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1話 5年ぶりに再会した幼馴染とセックスしたらめちゃくちゃ気持ちよかった

 やくり町という田舎町に住んでいた俺――広大幸男こうだい さちおは中学を卒業すると同時に親の都合で東京に引っ越すことになった。

 親と一緒に上京したこともあり、それ以来地元に戻る機会はなかった。

 でも親友だった車田健吾くるまだ けんごに誘われて、5年ぶりに地元に戻ることになり、そこでもう一人の幼馴染である楠井ミキ(くすい みき)と再会する。

 そして――俺は彼女とセックスした。


「めちゃくちゃ気持ちよかったッ!」


 俺はイケメンじゃない。だからモテる訳ではないけれど、都内の大学生だからそれなりに出会いはある。

 大学に入ってから3人の女性と交際したし、友人とノリで風俗に行ったこともある。

 少なくとも同年代の平均レベルの経験はあるはずだと思う。

 でもそんな俺の経験は全て無価値なものだったのかもしれない。


「まじでやばい」


 やくり町にある唯一のラブホテルのベッドに裸で寝そべりながら、セックスしたときの快楽を噛みしめる。

 かつて身体を重ねた女性たちとの経験など、比較にならないほどにめちゃくちゃ気持ちよかったのだ。

 今までのセックスは何だったのか。ミキとのセックスに比べれば児戯にすぎない。


 思い出補正だろうか?

 セックスは感情によって快楽が左右される。幼い頃の記憶を共有している相手とのセックスだから格別気持ちよかったのだろうか。


 ミキは町で一番大きい家に住んでいる少女で、引っ込み思案な子だった。

 色んなところに無理やり連れまわしたものだ。

 虫取りだとか、その辺に生えていたグミの実を一緒に食べたりだとか、やんちゃな遊びを教えたことを覚えている。

 俺の母は楠井の家に遠慮している節があり、ミキに行儀の悪いことを教えるたびに怒られていた。


 俺の初恋の相手だった。

 でもそんな相手だから気持ちよかったという訳でもないと思う。

 単純に気持ちがよかった。本当に気持ちよかった。これが性行為による本当の快楽なのだと思い知らされた。


「セックスの相性か……」


 ミキとのセックスがめちゃくちゃ気持ちよかった理由は、もう相性がよかったとしか言いようがない。

 彼女が経験豊富だった――ということはない。処女だったからだ。破瓜の血もちゃんとこの目で確認している。

 健ちゃんとはとっくに関係を持っているとばかり思っていたから処女だったことは意外だったけれど、彼女は処女でありながら深く快楽を感じてくれていた。

 だから俺たちのセックスが気持ちよかったのは身体の相性が抜群によかったからに違いない。


「『セックスの相性 運命の人』で検索……っと」


 ミキは俺にとって運命の人なのかもしれないと思った。

 だってそれほどまでに気持ちよかったから。彼女とのセックスは至上の快楽だったから。

 スピリチュアルな部分にまで踏み込んだWebサイトがスマートフォンの検索結果に表示される。

 以前の俺ならば敬遠していたような内容だけど今なら信じられる気がする。


「間違いない。ミキは俺の運命の女性だ」


 スピリチュアルが俺とミキの運命を保証していた。セックスの相性がいい相手は魂の相性がいいと述べている。

 ミキが運命の人だと思えば思うほど、もう一戦したいという欲がムクムクと湧き上がってくる。


 ミキは今、シャワーを浴びている。

 ベッドからシャワー室がある方を眺める。裸で交わっていた記憶が脳裏に鮮明に再現される。

 シャワー室に突入して2回戦を始めてしまおうか。


「いや、落ち着け俺」


 ベッドの脇に置いていたスマートフォンで時刻を確認する。

 画面には23:10と表示されていた。

 急ぐ必要はない。元々俺たちは宿泊を予定している。このまま2人でしっぽり朝までやろう。

 以前の俺なら一回戦で終わっていた。身体の倦怠感に負けて二回戦をやる元気はなかった。だが今なら何回戦にでも突入できる気がする。

 ミキとのセックスによる快楽が倦怠感を大きく上回っているからだ。


 鞄からリップクリームを取りだす。

 11月にもなれば、空気は乾燥し始めている。俺の唇はかさつきやすい方だからリップクリームは欠かせない。

 なんとなくの習慣ではあるけど、キスをする前には塗っておかないと落ち着かない。

 セックスをする前にも塗ったけど改めて塗っておこう。

 思う存分キスをしたい。唇は当然のこと、彼女の身体のあらゆる部分にキスをして俺の物だという証をつけたい。


 中学生のとき、俺はミキと健ちゃんの仲に嫉妬していた。2人のことを見ているのが辛かった。

 だから親が引っ越すと言ってきたときには迷わず頷いたのだ。そして2人から逃げるようにして東京に行った。

 でもミキはまだ誰の色にも染まってはいなかった。俺が彼女の色を自由に染められる。


「そろそろ買い替えないとな」


 中身の部分がだいぶすり減っていたので容器を回して中身を繰り出す。

 ベッドに裸でうつ伏せになって寝転がる。左手にスマートフォンを持ってスピリチュアルなサイトを眺めながら、右手にリップクリームを持って唇に塗る。

 たくさんキスをしたいから丹念に塗りたくった。


「ん?」


 髪の毛か何かが首の後ろにかかる感触があった。

 はちみつのような匂いが香る。シャンプーの香りだろうか。

 どうやらいつの間にかミキがシャワーを終えて戻ってきていたらしい。

 やりたい欲求に夢中になりすぎてミキのことに気づかなかったようだ。

 さぁ2回戦に突入だ。

 鼻の穴を膨らませて息をしながら振り返る。


「ミキ! ――えっ?」


 そこにいたのは黒い長髪の女――のような何かだった。

 ミキではない。彼女の髪型はショートカットだ。

 全く記憶にない黒い長髪が俺の身体にのっていた。

 火照った身体の体温が一気に下がる。浮ついた心も一瞬にして冷え固まる。


「だ、だっ」


 誰だと問いたいのに口が上手く回らない。

 動揺が口にも伝播していた。

 女の顔は髪で隠されており、どんな顔をしているかは分からない。

 だがその肌の色は病的に白く、まるで血が通っていないような青白さだった。


 ――この女はまともな存在じゃない。


 一目で分かる。

 その女……いや、それにはあまりにも特徴的な部分があった。

 頭頂部が存在しないのだ。

 額の真ん中あたりで横に切断されたかのように、そこから上が存在しなかった。本来なら脳みその上半分があるはずの場所には何もない。


 生きた人間としての体を成していない。

 それからは生きている気配を感じない。

 空中に投影された映像ともまた違う。映像では身体の奥底まで凍ってしまうような圧力を再現できない。


 寒い。

 全身に鳥肌がたつ。

 服は少し遠くに置いてあって、とてもじゃないが取りに行く余裕はない。


「ア”ア”ア”」


 その女が得たいの知れない声を出した。

 呻くような苦しむような……あるいは怒るような唸り声だ。

 逃げなければ。

 心は逃げろと叫んでいる。でも金縛りにあったかのように身体は動かない。


 このままでは死んでしまう。

 だが――こんなところで死んでたまるか。

 俺にはまだやるべきことがある。


「もう一度、ミキとセックスするまで死んでたまるか!」


 性への渇望が身体を動かす。

 手にもったリップリームごと右手でその女を殴りつけた。


「えっ?」


 手は女の身体の中に埋まった。

 女を殴った感触はない。

 まるで何もない空間を殴りつけたかのような感覚だった。


 ――幽霊。


 触れないのにそこに確かにいる。

 それはまさに幽霊だった。

 絶望するしかない。

 こんな超常的な存在、俺にはどうしようもない。

 女の幽霊が俺を見下ろす。

 その白目は真っ赤に充血していた。負の感情を濃縮したような目だ。


「ア”ア”ア”」


 幽霊の腕が俺の頭に向かってゆっくりと動く。

 それは命を奪う死神のように思えた。


「あぁ……」


 俺の意識はそこで途絶えた。

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