8話 ラブコメに満たないラブコメ
『がはははははは! お前ら、カップルみたいだな!』
巫女姿の朝倉ノエルに手を引っ張られる俺に向かって、脳内でバカにしてくるロキは、相変わらず汚い声で大笑いしている。
仕方ないだろ。
あんな純粋無垢な笑顔で手を引っ張られたら、逃げる気も、地球に戻る気持ちも、そんなの二の次になるじゃないか。
必死に脳内で言い訳をしていると、手を引っ張る朝倉ノエルが、とある建物の前で立ち止まった。
「ここは……?」
俺の前には、おんぼろの古びた小屋があるだけ。
たしかに、辺りを見渡すとギルドらしき大きくて豪華な建物があることからして、朝倉ノエルの言っていた装備屋なのだろうが、認めたくない。
「ここが、装備屋だよ! さ、入ろ!」
朝倉ノエルは上機嫌に、俺の手を引っ張って入っていく。
到底、俺は馬鹿力の彼女には抗えなかった。
『おい、嫌な予感がする』
ロキが不穏なことを言った。
いつもの汚い笑い方はどこへ行ったのか、いや、そもそも別人ではないかと思うぐらい真面目な声を発する。
ロキの真面目な雰囲気に、思わず朝倉ノエルの腕を力いっぱい引いて、俺の方に寄せた。
「うわあっ――!」
「あ、すみません」
いつもの馬鹿力で掴んでいると思い込んでいた俺は、思い切り腕を引いてしまったため、俺の方に引き寄せた朝倉ノエルが懐に入ってしまった。
反射的に謝る俺に、この状況を見ていたロキがいつもの汚い笑い方をする。
『がはははは! お前、積極的だな!』
「こ、後輩くん……。これはどういうことかな? いきなり、私を抱きしめてきて……。その、なんというか、積極的に来てくれるのは嬉しいんだけどさ……。段階は踏んでいきたいかな……?」
「……」
『がはははは!』
近距離で赤面しながら初心な勘違いをする朝倉ノエルは、俺がいきなり抱きしめたと思い込んでいて、全く俺と目を合わせずに照れている。
「いや、勘違いですって」
「いいんだよ! 積極的に来てくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり、純粋な恋愛をしてみたいな、なんて思ったりもしてるから……その……ね? あはははは……」
「勘違いですって」
『がははははははははははははははは!』
「もー、やってから誤魔化すことはやめてよね! 最後まで責任もって!」
ぐいっと俺の顔に近づいてくる。
「……」
『がはははは! 姉ちゃん、最高だな! がはははは!』
この人は、ヤンデレにでもなるつもりなのか。
勘違いって言ってるよな?
確かに、ロキに警告されて引き留めたのは俺だけど、そこまで勘違いする朝倉ノエルの脳内は妄想畑なのか?
やはり、ラブコメにならない彼女に安心する自分がいたのは墓まで持っていくことにしよう。