18話 怒り
「その子をどうするつもりだ……!」
モザイクの空間から掃除箱に出てきた俺の前に、今にも襲い掛かってきそうな喧嘩腰の面持ちをした女子生徒が立っていた。
首には高そうなカメラがかけられている。
女性にしては低い声に、激怒が込められているため、一層怖さが増している。
朝倉ノエルを背負っている俺に、何か勘違いをしてそうだったので、はっきりと訂正をする。
「あの、別に変なことしようとか思ってませんから」
「当たり前だ! 取り敢えずノエルを下ろせ!」
「はい……そのつもりです」
なんだろうかこの状況は。
朝倉ノエルが起きてくれないと会話が成り立たないような気がする。
俺は、ぐっすり寝ている朝倉ノエルを慎重に下ろして、床に置いた。
「なんだ貴様! ノエルを床に置きやがって、調子に乗るなよ!」
「いや、あなたが下ろせって言ったから……」
「黙れ! 貴様は床に寝ることが出来るとでもいうのか!」
なぜか無茶苦茶な怒りを飛ばしてくるこの人の言ってることが、よく理解出来ない。
「じゃあ、あなたが起こしてくださいよ。この人、さっきから全然起きないんですよ」
「はぁ? こんな可愛い顔で寝ているノエルを起こせと、そんな極悪非道なことを私にしろと言っているのか! 調子に乗るなよ!」
「……なら、布団取ってきてくださいよ」
いい加減面倒になってきたので、絶対に不可能だろうということを要望する。
これで諦めてくれるだろう。
――が、
「わかった。取ってくるから待ってろ。その代わり、私が戻ってくる間に逃げたり、ノエルに何かしたりしたら、生徒会長の権限で退学させるからな!」
「マジ――?」
生徒会長と名乗る女子生徒は、第5倉庫から飛び出してどこかに行ってしまった。
せっかく帰ってこれたのに、なんか疲れた。
第5倉庫に設置されている時計を見ると、日付が変わる5分前である。
俺は第5倉庫に設置されている折り畳みパイプ椅子を展開して、だらんと姿勢を悪くして座った。
たぶん、寮に戻ったら寝るなぁ。
結局授業の暗記が出来なかった。
『さっきのひと、こわかったねー』
「ああ……………………え――?」
別れの言葉を述べたはずの可愛いらしい声が、俺の脳内から語りかけてきた。
言わずもがな、ネヴィである。
「え、なんでいんの?」
『なんかね、ハイネがアリマののうにつかまってればだいじょうぶだって』
全然大丈夫じゃない。
それに、脳に捕まっていれば大丈夫だって?
じゃあ、俺の脳みそに触れていたということか?
なんだか凄く気分が悪くなる言い方だ。
「ネヴィ、ここにいても楽しくないよ?」
おそらくだが、異世界にいるときとは違って、こっちの世界で脳の中にいてもやることなくて暇だと思う。
てか、今は生徒会長みたいな奴に手を焼いているのだ。
頼むからこれ以上問題を持ち込んでほしくない。
「――貴様、誰と話しているんだ?」
呼吸を乱すことなく第5倉庫に戻ってきた生徒会長に、脳内にいるネヴィに話しかけるところを見られてしまった。
「てか、速すぎませんか? 寮から取ってきたんですよね?」
あまりに戻ってくるスピードが速すぎる生徒会長は、しっかりと布団一式を持ってきている。
朝倉ノエルの知り合いだからか、この人も化け物だ。
「なにか、不快なことを思われてそうだが、この布団はあらかじめ『まじねがね』に頼んで持ってこさせていたんだ」
生徒会長の速さに納得した俺だが、時々出てくる『まじねがね』って誰だよ、と生徒会長じゃなかったらツッコミをしていた。
「それより、貴様は誰と話しているんだ?」
怒り狂う生徒会長が改めて尋ねる。
「いや、独り言ですよ」
「……? ふっ――」
鼻で笑われた?
独り言だと嘘をついた俺を、生徒会長は朝倉ノエルに布団を敷きながら、鼻で笑ったような気がする。
とても不愉快なんだが。
もういいや。
「あの、俺もう帰っていいですかね?」
朝倉ノエルに布団を敷き終えた生徒会長に聞いた。
生徒会長が布団を持って来るまでは待っていたんだ。
これで用事は済んだはずだ。
とにかく疲れた俺は、いち早く寮に戻ってお風呂に入りたかった。
「ダメに決まってるだろ」
「……」
怒り狂っている生徒会長は、見逃してくれなかった。
やはり、こんな時間まで寮に戻らなかったのが問題だったか。
「だいたい貴様はノエルとどういう関係だ」
「……はぁ」
これ、長くなりそうだ。
そう察してしまった。
いつになったら寮に戻れることやら。
俺は、生徒会長に経緯を一から話し始めた。




