プロローグ 元英雄である私が、弱小の世界で最強の称号を手にして、魔王を殲滅した後に田舎でスローライフを送る物語。
少しずつ思い出してきた。
そうだ。
勇者である私が、世界に平和をもたらした矢先、次の魔王が襲来してきて、たしかそのとき死んだんだ。
ということは、私は転生して何百年後かの世界に来たってこと?
そうか、それなら話は早い。
おそらく、転生した元英雄の私が、冒険者たちが弱くなってしまった世界で、最強の存在になって、再びこの世界を平和へと導くんだ。
それか、復讐に燃える戦士になって、世界中の魔王を殲滅していく復讐劇?
それとも、元最強の私が何百年後かの世界でスローライフを送る物語?
まあどちらにしろ、私が主人公であることに違いはない。
これは『元英雄である私が、弱くなった世界で最強の称号を手にして、魔王を殲滅した後に田舎でスローライフを送る物語』だ――。
ここは、ギルドに併設しているレストランの端っこ。
「――違うでしょ。多分ですけど、これそんな話じゃないと思いますよ。それに、なに厨二臭いこと言ってるんですか。ライトノベルの読み過ぎですよ」
俺は、ご飯をたらふく食べているアホ毛盛りの女子生徒に指摘した。
そう、これは異世界最強とか、俗に言うなろう系の物語なんかじゃない。
分かりやすく言うなら、破綻系ふざけんな異世界もの。
それに、これはこの物語のプロローグである。
読者の心を掴むだろう1番大切な部分であるのに、なんで大半をアホ毛の妄想で終わらせているんだ。
こんなふざけた話があってたまるか。
これで読者が少なかったら、完全にこの人のせいだ。
「それに、何なんですか。『元英雄である私が、――なんちゃらかんちゃら』って。タイトルだけはいっちょ前に今風の長いタイトルですけど、その発想が破綻してるんですよ。タイトルにすべてを詰め込めば良いってもんじゃないでしょ」
「うるさい! 別にいいじゃん! 創造というものは、既存のモノからの発展形なんだよ。つまり、今あるモノに一滴新しいものを足すだけで、素晴らしいものになるってことだもん!」
タイトルについて指摘した俺だが、目の前にいるアホ毛盛りの女子生徒は、インチキ宗教に勧誘しているのかと言わんばかりに頭のおかしいことを唱えている。
何言っているかぜんぜん分からない。
「はいはい、そういうの良いですから。てか、こんな状況なのに、よくそんな変ことばかり言ってられるな。めんどくせぇ」
正直、こんなふざけたやり取りしている暇なんてない。
なぜなら、このアホ毛盛りの女子生徒が、異世界と地球を繋ぐ扉を閉めてしまい、俺たちは地球に戻れなくなってしまっているのだ。
それなのに……。
「ねえ、ときどき後輩くんが後輩くんじゃなくなるぐらい怖いんですけど」
「こんな状況なのに、暢気に飯を食べているあなたの方が怖いですよ。あなたに地球に戻れるって言われて、ほぼ強制的に、いや、無理矢理背中を押されてここに迷い込んだんですよ!? それなのに、この末路は酷過ぎでしょ」
滅多にしないだろう乱れた態度で、ティーカップを持って食後の紅茶を優雅に啜っているアホ毛盛りの女子生徒に訴えた。
何なんだ、この人!
もう本当に嫌になる。
「あちっ!」
それに、舌をやけどしてるし。
もういいや。
暢気なアホ毛盛りの女子生徒を見ていると、戻る方法を考える方がバカバカしくなってくる。
本題に進むとしよう。
まぁ、進もうも何も、この物語はこんな感じのふざけた物語だ。
そうだな。
敢えて題名をつけるなら、
『勇者か悪魔……或いは雑魚の冒険奇譚』
これが無難じゃないだろうか。
まぁ、すべては舌をやけどしているアホ毛盛りのこの人がタイトルをつけるのだろうから、俺が決められたもんじゃない。
どうせ却下されるのだ。
こうして、この人と俺の物語は始まる――。
※この物語のタイトルは、のちに語られる話にて、『我ら、魔王討伐部!』に決定しました。