21話 修羅場
「――やっと2人きりになれましたね」
「は?」
俺の手を引っ張って廊下をずかずかと進んでいく小郡シオンが、唐突に何かを言った。
よく聞こえなかった俺は、思わず反射的に声が出る。
『やっとふたりきりになれたねって、いった』
ネヴィが彼女の言ったことを教えてくれた。
「やっと2人きりになれましたね、と言ったのです」
俺の手を引っ張る小郡シオンが、もう1度言ってくれる。
何を考えているのだろう。
ホントに嫌な予感しかしない。
手を引っ張っていた小郡シオンが立ち止まって、後ろにいる俺の方へ振り向く。
「私、昨日のことについて、あなたに聞きたいことがあったのです」
まさか、放課後の腕を組んで渡り廊下を歩いていたところを見られたんじゃないか?
ただでさえ生徒会長の那珂川フウラに見られて大変だったのに、こんな清楚な生徒に見られて教師にでも伝わったら、やばい奴認定されそうだ。
それだけでなく、公にバレてしまったら、那珂川フウラからぶっ〇されるかもしれない。
それは何としても避けたい。
どうか、そのことじゃありませんように。
俺は心の中で祈った。
『そのことじゃありませんように!』
同様に脳内のネヴィが祈ってくれる。
「昨日、ノエル先輩と――」
「――あ、もう大丈夫。何も起こってないから」
だいたい察したので、俺は小郡シオンの言葉を遮って訂正した。
やっぱり見られていたんじゃないか。
てか、この人、それを聞くために保健委員だということを都合よく利用して、数学の先生の言葉を遮ってまで俺を保健室に連れて行くと言ったんじゃないだろうな。
「人が話している最中に遮るのは失礼です」
「どの口が言ってんだ」
むすっとした小郡シオンの指摘に、俺は思わずツッコんでしまった。
全然清楚タイプなキャラじゃないじゃん。
ホントにこの学校は無茶苦茶な人しかいない。
「昨日、ノエル先輩と渡り廊下で腕を組んで歩いていたのはどういうことですか? まさか、お付き合いしているんじゃ……」
「するわけないでしょ」
俺のツッコミを盛大に無視して、何事もなかったように一から言い直す小郡シオンに途轍もないヤバさを感じる。
「そうですか。ならば、腕を組んでいたのはどういうことですか?」
表情1つ変えない小郡シオンは、おそらくだが納得するまで追究してくるだろう。
いまこの場に、俺たちが付き合ってないことを証明してくれる奴がいてくれれば……。
「やあ、後輩くん、夜ぶりだねえ! お、それと、『まじめがね・妹』?」
「……」
ただならぬ空気が生まれた廊下に都合よく現れたのは、アホ毛が盛っている朝倉ノエルだった。




