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活動記録1日目 その5

「なんで……?」


 小郡(おごおり)さんの現実を受け入れられない嘆きが、俺と彼女と売店のおばちゃんしかいない空間で哀愁を漂わせた。


「ごめんねぇ、ここの売店の商品はどれも人気で昼休みになったら一瞬でなくなっちゃうのよ」


 レジのところに座っている売店のおばちゃんが、申し訳なさそうに立ち竦む小郡(おごおり)シオンに説明した。


 私立であるためか、もしくはよくわからない高校であるためか、理由は不明だがここの売店の商品は生徒たちからとても人気で、すぐに完売するらしい。

 いつも売店や食堂に行くのは面倒だからと、おにぎりを自室で作って教室で昼食をとっていた俺はそんなこと知る由もなく、商品が完売するほどに人気であることに驚きを隠せない。


 それに、一般入試組の生徒や推薦組の優秀者には、食堂や売店、寮に付属しているコンビニやスーパーマーケットで1日にそれぞれの生徒に決められた金額分使えるマネーカードが生徒証に組み込まれているらしい。

 だから、その権利を得た生徒たちはしっかりとその金額分を毎日使用しているらしい。

 もちろん、一般入試に受かった俺にもその権利はあり、それは昼食のおにぎりのためのお米を買ったことしかなく、あんまり使ったことがない。


「あ、でもほら、A棟で1番人気の焼きそばパンが珍しく1つだけ余っているから、って言っても少し無理があるわね……」


 売店のおばちゃんがフォローしてくれるが、異性の2人に対して焼きそばパン1つは厳しいと察したのか、徐々に言葉が消えていった。


 普通に半分に分ければいいだけの話ではありそうだが。


 すると、小郡(おごおり)シオンが焼きそばパンを手に取った。


「アリマさん、よかったらどうぞ。(わたくし)はそんなにおなか減っていないので」


 しょんぼりと下を見ながら俺に譲ってくれる小郡(おごおり)さんに、貰いにくくして自分に譲る演技をしているのかと疑いすら持ちたくなるが、普通に半分に分けるという考えは浮かばないのか。


 彼女の性格から演技をしていることはないと思うし、俺が小郡(おごおり)さんに譲ろうとしても断るに違いない。

 だから、半分に分けるのが1番最適だと思うが。


 くぅううううううううう。


「……」


「……」


「あらま……」


 お腹の鳴る音がした。


「……」


「……」


「……」


 そんなまさかの音に、少しの気まずさと共感性羞恥が俺を襲ってくる。

 もちろん、俺のお腹の音ではない。


「……」


「……」


「……」


 だが、小郡(おごおり)さんは下を向いて焼きそばパンを俺の前に伸ばしたまま固まってるし、こんなシチュエーションなんて望んでいないが、早く何かアクションを起こしてくれないだろうか。


「……」


「……」


「……」


 いっそのことなかったことにしてしまおうか。

 なかったことにしてこの場を去った方がいいかもしれない。

 しかし、そんなことをした後はどうする。

 同じクラスに加えて、席は前後、それにここから去るのに俺だけとは当然いかず、小郡(おごおり)さんをここに置いて自分だけ去るなんて真似は出来ない。


 さて、どうしたものか。

 誠に困った状況だ。


「……」


「……」


「……ごめんなさい。おばちゃんだわ」


 照れ臭そうに言うのは、売店のおばちゃんだった。


「え――?」


「へ――?」


「おほほほほほほほ、早く言わなくてごめんなさいねー! この年になってもお腹が鳴るのは恥ずかしいわねぇ。いつもはお昼ごはんを昼休みになる前に食べるんだけど、今日は時間がなくてねぇ、まだ食べてなかったのよ~。おほほほほほほほほ!」


 俺と小郡(おごおり)さんは素っ頓狂な声を出して、右手で口を隠しながら照れ臭そうに笑うおばちゃんの方へ振り向いた。


「「あはは……」」


 小郡(おごおり)さんも俺と同様に、まさかおばちゃんとは予想していなかったのか、おばちゃんの反応に困ったように顔を引きつらせて笑うしかなかった。


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