14話 状況不明
「わあっはっはっはっは! ボクはときのまおーである~! せかいのはんぶんをあたえてやろ~! よし、きまっ――きゃあああああああああああ! ばけものだああああああああああああああああああ~~~~~~!?」
「ぎゃあああああああああああああああああ! 化け物おおおおおおおおおおおおお!」
最奥から聞こえた可愛らしい声の可愛らしい発言の後の甲高い悲鳴と、何も学ばずに1人突っ走った朝倉ノエルの鼓膜に響く叫喚が洞穴中を轟いた。
「……何やってんだか」
『がはははは! がっはっはっはっはっは!!』
泣き叫ぶ時の魔王と泣き叫ぶ朝倉ノエルは、お互いの顔を見合わせて戦慄している。
ロキは汚い声で笑っている。
そんなカオスな状況で、俺は呆れることしか出来なかった。
「待ってください、朝倉さん」
逃げ出そうとする朝倉ノエルを必死にこの場に留めようとするが、この人の馬鹿力と言ったらゴリラレベルの力であるため、そう簡単には抑えることが出来ない。
「いやあああああああ! だって、だって、化け物があああああああ!」
未だにビビっている朝倉ノエルにはここにいてもらわないと困る。
迷子になって探すのが大変になるというのもあるが、もう1つ大切な理由がある。
「俺にはあなたが必要なんですよ!」
「え――? それって――」
「《ヒール》の光がないと、何にも見えなくなってしまうでしょ!」
「え? 私って、照明係なの?」
「え? はい」
「……すごく、嬉しくないんだけど。てか、照明係にさせられた私の《ヒール》が可哀想なんだけど」
叫びまくっていた朝倉ノエルが急に我に返り、冷めた顔で卑下するように俺を見る。
この人からそんな目で見られるのは、プライドがズタボロにさせられた気分だが、事実、彼女の照明がなくては何も見えない。
彼女が叫ぶ間も何も見えなかった。彼女自身は《時の魔王》が見えていたようだが。
「まあ、わかったよ。《ヒール》……」
朝倉ノエルは、すんなりと受け入れて、《ヒール》を唱えてくれた。
彼女の《ヒール》により、朝倉ノエルを中心に周りが視界に映し出される。
目の前には目を真っ赤にさせて腫れ上がっている……。
「うおおっ! 化け物かと思った」
「え……失礼過ぎない?」
泣きすぎて異常なほどに目元を真っ赤にさせ、腫れあがっている朝倉ノエルの顔に驚いてしまった。
ここまで酷くなっていたとは思いもしなかった。
その後ろには、白いワンピースを着た紺色の髪の毛の少女が宙に浮かんで泣いている。
この女の子が泣き叫んだのには納得がいった。
目の前にいきなり目を真っ赤に腫らした人が現れたんだ。
泣かない方が凄い。
「大丈夫か?」
俺は、泣いている少女の前に立ち、ハンカチを渡した。
「ぐすん、ぐすん。ありがとぉ、おにーちゃん」
宙に浮かぶ少女が、俺のハンカチを受け取って涙を拭う。
朝倉ノエルに言われたときの「お兄ちゃん」と目の前の少女の「おにーちゃん」。
人によってここまで違うのか。
こんな妹が欲しかった。
「なんか、扱い酷くない?」
朝倉ノエルが納得していない顔で何か言っているが、今は目の前の少女に気を取られてしまっているので聞こえない。
「ありがとぉ、おにーちゃん。ボクはネヴィ! ときのまおーネヴィ! よろしくね」
ボクっ娘の妹、可愛い……。
俺の想像していた魔王像とは全く異なっていたが、ネヴィみたいな魔王もありかもしれない。
「ちょっとー後輩くん? なんで、化け物に向かってそんなにデレデレしてるの?」
おそらくネヴィの正体が見えていないであろう朝倉ノエルが、《ヒール》を唱えながら何か言っている。
なんか、ごめんなさい。
「実は俺も魔王なんだ。アリマ・ムナカタ。よろしくな、ネヴィ!」
「うん、よろしく! アリマ!」
泣き止んだネヴィの純粋無垢な笑顔といったら癒される。
このクエストに来て良かったのかもしれない。
「ホントに大丈夫?」
朝倉ノエルは、なぜか俺を心配してくれるが、なんについての心配かわからない。
「朝倉さん、この子ネヴィって言うらしいです。《時の魔王》のネヴィです」
「――よし、後輩くん、殺るよ」
《時の魔王》であることを聞いた朝倉ノエルは、急に殺る気になってしまうが、こんな可愛い少女の命を殺めるなんて俺には出来ない。
「すみません、俺に少女は殺せないです」
「ごめん、何言ってるの? コイツのどこが少女に見えるの?」
『がははははは! そうだ、どこが少女に見えるんだ! どう見ても男だろ!』
はっきりとネヴィの姿が見えていないであろう朝倉ノエルはともかく、脳内にいるロキが相変わらず汚い声で笑いながら引っかかることを言った。
どう見ても男?
いや、どう見ても純粋無垢な少女だろ。
俺は答えを聞こうと、ネヴィの顔を見た。
「ボク、おとこだよ? ち○ち○だってあるし、ほら!」
「――!」
弟かよ!
ネヴィは恥じらいもなく、男の証明を白のワンピースをガバッと上げて見せた。
人懐っこくて可愛らしい容姿をしたネヴィの真実を知って、なんか、ちょっと残念である反面、例に漏れず彼も立派な変な奴であった……。
てことは、ロキは男のネヴィに向かって、相変わらず可愛いとか言ってたのか?
他意はないよな?
「ねぇ、なんか私だけ話についていけてない気がするんだけど」
「朝倉さん、ネヴィはれっきとした男でした……」
「うん、そりゃこんな見た目で少女とか言ってる後輩くんの方が異常だよね」
朝倉ノエルがネヴィをどう見えているかわからないが、とんでもない見た目をしているのだろう。
まるで俺が頭おかしいような言い方をしてくる。
すると、ネヴィが俺の頭上の後ろに向かってニコニコとしているのが見えた。
「ひさしぶり、ハイネ!」
ハイネ?
誰のことだ。
それは。
『がははははは! 久しぶりだな、ネヴィ! 100年間閉じ込めて悪かったな!』
ネヴィに反応したのは、ロキだった。
どういうことだ?
ロキではなく、ハイネ?
ハイネってこの洞穴の名前もたしかハイネ洞穴だった。
何か関係あるのだろうか。
『ああ! 俺とネヴィは100年前に殺し合いをした親友だ!』
「そうだよ! ハイネはね、せいぎのゆうしゃなんだよ! でも、まおーであるボクをたおそうとしてたの。でもね、ともだちになったんだ!」
ネヴィが嬉しそうに言った。
男の子でも可愛い。
なぜ、白いワンピースを着ているのかは不明だが。
『俺がこのワンピースをあげたんだ! 似合ってるだろ?』
上機嫌にロキが言った。
色々な疑問が立ち往生している気がする。
まず、何から触れるべきだろうか。
そんなことを考えていると、ひたすら《ヒール》を唱えてくれている朝倉ノエルが痺れを切らした。
「いい加減私に今の状況を教えて?」