おまけ1 忘れられた兄貴
「早く持ってきなさいよ。これだから悪魔は――」
俺の防具を買ってくれらしい朝倉ノエルは、悪魔であることを隠すチンピラ兄貴ことクロノさんに、相変わらず偉そうに腕を組んで辛辣なことを言っている。
全身が映された大きな鏡の前で、いかにも悪魔そうな防具を着せられて待っている俺は、そんなチンピラを横目で見ていた。
本当に立場が弱い人間に対して強がる朝倉ノエルの人間性を疑う。
このままじゃ、クロノさんが可哀想すぎて見てられない。
一度、注意すべきか。
そんなことを考えていた。
『お前さ、意外と魔王の格好をしても似合うんじゃないか? がっはっはっはっはっは!』
ロキが脳内で、挑発しながら汚い声を出して笑っている。
(何が魔王の格好が似合うだよ。俺は魔王であることを隠したいんだ。馬鹿なこと言うなよ)
『いや、でも、クロノが作っている装備はどれもダークだぞ。他の場所で買った方がいいんじゃないか?』
(え、そうなのか?)
悪魔のような不気味な防具を身に着けている俺に、脳内のロキが、まるでクロノさんのことを知っているかのような口振りで提案してきた。
だが、クロノさんの装備屋に入る前に、『おい、嫌な予感がする』って深刻そうな低いイケボで忠告していたため、てっきり見知らぬ悪魔だと思っていたが、違っていたということだろうか。
『――いや、忘れていただけだ』
(……)
地の文に反応したロキは、何を偉そうに言っているのか分からないが、そんなことを自信たっぷりに言った。
ただ忘れていただけなんて、この人は本当に神なのか。
それにしてもクロノさんが可哀想すぎる。
この後の出来事で判明するのだが、クロノさんはロキと関わりのあるネヴィに仕えていた悪魔であるのに、忘れられていたのである。
「ちょっとーまだー? 遅いんですけどー!」
「うるっせぇ……で、ですよ……ただいま持ってきますから」
相変わらず2人が遊んでいるのかと思いたくなるほど、同じようなことをしている。
「……」
これから一体どうなるのやら――。
先が思いやられる。
こんな思いが的中する出来事はすぐに起きたのだけど。