を何度も見たことなんて私にはない。歴史は動き、変わる。

この場所で、あの人の近くで、この空の下に入れることだけでとてもありがたい。


今度こそ───。



◇◇◇


声をかけようとするとそれに気づいていたかのようにエルは阿修羅の方を向いた。

別に気づかれてはいけないわけではなかったが、気づかれた途端足が動かなかった。


「どうしたのですか」


冷めたような、無でそう問われた、何かを話に来た訳では無い。


「いや、別に…」


「そうですか。それにしてもここの空はとても綺麗だ。思わず見とれてしまいます」


エルはそういうと上向いた。

阿修羅もそれを追うようにして上を向いた。

そこに見えたのは輝いてる光を消しさるように覆いかぶさった暗黙の世界。


その景色を見て俺はこう思った。

『儚いな』と。

こんなにも輝いているのに、暗闇の方が大きい。


いつかこの輝きも消え去るのだろう、と。


「貴方も意思は固まりましたか?貴方の母親は最初から固まってたようですが」


「最初から固まってるっての。人生ってのはこんな感じの展開がないと面白くないしな」


「…そうですか」


エルはそう言うと上を向いてから家の中に入ると言い歩き始めた。

阿修羅もエルを追って歩き始める。エルは阿修羅の方を振り返ろうともせず早い足取りで家へ向かった。


家の中へ入ると甘い厚焼き玉子の匂いが鼻の中に入り込んできた。


凛がよく作る厚焼き玉子とは少し違う匂いがする。多分母親が作っているのだろう。


エルの後ろからスタスタと廊下を歩き居間に向かう。居間に近づいていくに連れて甘い匂いは強くなっていく。


居間の襖をエルがガラッと開け中に入った。それに続いて阿修羅も入った。


夕飯は既にできており凛と七瀬が運んでいた。阿修羅とエルも台所に並んでいる夕飯をもち縦長の大きいテーブルに持っていく。


この光景に懐かしさと新鮮さを感じる。

母親と凛、そして俺、三人揃って食卓を囲う事はとても懐かしい。

そこに七瀬、エルが入る事でとても新鮮さが溢れる。


そんな事を考えながら運んでいると七瀬と凛が阿修羅の目にピタリと入った。

凛と七瀬は思った以上に意気投合しているようだ。


凛が取り繕いながら笑っていないし、七瀬も阿修羅と喋る時となんら変わらない。母親とも七瀬はいい感じの様でさすがと言うばかりだ。


「おい、阿修羅ー!サボってないで運べー!」


母親と喋っていた七瀬が阿修羅の方に目をやりそう言った。


「わっーてるよ、ってかサボってねーし!!」


ドダドタドタと後ろから走ってくる音が聞こえる。


「サボってん、、じゃん!!」


ドスンと凛が阿修羅の背中目掛けて突進してきた。割と背中が痛いんだよなこれ…。


それに全員が笑い、一段と賑やかになった気がした。エルが笑っていたのかは見ていなかったかは分からない。笑っていたらいいが…溶け込むのはあまり得意ではないのかもしれないな。


食卓に全員が集まり夕飯を食べ始めた。

毎日凛と2人だけの食事が今日は3人増えて5人だ。

久しぶりに帰ってきた母親と阿修羅の師匠であり、これから凛と共に暮らしていく七瀬。そして未だ得体のしれない魔法使い、エル・アルトリウスことエル。


いつもとは違い4人の声がまじ会う。エルは変わらず無言で箸を進める。しかし少しだけ表情が緩んでいるようにも見える。


「にしても七瀬さん、めちゃくちゃ美しい。兄さんこんな人と前から知り合いだったなんて…だから1回も彼女出来なかったんだね…。」


七瀬と話していた凛がニヤニヤ笑いながら阿修羅の方を向いてわざとらしく「可哀想…とほほ」みたいな表情をした。


「…どーゆー事だよおい」


阿修羅は反応に困りながら首を触った。


「でっ、どうなの兄さん。やっぱ好きなの?どうなの?!」


あぁ、凛にスイッチが入っちまった…。

凛はこういう恋の話が大の大好きだ。過去にも1回だけこの話にもちこまれた事があった。その時も小一時間程喋りまくっていたのを思い出す。


「ほぉ〜、そうなのか阿修羅」


モゴモゴしていた口の中味は綺麗になくなっておりニヤニヤと笑いながら阿修羅の方をじっと見ている。


「…別に好きじゃねーよ」


「本当か?」口許の笑みを消さずに言う七瀬。


ったりめーだろうが、と毒を吐いて飯を口に放り込んだ。その行動が七瀬には可愛く見え、妹の凛には好きな事を隠している様にしか見えなかったらしい。


静かに飯を食べているエルは何も口を挟まず、ただ黙々と口に入れていく。


それからはまた色んなことを話し始めた。

凛がいつも阿修羅の起きるのが遅いとか、それは昔からと母親が、寝始めたら全く起きないと七瀬が言った。


阿修羅は居心地が悪くエルと同じ様に箸を進めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ