10話 装備をしよう!
悪魔族黒馬のクロノ=バアストレンは、この人が仕えていた魔王が死んでから、人間界に1人取り残されてしまったがために、おんぼろな小屋でダーク系の職業の装備を売っているらしい。
ただ1人、人間界で必死に生活していたクロノの前に朝倉ノエルが現れて、悪魔だということがバレてしまい、バラされたくなければ装備を格安で売れと脅されているのだとか。
まぁ、つまりは可哀想そうな悪魔である。
「こちらはどうでしょう?」
クロノさんが色々な装備品を持ってきて、朝倉ノエル監修のもと、俺の着せ替えが始まった。
「これは?」
「こ、こちら、『悪魔の鎧』と呼ばれる悪魔族が着用するメジャーな防護服です」
いかにも禍々しさ漂う人間のドクロが胸元に象られた鎧を着せられた俺は、目つきが悪いからか、案外似合っている。
だけど、
「あの、もう少し軽いものってないんですか?」
悪魔に合わせたよりであるため、途轍もなく重過ぎたのだ。
こんなの装着して戦ったら、攻撃される前に潰れて死んでしまう。
「ほら! 魔王様がそう言ってんだから、次の持ってきて!」
朝倉ノエルは、性格の悪いマネージャーのようにクロノさんに次の装備を持ってくるように指示する。
本当にこの人は……。
「は、はい!」
「……」
素直に従うクロノさんは、次の装備を店の奥から漁りだした。
こんなことしているから、チンピラ兄貴のままなんだよ。
この人が来たら注意しよう。
その前に……。
「あの……俺、あなたがこんな人だとは思いませんでした。あんなことばかり言って、クロノさんが可哀想ですよ。俺、クエストに行くのやめます」
さすがにチンピラ兄貴のクロノさんは見てられず、調子に乗っている朝倉ノエルに冷酷な目線を送る。
俺が言い終える頃には、朝倉ノエルの偉そうな顔が一瞬で崩壊し、おろおろとし始めた。
「いや、悪かったから、クエストだけは一緒についてきてください。悪魔に対する態度改めるから! お願い!」
「……」
こっちもチンピラじゃないか。
朝倉ノエルは、縋りつくように寄ってきて懇願する様子は見るに忍びない。
なんで異世界に来て年上に懇願されないといけないんだ。
それに、装備を買ってあげると先輩風吹かせていた朝倉ノエルはどこに行ったんだ?
『がはははは! やっぱお前についてきて正解だったわ!』
楽しそうに汚い声で笑うのは、俺の脳内にいるロキ。
(俺はついてきてほしくなかったがな)
『そんな堅いこと言うなよ~。一心同体の仲だろ?』
金髪碧眼の青年が言っていることだと想像すると、とても残念に感じる。
多心同体の厄介者は、いつまで俺の脳内に居座るつもりか。
態度を改めるという約束で、クエストに同行することになった俺は、クロノさんが持ってきたいかにも魔王らしい装備を着用する。
黒と紫を基調とした生地に、胸の辺りはほぼ布地がなく、背には邪魔になるほどのマント。
「あの、俺は魔王ということを隠したいんですが」
クロノさんは先程から禍々しい装備ばかりを持ってくる。
別に魔王であることを公にしたくない俺は、こんな悪魔みたいな装備を着用してクエストに行きたくない。
攻撃しか取り柄のない俺が、魔王であることがバレたら王国の人々に殺されてしまう。
そうなれば地球に帰ることが出来ない。それだけは勘弁だ。
「そうですよ、悪魔さん。後輩くんは、魔王であることがバレたくない、とおっしゃっていますので、普通の装備を持ってきてください」
「ごめんなさい、そういうことじゃないんですけど」
俺はつい謝ってしまった。
性格の悪いマネージャーから、敏腕マネージャーに昇格した朝倉ノエルは、何を考えてやっているのか、マネージャーという単語は離れない。
俺の言ったことを反復してクロノさんに伝えることをやめてほしかったのだが、言い方を変えればいいと勘違いしてしまっている。
いや、俺の言い方が悪かった。
認めてしまった方が早い。
「あの、魔王様……」
クロノさんが申し訳なさそうに、腰を低くしながら俺の名を呼んだ。
「魔王様なんてやめてください」
「いえいえ、恐れ多いです。それで、私の店は、ダーク系の装備を扱う店でして、なんだったらここより普通の武器屋に行ってみてはどうでしょうか?」
至極真っ当なことを言うクロノさんの店は、そういう店だったことを思い出す。
でも、だからって他の店に行くのも申し訳ないし、俺はここで1番悪魔に見えない装備を持ってきてもらうように頼んだ。
「後輩くん、もし次の装備が気に入らなかったとしても、それを選んでくれよ?」
朝倉ノエルが、気まずそうに目を逸らしながら、そんなことを言った。
「どうしてですか?」
「いや、特別な理由はないんだけど……」
なにか言いにくそうに眼を別の場所に移す朝倉ノエル。
彼女の意図がわからない俺に教えてくれたのはロキだった。
『姉ちゃんは、たぶん1人だったから金がそこまでねぇんだよ。ほら、クロノが悪魔であることを隠す代わりに、ここの装備を安くしてもらってんだろ? ってことは、普通の装備屋に行っても買えないんだよ』
そうか。
なんか一気に空しくなった。
お金がないのに後輩に装備を買ってあげようとする朝倉ノエルに、お金がない人間から安くしろと脅されているクロノさん。
凄く哀れだ……。
借金してでも自分で買おう。
俺はそう決意した。
「はぁはぁ、こちらはどうでしょう?」
疲労が溜まっているクロノさんが持ってきてくれた1番悪魔に見えない装備を着用する。
「これ、いいかも」
「暗黒騎士みたいだね!」
『がはははは! 結局ダークじゃねえか! でも、違和感ないぜ! がはははは!』
「僭越ながらとても似合っています!」
満場一致した。
黒と紫を基調とした騎士の鎧。
『悪魔の鎧』のようなごつい鎧と比べると軽装で、特段重くないし動きやすい。
「これにします」
俺は迷う素振りなく買うことを決めた。
疲れが顔に出ていたクロノさんの顔が、ぱあっと悪魔らしくないキラキラとした笑顔を見せた。




