38話 帰還
「――おーい、アリマさーん……」
「――?」
女神さまのような優しい声が、すぐ近くで聞こえたような気がした。
俺はゆっくりと目を開く。
「……」
「あ、おはようございます」
この光景を理解するまで約3秒。
俺の目の前には、小郡さんが柔らかい笑顔で俺を見ている。
目の前というより、上から覗き込んでいると言った方が正しいのかもしれない。
そして、俺は寝転がっているわけで、後頭部でクッションとなるのは小郡さんの太もも。
まあ、つまりは膝枕をされているわけで、誰かさんに膝枕をされていたときと違って、心臓の鼓動がうるさいような気がした。
「お、おはようございます……」
俺は少しドキドキしながら起き上がって、挨拶を返す。
「待っててくれたんですね。ありがとうございます」
「いえいえ、私がアリマさんの帰りを待ちたかっただけですので、お礼なんてそんな……そ、それに私たちは、お、お友達ですし……」
はにかむ小郡さんの頬がほんのりピンクに染まる。
そんな彼女を見ていると、こっちまで恥ずかしくなる。
最初のやり取りは何だったのかと言うぐらい落ち着いている小郡シオンは、まるで別人のように清楚担当を全うしている。
そんな彼女を見ていたら、恥ずかしくなってしまうのも仕方がないことだろう。
「ちょっとー2人だけの空間じゃないんで、イチャイチャはやめてくださーい」
テンションの低い声がした。
声のする方を見ると、つまらなそうな顔をして、顎を掌に乗せている先輩の姿があった。
「イ、イチャイチャ!? そんな、私! はうぅ……」
イチャイチャと言う単語を聞いた小郡さんが、完全に赤面させて手で顔を覆い隠してしまった。
俺は立ち上がって辺りを確認すると、そこは当然第5倉庫だった。
窓から見える景色は真っ暗で外は何も見えない。
第5倉庫には明かりが点灯していて、パイプ椅子に座っている先輩に、先輩の隣に座ってカメラを首にかける生徒会長、そして正座を片方に崩した座り方で、膝枕をしてくれていた小郡さん。
脳内ではネヴィとロキがいて、2人で何か話している。
なぜかそんな奇妙な現状、俺はそんな風景に安心感を覚えていた。
「おかえりなさい、アリマさん」
「ノエルを無事に帰還させてくれて感謝する」
『ねーねーあそぼー!』
『がっはっはっはっはっは! アリマといたら面白いな!』
「ありがとう、そしてよろしく、後輩くん!」
彼らと出会って2日しか経っていない――正確に言うと、朝倉ノエルだけは1週間前からだが――。
そんな異質のものたちが第5倉庫に集う。
だけど、彼らは俺にとってかけがえのない、将来に大きくかかわる人たちだ。
「――いや、そんなことより、取り敢えず早く寮に戻りましょう」
時計を見ると、とっくに12時を超えている。
生徒会長の権限と言うやつで、俺たちが怒られることはないだろうが、疲労感の半端じゃない俺は、いち早くベッドに入って寝たかった。
「そうですわね」
「ああ、そうしよう」
『えーあそびたーい!』
『がはははは! みんなお前を起きるの待ってたんだぞ!』
「ふぁあああ、うん、もう疲れた。帰ろう帰ろう」
全員、第5倉庫から廊下に出る。
「――それじゃ、電気消しますね」
最後に出た俺は、第5倉庫の電気を消した。
結局、今日1日、何もせずに終わってしまった。




