33話 勇者か魔王、或いは……。
『アビリティ、|《勇者と魔王》を発動!』
「え、それって――」
「なんか言った? 後輩くん! 《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》――」
ひたすら俺に《ヒール》を使ってくれている先輩が、声をガラガラにして尋ねてきた。
「俺のもう1つのアビリティって、謎だったはずじゃ――」
『ああ、だが、お前が勇者っぽい覚悟を持ったことで解放されたんだ。それじゃ、借りるぜ、アリマ!』
ロキがそう言った刹那、俺の意識が遠のいていく。
おかしい。
身体が――。
「――わぁ、アリマがなんでここにいるの?」
ネヴィが俺に尋ねる。
ここはどこだろう。
それに、脳内にいたはずのネヴィが白いワンピースを着て少女みたいな姿で俺を見ている。
「どうなってるんだ?」
モザイクの空間でもなければ、異世界でも地球でもない。
何もない世界だった。
そんなところにネヴィが1人でいる。
『……がっはっはっはっはっは! 久しぶりの身体だ!』
「俺の声?」
遠くから俺の声が聞こえた。が、特徴的な喋り方をする俺の声ですべて理解した。
「これってまさか――!」
『アビリティ、《勇者と魔王》。一時的にこの世に存在する勇者と魔王の能力を得ることが出来る! つまり、今の俺はアリマじゃねぇ! 《白金の勇者》ことハイネと言うわけだ! がっはっはっはっはっは!』
空間内に映る現実の世界で、俺の身体を乗っ取ったロキが汚い笑いをする。
つまり、アビリティによって俺は正義の勇者であるハイネの力を得た。
その代わりに、意識上に存在していたロキとアリマの身体を操っていた俺が交代したということだ。
ダメだ。
頭がおかしくなってきそうだ。
『ちょっと後輩くん!? ハイネみたいなことしないで!? 《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》《ヒール》――』
『え、ハイネ様ですか?』
『ええい、鎧なんて邪魔だ、動きにくい!』
『いやいや、ハイネみたいなことしないでよ! 私どこ掴んでればいいの!?』
ロキが暗黒騎士の鎧を脱ぎ捨てて、上半身剥き出しとなる。
もちろん、俺の身体がだ。
「えーボクもしたーい」
俺の意識の中にいるネヴィが、新しいおもちゃを見つけたように目を輝かせて言った。
『ねえええええええええええ、後輩くん、脱がないでってばあああああああああ!』
鎧越しに俺の身体に手をまわしてクロノに乗っていた先輩が、俺の身体から手を放してふらふらと今にも落ちそうにしている。
「おいコラアアアアアアアアア! 俺の身体だぞ、勝手に脱いでんじゃねええええええ!」
自分自身の脳内にいるという奇妙な体験を現在進行形でしている俺は、俺の身体を使いながら現実世界でやりたい放題しているロキに怒号を上げる。
『うるさいぞ、アリマ! 黙って見てろ。《呪消滅拳》! おらあああああああああああ!』
そう叫びながら、俺の拳をクソ魔王の方に突き出すと、《死の呪い》とか言うスキルが一瞬で消失した。
『なに? 呪いを消した? おのれええええええええ! 許さない!』
さっきまで余裕を醸し出していたクソ魔王が、ビビりながら後輩の魔王に負けていることに激怒する。
『これで終わりだ! クロノ、あの雑魚魔王目掛けてまっしぐらだ!』
『え、あ、はい!』
ロキの言葉にクロノさんが、クソ魔王目掛けて突っ込んでいく。
ロキが操る俺の身体が、クロノさんの上で立ち上がり、右拳を引いて今にも突き出さんばかりにしている。
『ねえ、後輩くん、危ないから座って! 私まで落ちちゃうからあああああああ!』
先輩が涙を流しながらなんとかクロノさんに必死に縋り付いている。
俺の身体を回復することなんて忘れているようだが、アビリティによってロキの能力を得たためか、全然体力が減っていない。
「いいなー」
「……」
意識の中にいるネヴィが羨ましそうに、その様子を見ている。
ただ見ることしか出来ない俺は、今から起きることを、苛立ちを覚えながら眺めるだけだった。
まず、服を着てほしい。
『それじゃ、雑魚魔王、貴様はこれで終わりだ! がっはっはっはっはっは! 俺の一撃必殺を受けて、闇に還りやがれ! 《一撃必殺英雄無双拳》! おらあああああああああああああああああああああああ!』
俺の身体を操っているロキが、右拳をクソ魔王目掛けて突き出した瞬間、圧倒的に大きいクソ魔王の身体を貫通させて、向こう側の景色が見える状態になった。
『バカな!? こんな奴らに僕があああああああああああああああああ――!』
そう言って、クソ魔王の痕跡を何1つ残すことなく消し去った。




