一枚の紙切れ
杖から放たれたものに包み込まれた紙切れに黒い文字が浮かび上がってくる。
まるで文字は生きているかのようにどんどんと阿修羅達に見せつけた。
阿修羅と母親は魔術の存在、魔法の存在を知っているのにも関わらず驚きを隠しきれなかった。これだけでも普通の人間に知られてはならないと言うことが分かる。
黒い文字が止まる頃には紙切れの白い部分がほんの僅かになってしまった。
エルは止まった事を確認すると杖をもう一度コートの中にしまい込んだ。
阿修羅と母親も驚きを隠そうと小さく呼吸をしていた。これになんの意味があるのかは分からないが…。
「文字が全て浮かび上がりました。これを見てください」
そう言ってエルは母親に紙切れを返した。
母親は紙切れを瞬きもせずに、食い入るように見ていた。
たまに口を開けたり閉じたり。目を見開いたり戻ったり、忙しいこった。
2分も立たぬうちに母親は顔を上げて自分を納得させるように何度か頷いている。
阿修羅は興味が湧き上がり紙切れをもらい、母親と同じように見始めた。
―――グラストン魔法学校―――
グラストン魔法学校は第1学年から第7学年の7年制の学校である。
在学中の7年間、生徒は敷地内で住む場所を自ら確保してもらう。
○一年生に必要な持ち物
・ 魔法の杖
・ 魔法薬学の教科書 グラストン
・ 魔法戦の教科書 グラストン
・ 魔術戦の教科書 グラストン
・ 魔法防衛の教科書 グラストン
・ 精霊学の教科書 グラストン
・ 呪文学の教科書 グラストン
魔器まきを持ってきても構わない。
第1、第2学年は長期休暇以外での外部との連絡を禁ずる。またフクロウやハトなどのペットの持ち込みも禁ずる。
※ 特別な事情がある者に関してはその措置も行う事も可能。
第2学年からはコロセアム会場で模擬試合を行うことが可能となる。
第1学年の模擬試合は教師の目が届いてる場所行うことが可能。なおコロセアムの使用は禁ずる。
グラストン魔法学校
―――――――――――――――
阿修羅は読み終えると同時に眉間にしわ寄せる。全く手紙の内容が分からない訳では無い。しかし本当に魔法という物があるのか分からない。
―――魔術師である俺が言うことではないが。
「この魔器ってのはなんなんだ」
紙に書いてある文字を指して阿修羅は尋ねた。
「魔器というのは魔法の武器のことです。
魔剣や魔槍、魔弓などの魔法を使い操る武器の事です」
エルはそう言うと母親の方に向き直った。
「ご主人からなにかメモのような物を預かってはいませんか?」
母親は腕を組み少し考えていると、パッと思いついたかのように客室を出て奥の方に歩いていった。
母親が出ていってから数分が経った。しかしまだ母親は部屋に戻ってこず、なんと言い難い気まずい空気が部屋に充満していた。
なにか喋ろうかとも思った阿修羅だが何の言葉も口から出てきやしない。
そんな気まずい空気も母親が戸を開けて空気を逃がした。母親の手には薄汚れた紙切れが一枚あった。
「このメモかしら…?」
エルはメモに目を向けじっと見つめてから受け取った。
「これは通帳を受け取るためのパスワードです。人間界でのお金ではなく魔法の、です。」
これでお金の心配はないという事だろう。しかしこれで母親が納得してくれるかどうか、全く分からない。
エルが来てからの母親の顔色はとても良いとはお世辞にも言えない。
この事を歓迎してはいないだろう。と阿修羅は思っていた。
「わかったわ。これでお金の心配もないわね。あの人にも言われたわ『いつか阿修羅も俺を追う日がくるだろう。神に選ばれる時がな。その時は迷わず行かせてやってくれ。必ずそれは阿修羅のため、世界のためになるからな』ってね」
どこか自嘲気味に笑ったかのようにも見えなくもないように母親は笑った。
それから特になにもなかった。一番大事な行かせるから行かせないかはもう最初から母親の中で決まっていた。エルも行かせる事が分かればもう話す事はない。そう考えているのだろう。
母親は夕飯の用意をしてくると言い客室を出ていき、エルは少し歩いてきますと言い家を後にした。父親の部屋に一人残った俺もエルが出ていってから少し時間を置いて家を出た。