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Evil Zero  作者: たいやき
日本 旅立ち編
3/15

始まりの場所


七瀬の拳を左手で弾きもう一度距離を取る。


「相変わらずそんな魔術でよく私に対抗できるな」


口角をつり上げて笑う七瀬からは赤色の魔力が溢れ出ている。


阿修羅は拳に魔力を集中させる。


「それでも」


七瀬は床を剣くらいの長さで剥ぎ取り魔力を注いだ。


「私には、勝てないよっ」


七瀬は宙に飛びその勢いのまま剣を振り下ろした。


「はああぁぁぁぁっ!!!!!」


「くっ―――!!」


魔力を注いだ拳をおおきく振りかぶり、その剣を貫いた。


そのまま右手を勢いよく引き、逆の左手でボディを打つ。


ズバンッッッッ!!


「いい拳だ、がっ…」


「なっ――――!!」


入ったと思った拳は七瀬の片手の中に収まっている。溢れ出す魔力は徐々に小さくなっていき、消え失せた。


さっき壊した剣はもう片方の手ににぎられている。


「―――終わりだ」


―――ブォンと空を切る音が鳴った。


俺は即座に首を狙われると判断し、首にガードを固める。


しかし、狙われたのは横腹。

ノーガードになったそこは、硬い剣に強く叩きつけられた。


「ぶふぉッ……!!」


阿修羅は痛みに耐えきれず、その場に膝を着いた。



「まだまだだな阿修羅」


「…はぁ、なんであれ止められんだ」


七瀬は剣を魔力粒子に変えて消し、俺の頭をワシャワシャと撫で回す。

負けた俺は何も言えずにワシャワシャされるのをじっとしているだけだった。


ピカピカに磨かれた寺の床は太陽の光で輝いている。毎日来ているのにもかかわらず触りたくなるほどに。


水飲んでくるわ、と七瀬がいい場を離れてから俺は床に寝転がった。今日は久々に早起きをしたせいか妙に眠たい。

学校がなかった春休みの間、起床時間は昼間際、寝るのは朝の六時と不健康な生活を送っていた。


昨日は明日学校の事を凛に指摘されて少し早めに寝たつもりだったが……


瞼が重い。

体が重い。

全身の力がしゅんと抜け俺は深い眠りに落ちた。




――これは夢だ。


空全体が真っ黒の雲で覆われており、小さな隙間から太陽の光が差し込んでいる。


向かってくる兵士を殴り、切り、撃ち、俺の足元には血を流した人間がごろごろと転がっている。

一体俺はどこに向かっているのだろうか。


――これは夢だ。


視線はずっと下を向いている。

見えるのは人の残骸。

命があるものは―――、誰もいない。


そのままずっと歩いていると視線が上にいった。視線の先には太陽の光が直接当たっている人間が剣を構えて俺の方を見ている。


その人間は剣を空に掲げるように挙げた。


―――瞬間、俺の見る世界は光で覆われた。



「……おい、起きろよー」


平手で阿修羅の頬っぺたをペシペシと七瀬がやっている。寝転がっていた俺の上に跨り何度も叩いている。


こんにゃろ…。


「…俺は起きた。早くどけ、重い」


「知らんのか阿修羅、女の人に重いとかは言ってはならんのだぞ?」


「あー、そうだなー」


棒読みかよ、と七瀬は笑う。

外はいつの間にか赤色に染まっており、太陽が沈みかけているところだった。随分と居眠りをしてしまったらしい。

敷居をまたぎ寺の外に出れば周りは木で囲まれている。


「そんじゃ、今日はもう帰るわ」


「へいよー。あんま人目につくなよー」


そう言って七瀬は階段を下るところまで見送り、寺に引き返した。阿修羅もそれを見てから一段一段ゆっくりと下っていった。


階段を降り終え、森を抜けるといつもの住宅街にでる。幸い今日は近所の主婦達は家の中にいるようで毎度のように何をしに行ってたのかは聞かれずに済んだ。


小学生の頃から毎日ここら辺を通っているのにも関わらず、いつもどこに行っているのか分からないのであれば少しは気になるものなのだろう。


そう勝手に決めつけて俺は帰路についた。

遠くの空はもう青紫色に変化している。真っ赤な空は視界を照らし、何かを隠しているようにも思える。


この時間帯にここら辺を歩くと、いつもいい匂いがする。カレーの匂いや魚の匂いなど、暖かい気持ちになるような匂いが阿修羅の中へと入る。


そんな匂いを味わいながらバックを片方の肩にかけ、のんびりと歩いていると明るくてあまり見えなかった前方に髪の長い人が真正面から歩いてくる。


このまま行けばぶつかると思っい不自然にみられないよう少しずつ左にズレて歩いた。


今思えばこれも彼女のトリックだったのかもしれない。人とすれ違うのはよくあるはずのことなのに、彼女だけに気を取られたのは至極不自然だ。


髪の長い人と丁度すれ違う時、その人は止まった。それを不自然に思ったのか、はっきりとはしないが阿修羅も止まる。

数十秒ほどの沈黙の後、視線だけを横にやると口が動く寸前だった。


「そなたにひとつ尋ねたい」


あまり慣れない口調に少し驚き

返事を遅れる。

阿修羅が返事をせずに無言でいると、横にいる彼女の口はまた動き出した。


「――この近くに、魔術師はいるだろうか」


暖かかったその場所は、冷たい風が吹いたように全身を冷たくした。

直感が彼女は危険だと言っている。


魔術師はいるだろうか?普通の人間がそんな事を言うだろうか。

否、それはないだろう。


ならば答えはひとつ

こいつは普通の人間では、ない―――。


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