夕暮れ染まる謎の少女
正直に応えてはいけないことは考えなくてもわかる事だ。しかし、虚言をはけば何かが終わってしまう気がしてならないのだ。
横を向き、彼女の目を見つめ返す。
金色の髪の色をした彼女はブルーサファイアのような大きく綺麗な目をして、色白の顔、目鼻立ちが整っている美人だ。
黒いマントを羽織まさに魔法使いと言っても差し替えはないだろう。
無言で見つめあっていると、いや睨まれている可能性もあるかもしれんが急に彼女は阿修羅の胸に手を置いた。
「な、なんだ…!」
「……なるほど。
すまない急にこのような事。」
冷淡とした口で喋る彼女はどこかの貴族や騎士のようなものだった。
「――そなたも魔術師か」
「―――っ!」
さも当たり前のように彼女は言い当てた。俺の目を除くようなその瞳は、綺麗のように見えてとても怖いようにも映る。
「そなたの体に触れた時点で魔力があることは分かった。そして今、あなたの目は焦りを見せている」
じっと目を見て話す彼女は疲れた様子も緊張する様子も何も見せない。ただ、なすべきことを全うしているだけというようなオーラを醸し出している。
隠せないだろう、俺はそう思った。人間か魔術師か、目で見てわかるものなのだろうか?
七瀬そこも教えてくれよ…。
「ああ、そうだな。俺は魔術師だ。
それが分かると言うことはあんたもなのか?」
彼女は首を横に振る。
「―――私は魔法使いであり、騎士です」
ん?と俺は思った。騎士、というのは分かるが魔術師と魔法使いでは何が違うのだ。
「魔術と魔法使いの違いが分からない
みたいですね」
やば、なんで分かっちゃうんだよちきしょう……。
「分かりました。
では”魔術”と言うのは手順を踏み、原理を理解して作るものです。”魔法”と言うのは口では説明できない不思議のもの、です」
「って事は魔法は魔術よりも高度なものなのか」
彼女は静かに頷いた。
「それでは本題に入ります。
聖戦、聞いたことはありますか?」
聖戦
確か、正義のための戦争かなんかだっけ?
「聞いたことはあるな。だが、それがどうしたんだ?」
場の雰囲気がまた一層冷たくなる。
「―――この世界には何十年かに一度聖戦という戦いくさがあります。魔術、魔法家計の者が何年も受け継いできた力を使う。
――天使の力
――悪魔の力
――吸血鬼の力
――鬼の力
――魔女の力
――堕天使の力
全てが許される神が選んだ六人の魔術師、魔法使いに与えられる特別な力です。
私はあなたにそれを伝える為にここへ来ました。そしてもうひとつ…」
彼女は少し間を置いてこう言った。
「イギリスの魔法学校に入学してもらう為です」
「イギリスだって?」
「ええ、貴方は神に選ばれし聖戦の一人。どの力を授かっているかは分かりませんが、どの道魔術だけでは瞬殺でしょう」
俺は自分がどの力に選ばれたのかは知らない。だが、彼女が嘘をついているとも思わない。
しかし日本を離れる訳にはいかないのだ。
そう思っていると見透かしたように彼女は言った。
「家の心配はないと思いますよ。
この聖戦に選ばれる者は魔術に理解があるもの、もしくわ前聖戦に関わった家計からなるものが多いですから。多分あなたの家族も察しがつくでしょう」
「聖戦ってのは他の人に言ってもいい事なのか?」
魔術や魔法は普通の人にバレてはいけないのは七瀬からよく言われる。ならば聖戦はどうなのだろうと言うことだ。今の話だと家族に話していることになる。少なくとも母さんは魔術師でも魔法使いでも無いはずだ。
「いいえ。伝えられるのは一人。最後の最後までその人を愛し、愛された者に伝える事ができます。失礼ですが貴方の父上か母上は亡くなられていますか?」
「あ、ああ。親父が七年前に…」
ふと、7年前のあの日を思い出す。七瀬と初めてあった日だ。
白い着物をきた七瀬は、長い黒髪を風に揺らしながら目の前に現れたのだ。目の前の彼女のように。
『君は特別な力を持っている。それは君のお父さんから頂いた大切な力だ。決して他の人に見せびらかしてもいけない。もちろん家族にも。
無闇に使ってしまうと人を気づつけてしまうかもしれない。突然発生してしまう可能性もある。そうさせない為に私は君に会いに来た。
―――私についてこい、少年』
あの時の七瀬の微笑みは今でも目に焼き付いている。どこか寂しげな、それでも優しいようで儚い、そんな微笑みに阿修羅は救われた。
「そうか、そういう事だったのか」と阿修羅が。「この力は親父から受け継いだものなのか…」
彼女はゆっくりと頷いた。
すると事がすんだというように進行方向を歩いてきた道に変え、早くいきましょう、と言う。
「ん?…え?」
「貴方の家。手紙は届いているとは思いますが、貴方の母上にも報告をしなければなりません。貴方の学校にも編入する事を伝えなければなりませんので」
淡々と言う彼女はそのまま歩き出した。
阿修羅はなにがなんなのか分からなくなり、母親が家にいないことなんてすっかり頭から抜けていた。




